安価スレの悪意酷すぎるやろ……
ファッ!?
芸!?
こんなのおかしいンゴ!
人前で働くどころか人前で笑い者になるなんて、最悪の恥やんけ!
でも安価は絶対……。
今爆死したらどこから始まるンゴ?
チェックポイントってどうやったら更新されるんや?
ここで死んだらまた森の中から始まってミミズみたいなの食わないといかんのか?
くそぉおおおお!!!
他に金を手に入れる方法も思いつかないし、やるしかないンゴ!!!
広場の中央、人だかりの前でワイは途方に暮れた。
「くっそ……どんな芸をやれっちゅうねん! 歌も音痴やし、マジックも知らん!」
そもそも魔法のある世界でマジックってウケるもんなんやろうか。
魔法のある世界でウケる芸ってなんや!?
芸のアイデアすらない、ワイ無能。
ワイは再び、最後の頼みの綱である安価スレを立ち上げた。
【緊急】芸のアイデアを安価で助けてクレメンス。身体張る系NG
安価>>24
20:名無しより愛をこめて:受付嬢への公開プロポーズ
21:名無しより愛をこめて:パンツ一丁で土下座
22:名無しより愛をこんで:ブレイクダンス
23:名無しより愛をこめて:全身に蜂蜜を塗り、魔物を引き寄せる
24:名無しより愛をこめて:残飯集めてきて大食い芸
「アカン! 身体張る系NGって書いたのに、全部身体張るどころか命がけのクソ安価やんけ!」
ナビゲーターの画面が点滅し、安価が確定する。
『ナビゲーター:「イッチ、安価は>>24やで。残飯集めてきて大食い芸。元々食い意地張ってるんやからボーナスステージやなw」』
「残飯集めてきて大食い芸!? 芸じゃなくて飯やんけ! しかも残飯集めるタイパが悪すぎるンゴ!」
しかし、爆死の恐怖は羞恥心を凌駕したんや。
ワイは震える手で、広場近くの飲食店のゴミ捨て場を漁り始めた。
「くっそ……! ワイはやってやるンゴ! もう羞恥心なんて気にしてられへん!」
ワイは残飯を集めまくって広場の真ん中に立ち、集めた残飯(少し傷んだ果物の皮、硬くなったパンの端、かじりかけの肉、ほぼ腐ってる魚)などを前に絶叫したンゴ。
「わ、わわわわ……ワイは!! 異世界から転生してきたレジェンド級無職や! これが! これがワイの芸やぁ!! 刮目するンゴ!!! 憐れむなら投げ銭くれや!!」
ワイが渾身の大声で叫んだことで、歩いてた異世界人たちは立ち止ったで。
もう相手が人間なのかエルフなのか獣人なのかなんなのかなんて、ワイの意識から完全に除外されてたで。
ワイは目の前の残飯を必死で口に詰め込んだンゴ。
味はもう、ただの腐りかけ、傷んでる食い物の味や。
それに味がごちゃ混ぜになって普通に吐きそうや。
でも、食い意地だけは本物や。
汚いデブがガツガツ残飯を食う姿に観衆はドン引きしつつも、マジで哀れに思ったのか銅貨が一枚投げ込まれたンゴ。
なんでワイがこんな身体張らないといけないんやと思いながらも、腹も減ってたからかなり残飯を食ったで。
『ナビゲーター:「投げ銭が少なすぎるで。次の安価指令や」』
くそぉおおおおおお!!
確かにこれだけじゃ宿に泊まれないンゴ!
野宿は嫌ンゴ!
ワイはふかふかのベッドで寝たいんや!!!
次の安価、>>35
35:名無しより愛をこめて:ピザの腹太鼓芸
もう残飯を散々食べたワイには羞恥心なんてものはなかったんやで。
やけくそや!
意外と人がたくさん集まってくれてて、もうこれはやるしかないとワイは思った。
おもむろに上半身の服を脱いで、出てる腹に渾身の平手打ちをして腹太鼓を始めたンゴ。
上半身の服を脱いだときはワイの腹毛を見て若干悲鳴が聞こえた気がしたけど、そんなことを気にしている場合ではないんや。
爆死するかしないかがかかってるんやで!
ワイは腹の脂肪を太鼓のように叩き「ドンドンドン! ドンドンドン!」とリズムを刻んだ。
思い切り叩いて大きな音を出したから、手の平も腹もめっちゃ痛いンゴ。
それにこれ、いつまで続けてればいいんや!?
ワイは太鼓の〇人でかなりの高スコアを叩きだした男やで!
ワイの大好きな曲を一曲披露したところで、ワイは汗だくになって倒れこんだンゴ。
どういう感性で投げ込んだのか全く分からないンゴが、観衆からまた銅貨が3枚投げ込まれたんや。
やったで!
でも、まだ足りないンゴ。
哀れむなら金をくれンゴ!!
次の安価や!
安価>>55
ワイは安価スレで次の指令を待った。
55:名無しより愛をこめて:アイドルのヲタ芸を踊る
今全力で太鼓の〇人をやったばっかりでワイはヘトヘトなんやで!?
ヲタ芸なんて全力で踊ったら爆死でなくとも疲れすぎて死んでしまうンゴ!
「再安価できんのか!?」
『ナビゲーター:「再安価は甘え。安価は絶対や。オタ芸大人しく踊るんや。爆死したいんか?www 安価実行に必要なアイテムは特別に支給してやるやで』
ナビゲーターがそう言った後、突然目の前に2本のサイリウムが出てきたンゴ。
「ファッ!? 異世界にサイリウム!?」
ワイはもうクタクタになっていたけど、目の前に落ちてきたサイリウムを両手にとって、一曲分のヲタ芸を披露したンゴ。
流石に疲れてていつものキレはなかったけど、それでもワイはヲタ芸にはこだわりがあるんや。
ワイの推しに失礼のないように、ワイは顔を真っ赤にしながら全力で踊ったンゴ。
「うぉおおおおおおおおおおお!!!」
そんなワイを見て、観衆は興味を持ってくれたのか銀貨が3枚が投げ込まれたんや!
銅貨やなくて銀貨やで!?
サンガツ!
「やった! これなら…! 次で決めるンゴ!」
次で最後や。
安価>>73
73:名無しより愛をこめて:火を吹く
火を吹くとは!?
ワイ、ドラゴンちゃうで!!?
「人間的構造に無理な事言われても無理ンゴ!」
『ナビゲーター:「口に酒含んで松明の火をふけばええんやでイッチ」』
「ファッ!?」
そんなの素人にできるんか!?
その火を吹くための酒と火のついた松明が落ちてきたンゴ。
この酒……度数99度!?
アカン、こんなもん間違えて呑み込んだらマジに死ぬやんけ。
やるしかないと思ったワイはその激ヤバな酒を口に入れた。
でも、口に入れた瞬間に辛すぎて吐いたわ。
かっら!!!
口に入れるもんちゃう!!
「げほっ! げほげほっ! がはっ!!」
『ナビゲーター:「むせてて草」』
「笑い事ちゃうわボケ!」
『ナビゲーター:「余裕そうやな、あと8分43秒で爆死するでイッチ。それに早くせんと観客が消えるやで」』
ワイが酒を吐き出して苦しんでいる間に、確かに人がはけて行っているのが見えたんや。
もうやるしかない! と思ったやで。
ワイは再度口に酒を含み、強烈な辛みを我慢した。
松明を持って顔を近づける。
普通にめっちゃ熱いし怖い。
これ、下手したら顔面大火傷とかになるんちゃうか!?
でもこれができないとワイは爆死や!
ワイは意を決して、勢いよく酒を松明に向かって吹き付けた。
ボワッ!!
ワイの口から闇夜を切り裂く火柱が上がったンゴ。
成功や!!
自分にこんな隠れた才能があったことに驚きや。
観衆は「うおおお!」と歓声を上げ、銀貨がさらに大量に投げ込まれたんや!
中には金貨もまじっとる!
火を吹く芸は、異世界でも通用した。
こんなの魔法でどうとでもなりそうやけど、身体を張った芸はしっかり観衆の心を掴んだやで。
ワイは必死に投げ銭を拾い集める。
この世界の金貨、銀貨、銅貨の価値はまだわからんやが、これだけあれば宿屋に泊まれるやで。
身体を張った芸で時間を浪費しすぎた。
空は完全に暗くなり、ワイの疲労は限界。
このまま外で寝たら身ぐるみはがされて今稼いだ金を奪われかねん。
異世界の定番、ならず者がいるやろうからな。
ワイは広場から出てボロ宿を探してへとへと歩いた。
ニート人生で今日ほど身体を張った日は無いで。
こんなんするくらいなら地道に薬草毟ってた方が楽やったんやないか?
でも「労働」という意識になると途端にしたくなくなるンゴ。
ようやくたどり着いたのは、ワイを嘲笑ったジジイが受付のボロ宿。
「また来たのか、金がないなら泊められないよ」
「さっき稼いできたんや! これで足りるンゴ?」
ワイが荒い息をしながら金貨や銀貨をカウンターに叩きつけると、ジジイは呆れた顔で鍵を渡してきた。
「何泊?」
「とりあえず一泊で頼むやで」
「はいよ」
ワイは部屋の鍵を受け取り、そのまま疲れた体を引きずって部屋に入ったンゴ。
『ナビゲーター:「屋内判定を確認やで。爆死カウント再開や。リミットまで、11時間03分42秒や」』
「うっさいわ。ワイは疲れたンゴ。もうふかふかのベッドで寝るやで」
ワイはボロボロのベッドに倒れ込んだんや。
爆死カウントが始まったが、11時間ある。
余裕や。
まずは寝る時間が確保できたンゴ。
「ふ、ふぁぁ……なんとか宿確保や……」
ワイは限界を超えた疲労と、大道芸人という屈辱から安堵の涙を流した。
今日はなんとか生きて朝を迎えられるンゴ。
そういえばこの宿、朝食とかついてるんやろか?
腐りかけのもん食って気持ち悪いンゴ……
マッマがいたら部屋に床ドンしたらそこそこ美味い飯を持ってきてくれるのに……
「くっそ……なんで異世界で、ワイが大道芸人にならなあかんのや……労働より酷い、晒し者やんけ……」
おかしいンゴ。
こんなのワイの知ってる異世界転生ちゃう。
ワイはイケメンになってないし、チート能力もないンゴ。
ヒロインも全く現れないンゴ。
ベッドに横たわりながらワイは改めて、この異世界が「ニートの理想を徹底的に叩き潰すクソゲー」であることを噛みしめた。
明日もまた、安価と爆死の恐怖が始まる。
【悲報】ニート芸人、死線を越えて宿を確保。もう二度と火は吹きとうないンゴ……




