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【悲報】ニート ワイ、異世界でチートなし ~しかも1日12時間以上屋内にいたら爆発する呪いかかってるンゴ~  作者: 毒の徒華


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メインクエストに挑戦するやで!




 翌朝。

 ワイとアークたそは街の西の外れ、森の奥にある古びた祠の前に立ってたンゴ。


 空気がひんやり冷たくて、どこかで鈴みたいな音が鳴っとる。

 かなり不気味な音や。


 りーん……りーん……


 ワイはホラー苦手やで?

 勘弁してクレメンス。


 ワイ、今度はここに入らんといかんのか?

 今度はアークたそ一緒に来てくれるんか?


「ここが次の祠」


 それから、祠のところに不穏な文言が書いてあったんや。


『心の強き者、拒む。心の弱き者、耐えられぬ。壊して通れ。己の“心”を』


 今回は筋肉でも知恵でもなくて、精神を試されるんか……


『ナビゲーター:「これはイッチ、相当キツイで」』

「ら、楽勝やろ」


 アークたそが祠に手を翳した瞬間――――


 バチィッ!


「アークたそ、大丈夫か!?」

「問題ないよ。入れないだけ」


 やっぱり目に見えない壁みたいなんが発生して、アークたそを阻んだ。

 アークたそ、全然入れないやんけ。


 まぁ、入れたらワイには頼らんか……


「精神が強い者は拒まれる。自分で言うのもなんだけど、私じゃ無理だね」


 アークたそ、見た目通り精神強いんか。

 こういうのってどっかしら弱いところがあるんちゃうんか?

 鋼のメンタル系ヒロインって……どうなんや?

 ワイがそっと寄り添う隙間がないってことよな?


「真太郎は入れそう?」


 ワイがアークたそが弾かれたところに手を恐る恐る入れたんや。

 そして、いつものようにワイは弾かれんかった。


「ほーん……豆腐メンタルのワイならいけるってことか」

「今回も真太郎にお願いすることになるね」


 アークたその瞳がいつもより紅く見えたんや。

 ほんの少しだけ、不安げにも見える。


 そんなアークたその不安を和らげようと、ワイは胸を張って言った。


「大丈夫や! ワイ、アークたその為になれてるなら嬉しいで!」

「そう。じゃあ、私は外で待ってるから」

「おかのした!」


 そんでワイは、震える足で祠の中へ足を踏み入れたンゴ。


 中はぼんやり灯りがついとって、鏡みたいにツルツルした壁にワイの姿が無限に映っとった。

 何これ……心霊スポットより怖いやんけ。


「おい、ナビ。ここどうしらたらええんや」


 …………


 ……返事なし。


 壊れたんか?

 でも爆笑カウントは始まっとるし、壊れとるわけやなさそうや。


 精神のなんとかって祠やし、ワイの心の依り代みたいなんは持ち込み禁止なんやろか?


 りーん……りーん……


 静寂の中に鈴の音とワイの足音と鈴の音だけが響いとる。

 なんか、鈴の音が声みたいに聞こえるンゴ。

 鏡みたいなのばっかりで怖いし、どうしたらええんやろ。


 カツン、カツン……


 ワイが歩いてる音とは明らかにちゃう音が聞こえたんや。


 ビビッて後ろを向くと、鏡の中の“もう一人のワイ”が動いとった。

 こっちが止まってるのに、そいつはゆっくり口を開いたんや。


「なんで、生きとるん?」


 ……は?


 怖い域を飛んで、ムカついたンゴ。

 ワイは生きてたらアカンのか!?


「アークたその為に生きとるんや!」

「どんなに頑張っても、結局死ぬやん。アークも絶対裏切るやん」


 うっ……


 そんなことない。

 アークたそはワイを裏切ったりせえへん。

 メルたそとは違うんや!


「う、うるさいで!? ワイは信じてるんや!」

「またや。そうやって“信じる”とか言いながら、心のどっかで疑っとる」


 鏡の中のワイが不気味に笑ったンゴ。

 そいつの瞳が黒く濁って、口元がぐにゃっと歪んだ。


 こ、怖いで!

 普通に怖いで!

 ホラーはやめてクレメンス……!!


「……お前、誰やねん」

「お前やで。自分の姿も忘れてしまったんか? 自分の顔も身体も、誰も求めてないんやで」


 ゾワァァァ……


 ワイは逃げようと後ずさったけど、壁はどこ見ても鏡やった。

 無限の“自分”に囲まれてる。

 逃げ場なんか、最初からない。


 歩けば歩くほど、鏡の中に別の映像が映り始めた。


 学校。

 机。

 笑ってるクラスメイト。


 でも笑いの中心にいるのは“ワイ”やなくて、“ワイを笑うやつら”やった。


「うわ、やめろや……!」


 学校の事なんて思い出したくない。

 嫌な事ばっか思い出すンゴ。

 ワイは、友達なんていなかった。

 ワイは笑いものやったんや。


 やめろ!

 そんなの思い出したくない!


 次に映ったのは家やった。


 マッマが泣きながら何かを叫んでる姿やった。


「働いて!」


「外に出ないとしょうがないでしょ!」


「ゲームばっかしてないで就職活動してよ!」


 嫌や、嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や嫌や


 ワイは働きたくないんや。

 ワイは社会不適合なんや。

 ワイが働かなくても生活していけてるならそれでええやんけ。

 ワイは即Sでレスバしてるだけで社会貢献してたんや。

 ワイは間違ってない。

 ワイは生まれたいなんて言ってないんやで?

 勝手に生んでおいて働けとかなんとか、そっちのほうが無責任と違うんか?


「お前のせいで全部終わったんだよ。マッマ、お前が死んで清々したんやで。やっと極潰しが死んでくれたってな」

「……やめてくれや……」


 聞きたくない!

 そんな話やめーや!


 ワイは耳を塞いでその場にふさぎ込んだ。


 さらに次に映ったのはメルたそやった。


「メルたそ……」


 こっちを見下ろして、冷たい声で言った。


「ただの金づるなのに、ちょっとでも私に好かれようとしてる。馬鹿な奴」


 やめてくれ……


「キモ」


 やめてくれ……!


「女のヒモとか最低」


 やめてくれ……!!


「う、うああああああ!!」


 ワイは叫んで鏡を殴ったんや。


 バリンッッ!!!


 割れた鏡の破片で手を切った。

 ピリッとした痛みの後に血が流れたんや。


 でも、それでも痛みよりも怖さが勝っとる。


「異世界で悠々自適に暮らそうなんて甘い考えは捨てろ」

「虫でも食べてるのがお似合い」

「誰かに優しくされるほどの価値なんてないから」


 過去のトラウマがワイに容赦なく罵詈雑言を吐いてきた。


「うわぁああああああああ!!! 聞きたくないぃいいいいいいい!!!!」


 叫んでも、鏡の中のワイらは笑っとる。


「アークたそにも裏切られる」

「どこにも居場所なんてない」

「地獄の底を歩きなさい」


 どれだけ走って進んでも出口は見えん。

 心臓がバクバクして、息が浅くなってく。

 汗と涙と血が混ざって、視界が滲んだンゴ。


 そのとき、祠の奥から声が響いた。


『壊して通れ。心を壊せ』


 はぁ!? なんやそれ! もう壊れかけとるわ!!

 ふざけんなカスゥ!!!


「もうSAN値ゼロや!」

『偽りは通さぬ。捨てよ、恐怖を。捨てよ、願いを。捨てよ、信じる心を』


 信じる心を……?


 脳内でアークたその顔が浮かぶ。

 冷たい瞳、でもときどき見せる優しさ。

 ワイを助けてくれた手。

 あの飴の味。


 ……壊せるわけないやん。


「無理や……無理やて……」


 ワイは膝をついた。

 震える手で胸を掴む。

 心臓がドクン、ドクンと跳ねてる音が聞こえる。


 ワイはアークたそを信じてるンゴ!

 その気持ちは捨てられへん。


 鏡の中の自分が囁いてくる。


「裏切られると思ってた方が楽になるで」

「いやや……ワイはアークたそを信じるで」

「信じても報われん」


 ほんまムカつくわ、このピザデブ。

 やかましいわ。

 ワイはもう昔のワイとは違うんや!


「報われんでもええんや!!!」


 叫びながら、ワイは拳を握って鏡じゃなくて自分の頭を殴りつけた。


 ゴンッ!


 頭の中で鈍い音が響く。


「ワイは信じるんや! 信じて何が悪いんや!? 縋りついて何が悪いんや!? ワイはこの世界で一人なんやぞ!」


 ゴンッ! ゴンッ!!


「ワイは変な呪いかけられたんや! ワイが欲しかったチートもない! イケメンでもない!!」


 ゴンッ!! ゴンッ!!!


「裏切られるかもって思っとったって、今は信じていたいんやぁああああああああ!!!」


 ワイが叫ぶと、鏡がビキィッ! と割れて光が溢れた。


 視界が真っ白に染まって、音も感情も全部遠のいていく感じやった。


 ワイ、壊れてしまったんやろか……?




 ***




 気がついたら、祠の外の森の中に倒れてたんや。


 死んでないンゴ……?


 顔を思いっきり殴りまくった後とは思えない程、顔の痛みは引いとった。

 それから、いつも通りアークたそが座ってて静かに棒つき飴を舐めとる。


「起きた?」

「……あれ、ワイ、生きとるん?」

「生きてるよ。良かったね」


 ワイはアークたそのその一言で目頭が熱くなったンゴ。


 誰も……誰もワイが生きてる事を「良かった」なんて言ってくれる人はいなかったンゴ。

 でもアークたそはワイが生きてたことに「良かった」って言ってくれてる。


 アークたそ……やっぱり天使や。


「ほ、ほんまか……」

「凄いよ真太郎。もう3つも祠を壊してる。誰も手も足もでなかった祠なのに」

「そ、そうか? まぁ、ワイは特別やからな!」


 そう言って胸を張ってみるものの、ワイは本心でそう言えていなかったんや。


『ナビゲーター:「SAN値ゼロで草」』

「…………」


 ナビゲーターの皮肉にも反論できへんかった。

 こんなナビゲーターでも、いてくれた方がええ。

 ワイはナビゲーターが悪態をついてるのを聞いて安心さえしたンゴ。


 アークたそは突然、ワイの頬に触れたんや。


「ファッ!?」

「顔、かなり腫れてたから回復魔法かけたけど、まだ痛い?」


 冷たい指先。でもどこか優しい感じや。


 ……ワイ、こんなに優しく触れられた事、今までなかったで。

 小さい頃はマッマとかパッパにそうしてもらったかもしれんけど、そんなのもう覚えてない。


 ワイにとってアークたそのこの手の優しさがすべてやった。


「ワイ、ちょっとだけ強くなった気がするンゴ」

「真太郎はそのままでいいのに。ありのままでいいんだよ」


 ありのままのワイでええんか……?

 こんなワイのままでアークたそは受け入れてくれるんか……?


 ワイはそれが嬉しくて、泣いてしまったんや。


 こんなワイをなんで受け入れてくれるんや?

 ワイ、いいところ1つもないで?

 こんなワイでええんか?

 許してくれるんか?


 ワイがみっともなくぐちゃぐちゃになって泣いとるところ、アークたそは飴を1本、ワイの口に突っ込んできた。


 あぁ……やっぱりこの飴は落ち着くンゴ……


 ワイは泣き止んで黙って飴を舐めたんや。


『ナビゲーター:「裏切られるって分かってるのに、目の前の災厄の手をとるんやな。最悪な目に遭うでイッチ」』

「うっさいで……もうええんや。ワイはなんも考えたくない」


 薄れゆく意識の中で、ワイはぼんやり思った。


 壊れてもええ。

 アークたそと一緒におれたら、それでええ。


【精神崩壊】ワイ、心を壊して突破した結果【もう戻れんかもしれん】




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