ワイ、思考停止する
ワイは恐怖で動けなくなっとった。
ワイは腕を抱きしめて、身体を震わせてたんや。
肘から先がぶつ切りにされた激痛は早々忘れる事はできんかった。
自分の血が熱いって知らんかった。
イケメンたちの冷たい目……全てが鮮明にフラッシュバックするんや。
アークたそはワイを助けに来てくれへんかった。
裏切られたんか……?
ワイの命は消耗品やったんか……?
ワイはアークたその部屋に行かず、ずっと部屋の中で震えとった。
何時間経ったか分からんが、ワイの部屋の扉が静かに開いたんや。
アークたそがいつものように飴を舐めながら入ってきた。
シーツにくるまって震えとるワイを見て、アークたそは赤い目を細めとった。
「真太郎、どうしたの。震えてるけど」
その静かな声を聞いたら、ワイは少し落ち着いたンゴ。
ワイは恐怖と絶望、そして僅かな希望を込めてアークたそに泣きついた。
「アークたそ……ワイ、殺されたんや……! 祠の近くで、白いマントの奴らに右腕を切り落とされて……死んだんや!」
涙と鼻水がぐちゃぐちゃになった醜態を晒してアークたそに助けを求めたんや。
ワイが一生懸命主張したけど、アークたそはワイの訴えを聞いても表情一つ変えへんかった。
「へぇ、そうなんだ」
素っ気ない返事が帰ってきてワイの心はベキッと折れたんや。
ワイ、死んだんやで!?
ほんまやで!?
滅茶苦茶怖かったんや……アークたそ、なんでそんな冷たいんや!?
「アークたそ……! ワイが殺されそうになったら、来てくれるんやないのか!?」
ワイは恐る恐る、命を懸けた疑問をぶつけたんや。
アークたそはワイを助けてくれないんか?
ワイの恐怖心を和らげるように、アークたそは言った。
「勿論だよ」
ちょろいかもしれないけど、その言葉にワイの胸が一瞬で熱くなったんや。
やっぱり、見捨てられてなかったんやって。
「多分、私が真太郎を助けに行けなくなってた何かの要因があったんだと思う」
アークたそはいつも通り飴を一本取り出して、ワイの口に入れてきた。
「落ち着きなよ、今は生きてるんだしさ」
そ、そっか……! そういうことやったんや!
ワイは安堵したンゴ。
アークたそはワイを見捨てた訳やないんや! 何かのトラブルやったんや!
それに腕も今はある!
あれはなかったことになったんや!
良かったやんけ!
たった一言で、ワイの絶望は全て消し飛んだ。
アークたそはやっぱりワイの女神や!
ワイはなんとも言えない味の飴を舐めながら、すっかり安心して落ち着いたンゴ。
「でも、真太郎の言う通りなら白聖盟の人間が祠の周りにいるってことだよね。私は関わりたくないなぁ」
アークたそは困った様子を見せた。
ファッ!?
でもあいつらがいたらワイ、また殺されるやんけ!
ワイは右腕を無意識に抱きしめながら、疑問を口にした。
「アークたそ……ワイ、あいつらに奴隷紋のことを『偽物』って言われて、神への冒涜だって言われて……腕を切り落とされたんや。この模様って……神とかなんとか関係あるんか? アークたそは神なんか?」
以前の野盗も、この奴隷紋を見て逃げ出してたのを思い出したンゴ。
もしかしてやっぱりこれって、アークたそが超常的な存在って事じゃないんか?
アークたそは「はははは」と乾いた笑いをしとった。
「私は神じゃないよ。でも昔、神と崇められた存在がいたのは確か。その奴隷紋に似せてつけた」
ファッ!?!??
「な、なんでそんなことするんや!?」
アークたそは理由を淡々と説明してきたんや。
「だって、相手が勝手にビビってくれたらそっちの方が楽だからさ。余計な戦いにならずに済む」
「ワイ、そのせいで殺されたんやが……!?」
犠牲者が目の前におるんやが、その論理は崩れへんのか!?
「ビビるやつの方が多いんだけど、あいつら異常者だから」
で、でも闘技場ではかなり黄色い声があがっとったし、全然拒否されとる感じはせんかったで……?
元の世界では宗教に無縁やったから、もう“宗教”って聞くだけで拒否反応出るくらいなのに、この世界ではそうやないやん。
「なんでそんな異常者があんなにもてはやされてるんや……? 力の絶対信仰はそれすら許されるんか……?」
それに、その異常者はなんで祠の周りにいたんや?
なんでや?
なんでなんや?
でも考えたくないンゴ。
歴史の授業とかいつも眠かったし、それに近い感覚や。
疑問が沢山わいてくるけど、頭脳労働が嫌いなワイは考えることを完全に放棄したンゴ。
『ナビゲーター:「思考停止で草。ニートの脳味噌は3行以上は処理できへんのやな」』
「うっさいわ!!」
考えたくないんや!
何も考えたくない。
アークたその奴隷になったんやから、アークたその言葉をそのまますればええんや。
アークたそは無表情のまま、異空間から服を出したんや。
袖の長い服やった。
それをワイに渡したんンゴ。
「とりあえずこれに着替えて。君の服、ボロボロだし。奴隷紋は隠せるように長袖にしたよ」
ファッ!?
ワイのボロボロの服を見てくれてたんか!
しかも長袖で奴隷紋が隠れるヤツや!
「ありがとうやでアークたそ!」
ワイはボロボロの服から新しい服に着替えたンゴ。
袖が結構長いんや、手首の部分だけやけに丈夫な縫い目になっとる。
思ってたよりも袖が長くてちょっと動きにくい感じがするけど、アークたそからのプレゼントや。
大事にするンゴ!
アークたそは着替えたワイを見て満足そうやった。
「あの連中を祠からどかさないと祠の破壊はできないね。困ったなぁ」
アークたそは顎に指を添え、本当に困っているようやった。
アークたそが困ってる!
ワイが解決するやで!
ワイは再び使命感に燃えた。
でも考えるのは嫌や。
安価で全て解決するンゴ!
「アークたそ! ワイに任せてクレメンス!」
ワイは安価は絶対のスキルを発動した。
まぁ、神安価が下りてきたらなんとかなるやろ!
【緊急事態】ワイの行きたいところに群がってる邪魔なやつらをチート級のアイデアで一瞬でどかす方法を教えてクレメンス!
安価>>3
1:名無しより愛をこめて:爆破予告
2:名無しより愛をこめて:力こそパワー
3:名無しより愛をこめて:悪臭で追い払う
「クソ安価ばっかりやんけ!!!」
神安価を期待したワイは、どうしようもない安価を引いて絶望したンゴ。
悪臭くらいで人を追い払えるものなんか?
でも、なんやっけ……あの、缶に入ってる世界一臭いっていう……
カコン……
ワイがそれを想像してたときに、まさにそれの缶が宿屋の床に落ちたんや。
それにしっかり書いてあったンゴ。
『シュールストレミング』
パンパンに膨張しとる缶が落ちてきたンゴ。
こんなの屋内で開けたら大変なことになるやんけ!!
『ナビゲーター:「最強のチートアイテムktkr」』
「うわ……開けた瞬間、ワイが死ぬんちゃうか……」
「何これ?」
アークたそが缶に触ろうとしたから、ワイはすかさずアークたそと缶の間に入ったんや。
力が強いアークたそが触ったら爆発するかもしれん。
そしたら臭すぎて死ぬかもしれん!
「これは危険やアークたそ! アカン!」
「そ、そうなんだ……それでなんとかできそうなの?」
「……多分、できると思うンゴ」
でも、開けたワイの命はどうなってしまうんや……?
【絶望】安価もワイの命も救ってくれない




