イケメンって思ってたんと違う……
幻術魔法で姿を変えられたワイは、鏡の前に立ってニヤニヤしとった。
そこに映っとるのは、ワイがいつも“こうやったらええのになぁ……”と夢見ていた完璧イケメンや。
……とはいえ、これはあくまで「そう見える」ってだけで、ワイはワイのままなんやけど。
これ、アークたそも惚れるんやないか?
ワイの胸は希望でパンパンやった。
もしかしたら今夜……「真太郎って、実はカッコよかったんだね……」みたいな展開が待っとるんやないか?
アークたそがワイに甘えたり、ちょっと照れたり、胸にギュッて抱きついてきたり―――そんな“イケメン補正イベント”が起こる可能性やってある。
そんなアホみたいな妄想を膨らませながらアークたそに振り向くと―――
アークたそはめっちゃ真顔で飴舐めながら座っとった。
なんやその無反応!?
もっとこう「素敵!」とか「イケメンになったね」とか言ってほしいんやが!?
もしかしたら魔法をかけたアークたそにはイケメンに見えてないんか?
「アークたそ……ワイのこと、どう見えてるんや? イケメンに見えてるんか?」
「うん、いけめん? に見えてるよ」
さらっと言われた。
思った以上に普通や。
普通すぎて逆にワイが困るレベルや。
「な、なんかこう……特別な感情とか湧いてこないんか?」
ちょっと期待して聞いてみたら、アークたそは瞬きもせんとこう返した。
「外見が変わっても真太郎は真太郎だからさ。見た目が変わったから態度が変わるなんて、最低だと思うんだけど」
……ぐう正論。
いやほんま、なんも言い返せへん。
アークたそがあまりにも聖人すぎて、ワイがクズみたいに見えるやんけ。
『ナビゲーター:「実際にクズやん」』
「やかましいわ!」
アークたそは淡々と続けた。
「でも、明日は町に出たら? 周りの反応、面白いくらい変わると思うよ」
「そ、そうなん……?」
「うん。結局買い物もできてなかったんでしょう」
……なんかちょっと楽しそうに見えたのは気のせいか?
とにかくワイは、イケメン補正でモテる未来を想像しながら、その夜はワクワクしながらベッドに入った。
『ナビゲーター:「幻術がとけたら何も変わってないのに、イケメンになったように思ってるの草」』
「うるさいわボケェ!!」
確かにワイの身体が軽くなったとか、そういう実感は特にない。
それでも、不安になってベッドから出て鏡を何度も見ても超絶イケメンやった。
ワイは暫く鏡の前でポーズをとってみた。
どんなポーズをとっても、鏡の中のイケメンはワイの動き通りに動く。
これがワイか……めっちゃイケメンや!
これでモテないわけがないンゴ!
『ナビゲーター:「早く寝ろやニート。命の危機やったのにイケメンになった途端に呑気やな。もっとアークに他に聞くことあるやろ」』
「それはもう終わった事やんけ。それに、あのクソイケメンに見つからないようにこうしてもらったんやからそれでええやんけ」
ナビゲーターの声を無視して、ワイはベッドに戻って眠りに落ちた。
***
翌朝、アークたそに挨拶してから胸を張りながら町へ向かうことにした。
自分が死にかけた事よりも、自分がイケメンになった興奮であんま眠れなかったンゴ。
「いってくるでアークたそ! ワイ、今日からイケメンライフ謳歌するんや!」
「はいはい、いってらっしゃい」
軽い返事やけど、なんか優しさを感じるンゴねぇ……
さぁ、イケメンになったワイの初めの1日が始まるで!
そんなこんなで町に出て歩いとったら―――
なんか、めっちゃ見られてる気がするんやが!?
女性陣の視線がビシビシ飛んでくる。
歩くだけでヒソヒソ声が聞こえるんや。
「あの人、誰?」
「めちゃくちゃ綺麗な顔してる……」
ほら来たわこれ。
ついにワイにもモテ期が来たんや。
でも、納得できない気持ちもあった。
イケメンになっただけでこんなに世界って変わって見えるんか!?
今までどれだけワイが不遇な扱いを受けてきたのか実感するとムカつくンゴ!
「す、すみません……」
ついに女から声かけられた。
ワイは振り返る。
そこには―――
ブスがいた。
「……あっ」
ワイは固まった。
なんていうか、化粧してもどうにもならないくらいのブスやった。
パーツがもう手の施しようがないっていうか……でも頑張って化粧しとる。
それにデブや。
化粧がどうとかよりも、まず痩せるところから始めろや!
あぁ……まぁ、美女とか美少女だけが声をかけてくる訳ちゃうもんな。
ワイだってそのくらいは分かるで。
それは分かってたけど、ワイは多分露骨に嫌な顔したんやろうな。
ワイの顔を見て相手の女も固まった。
「え、あの……」
「す、すまん、急いでるンゴ!」
ワイは全力で逃げた。
すまん、美女と美少女以外は守備範囲外や!
この世界がポリコレ棒に殴られたような世界でも、ワイは美女か美少女がいいンゴ!
走って逃げたけど、その直後また別の女から声をかけられた。
またブス。
そしてまた。
またまたブス。
なんやこれ、もう呪いやんけ!!
1人くらい美人がいてもええんやないか!?
『ナビゲーター:「分不相応で草」』
「うるさいわボケェ!!」
ワイは心の底から思った。
アークたそという超絶美女とずっと一緒にいたから、ワイ……ブスに耐性なくなっとるんや……!?
イケメンになったはずやのに、なんか心がどんどんすり減っていく。
予想してた「黄色い歓声」に包まれるどころか、なんか違う層に人気が出てしもうたんや。
イケメンになったら美人ばっかり侍らして、それこそやりたい放題できると思ってたのに、全然思ってたんと違うンゴ!
最終的に、買い物どころやなくなって強制帰宅したワイ。
なんか……思ってたんと違う……
イケメンになれば世界の全てを手に入れられる気になってたのに、そんな事なかったンゴ。
消沈しながらワイはアークたその部屋をノックして入ったんや。
相変わらずアークたそは飴を舐めながら座っとった。
イケメンになったワイを見ても、やっぱりアークたそは何の特別な反応もせんかった。
それが逆に嬉しかったんや。
アークたそは心も綺麗やで!
「どうだった?」
「なんか……全然思ってたのと違ったンゴ……イケメンになったのはそうかもしれんのやが……その代わりなんか、大事なものを失ったような気がするンゴ……」
「ははは、そうなんだ」
アークたそは少しだけ笑った後、こんなことを言った。
「外見ばっかり褒められてもね。私はそういうの気持ち悪いと思う。変なのも寄ってくるし」
それは……なんとなく分かる。
今日ワイは嫌というほど実感したンゴ。
アークたそは毎日こんな想いしとるんか……?
「ワイはアークたそ一筋やで!!」
ワイの言葉を聞いて、アークたそは飴をカリッと噛んで言った。
「でも、真太郎も私がブスだったら好きじゃなくなるでしょ?」
その問いに一瞬だけ、ほんまに考えてもうた。
アークたそがブスやったら……?
どうなんやろか。
想像するんや。
ワイの目の前にいるブスのアークたそ……
でも――—
アークたそは、この世界に来て一番優しくしてくれた人や。
可愛いから好きになったんちゃう(それは完全には否定できへんけどな)。
優しくしてくれたからや。
信頼できたから。
救ってくれたからなんや。
アークたそが美人だからちゃう!
「アークたそがブスでも、ワイは絶対好きやで。ワイに唯一優しくしてくれた人やからな!」
その瞬間、アークたそはわずかに目を伏せた。
「……そっか。本当にそうだといいね」
そう言って、アークたそは静かに飴を舐め続けた。
あれ……?
ワイ、選択肢ミスったやろか?
本心でそう言ったんやけど……
まぁ、とりあえず気を取り直して、明日は今度こそ買い物行って来るンゴ!!
【悲報】ワイ、イケメンになったけどブスにしかモテないwww




