ギルド突入や! チート流石にあるやろwww
全力疾走で町中を走り、ようやく辿り着いたのは石造りの立派な建物やった。
「ここや……! ここが冒険者ギルドやろ! 如何にもってところやん!」
むしろここじゃなかったからワイはもう無理や。
もう走りたくないンゴ。
でも建物に入るのは怖すぎる。
入った瞬間から、命のリミットカウントが始まるんやからな。
ナビゲーターの画面は『12時間00分00秒』で静止しとる。
しかし、ワイはまだ希望を捨てとらんかった。
「絶対チートスキルは隠されてるんや! ギルドに入ったら水晶玉が割れてワイの潜在能力が爆発するはずや! 『全知全能のニート』とかいう最強ジョブが覚醒するに決まっとる!」
前世で読み漁った小説の知識がワイの背中を押した。
背に腹は代えられん。
「逝くンゴォォォオオオ!!!」
意を決して、ワイはギルドの分厚い木製の扉を開けて中へ飛び込んだ。
『ナビゲーター:「屋内判定を確認やで。カウント開始や。リミットまで、11時間59分58秒や。精々爆死しないように注意せえwww」』
ナビゲーターの煽り声と共に、爆死のカウントダウンが始まった。
ギルドの中は喧騒に溢れ、冒険者らしきゴツイ人間たちが受付に群がっとる。
アニメでよく見たことあるやつや!
この中にワイのライバルになるやつもおるんやろか?
可愛いヒロインもおるんやろか?
でも、パッと見可愛い子いないンゴ。
っていうか、露出の多いエロい女なんてどこにもいないんやが!?
そもそも女自体が全然おらんやんけ!
いてもポリコレに殴られたようなブスばっかりや……嘘やろ。
異世界ってみんな美男美女と違うんか……?
ワイは太い身体を揺らしながら、一番空いている受付カウンターに突進した。
「ぼ、ぼぼぼ、ぼ……」
「?」
アカン。
ワイ、マッマとパッパともまともに話してこなかったからか、全然喋れないンゴ。
神とは普通に喋れたはずなのに、受付の女を前にして言葉が出てこない。
どどど、童貞だからってナメるなや!
ワイは絶対最強チートあるんや。
それからワイはカリスマになって英雄になってワイを崇める宗教が設立されるんや。
ワイは一度深呼吸して落ち着いて受付の女に言い放ったった。
「冒険者登録お願いします!」
受付嬢はワイを見るなり、露骨に顔をしかめた。
綺麗な金髪で、ぐう聖っぽい見た目なんやが、その態度は受付嬢にあるまじき「ぐう畜」そのものやった。
「は、はい。身分証の提示をお願いします」
ファッ!? 身分証!?
元の世界でも運転免許もマイナンバーカードも持ってないワイには身分証なんてなかった。
保険証みたいなのはあったような気がするけど……ポケットをまさぐってみても勿論入ってなかったんや。
「ないンゴ。ワイ、異世界から転生してきたんや」
転生者なんて別に珍しくないやろ。
みんなアニメだと簡単に異世界転生しとるし、こういう例があってもおかしくないと思うンゴ。
でも、明らかに受付嬢の瞳は完全にワイを「ヤバい変質者」として見とる。
なんでやねん。
ワイはただ生きるのに必死なんや。
働くのは嫌やがその辺の草とか虫とか食うのはもう嫌やで。
「わ、分かりました……では、能力判定を……」
ワイはそれを聞いて胸を高鳴らせた。
キタ! この瞬間や!
受付嬢が取り出したのは親の顔より見た水晶玉やった。
これがいつも割れるのがテンプレなんや。
測定不能なほどワイの魔力が炸裂するやで!
と、考えながらその水晶玉にワイは手を置いた。
「…………」
あれ? なんも起きへんのやが?
「これ、壊れとるんちゃうか?」
「申し訳ございません。確認いたしますね」
そういって受付嬢が水晶玉に手をかざしたら水晶玉は普通に反応しとった。
ステータスの読み方は分からんかったけど、結構強そうなステータスやった。
ギルドの受付嬢ってこんなに高いステータスいらんやろ。
「壊れているわけではないようです。もう一度お願いします」
「……」
ワイは言われたとおりにまた水晶玉に手を置いた。
でも……相変わらず何の反応もないンゴ。
これはもしかして測定不能なほどのチート能力があってこれが反応しないパターンなんか?
ワイがそう考えていると受付嬢は呆れたような顔をしてワイに現実を突きつけた。
「あ……能力は貴方は魔力がほぼゼロで、特に目立った技能も見られませんね……大体どのステータスも赤ん坊以下です」
赤ん坊以下!?
ワイはもう35歳やぞ!?
何かの冗談やろ!!?
「ワイの隠された能力は!? このデブ身体に秘められた最強チートはどこやねん!?」
受付嬢はワイの容姿と能力値を見比べ、心底蔑むような目で沈黙してしまった。
「ち、違う! ワイはレジェンド級無職や! 『安価は絶対』以外の最強スキルは!?」
「アンカ……? 失礼ですがそういった名前のスキルは、このギルドでは確認できません。ご紹介できるのはこちらのFランク依頼のみです」
受付嬢が差し出した紙には、『薬草採取』『魔物の糞掃除』『街の外れのゴミ清掃』といった、タイパ最悪の雑用ばかりが並んどった。
普通に仕事やん!?
リストを見てワイのニート魂が燃え上がった。
「こんな肉体労働、働いたら負けや! こんなもん絶対やらん! ワイは労働するために異世界に来たんちゃうぞ!」
しかし、命のリミットは刻一刻と進んどる。
『残り11時間45分』。
腹も減っとる。
「くっそ……宿に泊まる金がないと、この町で寝床を確保できん……」
ギルドの建物の中におる限り、爆死カウントは減り続ける。
受付嬢の冷たい視線にももう耐えられん。
ワイは繊細なんや!
ワイは耐え切れずにギルドから飛び出した。
「クソ……まずは食料や……! 労働するより、食料をタダで手に入れる方がタイパ最強やろ!」
ワイは飲食店の裏手に回り、ゴミ捨て場を漁り始めた。
なりふり構ってられへん。
ワイはもう虫を食べたくないんや。
「あった! パンの耳! カビてへん! ぐう聖やんけ!」
廃棄されたパンの耳を頬張る。
マッマの手料理が恋しいンゴ……栄養面ガン無視した料理でも、このゴミのパンの耳よりはマシやで。
物足りなさとこれからどうしたらいいのか分からへん。
屋内に入れば爆死カウントが進むのが怖くて何もできん。
でも、何もしないと普通に死ぬ感じやん。
アニメだったらここでヒロインが現れてくれるはずなのに、なんでワイの前には現れないんや?
それにイベントは?
こういうのは物語が始まったと同時に大型イベントあるんちゃうの?
本当にワイの能力が低くても、これから最強の竜とかと契約してチート能力を手に入れるルートも残ってるンゴ。
まだ諦めるには早いンゴ!
時間はどんどん過ぎていく。
もう昼を過ぎて、夕方に近づきつつあった。
肉体労働は嫌やが、夜になれば町の通りも寒くなる。
何より、全力疾走と森での野宿でワイの疲労はピークやった。
「あかん……寝たい。横になりたいンゴ……」
どれだけ汚い安宿でもええ。
とにかく壁と屋根のある建物で、ゆっくり寝て体力を回復したいンゴ。
逆に考えるんや、12時間は屋内にいれるんやから寝る時間は十分取れるやで。
でも、宿に泊まるには金がいるンゴ……
「働くのは嫌や……なら、地道に金を探すしかないンゴ!」
ワイはタイパを無視し、町中の石畳を這いつくばって金を探し始めた。
道端に小銭が落ちていないか、目を皿のようにして探した。
探し始めて30分くらいして、やっと金を見つけることができたんや!
「ふぁぁ……銅貨、一枚! 二枚!」
デブの身体で地面に這いつくばって小銭を拾う姿は、通行人から奇異な目で見られとる。
めっちゃ恥ずかしいが、背に腹は代えられん。
でも、3時間ほど地面を漁って集まったのは、わずか銅貨7枚。
これでどこかの激安宿に泊まれるかとボロイ宿に凸したンゴ。
でも、蜘蛛の巣張ってるようなボロイ宿でも銅貨7枚では足りないって言われたんや!
「その金額じゃ、山の方の小屋で1泊するくらいしかできないね」
受付のジジイがワイを嘲笑ってきたンゴ。
山小屋て、また町から出て山の方に出ていかなアカンのか!?
魔物とかに襲われるんやないか!?
そんなの無理や……
「アカン……安宿の最低料金にも全然足りひん! 宿代ってこんなに高いんか!?」
ワイは絶望的な状況を打破するため、最後の手段に訴え出た。
勿論安価や。
ワイにはこのスキルしかないんやからこれに頼るしかない。
ワイはナビゲーターを操作し、必死の思いでスレを立てた。
【金欠】宿代稼ぎたいンゴ。地面漁り以外でタイパ最強の金策を安価で教えろ
安価に人生の全てを賭ける。
安価>>3
数秒後、レスがつく。
ワイは心臓をバクバクさせながら、その内容を確認した。
1:名無しより愛をこめて:受付嬢を口説いて金を借りろ
2:名無しより愛をこめて:近くの店で万引きしろ
3:名無しより愛をこめて:町で一番目立つ場所に行って、芸を披露して投げ銭を稼げ
万引きなんて論外や!
この世界で逮捕されたらどうなってしまうんや!?
現実の刑務所は衣食住確保されてたけど、衣食住の「住」のところでワイは爆死してしまうンゴ!
犯罪は論外やで。
『ナビゲーター:「イッチ、安価は>>3やで。一番目立つ場所で芸を披露しろや。イッチの芸が面白いとは思わへんけどなww」』
「ファッ!? 芸!? そんな恥ずかしいことできないンゴ!」
しかし、安価は絶対。
爆死のカウントは刻一刻と迫っとる。
こうして、ワイは生きて朝を迎えるためにニートとしての誇りを捨て、芸をすることを強いられたんや。
【悲報】ワイ、異世界で大道芸人デビュー。こんなのタイパ最悪すぎるンゴ。




