ワイ、ついに勝ち確定する
――次の魔王になるのは真太郎だよ
アークたそのその一言が、ワイの頭の中で何回も反響しとった。
意味が分からへん。
ほんまに、何一つ分からへん。
ワイの脳みそは完全にオーバーヒートしとった。
巨大なドラゴンがアークたそを「主」と呼んでて、魔王を倒しに来たはずが、ワイが次の魔王になるって言われとる。
ほんまにワイの理解が及ばないことの連続や。
「……ちょ、ちょっと待ってクレメンス……」
声を出したつもりやったけど、声が震えすぎてまともな声にならへんかった。
魔王?
ワイが?
このワイが?
ついさっきまで、ドラゴン見てビビり散らかして、足すくませとった最強ニートやぞ?
勇者ですらない。
英雄でもない。
ましてや魔王って、なんやねん。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、思考が完全に停止しとったワイに、アークたそはいつも通り淡々とした声で続けた。
「……真太郎に、ひとつ嘘をついてたことがある」
逆に驚いたンゴ。
謎が多いとは思っとったアークたそは、たったひとつしかワイに嘘をついてなかったんかって。
もう全部嘘なんじゃないかと思ってたんや。
「今まで壊してきた祠、あれは魔王の力を増長させる祠じゃない。神と呼ばれるものの力を封じるための祠だったんだ」
「……ファッ……?」
ワイは間抜けな声を出すしかなかったンゴ。
いや、変な声出るやろ。
出ない方がおかしい。
で……祠は魔王を弱体化させるためのもんちゃうかったんか?
もうワイの頭の中には、新しい情報を処理する余地なんて一切なかった。
脳みそが「これ以上無理です」って白旗上げとる感じや。
もうワイの頭では処理しきれん。
何を言われてもこれ以上はキャパオーバーやで。
「それで、その“神”って呼ばれてるのが……私」
……ファッ……?
一瞬、言葉の意味を理解できんかった。
いや、理解しようとしたけど、脳が拒否したんや。
アークたそが、神?
祠に力を封じられてた存在?
世界をどうこうできる存在ってことか?
何を言ってるのか、ほんまに全く分からへんかった。
分からなさすぎて現実味がなかったンゴ。
もしかして、ワイは長い夢でも見とるんか?
夢オチってほんまに存在するんか?
「……えっと……」
口を開いたけど、続く言葉が出てこん。
そんなワイを見て、アークたそは少しだけ――――ほんの一瞬だけ、ワイを観察するみたいな目をしたんや。
「真太郎は力に憧れてるよね。綺麗な見た目にも」
胸の奥をグサッとナイフで刺された気がした。
いや、刺されたことないから分からへんけど。
でも、そらそうや。
ワイは、チビで、デブで、ハゲで、不細工で、ニートで……何も持ってへんかった。
唯一持ってるのはレスバ力くらいやった。
この世界に来てからも、力のある奴らに踏みにじられてきたンゴ。
「それ、全部叶えてあげるよ」
ワイは返事できんかった。
理解が出来へんかったからな。
次の瞬間、何が何だか分からんまま、ワイはアークたそに魔法をかけられたんや。
ゾワッ……
身体の奥から、何かが噴き出す感覚がしたんや。
血液が沸騰するみたいな感じ。
でも痛くない。
むしろ、気持ちええ感じがした。
「……な、なんやこれ……」
力が、溢れてくるってこんな感じなんやろうか。
全身に何かがみなぎる感じがして、それから今まで重りを付けられてた身体が、スッ……と軽くなった。
違和感を覚えて自分の腕を見た瞬間、ワイは言葉が出なかったンゴ。
細マッチョや。
ワイの身体が細マッチョになっとる。
無駄な脂肪が全部消えて、引き締まった身体になっとる。
下を向いたときにつま先が見えることに感動したで。
いつも出てる腹で自分のつま先が見える事なんてなかったからな。
どうなったのかあたふたしとると、アークたそが空中にどういう原理か分からんが鏡を作ってくれた。
恐る恐るそれを覗き込むと……そこに映っとったのは――――……
「……イ、イケメンや……!」
幻術やない。
本当に、ワイ自身がイケメンになっとった。
自分の身体とか顔とか髪とか触って感触を確かめたけど、それは確かにワイやった。
ほんまにワイはイケメンになったんや。
これぞ異世界転生って感じのイケメンになったんや!
うひょおおおおお!!
それだけでワイはテンションマックスになってたのに、更にアークたそは言葉を続けた。
「力も与えた。魔法使ってみなよ」
「え……? いや、ワイ魔法使えないやで……?」
そう言ったワイに、アークたそは当たり前みたいに言った。
「それは前の真太郎でしょ。今なら使えるよ。やってみて」
やってみてって言われても、魔法の使い方なんて分からんで。
でも、言われるがまま、ワイは前に手を突き出した。
正直、半信半疑やった。
力は漲ってきてる気がするけど、突然魔法使えるようになったりするんか……?
アニメとかの知識でしかないけど、ワイは手に力を込めて技名を言ってみることにした。
詠唱とかの中身は知らんから、もうやけくそやったで。
ええいままよ!!
「……ファ、ファイアーボール!!!」
ワイがそう叫んだ瞬間、ワイの手のひらから轟音と共に、灼熱の炎が放たれたんや。
炎は一直線に天井へ向かって伸び、魔王城の天井そのものを蒸発させた。
「!!?!?」
口が開いたまま、塞がらへん。
唖然、という言葉がぴったりやった。
何も魔法が使えなかったワイが、安価は絶対とかいうクソスキルしか持ってなかったワイが、ファイアボールを使えたんや!
しかもチート級破壊力!
ワイはそのまま昇天してしまうかと思う程舞い上がったンゴ。
「希望するなら、不老不死にもしてあげるよ」
その言葉を聞いた瞬間、ワイの頭は完全にお花畑になった。
チート級魔法、チート級イケメン、そしてチートステータス。
まさに完全無欠の存在になれるやんけ。
「た、頼むやで!!」
考える間もなかった。
即答や。
『ナビゲーター:「あーあ……」』
ナビゲーターのそんな声が聞こえた気がしたけど、ワイは気にせんかった。
アークたそが再び魔法をかけると、身体がじんわり温かくなって、すぐに何も感じなくなった。
「もう真太郎は、死なない体になったよ」
「うおおおおお!!」
ワイはテンション爆上がりで、思わずガッツポーズを取っとった。
最強や!
イケメン!
魔法使える!
不老不死!
最高やんけ!!
これ以上何を望むんや!!
しばらくその場で1人、興奮し続けとった。
ほんまに、浮かれきっとったんや。
……でも……
ふと、我に返ったときのこと。
「あれ……?」
そこに、さっきまでいたアークたそも、ドラゴンもおらんかった。
「……アークたそ?」
呼んでみたけど、返事はなかった。
広い魔王城に、ワイ1人の声だけが虚しく響いた。
どこを見渡しても、誰もおらん。
さっきまで確かに、そこにおったはずやのに。
ワイは何が何だか分からないまま、魔王城にぽつんと1人になった。
『ナビゲーター:「とんでもない悪手をとったな、イッチ」』
「……なんでや?」
チート魔法手に入れて、イケメンになって、不老不死やぞ?
最高やんけ……?
でも、アークたそはどこに行ったンゴ?
その答えが分からないまま、ワイはしばらくの間、魔王城の中を彷徨い続けて、アークたその姿を探し続けた。
でも……どんなに探しても、呼びかけてもアークたそは見つからなかったんや。
え……どういうことなんや?
【???】もしかして、このままワイは魔王城に居座って魔王になるってことなんか……?




