【絶望】寝過ごし爆死! ニートの努力が全て無へ還ったンゴ
身体が内側から千切れる強烈な激痛で、宿屋で寝てたワイの意識は唐突に引き戻されたンゴ。
「ぐっ……がああああ!!!」
まるで全身の細胞が急激な圧力でバラバラにされたような、内臓が全部爆発するあの二度と体験したくなかった痛みの感覚。
昨日の火吹き芸の熱さなんて、幼稚園児の遊びレベルやった。
朦朧とした意識で目を開けると、視界いっぱいに広がるのは見覚えのある鬱蒼とした森の緑やった。
「ファッ!? なんでや!?」
ワイは飛び起きた。
訳が分からん。
ワイはパニックのまま周囲を見渡す。
異世界転生したばっかのときに放り出された森の中や。
足元には、前回食ったミミズみたいな虫がニョロニョロと這いずり回っとる。
腕の『即Sナビゲーター』は、まるで何事もなかったかのように静かや。
画面に表示されたタイマーは『12時間00分00秒』で完全に停止しとる。
「嘘やろ……?」
ワイは頭を抱えた。
信じられへん。
昨日、ワイは何をした?
残飯を貪り食った。
腹毛を見せつけて腹太鼓を披露した。
一番恥ずかしいアイドルのオタ芸を全力で踊りきった。
火傷のリスクを負って火を吹いた。
その全てが、宿に入るためやったんや。
デブの身体で死ぬほど走って、屈辱を耐え抜いて、ようやく得た安寧やったんやぞ。
ポケットを探しても昨日稼いだ金はひとつも入っていなかった。
「おい、ナビゲーター! どういうことや!? ワイは昨日、宿で寝とったんやぞ!? なんでまた森の中やねん!? ワイが必死で稼いだ金はどこいったんや!?」
ナビゲーターの声はいつも以上に煽りに満ちとった。
『ナビゲーター:「(笑)。何を怒っとるんやイッチ。自業自得で爆死したんやろ? リミットオーバーやで」』
「リ、リミットオーバー!? 嘘つけ! 宿に入った時、11時間以上残っとったやろ!?」
『ナビゲーター:「せやな。お前は疲労で熟睡しすぎてカウントがゼロになるまで誰にも起こされず屋内におったんや。そのせいで爆死した。爆睡してて草w」』
ワイは頭の中が真っ白になった。
そうや、宿に泊まったら安全やと、安心しきって泥のように眠りこけてしまったんや。
アラームも警告音も極度の疲労の前には無意味やったんや。
ニートの寝坊スキルがこの異世界でまさかの自爆に繋がったんや。
「くっそぉおおお! そ、そんなの知らん! 一泊やぞ! 一泊料金払っとったんやぞ! なんで宿のジジイは起こしてくれへんかったんや!」
『ナビゲーター:「宿のジジイがチェックアウト時間前に起こす義理はないやろ。顔真っ赤にして怒ってて草w 怒ってても状況は何も変わらんで」』
ワイの耳に、冷酷な現実が叩きつけられる。
「チェックポイントどうなっとるねん!? 町に辿り着いたところくらいからでええやろ!? セーブポイントクレメンス!」
『ナビゲーター:「チェックポイントは教えてやらんで。甘えるなやカスニート」』
こいつ、AIのくせに全然ワイのいうこと聞かへん!
ワイのいた時代のAIは人間に従順やったで!?
こんな異世界に放り出されてシンギュラリティを感じるとは思わへんかったわ。
「ワイの努力が……! 稼いだ、血と汗と羞恥の結晶が……! 全て、スタート地点に帰ったってこと!?」
ワイは絶望のあまり、地面に倒れ込んだ。
屈辱すぎて涙が出てきた。
辛いンゴ。
マッマ、パッパ、ワイを助けてクレメンス。
今なら家事の手伝いとかならするから許してクレメンス……
『ナビゲーター:「タイパ最悪やな。労働を拒否し、楽を求めて寝過ごしたニートらしい結末や」』
「あんまりや……ワイだって頑張ったやん、こんなんありえん!」
『ナビゲーター:「ニートが喚いてて草」』
「頑張った分だけ評価されてもええやんけ!!」
『ナビゲーター:「自分で寝過ごしたせいやろ。少しは反省しろや。そんなんじゃまたすぐに爆死してここに戻ってくることになるやで」』
ナビゲーターのド正論にぐうの音も出なかったンゴ。
でもワイは頑張ったんや。
なんでそれを評価してくれないんや!?
怒りながら、ワイはまた空腹感に襲われた。
完全にはじめからスタート状態になっとる。
散々残飯を食べた事も完全になかったことになってたんや。
『ナビゲーター:「さっさと食いもん探すんや。爆死せんでも普通に餓死はするで」』
ワイは考えた。
その辺の草は普通に食あたりする。
かといって虫はもう食べたくないンゴ。
魚とかどうやろか?
ワイは近くの川に行ってみたンゴ。
でも、ワイの思ってたアニメみたいな穏やかな川やなかった。
でっかい川があって、底も見えへん。
アカン、こんな深そうな川に入ったら魚とるどころか、ワイの脚がとられて溺死コースまっしぐらや。
それに、よく考えたら魚取ったとしても火がない。
生魚は寄生虫が怖いンゴ。
いや、虫もそうかもしれんが、魚の寄生虫は洒落にならないと思うんや。
結局、ワイは安価するしかなかった。
ワイは自分であくせく考えるの苦手なんや。
ワイはどちらかというと社長みたいなハンコ押して許可出すような仕事に向いとる。
現場の仕事なんてワイには向いてない。
『ナビゲーター:「腹が減っとるやろ? 早く行動しろやニート」』
「うぐっ……しゃ、しゃーないンゴ……」
ワイは震える手でスキル『安価は絶対』を発動させたンゴ。
【緊急】ワイ、特に何もない森の中。草と虫以外に食えるものを安価で助けてクレメンス
ワイは安価スレに、自分の運命を丸投げした。
安価>>5
1:名無しより愛をこめて:変な色のキノコ
2:名無しより愛をこめて:虫
3:名無しより愛をこめて:虫
4:名無しより愛をこめて:野生動物
虫以外って言っとるやろ!?
悪意しか感じないンゴ!
次のレスでワイの運命が決まる。
数秒後、安価の結果が表示される。
5:名無しより愛をこめて:虫
結局虫やんけ!!!
「ア、アカン……! 性悪即Sスレ民ふざけんな!!! なんでまた虫なんや!! 誰や、安価で虫選んだのは! 出てこい! ワイが爆死する前に、お前を爆死させてやる!!!」
安価の結果は、残酷にも「虫」やった。
ワイの異世界サバイバルは、無限ループに突入したんや。
『ナビゲーター:「安価は絶対。はよ虫食え」』
ワイは絶望の淵で、また食べられそうな虫を探して食べる羽目になったんや。
このままでは永遠に森の中で虫を食い、町で羞恥心を晒し、寝過ごして爆死する無限ループから抜け出せない。
「くっそ……! 次は……次は絶対に、チェックポイントを更新してやるンゴ……!」
ワイの異世界サバイバルは、最悪の形で再び幕を開けたんや。




