虫食って走らされるタイパ最悪の異世界やで
身体が内側から千切れるような激痛と、全身が霧散するあの光景が普通にトラウマになったンゴ。
もう爆死はしたくない。
しかもなんで爆死なんや!? もっと安らかな死に方でもええやろ!?
あの神、ぐう畜すぎるわ。
ワイはまた最初に戻っとる。
当然や。
爆死したら終わりちゃう。「チェックポイントからのやり直し」というクソみたいな現実を突きつけられたんや。
「クソッ、クソッ! あの髭面の神、ぐう畜にもほどがあるンゴ!」
腕の『即Sナビゲーター』は、まるで何事もなかったかのように静かやった。
外にいるから、爆殺リミットのカウントは停止しとる。
この森の中におる限りは安全ってことや。
しかし、その安全はタイパ最悪の「不便さ」と引き換えや。
雨が降ったら雨をしのぐ場所もないし、食べ物らしい食べ物もない。
――「二度とニート生活には戻れん」
神の言葉が脳内でこだまする。
前世の家での安寧が完全に断たれた今、ワイが唯一頼れるのは前世で培ったソクエスのレスバトル技術と、爆死の恐怖だけやった。
「わ、ワイの理想の異世界ライフが……! 美少女ハーレムで働かなくていい生活が……!」
そんな嘆きはナビゲーターに容赦なく煽り倒される。
『ナビゲーター:「いつまで泣いとるんやイッチ。腹減ったやろ? 前回は虫を食わずに爆死したんやで。もう一度安価で同じ結果になったら、お前は無限ループやでw」』
くそったれ。
次は必ず安価に従う。
あれはブラフじゃなかった。
安価は絶対。
腹の減り方は、リセット前の状態と全く変わっとらん。
このまま何も食わずに餓死か、安価実行の二択や。
「くっそ、しゃーないンゴ……」
ワイはスキル『安価は絶対』を発動させたンゴ。
パネルが出現しそこに表示されたチャットにスレ立てをする。
【緊急】ワイ、草以外に食えるものを安価で助けてクレメンス
安価>>5
1:名無しより愛をこめて:霞
2:名無しより愛をこめて:木の皮
3:名無しより愛をこめて:人間
4:名無しより愛をこめて:水だけで凌ぐ
5:名無しより愛をこめて:虫
「あ、アカン……」
安価は恐ろしすぎる。
人間て書いてある場合、人間を襲って食べないと爆死してしまうンゴ。
そんな恐ろしいことは出来ないンゴ。
また虫やが、人間とか霞とかよりはマシや。
っていうか霞ってなんやねん!?
どこにあるねん霞って!?
ナビゲーターがまた爆死までのカウントが10分を示した。
ワイは勇気を振り絞り、辺りの地面を這いずり回って虫を探した。
「虫……虫……」
その時、目の前に現れたのは親指サイズのカブトムシのような巨大な甲虫やった。
異世界の虫はデカい。
それにやっぱり虫は虫や。
気持ち悪いわ。
「ファッ!? こんなもん食えるか! 硬そうやし、毒ありそうやんけ!」
ワイが後ずさりした瞬間、その甲虫は威嚇するようにブーンと羽音を立てて、ワイの顔面目掛けて突っ込んできた。
「ひいぃぃぃ! アカン! ワイ、虫とはレスバできないンゴ!」
ニート生活で衰えまくった身体に鞭打って、ワイは生まれて初めて全力疾走した。
虫とのタイマンを避けるために全力で逃げる。
これぞタイパ最悪の逃走劇や。
なんとか虫を撒き、震える手で安全そうなミミズっぽい虫を捕獲した。
見た目はぐうキモやが、爆死はしたくないから命には代えられん。
っていうか、ミミズみたいなのは「虫」なのか?
迷っている間に爆死カウントが進んでいく恐怖でワイは勇気を振り絞って、そのミミズみたいなのを食べることにしたんや。
「ううっ……いただきますンゴ……」
口に入れるとムニムニとした感触と、土っぽい強烈な青臭さが口の中に広がった。
ワイは嘔吐感をこらえながら、必死でそれを噛んで飲み込んだ。
ゲロマズや。
これは食い物ちゃう。
『ナビゲーター:「本当に虫食ってて草。でもこれでひとまず餓死は回避やで。食った虫は栄養価が高い虫だったからな。安価の指令は達成や。これで爆死の心配はないでw」』
「う、うるさいンゴ……ゲロマズや……もう虫は食いたくないンゴ」
空腹の苦しみは一時的に収まったが、ワイの旅の目的も行先も分からんままや。
この世界の事がまったくわからないンゴ。
このまま彷徨ってたら絶対に絶体絶命になる。
異世界って言っても絶対魔物とかいるやろ?
現実世界でもクマとかいるし、そういうのに会ったらワイは終わりや。
これはまた安価に頼るしかない。
ワイはナビゲーターを操作し、新たなスレを立てた。
【急募】ワイ、森の中。町の方向、安価で助けてクレメンス
太陽の位置は向かって右側や。
安価>>3
数秒でレスがつく。ソクエスの民の行動力は異常や。
1:名無しより愛をこめて:東へ行け
2:名無しより愛をこめて:太陽と正反対の、一番草が生い茂っている方向
3:名無しより愛をこめて:森の獣道を進み、休憩はするな
『ナビゲーター:「イッチ、安価は>>3やで。森の獣道を進み、休憩は禁止や。ぐう畜指令やなw せいぜい頑張れww」』
「ファッ!? 休憩禁止!? 森の獣道とかタイパ最悪やんけ! 舗装された道を探すのが常識やろ!」
ニートたるもの休憩は義務や。
熟練した登山家でも休憩くらいするやろ。
お腹タプタプのニートが休憩なしで獣道をすすまないとあかんのけ!?
けど、疲れがどうのこうのよりも爆死の恐怖がそれを許さん。
ワイは渋々、安価の指令に従って獣道を進み始めた。
道中、少しでも疲れて立ち止まろうとするとナビゲーターが爆死の警告音を鳴らす。
『ナビゲーター:「リミットは12時間やけど、屋外やからカウントは停止しとる。だが、安価は絶対。休憩したら爆発やで」』
「ぐぬぬ……これもう奴隷やんけ! なんでワイが異世界でこんなに働かされなあかんのや!」
泥まみれになり、タイパ最悪の運動でヘトヘトになった頃、ようやく森の木々の隙間から石造りの巨大な城壁が見えてきた。
「キタァアア! 町や! 町が見えたンゴ!」
ワイは喜び勇んで駆け出した。
だがその瞬間、腕のナビゲーターがこれまでとは違うけたたましい警告音を鳴らした。
『ナビゲーター:「警告! 警告! 町の中の建物は全て屋内判定やで。入った瞬間から、リミットカウントが再開される」』
ワイは城壁の門の前で、急ブレーキをかけた。
ナビゲーターの画面に表示されたタイマーは『12時間00分00秒』で停止したまま。
門をくぐっても、周囲の道や広場は屋外判定ということや。
「町の中は安全やけど、宿で寝てる時間はカウントが進んでしまう……!」
神の悪意は本当に底が知れん。
一歩でも宿屋や誰かの家、あるいは店の建物に踏み込んだら、12時間の命のカウントダウンが始まる。
その12時間で食い扶持と、翌日の寝床を確保せなあかんのや。
「ど、どうしたらええんや……金も持ってないし、宿に泊まれるんか……? 売れるものももってないし……」
普通こういうのって序盤で高価な魔石とか薬草とか見つけて、それを売って生活するんと違うんか!?
ワイは恐怖に震えながら、門番の横で最後の安価スレを立てた。
【急募】町の門の前にいるんやが、正直一文無しや。安価で解決策教えてクレメンス
安価>>2
1:名無しより愛をこめて:そのまま門番に土下座して寝床をくれと懇願
2:名無しより愛をこめて:門番に即Sのミーム「成仏してクレメンス」と囁き、全力疾走
3:名無しより愛をこめて:夜まで外で待機しろ
『ナビゲーター:「安価は>>2やで。門番に『成仏してクレメンス』と囁き、全力疾走や。もたもたしたら安価失敗で爆発やでw」』
意味が分からへん!
生きてる門番に成仏してクレメンスってどういう意味や!?
「ふ、ふざけんな! 全力疾走もそうだけど金がないことには変わらないやんけ! しかもミームとか通じるわけないやろ!」
だが、安価は絶対。
ワイは門番に静かに近づくと、小声で囁いた。
「……じょ……成仏してクレメンス……」
「?」
門番は一瞬、きょとんとした顔をした。
通じなくて当然だと思ったンゴ。
この世界にきて初めて話す人間に緊張してたのに、なんでこんなこと言わないといけないんや!?
「い、逝くンゴォォオオオ!!!」
ワイはニート人生で出せる限りの最高速度で、町の中へと突っ込んだ。
門をくぐってもナビゲーターのタイマーは『12時間00分00秒』のまま静止しとる。
ワイは町の中の広い通りを、わけもわからず全力で走っとった。
獣道を休憩なしで歩いて、町についたら町中を走り回るという、奇行をする一日を迎えることになったんや。
ワイの異世界でのサバイバルは、ここから本格的に始まるんやろうか。
そもそもどうしたらいいのかまったくわからへん。
【悲報】ワイ、デブ。異世界で走らされる。こんなこと続けたらタヒぬンゴ
まずはどうにかして食料を手に入れなければならないンゴ。
でも働きたくないンゴ。
それでもワイはギルドらしき場所まで必死で走ったんや。




