【絶叫】虫食ってたのに虫に食われるんかい!?
ワイは虫を食った後の吐き気をまだ抱えて耐えながら、デブの身体で森の中を走ったんや。
安価は絶対というクソみたいなスキルが、ワイをブス女ストーカーへと変貌させたんや。
頭に血が上って安価せえへんかったら良かったと走りながら後悔したンゴ。
ストーカーってこの世界でも処罰されるんやろうか?
異世界もののアニメを見てた時はしつこく相手を追い回しても熱愛ってことで許されてる感じがするし、ストーカーって概念はないかもしれないンゴ。
「はぁ、はぁ……! 畜生……! なんでワイがこんな奇抜なファッションのブス女を追いかけなあかんねん! 異世界に来て走ってばっかりや!!」
『ナビゲーター:「安価に振り回されてて草。あの女に追いついたら、また安価してみろや。窮地から脱する方法を安価もらえるかもしれないで」』
「やめろや! 変な安価来たらマジで爆死選ぶンゴ!」
ナビゲーターとの不毛な喧嘩を続けていると、森の奥から地響きのような音が聞こえてきた。
ドス、ドス、ドス……!
バキバキバキッ!
女が逃げ込んだ方向から、枝が盛大に折れる大きな音が響いたんや。
ワイは反射的に足を止めた。
どう考えてもヤバい予感がしたンゴ。
「な、なんや!? 魔物!?」
ワイがビビりながら茂みを覗くと、そこにはアニメで見てた異世界らしい光景が広がっとった。
おったのは巨大な虫や。
大きさは人間よりも遥かに大きく、ゴツゴツとした甲殻に覆われた、カブトムシとカマキリを足して割ったようなグロテスクな姿やった。
あんなもん、日本どころか地球には絶対おらんかった完全に異世界のモンスターや。
名前がないと呼ぶのに困るから、あのモンスターをとりあえず「カマカブト」と命名するで。
カマカブトは鋭い顎をカチカチと鳴らし、女が逃げた方向に向かっとる。
あの女の悲鳴がワイの近くで響いた。
どうやらワイから逃げ惑った末、ワイの近くに戻ってきたらしい。
「こないで! あああああ!」
女はワイの姿に気づく間もなく、巨大な虫から逃げるのに必死やった。
ワイはその女とカマカブトを見て恐怖はあったんや。
でも、やっぱりここは異世界やし、ワイはこの物語の主人公なんやからワイはこのカマカブトに勝てると思ったんや。
それに、女の脂肪がバルンバルンしててちょっと面白かったンゴ。
ワイも結構デブやが、あんなに脂肪がバルンバルンしてないで。
そんなこと考えていたらその巨大なカマカブトは、突然女ではなくワイの存在に気づいたんや。
その巨大な顎がワイに向けられた。
「ファ、ファッ!? なんでワイやねん!? まだワイ登場してないで!?」
勝てると思ったのは嘘じゃないンゴ。
でも、面と向かったら普通に怖かったんや。
自分よりデカい虫なんて怖いに決まっとるやろボケ!
「おいナビゲーター! ワイ虫食ってたのに今度は虫に食われるんかい!? こんなオチ、あんまりやろ! 打開策提案しろや!」
『ナビゲーター:「因果応報ってやつやなw 巨大な食料源と見られとるで。虫に食われて爆死回避か。新しい展開やな」』
「ふざけんな! なんとかせえや!」
『ナビゲーター:「ワイはただのナビゲーターや。イッチが持ってるスキルで打開せな、普通に死ぬで」』
クソッ!
結局安価に頼らないとどうにもならないンゴ!
ワイは巨大なカマカブトから後ずさりながら、最後の望みを安価スレに託した。
ワイがそのままカマカブトに向かって行っても普通に勝てないンゴ。
ワイだって何も学んでない訳じゃないんや。
安価で必要なもんはこの世界観に関係なく道具が出現するということに気づいていた!
サイリウムとか前に召喚されてたやろ?
だからここで勇者の剣みたいなのが出たら、絶対に勝てるンゴ!
【緊急】巨大虫に襲われとる! 倒す方法教えてクレメンス
安価>>3
1:名無しより愛をこめて:雄叫びを上げて腹太鼓
2:名無しより愛をこめて:死ぬ気で走って木の穴に隠れる
3:名無しより愛をこめて:虫を食う
4:名無しより愛をこめて:誰かを囮にして逃げる
この堅そうなカマカブトを食う!?
ここにきてまだワイに虫を食わせようとするんか!?
「あ、アカン! 全部ロクでもない! なんで「食え」なんて選択肢があるんや!? ワイはもう虫食いたくないんやぞ!」
それにカマカブトに歯を立てたら、ワイの歯がかけるんちゃうか!?
『ナビゲーター:「イッチ、安価は>>3やで。食うしかない。諦めろ。食わなかったら爆死するでww」』
このままじゃ、虫に襲われて死ぬか爆死するかどっちかやんけ!
「ファ、ファッ!? ふざけんな!! ワイが食われそうになっとるのに、ワイからカマカブトを食いに行けと!?」
『ナビゲーター:「安価は絶対や。さっきまで虫食ってたんやからそう変わらへんやろwww」』
「全然ちゃうわボケ!」
でも……生きたまま食われるよりは爆死の方がまだ楽なんやろか?
でも、でも……
カマカブトの顎がワイの顔に迫る。
このままでは普通に死ぬンゴ。
生きたまま食われるのは嫌や!
「くっそぉおおおおおおお!!!」
ワイは勢いよくカマカブトに飛びかかり、グロテスクな甲殻の隙間の比較的柔らかそうな部分に力いっぱい噛みついたんや。
ガブッ……!
ワイが渾身の力で噛みついて、一口分カマカブトの身体を噛み千切ると、カマカブトは結構痛かったのか暴れまわったんや。
でも、ワイはしっかりカマカブトの掴めるところを掴んで離さんかった。
そんなことより、カマカブト……
不味い!
うぐっ……! マズイ! マズすぎるンゴ! 生臭いどころの騒ぎやないで!
ワイの口の中は、生臭い体液と甲殻の破片でグチャグチャになったンゴ。
これを飲み込まないといかんのか?
口に入れただけで優勝ちゃうか?
ワイ、生きてるだけでノーベル平和賞ちゃうか?
「ギィイイイアアアアアア!!!」
なんと、カマカブトはそれからワイに襲いかかるどころか、逃げ惑い始めたんや。
恐怖に駆られたように、森の奥へと全速力で逃げ去っていったンゴ。
か……勝ったンゴ……!
ワイは勝ったンゴォオオオオオオオオオ!!
という気持ちと、口の中のカマカブトの肉を飲み込みたくない気持ちで揺れていたんや。
それでも、ワイはこれを飲み込まないと爆死するから仕方なく飲み込んだンゴ。
呑み込んだ傍から吐きそうになってた。
でも、ワイも人の役に立ったんや。
女を救ったで!
もうこの際、全然好みじゃなくてもええ。
ワイの勇士を見て、ワイに惚れてくれたらそれで――――
と、その一部始終を見ていたブス女は
「ひぃあああああああああああああ!!!!」
先ほどのカマカブトの悲鳴よりも、もっと甲高く魂の底からの恐怖を感じさせる絶叫をしたんや。
女はワイを、巨大虫をも凌駕する究極の魔物と見なしたようやった。
女は持っていた籠はもちろん、着ていた服まで脱ぎ捨てそうな勢いで、来た道とは違う方向へ再び全速力で逃げ去っていった。
な……なんでや?
ワイは命の恩人やで……? 感謝の言葉とかあってもええんやないか?
ワイはそう考えると涙がこみ上げてきたンゴ。
『ナビゲーター:「泣きそうで草。別にええやん、金髪美少女エルフが好みなんやろ?」』
「やかましい! くっそ、口の中がマズイ。気持ち悪いンゴ! 口をすすぐ水くらい用意してクレメンス!」
ワイは虫の体液と土に塗れ、口の中の吐き気に耐えながら森の中でポツンと一人取り残された。
巨大なモンスターを撃退したのに達成感なんか全くないンゴ。
「ナビゲーター、いまので経験値入ってレベルアップしたりせんかったのか?」
『ナビゲーター:「レベルなんてゲームみたいなシステムあるわけないやろ、アホすぎるわ。現実見ろカスニート。仮にあったとしても逃げられてるやんけ」』
「ファッ!? レベルの概念ないんか!?」
ワイみたいなのでもコツコツレベル上げていけばいずれ最強になれるのではという希望はなくなった……
「あかん……もう、ワイの人生、詰んどるんちゃうか……」
『ナビゲーター:「転生前から人生詰んどるで」』
「ワイは即Sを通して社会貢献してたんや!」
『ナビゲーター:「そんな態度はこの世界では通用しないで。イッチに世話をするマッマもパッパもいないんや。自分の世話も自分でできないヒトカスがレベルアップするわけないやろ」』
ぐ……言い返せないンゴ……
「くそっ……! 町に行って、今度こそ……今度こそチェックポイントを更新してやるンゴ!」
ワイの異世界サバイバル再スタートは、最も汚く、最も屈辱的な勝利を収めて、再び動き出したんや。
【悲報】虫食いデブ、魔物級のデカさの虫を食って撃退。口の中が永遠にマズインゴ……




