そんなグロい設定異世界ファンタジーでありなんか……?
ワイは、目の前の「元・クソイケメン」を見つめたまま、完全にフリーズしてもうた。
何がなんだか分からへん。
アシェルから詳しい話を聞きたい。
でも、何から聞いていいかも分からへん。
この「地獄」は何なのか。
ここで一体何が起こっているのか。
アークたそは今どこにいて、何をしているのか……
聞きたいことは山ほどあるのに頭の中のパズルがバラバラすぎて、ひとつの文章にならへんのや。
そんなワイの混乱をよそに、アシェルはワイに問いかけてきた。
「……神は何を望んでいたのか。何故このような暴挙に走られたのか。君なら、その答えを持っているのではないか?」
そんなこと、ワイに聞かれても困るンゴ。
こっちが一番聞きたいくらいや。
「わ、わからん……ワイはただ、アークたそから『魔王討伐のため』って聞いて、言われるがままに祠を壊して回ってただけや」
「……………」
「でも、あの祠ってアークたそ自身の力を封印するものやったんやろ? ……一体どういうことなんや?」
ワイの問いに、アシェルは信じられないものを見るような目でワイを見てたんや。
絶望の混じった溜め息をついとった。
「はぁ……何も分からず、あの神と同行していたのか……あまりに愚かな」
「しゃーないやんけ! 他に味方になってくれる人なんていなかったんや! ワイは強制労働施設で奴隷みたいに働かされてたんやぞ!? アークたそは、そこからワイを助け出してくれた恩人なんや!」
ワイが必死に弁解すると、アシェルは乾いた声で笑いやがったンゴ。
「ハッ……助け出した? ……違うな。君はただ、祠を破壊する為だけに調達された駒に過ぎない。祠には強力な結界があり、力のある者は近づけないようになっていた……だからこそ、何の力も持たない弱者の君が必要だったのだよ」
その言葉にカチンときた。
確かにワイは無力やった。
それに力を持ってないワイが必要だってこともアークたそに言われてわかっとった。
でも、馬鹿にした感じで言われるとほんまむかついたんや。
「そんなこと……! アークたそはワイに優しくしてくれたんや! この最高の身体も、魔法も、力も全部くれたんやで!?」
ワイが叫ぶように言うと、アシェルはゆっくりと、闇に沈む町民たちに目を向けたンゴ。
「君は本当に愚かだね。不老不死がどれほど辛いものなのか、まだ気づいていないようだが……この町の住人を見ろ」
「あいつらがなんやねん……」
「彼らはかつて不老不死を望み、神に縋った元権力者たちだ。富も名声も手に入れ、最後に永遠を欲した者たち……だが今、彼らが切実に願っているのは、たった一つ。『死』だ」
ワイは絶句した。
アシェルは、自身の震える枯れ枝のような指を見つめながら続けたンゴ。
「昔は彼らも、不老不死を手に入れ、君のように希望に満ちた目をしていたらしい。だが、何十年、何百年と生き続けていると、精神が蝕まれていく。ましてや、この闇の牢獄に閉じ込められていてはな……」
「…………」
「ここでは、人間としての規律などとっくに崩壊している。いかなる悍ましい行為も、ここでは日常だ」
「な、なんや……おぞましい行為って……」
ワイの顔がひきつった。
アシェルは、絶望に満ちたような低い声で囁いたんや。
「暴力、強姦……そんなものは、ここでは当たり前だ。さらに悍ましいのは……食人行為が横行していることだよ」
「!!?」
食人って……カニバリズムってことやよな……?
隕石でも降ってきてそれが直撃したような衝撃やった(隕石にぶつかったことないけど)。
耳を澄まさなくても、闇の奥からまたあの絶叫が聞こえてくる。
しかも四方八方から聞こえてくるんや。
まさか、あの悲鳴って……――――
「な、なんで……なんで人間を食べる必要があるんや!? 不老不死なら、食べなくてもええんちゃうんか!?」
「閉じ込められているからね……ここには食糧など入ってこない。太陽の光がないから植物も育たない……」
「不老不死と関係あるんかそれ……」
「ある。彼らは不老不死になっても『空腹』という感覚は消えない。神は彼らに永遠の命を与えたが、飢えの苦しみまでは取り除かなかった。彼らは、空腹に耐えかねて、隣にいる同族を食らうしかないのだよ」
怖い。
怖すぎるンゴ。
なんでそんなことになってるんや。
意味が分からへん。
「……待てや。ワイは全然、腹減らへんで……?」
「それは君が、神によって『完璧な状態』に調整されたからだろう。ここの権力者たちも、君のような状態を望んでいたはずだ。だが、神は彼らに『完全』を与えなかった。欠落した不老不死……その結果、ここは文字通りの“地獄”と化したのだ」
一口に“不老不死”って言っても全員がワイみたいな感じやないってことが衝撃やった。
異世界ファンタジーやのに、そんなことがあるなんて考えもせんかった。
「でも、食われたら死ぬんやないんか……?」
「彼らは……食われた場所から徐々に再生し、死ぬことがない。たとえ首を落とされても、また元に戻って生き返る。死ぬことができないということは、安らぎがないということだ。永遠に食われ続け、再生し続け、飢え続ける……不老不死を願った権力者たちはそんな仕打ちを受けるほど神にとっては罪深かったのだろうか……」
情報量が多すぎてまた混乱してきた。
ぶっちゃけ難しい理屈は分からへん。
でも、ここがガチでヤバい場所だということだけははっきり分かるンゴ。
「アークたそは……アークたそはどこにおるんや!? ワイ、こんなところ一刻も早く出ていきたいンゴ!」
「それは我々も知りたい。この地獄を終わらせられるのは、これを作った神だけなのだから……」
無駄足やんけ!
こんなところ早く出ていきたい!
ワイがそう思ってる中、沈黙を守っていたドラゴンがそこで口を開いた。
「神なら、数年前にここへ立ち寄ったと聞いたことがあるぞ」
「あぁ……数年前に突然、この地獄にいらっしゃった。住人たちは皆、泣き叫んで助けを求めた。だが神は、冷やかな目で我らを見ているだけで、何一つ救いを与えてくださらなかった……ただ、眺めていただけだ」
じゃあ、アークたそは何をしにここへ来たんや。
ただ、自分が作った地獄を鑑賞しに来たんか?
アークたそはそんなことするようには思えへんけどな……興味なさそうやし……
「その後、神がどこへ向かったかは知らない……神の封印の最後の祠が破壊されてから、もう数十年は経っているが……この世にもう希望はない」
ファッ……!?
「……数十年? いや、ワイの感覚やと、魔王城にいたのは長くても数年程度や。なんでクソイケメ……じゃなくてお前はそんなじいさんになってるんや?」
ドラゴンとの時間の感覚ともズレとるし、どうなっとるんや。
「恐らく……君は時間の流れが違う場所にいたのだろうな……神がこのドラゴンを復活させてから、もう数十年は経過している」
ファッ!?!!?
そんなに経っとるんか!!?
全然わからんかったンゴ……
てか、時間の流れが違うってどういう状況なんや?
でも……アークたそは時間も止められたし、そのくらいは簡単か……
ワイはドラゴンを見上げた。
「……なんでアークたそは、ドラゴンを復活させたんや?」
目的が全くわからへん。
ワイの頭が考えても全然答えに辿り着かないンゴ。
ドラゴンは、黄金の瞳を細めて答えた。
「神は、全てを滅ぼそうとお考えになったからだ」
「……ファッ!!?」
ワイは唖然として口を開けたまま固まった。
「神は、我ら龍族にこう命じられた。『この世の全てを滅ぼし尽くしなさい』とな。我らが今、こうして空を飛び回っているのは、生き残った龍以外の種族を狩り尽くすためだ」
ほんまに、何が起こってるんや……
なんでや……?
なんでなんや、アークたそ……なんか抱えてるなら言ってや……
ワイはそんなに頼りなかったんか……?
『ナビゲーター:「感傷に浸ってるみたいやけど、ずっと頼りなかったで」』
「うっさいわボケ!!」
ワイが知っているアークたそは、無口やけど優しくて、ニートのワイを見捨てへんかった、最高に綺麗な嫁やったはずやったはずや。
なのに、今の話やとアークたそは世界を地獄に変えて、さらに滅ぼそうとしている、ガチの邪神やんけ。
頭が、割れるように痛いンゴ。
混乱を極めるワイの横で、アシェルが縋るようにワイの綺麗な腕を掴んできた。
「私は神に会いたい……頼む、君の力で私をここから出してくれ……」
こいつ、まだアークたそのストーカーしとるんか!!?
ワイはやっぱりこのクソイケメン苦手や……
【絶望】ワイの嫁、いつの間にか世界を滅ぼすラスボスになっとった件について




