ストーカーってほんま怖い
ドラゴンの背中に揺られながら、ワイらは「静寂の谷」と呼ばれる場所を目指していたんや。
地上は相変わらず、アークたそが放ったドラゴン軍団に焼き尽くされた後の、赤茶けた不毛の地が広がっとる。
魔王城でぬくぬくしとったワイには刺激が強すぎる光景やわ。
マジで世紀末救世主伝説の世界観やんけ。
「……あそこだ。古龍が眠る場所は」
ドラゴンが低く唸るような声を出して、巨大な岩山の亀裂を指し示したンゴ。
そこには、生き物の気配が全くせえへん、不気味なくらい静かな空間があった。
風の音すら吸い込まれるような、まさに「静寂」そのものや。
「急にまたブレス吐かれて素っ裸になるのは嫌や。狂暴ちゃうよな……?」
「もうご老体だ。血気盛んな龍とは違う」
ほんまかよ。
人間だって血気盛んなジジイとかババアとかおるやんけ。
そんな疑問を持ちながらもドラゴンが地面に降り立った。
特に何かいるようには思われへんけど……
と、思っとったら、奥の方からズルリ……ズルリ……と、岩が擦れるような音が聞こえた。
暗がりの向こう側に、山の一部かと思うくらい巨大な、灰色の鱗に覆われた「何か」が横たわっとるんやってやっとわかった。
閉じてた目を開けたとき、怖すぎて軽く飛び上がったわ。
爬虫類の目って怖いし、ましてそれがこのサイズやともう背筋がゾワゾワするンゴ。
「……なんだ、貴様ら……」
地響きのような声が響いた。
現れたのは、もはや生きる化石としか言いようがない、灰色の鱗に覆われた古龍やった。
その瞳は濁っとるけど、全てを見透かすような鋭さがあったンゴ。
「古龍よ、急な来訪を許せ。神の行方を知りたく、ここへ参った」
「………」
古龍は何も言わなかったンゴ。
無言の威圧怖すぎるわ。
クソイケメンもこれは怖いのか、ガタガタ震えながらも一歩前に出た。
「……神の真意を、あの方の居場所を知りたくてここまで来た。神は……今どこにおられるのか!」
相変わらずのストーカー全開やった。
こんな怖いもんに開口一番いう事がそれなんかって呆れもある。
でも、クソイケメンは自分の身なんてどうなってもいいくらいの勢いでアークたその場所を聞き出そうとしとる。
古龍はアシェルを一瞥したけど、ゴミを見るような目で見ただけやった。
「……不完全な不死の呪いを受けたか。あの方に嫌われた哀れな虫けらが、何を求めておる。お前に教えることなど何もない。立ち去れ」
古龍は全く動じなかったンゴ。
それに、ワイらなんて視界から消そうと目を閉じようとしとった。
ワイはアークたそのこと聞きたかったけど、まだ頭の処理の方が追い付いてなかったンゴ。
この古龍が怒ったりしたらどうなってしまうんやって恐怖がある。
『ナビゲーター:「不死なのになんでビビってるんや。アホすぎるやろ」』
やかましい! 不死やけど丸のみにされたらどないするねん!
ワイはナビゲーターに悪態ついとったけど、クソイケメンは自分が駄目なら、とワイを指さした。
お前、人様に指さすなや。
失礼やろ。
「ならば、そこの男はどうだ!? この男は神と共に歩み、完璧な加護を授かった男だぞ!」
クソイケメンが必死にそう訴えると、目を閉じようとしとった古龍がまた目あけて、濁った瞳でじっとワイを見つめた。
ええい、ままよ!
ここでビビり散らかしとってもアークたそのこと分からへん!
ならこのままの勢いで絶対聞き出してやるンゴ!
「せや、ワイはアークたその旦那や! アークたそ、今どこにおるん? 探しに行かんとあかんのや」
ワイがそう言うと、古龍は一瞬、呆気に取られたような沈黙のあと……
「……ハハハハハハ! ゲホッ、ゴホッ! ……ククク、ハハハハ!!」
急に笑い出したんや。
しかも、「滑稽なものを見る」ような、嫌な笑い方やわ。
「……なにわろてんねん。笑いすぎやろ。失礼なトカゲやな」
「あの方の賢さに感服するばかりだ……こんな道化がいるか、ただの道具として使われていたことにまだ気づいていないのか」
道具……?
ちゃうし、アークたそはワイの嫁やし。
ワイ、アークたそと一緒に冒険して、イチャイチャしてたんやで?
そら、チューとかエッッッッッなイベントはなかったけど、楽しそうにしてたンゴ。
「アークたそ、ワイに『ありがとう』って言ったんやぞ!」
「それは……『よく働いてくれた』という意味だろう。道具が壊れずに仕事を終えたなら、使い手は感謝もする。だが、その道具を寝室に連れて行く使い手がどこにいる?」
ファッ!!?
「ワイとアークたそには確かに絆があるんや! 道具とかちゃうし!」
「……私はあの方とそこそこ長い付き合いだが、貴様の話など一度もしていなかったぞ……認めたくないのだろうがな……ゴホッ……ゴホッ……」
こんなん、否定しても否定しても全部「はいはい」って流されるやつやんけ。
ぐうの音も出ないンゴ……
ワイのこれまでの数十年間の「待機時間」、ただの放置された時間やったんか。
ニート時代に、使わない健康器具を部屋の隅に置きっぱなしにしてた、あの感覚と同じなんやろか。
古龍は、ワイを一瞥した。
その目は、慈悲もなければ敵意もない、ただ、圧倒的な「拒絶」やった。
「……去れ。あの方の居場所など、ただの人間が知る必要はない。あの方は、もはや誰の言葉も求めておられぬ。静かに、この世界が更地に戻るのを待っておられるのだ」
冷たい……。
マジで冷徹なガードマンやんけ。
ワイが更に食い下がろうとしたその時、クソイケメンが、急に「ヒッ、ヒヒ……」と不気味な笑い声を漏らしたんや。
「……そうか。そうだったのか、はははははは!!」
……は? ついに狂ったんか、このじいさん。
こっちはこっちでやっぱ怖いわ。
アシェルはワイを無視して、古龍を……いや、古龍の「眼」をじっと見つめとった。
「古龍よ。お前は何も語らない。神への忠義ゆえに、我らのような俗物に情報を与えたくないのだろう。……だが、今、『神はどこだ』と問うた瞬間……お前のその濁った瞳は、ほんの一瞬だけ、北西の空……かつての聖域があった『断絶の峰』の方角へ揺れたな?」
……ファッ!?
そう言われた古龍の瞼のあたりが、ピクリと震えた。
今まで無機質な岩のようやった古龍の表情に、明らかに「動揺」が走ったのをワイも見逃さへんかった。
「…………」
「隠しても無駄だ。私は数十年の間、暗闇の中でただ1人の神を求めて生きてきた男だぞ。神に関わるものへの視線、熱量、わずかな変化……それを読み取ることにかけて、私に勝てる者などこの世におらん!!」
うわ……
クソイケメンの奴、ドヤ顔で言っとるけど、それ100%ガチの変質者のセリフやで。
でも、そのキショすぎる洞察力のせいで、古龍の沈黙が逆効果になってしもうた。
「あの先……雲に隠れた『断絶の峰』か。そこに、あの方がおられるのだな……!」
アシェルが歓喜で震えながら北西を指差すと、古龍は深く、絶望したようなため息をついたんや。
「…………。……業の深い男だ。あの方が貴様を嫌う理由が理解できた。あの方の元に行ったところで、望む答えなどどこにもないだろうがな……」
古龍はそれ以上、何も言わんかった。
否定もしない。
肯定もしない。
でも、それが逆に「答え」やということを、その場にいる全員が確信したンゴ。
「よし! 方角はわかったンゴ! ドラゴン、北西や! 断絶の峰に行くで!!」
「承知した。古龍よ……さらばだ」
ワイらは再びドラゴンの背に飛び乗った。
クソイケメンは「あの方の視線の先に……あぁ……」とか言いながら悦に浸っとる。
ほんまにキショイ。
ワイは、古龍が漏らした「道具」という言葉が胸に引っかかって、モヤモヤしとった。
アークたそ。
ワイ、会いに行くからな。
もしワイをただの道具として使ってたんやとしたら……せめて不老不死にしてイケメンにしてくれた理由くらい、教えてクレメンス。
【悲報】ワイ、ストーカーの「キモすぎる観察眼」のおかげでアークたその居場所を特定するも、古龍の独り言に不穏な空気を感じる




