ワイ、人権を蹂躙される
次の日の朝、ワイはアークたその部屋に行った。
昨日の夜はぐっすり寝れたで。
というか、アークたそに「真面目に働いて偉いよ」って言われたことが嬉しすぎて、夢の中で泣いたくらいや。
「おはようやで、アークたそ!」
ワイが元気よく声をかけると、アークたそは無表情のまま「おはよう」とだけ返してきたンゴ。
ああ、その素っ気ない声がまたええんや……癖になるんや……クーデレもかなりありやで。
「アークたそ、祠に行かんのか?」
「……まだちょっと、準備してるところ」
アークたそはそう言うたけど、別に何か準備してるようには見えへんかった。
机の上には飴の包み紙しかない。
それにアークたそが積極的に何かしてるようには見えなかった。
「ワイにできることがあったら、なんでも言ってほしいンゴ!」
胸を張ってそう言うと、アークたそは少し考えるような間を置いてからワイにお願いしてきた。
「じゃあ、ちょっと祠の近くの様子、見てきてくれない? 私は別で調べることがあるから」
「おかのした!」
任務や!
アークたそに頼まれたら何でもやるで!
ワイは拳を握って気合を入れたンゴ。
「じゃ、気をつけて」
その言葉を最後に、アークたそが魔法を展開したんや。
次の瞬間――――視界が白くぼやけて、身体が宙に浮く感覚がした。
「ファッ!? 転移魔法か!?」
気づいたときには、もう祠の近くに立っとった。
よし! ここを調査すればええんやな!
でも……ん? これ、どうやって帰ればいいンゴ……?
***
そこは人の気配なんて全くなかった静かな森の奥――――のはずやった。
けど、他の祠とは様子が違ったんや。
白い法衣を着た連中が、祠の周辺にぎっしりおった。
武装してて、しかも整列までしとる。
あのロゴみたいなの……見覚えあるわ。
闘技場で見た“白聖盟”の連中や!
あのイケメンが着とる服と同じような服着とるし。
『ナビゲーター:「おいおい、また厄介なのに近づいとるやんけ」』
「そ、そう言われてもアークたそに頼まれたし!」
『ナビゲーター:「あーあ、死亡フラグ立ったな」』
「立ってないし!!」
別に、何かされるわけやないやろ。
ちょっと怖いけど。
ワイは祠の方向に歩き出したんや。
なんで他の祠には誰もおらんかったのに、ここだけこんなに人がいるんやろ……?
他の人も魔王を倒したいって思ってるんか?
アークたそと離れてると心細いンゴ。
そんな疑問を抱えたまま、祠の方に近づいていく。
そのとき……
「何者だ!?」
鋭い声が飛んできたから、ビクゥッ!! とワイの身体が跳ねたンゴ。
急に大声出されたらビックリするやんけ!
と、気づけば、ワイは全身を複数の槍で囲まれていた。
「えっ、ちょっ……!? ちょ、ちょっと通りすがっただけやって! 怪しいもんちゃうで!」
『ナビゲーター:「どこからどうみても不審者で草」』
抵抗する間もなく後ろから押さえつけられて、腕をねじ上げられたンゴ。
「ぐぇっ!」
ワイは成すすべなく蹂躙されたんや。
この世界、ワイの人権どうなってるんや!?
『ナビゲーター:「力の信仰のある世界で雑魚のイッチに人権あるわけなくて草」』
「笑い事ちゃうわァァァァ!!」
首根っこを掴まれ、地面に押さえつけられたンゴ。
「この者、何者だ?」
「知らん顔だな。だが……どこかで見たような」
その中の1人がワイの顔をまじまじと見た瞬間、あっと声を上げたんや。
「こいつ、闘技場で瞬殺されてた人だ」
周りの白聖盟の連中が一斉にワイの顔をみて「確かに!」と頷き始める。
「は、はあ!? なんやねん! 瞬殺されたことそんなに覚えとるんか!? 恥ずかしいやんけ!」
「あんなに弱くて情けないやつ、そうそういないし」
「秒殺される程度の強さでよくエントリーしましたよね」
「哀れだな」
蔑まれるというか、哀れまれるというか、どちらにしても屈辱だったんや。
「うるさいわぁぁぁぁ!!! 放してクレメンス!!」
ワイは話してくれるように言ったけど、誰も耳を貸してくれへんかった。
「離せや! 何もしてないやろ!?」
必死に抵抗するが、白聖盟の兵士たちは冷たい目でワイを見下ろしたままやった。
「待て。この男……闘技場で仮面の女戦士と話していたぞ」
その言葉に、周囲の空気が一変した。
仮面の女戦士ってアークたそのことやろ?
ワイの嫁のアークたそになんか用なんか!?
もしかして、あのイケメンがアークたそを探してるんか!?
ストーカーや!
こうなったら、ワイがアークたそを守るんや!
「仮面の女性と知り合いなのか?」
「知らん……!」
「答えろ。あの女はどこにいる?」
「し、知らん言うてるやろ! それとこれはなんか関係あるんか!? こんなの人権の蹂躙や!!」
ワイが叫ぶと、その場にいた全員が笑っとった。
「人権……?」
「力を持たない人が何を言っているやら」
その声は氷みたいに冷たかったンゴ。
なんでや……弱くてもええやんけ。
仕方ないやんけ、強くなれない人間もおるんや。
ニートにしかなれない人間もおるんや。
それがワイ。
そのとき、ワイの手首を掴んでた兵士が、何かに気づいたように声を上げた。
「おい、この手首の刺青を見ろ」
いたたたたた! 変な方向にねじるな!
「……偽の聖印か?」
せいいん……ってなんや?
これは奴隷紋やないんか?
「馬鹿な。こんなフェイクを入れてまで自分の存在を誇示したいのか」
「フェイクってなんや? これは奴隷紋で……」
「黙れ!」
今までもずっと怖かったけど、ワイの手首の奴隷紋を見てからもっと怖くなったんや。
『ナビゲーター:「あー、これ多分やばいパターンやな」』
「ファッ!?」
そんな中、背後から誰かが歩いてきたんや。
兵士たちが一斉に頭を下げとった。
「アシェル様!」
ファッ!?
あのイケメンか!?
押さえつけられてるまま目だけ動かすと、あの金髪碧眼のイケメンが立っとった。
「おや、君は……昨日の……」
「アシェル様、この模様を見てください!」
そう言われたイケメンの視線が、まっすぐワイの手首へ向かったんや。
「その刺青は――――!」
その声は明らかに怒ってるみたいやった。
なんでや? と思ってたところ、すぐにイケメンからアンサーがあったンゴ。
「君のような者が……その印をつけるとは、神への冒涜だ!」
なんや、神への冒涜って!?
まったく話が見えないんやが!?
「え、ちょっ、待っ……! これはワイが勝手に入れたんちゃうねん!! それに何の話――――」
ワイが言い終わる前に、イケメンの剣が光を放ったんや。
え……?
ワイがなにも理解してないまま、急にワイの右腕に激痛が走った。
「――――――ああああああああああああああ!!!」
視界が真っ白になったンゴ。
何が起きたのか全く理解できなかった。
何も考えられない程の痛みでワイは身体を丸めるしかできなかったんや。
やっと痛みに慣れてきて、激痛がする方向を見たら……
腕が…………なくなっとった。
嘘やろ……?
何かの間違いや……
血が地面に滴って、物凄く熱い。
痛い。
痛い。
痛い……!!!
「君みたいな存在が、“かのお方”の隷属を偽るな」
イケメンはそう言っとったけど、ワイは殆ど聞けていなかった。
誰かの話を聞く余裕なんてなかったンゴ。
周囲の兵士たちは誰も止めなかった。
まるでこれが当然かのようにしてたんや。
「た、助けて……アークたそ……!」
声にならない叫びでアークたそを呼んだ。
ワイの命の危機にはアークたそが来てくれるんやないんか?
アークたそ、来てくれへんのか……?
「そのまま捨ておけ」
イケメンの声が冷たく響いたんや。
ワイは地面に崩れ落ち、視界が霞んでいく。
なんでや……
イケメンは聖騎士みたいな存在やないんか……?
なんでこんな非道なことが……許されるんや……?
ワイの痛みも、声も、次第に遠のいていく。
ああ、死ぬんやなって……分かった。
『ナビゲーター:「死亡フラグ回収やな」』
***
次に目を開けたとき――――……
見覚えのない天井……やなくて、フツーに見覚えのある天井が見えた。
『ナビゲーター:「起きたかイッチ、チェックポイントに戻ったで」』
今度のチェックポイントはどこや!?
と思ってワイはナビゲーターの日時を確認すると、ワイが祠に行って殺された朝やった。
「なんでや……なんで……」
ワイは殺されたんや。
怖い。
あの物凄い激痛を思い出すだけで冷や汗が出てくる。
呼吸が浅くなる。
自分のある腕を抱きしめて泣きながら震えたんや。
なんで……なんで……?
どうして殺されたんや……?
その答えをくれる者は、どこにもおらんかった。
【絶望】ワイ、宗教集団に突然殺される




