メインクエストに挑戦するやで!
翌朝。
ワイとアークたそは街の西の外れ、森の奥にある古びた祠の前に立ってたンゴ。
空気がひんやり冷たくて、どこかで鈴みたいな音が鳴っとる。
かなり不気味な音や。
りーん……りーん……
ワイはホラー苦手やで?
勘弁してクレメンス。
ワイ、今度はここに入らんといかんのか?
今度はアークたそ一緒に来てくれるんか?
「ここが次の祠」
それから、祠のところに不穏な文言が書いてあったんや。
『心の強き者、拒む。心の弱き者、耐えられぬ。壊して通れ。己の“心”を』
今回は筋肉でも知恵でもなくて、精神を試されるんか……
『ナビゲーター:「これはイッチ、相当キツイで」』
「ら、楽勝やろ」
アークたそが祠に手を翳した瞬間――――
バチィッ!
「アークたそ、大丈夫か!?」
「問題ないよ。入れないだけ」
やっぱり目に見えない壁みたいなんが発生して、アークたそを阻んだ。
アークたそ、全然入れないやんけ。
まぁ、入れたらワイには頼らんか……
「精神が強い者は拒まれる。自分で言うのもなんだけど、私じゃ無理だね」
アークたそ、見た目通り精神強いんか。
こういうのってどっかしら弱いところがあるんちゃうんか?
鋼のメンタル系ヒロインって……どうなんや?
ワイがそっと寄り添う隙間がないってことよな?
「真太郎は入れそう?」
ワイがアークたそが弾かれたところに手を恐る恐る入れたんや。
そして、いつものようにワイは弾かれんかった。
「ほーん……豆腐メンタルのワイならいけるってことか」
「今回も真太郎にお願いすることになるね」
アークたその瞳がいつもより紅く見えたんや。
ほんの少しだけ、不安げにも見える。
そんなアークたその不安を和らげようと、ワイは胸を張って言った。
「大丈夫や! ワイ、アークたその為になれてるなら嬉しいで!」
「そう。じゃあ、私は外で待ってるから」
「おかのした!」
そんでワイは、震える足で祠の中へ足を踏み入れたンゴ。
中はぼんやり灯りがついとって、鏡みたいにツルツルした壁にワイの姿が無限に映っとった。
何これ……心霊スポットより怖いやんけ。
「おい、ナビ。ここどうしらたらええんや」
…………
……返事なし。
壊れたんか?
でも爆笑カウントは始まっとるし、壊れとるわけやなさそうや。
精神のなんとかって祠やし、ワイの心の依り代みたいなんは持ち込み禁止なんやろか?
りーん……りーん……
静寂の中に鈴の音とワイの足音と鈴の音だけが響いとる。
なんか、鈴の音が声みたいに聞こえるンゴ。
鏡みたいなのばっかりで怖いし、どうしたらええんやろ。
カツン、カツン……
ワイが歩いてる音とは明らかにちゃう音が聞こえたんや。
ビビッて後ろを向くと、鏡の中の“もう一人のワイ”が動いとった。
こっちが止まってるのに、そいつはゆっくり口を開いたんや。
「なんで、生きとるん?」
……は?
怖い域を飛んで、ムカついたンゴ。
ワイは生きてたらアカンのか!?
「アークたその為に生きとるんや!」
「どんなに頑張っても、結局死ぬやん。アークも絶対裏切るやん」
うっ……
そんなことない。
アークたそはワイを裏切ったりせえへん。
メルたそとは違うんや!
「う、うるさいで!? ワイは信じてるんや!」
「またや。そうやって“信じる”とか言いながら、心のどっかで疑っとる」
鏡の中のワイが不気味に笑ったンゴ。
そいつの瞳が黒く濁って、口元がぐにゃっと歪んだ。
こ、怖いで!
普通に怖いで!
ホラーはやめてクレメンス……!!
「……お前、誰やねん」
「お前やで。自分の姿も忘れてしまったんか? 自分の顔も身体も、誰も求めてないんやで」
ゾワァァァ……
ワイは逃げようと後ずさったけど、壁はどこ見ても鏡やった。
無限の“自分”に囲まれてる。
逃げ場なんか、最初からない。
歩けば歩くほど、鏡の中に別の映像が映り始めた。
学校。
机。
笑ってるクラスメイト。
でも笑いの中心にいるのは“ワイ”やなくて、“ワイを笑うやつら”やった。
「うわ、やめろや……!」
学校の事なんて思い出したくない。
嫌な事ばっか思い出すンゴ。
ワイは、友達なんていなかった。
ワイは笑いものやったんや。
やめろ!
そんなの思い出したくない!
次に映ったのは家やった。
マッマが泣きながら何かを叫んでる姿やった。
「働いて!」
「外に出ないとしょうがないでしょ!」
「ゲームばっかしてないで就職活動してよ!」
嫌や、嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や
ワイは働きたくないんや。
ワイは社会不適合なんや。
ワイが働かなくても生活していけてるならそれでええやんけ。
ワイは即Sでレスバしてるだけで社会貢献してたんや。
ワイは間違ってない。
ワイは生まれたいなんて言ってないんやで?
勝手に生んでおいて働けとかなんとか、そっちのほうが無責任と違うんか?
「お前のせいで全部終わったんだよ。マッマ、お前が死んで清々したんやで。やっと極潰しが死んでくれたってな」
「……やめてくれや……」
聞きたくない!
そんな話やめーや!
ワイは耳を塞いでその場にふさぎ込んだ。
さらに次に映ったのはメルたそやった。
「メルたそ……」
こっちを見下ろして、冷たい声で言った。
「ただの金づるなのに、ちょっとでも私に好かれようとしてる。馬鹿な奴」
やめてくれ……
「キモ」
やめてくれ……!
「女のヒモとか最低」
やめてくれ……!!
「う、うああああああ!!」
ワイは叫んで鏡を殴ったんや。
バリンッッ!!!
割れた鏡の破片で手を切った。
ピリッとした痛みの後に血が流れたんや。
でも、それでも痛みよりも怖さが勝っとる。
「異世界で悠々自適に暮らそうなんて甘い考えは捨てろ」
「虫でも食べてるのがお似合い」
「誰かに優しくされるほどの価値なんてないから」
過去のトラウマがワイに容赦なく罵詈雑言を吐いてきた。
「うわぁああああああああ!!! 聞きたくないぃいいいいいいい!!!!」
叫んでも、鏡の中のワイらは笑っとる。
「アークたそにも裏切られる」
「どこにも居場所なんてない」
「地獄の底を歩きなさい」
どれだけ走って進んでも出口は見えん。
心臓がバクバクして、息が浅くなってく。
汗と涙と血が混ざって、視界が滲んだンゴ。
そのとき、祠の奥から声が響いた。
『壊して通れ。心を壊せ』
はぁ!? なんやそれ! もう壊れかけとるわ!!
ふざけんなカスゥ!!!
「もうSAN値ゼロや!」
『偽りは通さぬ。捨てよ、恐怖を。捨てよ、願いを。捨てよ、信じる心を』
信じる心を……?
脳内でアークたその顔が浮かぶ。
冷たい瞳、でもときどき見せる優しさ。
ワイを助けてくれた手。
あの飴の味。
……壊せるわけないやん。
「無理や……無理やて……」
ワイは膝をついた。
震える手で胸を掴む。
心臓がドクン、ドクンと跳ねてる音が聞こえる。
ワイはアークたそを信じてるンゴ!
その気持ちは捨てられへん。
鏡の中の自分が囁いてくる。
「裏切られると思ってた方が楽になるで」
「いやや……ワイはアークたそを信じるで」
「信じても報われん」
ほんまムカつくわ、このピザデブ。
やかましいわ。
ワイはもう昔のワイとは違うんや!
「報われんでもええんや!!!」
叫びながら、ワイは拳を握って鏡じゃなくて自分の頭を殴りつけた。
ゴンッ!
頭の中で鈍い音が響く。
「ワイは信じるんや! 信じて何が悪いんや!? 縋りついて何が悪いんや!? ワイはこの世界で一人なんやぞ!」
ゴンッ! ゴンッ!!
「ワイは変な呪いかけられたんや! ワイが欲しかったチートもない! イケメンでもない!!」
ゴンッ!! ゴンッ!!!
「裏切られるかもって思っとったって、今は信じていたいんやぁああああああああ!!!」
ワイが叫ぶと、鏡がビキィッ! と割れて光が溢れた。
視界が真っ白に染まって、音も感情も全部遠のいていく感じやった。
ワイ、壊れてしまったんやろか……?
***
気がついたら、祠の外の森の中に倒れてたんや。
死んでないンゴ……?
顔を思いっきり殴りまくった後とは思えない程、顔の痛みは引いとった。
それから、いつも通りアークたそが座ってて静かに棒つき飴を舐めとる。
「起きた?」
「……あれ、ワイ、生きとるん?」
「生きてるよ。良かったね」
ワイはアークたそのその一言で目頭が熱くなったンゴ。
誰も……誰もワイが生きてる事を「良かった」なんて言ってくれる人はいなかったンゴ。
でもアークたそはワイが生きてたことに「良かった」って言ってくれてる。
アークたそ……やっぱり天使や。
「ほ、ほんまか……」
「凄いよ真太郎。もう3つも祠を壊してる。誰も手も足もでなかった祠なのに」
「そ、そうか? まぁ、ワイは特別やからな!」
そう言って胸を張ってみるものの、ワイは本心でそう言えていなかったんや。
『ナビゲーター:「SAN値ゼロで草」』
「…………」
ナビゲーターの皮肉にも反論できへんかった。
こんなナビゲーターでも、いてくれた方がええ。
ワイはナビゲーターが悪態をついてるのを聞いて安心さえしたンゴ。
アークたそは突然、ワイの頬に触れたんや。
「ファッ!?」
「顔、かなり腫れてたから回復魔法かけたけど、まだ痛い?」
冷たい指先。でもどこか優しい感じや。
……ワイ、こんなに優しく触れられた事、今までなかったで。
小さい頃はマッマとかパッパにそうしてもらったかもしれんけど、そんなのもう覚えてない。
ワイにとってアークたそのこの手の優しさがすべてやった。
「ワイ、ちょっとだけ強くなった気がするンゴ」
「真太郎はそのままでいいのに。ありのままでいいんだよ」
ありのままのワイでええんか……?
こんなワイのままでアークたそは受け入れてくれるんか……?
ワイはそれが嬉しくて、泣いてしまったんや。
こんなワイをなんで受け入れてくれるんや?
ワイ、いいところ1つもないで?
こんなワイでええんか?
許してくれるんか?
ワイがみっともなくぐちゃぐちゃになって泣いとるところ、アークたそは飴を1本、ワイの口に突っ込んできた。
あぁ……やっぱりこの飴は落ち着くンゴ……
ワイは泣き止んで黙って飴を舐めたんや。
『ナビゲーター:「裏切られるって分かってるのに、目の前の災厄の手をとるんやな。最悪な目に遭うでイッチ」』
「うっさいで……もうええんや。ワイはなんも考えたくない」
薄れゆく意識の中で、ワイはぼんやり思った。
壊れてもええ。
アークたそと一緒におれたら、それでええ。
【精神崩壊】ワイ、心を壊して突破した結果【もう戻れんかもしれん】




