え……ワイ、状況が全くつかめないんやが……?
ワイは崩壊してる祠の外に息を切らしながら走って、そのまま勢い余って外へ飛び出したんや。
なんとか崩壊して潰される前にワイは脱出に成功した。
「はぁ……はぁ……」
振り返って祠の方を見たら完全に潰れとった。
じいさん、絶対に死んだやろ。
仮に中が崩れてなくても到底出てこられるとは思えへん。
これで祠は全制覇や……と思ってアークたそを探そうと視線を動かした瞬間、ワイは思わず息を呑んだんや。
え……?
世界が止まっとった。
沢山いる人間とかそれ以外は完全に止まっとった。
爆風みたいなのも止まっとる。
そういえば、なんで時間が止まってもワイは息できるんやろか?
空気も止まってたらワイ、空気吸い込めなくて息できないんやないか?
もしかしたら、ワイに接してる面だけは時間動いてるんか……?
爆風の火の粉みたいなのを指先でチョン……て触ってみたら、その火の粉がめっちゃ熱くて
「あちぃっ!!!」
ってワイはその場で転がりまわることになったんや。
『ナビゲーター:「大草原不可避」』
「やかましい! ちょっと気になったんや!」
『ナビゲーター:「火に触ったら火傷するなんて当たり前やんけ」』
「時間が止まっとるんやから興味あるやろが!」
ワイがナビゲーターと言い合いしてるところ、スッ……と音もなくアークたそがやってきたんや。
「成功したみたいだね。信じてたよ」
「ワイもアークたそのこと信じてるンゴ!」
「そう。ありがとう」
アークたそはいつもと同じ淡々とした声で短くそう言ったんやけど……なんかアークたその様子がいつもと違う感じがしたんや。
何が違うとは言えないんやが、なんかいつもと違うっていうか……ほんまにうまく説明できないんやが、そんな雰囲気やった。
「祠の中に見事に入ったのを見て、安心したよ」
「せやろ、ワイは頑張ったで! で……時間止まっとるけど、アークたそがやっとるんか?」
「そうだよ。全部相手にしてたらきりがないし」
いや、軽く言っとるけど、これ世界レベルの大事件やろ。
あ、でも世界の時間が止まっとるならこれは誰も知らないんか。
てか、時間止める能力とか普通チート級やろ!
なんでも好き放題やんけ。
時間止められる能力があったら……エッッッッッなことし放題やし、銀行強盗もできるし、ほんまにやりたい放題や。
ワイもそんな能力ほしいンゴ。
なんでワイ、こんな不便な能力しかないんや。
ワイが考え込んでると、アークたそは平然と歩きながら、軽く手を払った。
そしたら、ワイのすぐそばで停止していた白聖盟の戦士の剣の先端が、パリン! と砕けて粉になったんや。
「この辺りはステータスの高い人間ばかりだから、時間停止魔法使っても少しは動ける人もいると思ったけど……いなかったね」
周りを見ても誰も動いとらんかった。
「真太郎が触ると動き始めるから触らないようにね」
「お、おかのした」
「さて、そろそろ行こうか」
「どこにや?」
「もう祠も全部壊したし、魔王のところ」
ファッ!!?
もう魔王のところに行くんか!!?
準備とか全然できてないで?
エリクサーみたいなガチアイテムとかたくさんもって行かないといかんのやないか?
ワイはナビゲーター以外は何も持ってないし、アークたそも伝説の剣みたいなの持ってるわけちゃうし、ほんまにこのまま行くんか!?
うせやろ!!?
ワイはアークたそにいろいろ質問したかったけど、アークたそはすぐにワイの手首を軽く掴んだんや。
その瞬間、空間転移の魔法が発動してワイとアークたそは別の場所に移動したンゴ。
ワイは心の準備すらできてなかったのに、めっちゃ急やった。
ワイは巨大な黒い城……おそらく魔王城の玉座の間に立っとった。
ここが……魔王城……?
天井はめっちゃ高くて、壁には血のように赤い紋章が刻まれとる。
床は斑に砕けた黒曜石みたいなのが光っとる。
そんなことは些細な情報やった。
ワイは目の前の光景に息が止まったやで。
玉座のところで眠っとる大きな影がひとつあったンゴ。
巨大な黒い鱗に覆われた――――……
ドラゴンや。
本物のドラゴンやった。
アークたそが絶滅したって言っとったはずの、ドラゴンが……目の前におった。
ワイは震えた。
めっちゃデカい。
多分、ワイが見たことある生き物の中で一番デカいンゴ。
アニメとか漫画とかに出てくるやつの2倍くらいはある気がする。
怖い。
こ、こんなの絶対勝てるわけないやんけ。
勝てるイメージ全く浮かばんわ。
仮にこれがドラゴンやなくて、地球に存在してた象だったとしても人間が象に勝てるわけないやん。
ドラゴンはそれ以上やで!?
それの前にいるワイの恐怖が分かるか!!?
ドラゴンは横になって眠っとるみたいやった。
こっちには気づいてないンゴ。
「ちょ、ちょっと待ってや……なんでドラゴンがおるんや……? ぜ……絶滅したんやなかったのか……?」
「絶滅したんだけど、この個体だけはずっと前からここにいるよ。役目があったからね」
役目……?
魔王ってなんか役目あるんか?
っていうかちょっと待ってや。
ここからほんまに逃げ出したい。
でも足がすくんで震えて一歩も動けなかったんや。
寝てるところみたいやし、もう逃げようや……こんなの無理や。
ワイはただのニートやで。
いくら弱体化してても勝てるわけがない。
そんな中、アークたそは悠々とドラゴンの方に歩いて行ったンゴ。
「起きて。来たよ」
な、なんで普通に声かけるんや!!?
不意打ちとかして殺すんかと思ったけど、なんで起こす必要あるんや!!?
ワイは声には出さんかったけど(出せんかったけど)大混乱やった。
アークたそがそう言った瞬間、ドラゴンの巨大な眼がゆっくりと開いた。
金色の瞳が、闇の中で光ってるンゴ。
その瞳がアークたそを捉えた瞬間、ドラゴンの身体が震えたような気がした。
ゴゴゴゴゴゴゴ…………と音を立てて、巨大なドラゴンが玉座から身を乗り出して、それから深々と頭を垂れた。
ファッ……なんや……襲ってくると思ったけど会話イベントとか、そういう感じか……?
ワイはポカンとしとる中、ドラゴンは低い声で喋ったんや。
「……お待ちしておりました。“主”よ……」
ワイはその恐ろしい声を聞いて心臓が止まるかと思った。
でも、ワイの恐怖でいっぱいの脳みその端っこの方で言葉の意味を数秒経って理解した。
何を言ってるんや?
何を言ってるのか全く分からないンゴ。
お待ちしておりましたってのは皮肉かなんかか?
でも“主”ってなんのことや……?
ドラゴンの喉奥が震えて、重低音みたいな声がさらに響いたンゴ。
「お久しぶりにございます……主様。長きに渡り、お待ちしておりました……」
ファッ……?
「思ったより時間がかかっちゃった、悪いことしたね」
「とんでもございません……主様」
ワイは状況が全く分からんかった。
魔王のドラゴンはアークたそにかなり敬意を表して話してるようやった。
つまり……
どういうことや?
ワイの頭が大混乱しとる間も、イベントはどんどん進んでいく。
待ってや。
会話の自動スクロールは困るやで。
Aボタン押したら進んでくれ。
ワイが必死にその状況を理解しようとしとる中、ドラゴンの目から巨大な涙のように光るものがこぼれ落ちたんや。
泣いとるのか……?
「約束通り、同族を生き返らせてあげるよ」
「ありがたきお言葉……神よ……我らにご用命があればなんなりと……」
「自由に生きなよ。もう縛られることもない」
ワイはもう大混乱が収まらずに、ドラゴンとアークたその間に割り込んで話しかけたんや。
「ちょ、ちょっと待ってくれアークたそ!? 魔王の討伐をするんやなかったんか!?」
「魔王討伐は成功だよ。もう魔王の座から退いてもらうから」
「どういう意味や……? ワイにも分かるように話してクレメンス」
ドラゴンがワイの方を見てると思うと、言葉がなかなか出てこなかった。
見たところ大人しいっぽいけど、いきなりブレスとか吐かれて消し炭になりかねん。
「次の魔王になるのは真太郎だよ」
ファッ!?!!?
全く意味が分からないンゴ!!!?
【???】ワイ、英雄になるどころか次期魔王に任命される???




