この世界ポリコレ棒にぶったたかれたんか?
ワイは泣きながら虫を食っとった。
もはや虫の味なんて分からん。
ただ、「食わな爆死して死ぬ」という原始的な本能だけで動いとったんや。
涙と鼻水で顔はぐしゃぐしゃ、見た目はもう完全に人生の敗北者や。
ワイはなんでこんなことになったのか後悔しながら、まさに「苦虫」を食ってたンゴ。
苦虫を嚙み潰したような顔って表現あるやろ?
ような、ちゃうねん。
まさに苦虫噛み潰しとるねん。
「……うぇっ……ミミズみたいな食感やめろや……最悪や……絶対チェックポイントを更新するで……」
『ナビゲーター:「おかわりはどうする? たんぱく質摂取チャンスやで」』
「誰が喜んでおかわりするかボケェ!」
ワイの絶叫が森に響いたんや。
そうしたら木々の奥から、パキパキと枝を踏む音がしたンゴ。
「ファッ!? な、なんや! 魔物か!?」
ビビりながら振り向いたワイの視界に飛び込んできたのは――――ひとりの女。
身長はワイよりちょい低い。
服はどっかの民族衣装みたいにカラフルで、胸元には意味深なバッジがぎっしり。
髪は七色で、メッシュ入り。
訳の分からない仕組みのアクセサリーみたいなのつけとった。
肌の色もなんとも言えん色しとる。
な、なんやこの……多様性の権化みたいな人間は……!?
っていうかそもそも人間!?
異世界やし、別の種族か!?
人間というか、ドワーフ……? 少なくともエルフではないことだけは分かるンゴ。
それともオークなんやろか……?
「ひぃっ!? な、何してるのあなた!? 虫!? 虫食べてるの!? 生で!?!?」
女は泣きながら虫を食ってるワイを見て悲鳴を上げて、一歩、二歩と後ずさったんや。
人間語を話すオークみたいな女にそんな態度をとられて、不満や。
それにワイは釈明したかったンゴ。
好きで虫を食っとるわけちゃうねん。
火を通したくても、火の魔法も使えないし火の起こし方もわからへん。
「いや……その……」
「ぎゃあああああああ!!!」
その女は叫びながら全力疾走で逃げていった。
「……は?」
あまりの展開に、ワイの脳がバグった。
いや、逃げる? 逃げるんか? ワイがしていたことは叫ばれて逃げられるようなことなんか?
……まぁ、泣きながら虫食ってるやつがいたらワイも逃げるかもしれんけど。
「ちょ、ちょっと待ってクレメンス!? 別にワイ、襲ってへんやん!? 食べてたの虫やで!? 人やないで!?」
女はワイに対して返事はなく、徐々に遠くなっていく悲鳴だけが残ったんや。
ワイは情けなくて膝から崩れ落ちたンゴ。
このシチュエーション、あれはワイの世界のヒロインなんか?
「……ヒロイン?」
異世界に来てから初めての“人間の女”との遭遇や。
これ、普通のラノベなら確実にヒロイン登場イベントやろ。
主人公がボロボロの状態で出会って、そこから恋や絆が芽生える……って流れのやつや。
でも現実は、虫食って泣いてたら悲鳴上げて逃げられた。
……ワイ、そんなにアカン見た目なんか?
ポリコレ棒で殴られたような世界の人間……(オークの可能性もあるが)から見てもアカン見た目なんか?
そう考えるとワイは涙がまた溢れてきた。
虫の味よりも、この心の痛みのほうがずっと苦いンゴ。
『ナビゲーター:「まぁ、虫食ってる人間がいたら誰でも逃げるやろ」』
「せやけど、叫んで逃げることないやんけ! ワイだって好きで虫食ってる訳ちゃうんやで!」
『ナビゲーター:「知らんがな。行動がキモいのは事実や」』
ぐうの音も出ない正論やめえや。
このクソAI、ほんまムカつく。
だが、ここでへこたれるワイではない。
「……いや待てよ? あんな奇抜なファッションのやつ、逆にヒロイン枠から外れてくれて助かったんちゃう?」
『ナビゲーター:「言うほどお前に選ぶ権利あるんか?」』
「うるさい! ワイの理想は清楚系金髪エルフや!」
負け惜しみを言いながら、ワイは立ち上がった。
とはいえ、心のどこかではまだもやもやが残っとったんや。
――あの女、絶対ワイの事悪口いうつもりやろ
もしかして、ワイのことを“危険な野人”とか思ってるんやろか。
それとも、今後ストーリーの重要人物として再登場するんやろか。
ワイ的にはもう登場してほしくないんやが。
考えすぎて頭が痛くなったワイは、結局スキル『安価は絶対』を発動したんや。
やっぱり安価は絶対やで。
ろくなことにならないと分かっていても、奇跡の安価を期待してワイはスキルを発動する。
【緊急】さっき森で出会った女に叫ばれて逃げられたんやけど、どうしたらええと思う? 助けてクレメンス
安価>>5
ワイの見ている画面を見ていると、瞬く間にレスがついていく。
1:名無しより愛をこめて:追え
2:名無しより愛をこめて:放置でええやろ
3:名無しより愛をこめて:虫もっと食え
4:名無しより愛をこめて:泣け
「いや選択肢ひどすぎやろ!? どれもワイに優しくないんやけど!?」
次の瞬間、レスが確定する。
5:名無しより愛をこめて:追いかけろ
「は?」
追いかけてどうするんや?
追いかけてどうなるんや?
あんなのがヒロインやったらワイは普通に嫌やで?
ワイだって選ぶ権利があるンゴ!
可愛い金髪のエルフがええんや!
あんな訳の分からん女は嫌ンゴ!
『ナビゲーター:「安価は絶対。行くしかないで」』
「いやいやいや、ワイ追いかけたら余計怖がられるやろ!? 追いかけた後どうしたらええねん!? 下手したらタイーホされるんちゃうの!?」
『ナビゲーター:「なら、追いかけた後の行動を安価で決めろや。何のための安価やねん」』
安価したらろくでもないことになる事くらい分かっていたンゴ。
でも、他に最適解はワイには思いつかないんや。
ワイは頭を抱えた。
安価がワイの運命を握っとる。
とにかく、追いかける事からは逃げられへん。
「……行くンゴ」
『ナビゲーター:「早く行けよカスニート。イッチの体力じゃ追い付けへんで」』
震える脚で、ワイは女の逃げた方向へと走ったんや。
正直、虫を食ったばっかの吐き気もあって走れる状況やなかったけど、女を見失った瞬間にワイは爆死する。
この世界……理不尽すぎやろ……!
ワイの異世界生活、これからどうなってしまうんや!?
これ、いつまで続くんや!?




