ワイ、望んでたもの全部手に入れたのに最愛の人だけいなくなった
「アークたそー! どこやー!? 出てきてクレメンス!!」
ワイは叫びながら、広大な魔王城の中を走り回っとった。
以前のワイなら、この距離を動き回って走ったら間違いなく息があがってすぐにダウンしとった。
デブで運動不足の極みやったからな。
以前のワイやったら十分も走ったら息上がって、横っ腹痛くなって、その場で座り込んどったはずや。
せやのに、どれだけ歩いても、どれだけ階段上っても、心拍数すら上がらへん。
汗もかかへん。
息も乱れへん。
足も重くならへん。
まるで自分の身体じゃないみたいに自在に動くンゴ。
魔王城はめっちゃ広い。
とにかくクソほど広い。
まさにRPG的な感じで廊下は何本も枝分かれしとるし、階段も上か下かわからんほど続いとった。
倉庫みたいな部屋とか、意味不明な広間、誰も使ってへん寝室みたいなとこ……いろいろあったけど、全部回った。
ほんまに全部や。
でもアークたそはいなかった。
「……おかしいやろ。もう何時間走り回っとるんや、ワイ」
アークたそどころか、誰もおらん。
この広い魔王城にドラゴンしかおらんかったのか?
確かに間取りというか、人間サイズじゃないンゴ。
「ナビゲーター! アークたそはどこに行ってしまったんや!?」
もうやけくそになって助言をくれるはずもないナビゲーターにワイは泣きついた。
『ナビゲーター:「イッチ、気づいてないみたいやから一応言うわ。屋内に12時間以上いると爆死する呪い、完全に無効になっとるな」』
「……ファッ!?」
そういえば……爆死カウントがない。
ナビゲーターの言葉にワイは足を止めたんや。
慌ててナビゲーターの「爆死カウントダウン」を確認する。
……ない。
屋外判定になっとるというよりは、爆死カウント自体がバグっとるみたいな感じになっとった。
「せ、せや! ワイ、12時間どころか、もう丸1日以上この城の中におるやんけ! なんで爆発せえへんのや!?」
『ナビゲーター:「爆死の呪いを上回る不老不死の魔法がかかっとるからな。不老不死というか、完全に無敵状態になっとる。お前はもう『お外』にこだわらんでも死なへんのや」』
ほんまに!?
もうひきこもってても爆死せんのか!?
それを聞いてワイは歓喜したンゴ。
「うおおおおお!!! 自由! ついに完全なる自由を手に入れたンゴ!!!」
ワイは玉座の間でガッツポーズをした。
これで12時間おきにビクビクしながら外に出る必要もないんや。
引きこもり放題、寝放題、ニート生活の完全復活や!!
……でも、喜びは長くは続かなかったんや。
アークたそがいない。
これを叶えてくれたアークたそがいないんや。
喜びを伝えたい相手がおらん。
こんなチート能力を手に入れても、アークたそがいないことがワイにとってはポッカリ穴があいたみたいに辛かったンゴ。
「外や。外に探しに行くしかないンゴ!」
ワイは城の大きな門を開けて、外に飛び出そうとした。
けど、そこで足を止めることになったんや。
「……なんやこれ」
魔王城の外は、庭園でも町でもなかった。
見渡す限りの雲海が広がっとって、城は空を突き抜けるほどの巨大な垂直の絶壁の上に建っていたんや。
門のすぐ先は断崖絶壁。
道なんて1本もなかった。
ここにこられるやついないやろ!
……でも、ドラゴンが住んでたなら飛んでくることくらいはできるか。
あとアークたそみたいな空間転移魔法で来るしかない。
ここは普通に出入りができる場所やなかったんや。
「アカン、これ出られへんやつや」
『ナビゲーター:「不老不死なんやし、そこから飛び降りてみたらどうや?」』
「怖すぎてできるわけないやろボケェ!!」
高所恐怖症のワイに、雲の下も見えない崖から飛び降りろとか無理ゲーすぎるンゴ。
結局、ワイは最強の力を持ちながら、一歩も外に出られない「囚われの魔王」になってしまったんや。
***
アークたそがいなくなってから数日が経った。
そこでワイは、もう1つの異常に気づいたんや。
「……そういえば、腹が減らへんな。それに、全く眠くもならん」
不老不死は単に死なないだけじゃないみたいや。
生命を維持するためのあらゆる「欲求」が満たされ続けている状態やった。
食べなくていい。
寝なくていい。
排泄しなくていい。
ただ、日が昇って、日が落ちて……
窓から見える雲の流れが変わるのを眺めるだけの時間が過ぎていったんや。
外には出れんし、特別することもないし。
魔法の練習とかしようとはしたけど、正直魔法を使ってみても楽しいとかってのは最初だけで、不老不死の身体を手に入れたワイにとっては魔法があっても全然便利やなかったんや。
それに、ファイアーボールみたいなのは出せるんやが、他の魔法はさっぱり使えなかったンゴ。
まぁ……敵を蹴散らす魔法が使えたらそれだけでええかと思って研究とか練習とかはせんかった。
魔法のあれこれとか、アークたそが教えてくれんかったら何もわからんやん。
できたことをアークたそが褒めてくれんかったら何の意味もないやん。
せっかくイケメンになったけど、モテるための女がいなかったら意味ないやん。
「アークたそ……戻ってきてや……」
自分が今どういう状況に置かれているのか、 アークたそが何を思ってワイをここへ置いたのか……
何もわからないまま、ただ最強のイケメンになったワイだけが豪華な城に取り残されていたんや。
『ナビゲーター:「……イッチ。これが、お前が望んだ『最高のチート生活』の成れの果てやな」』
確かにこういうの望んでたけど、ステータスカンストでゲーム始めてチートばっか使ってたらゲームバランス崩れて楽しくなくなるやん。
まさに今そんな感じや。
「なんでこうなるんやぁああああああ!!? アークたそぉおおおおおおおおおおお!!!」
宇宙の果てまで届かんばかりにワイは叫ぶしかなかったんや。
でも、心のどこかで「いつかアークたそが帰ってくる」と信じてワイは待つしかなかったンゴ。
ただ毎日、日が昇って落ちて……
そんな生活がしばらく続いたんや。
【悲報】ワイの嫁がずっと帰ってこない




