ワイ、アークたその正体に気づいてしまったかもしれん
翌朝。
ワイは昨日拾った財布の中のリストを机に広げたまま、ベッドの上で体育座りしてたンゴ。
やっぱりアークたそが近くにいると屋内でも爆笑カウントは進まないんや。
でも、またアークたそがいなくなったときにカウントが急に再会されると思うと恐怖やった。
あの落ち着く飴は全部舐め終わってもうた。
舐めると落ち着くけど、逆に舐め終わると不安になってまった。
ナビゲーターが隣で光っとる。
ワイは昨日拾ったリストを穴が開くほど見てたんや。
『ナビゲーター:「イッチ、ずっとそれ見とるな」』
「だって気になるんや……これ、ただの名前リストやない気がするンゴ」
このリスト、普通の人の名前には見えへんかった。
「災厄」「再生者」「魂拘束」――書かれてる単語の一つ一つがどう考えてもヤバい匂いしてるやんけ。
「エルミナ=セラフィード……ヴァロス=グラウド……リュミエ=カルネリア……どれもやべぇ肩書き持っとるな……こんなのがこの世界にいるんか? 怖すぎるンゴ……」
『ナビゲーター:「ずっと異世界っぽい要素求めてたやん、良かったな」』
「ワイは冒険やなくてスローライフがしたいんや!」
そして次の行を読んだ瞬間、ワイの指が止まった。
「ジオル=アークレイン……文様:白き眼……備考:大陸南部で観測された災厄。感情の欠片なし……」
ア、アークレイン……?
アーク……レイン……?
…………アーク
「……ファッ!?」
ワイの脳がフリーズした。
ちょ、ちょっと待ってくれや。
アークたその名前って「アーク」やろ?
「アークレイン」ってほぼ一致しとるやんけ!?
しかも“感情の欠片なし”って書いてあるやん!!
冷たい、無表情、飴ばっか舐めてて何考えてるか分からんアークたそ……
これ、もう一致しすぎて草生えるどころの話ちゃうやん。
でも、ワイの手首の奴隷紋は白い目の模様には見えなかったンゴ。
ワイの手首のやつはなんていうか、名称をつけられないような模様をしとるんや。
なんやろ、これ?
もずく……?
もずくみたいな紋様やねん。
ふふふふふ……闇がワイの身体に封印されてるみたいでかっこええやんけ。
ワイとアークたそとの絆でもあるんや。
ワイはこれ、気に入っとるで。
前世でタトゥー入れる勇気はなかったけど、強制的に入れられてこれはこれでかっこええと思ってる。
そんなことはどうでもええねん。
今はアークたその正体についてや。
「ジオル=アークレインがアークたそなんやろか?」
『ナビゲーター:「名前が似とるだけかもしれんで?」』
「せやけどナビ、見てみぃ! “白き眼”って……アークたその紅い瞳、光の角度によって白く反射するんやで!?」
『ナビゲーター:「それはなんでもそうやろ、ダークマターとかでもない限り」』
「でもでもでも!! もしこの“ジオル=アークレイン”がアークたその本名やったら……ワイ、今まで災厄と旅しとったってことやんけ!!」
そう思った瞬間、背筋がゾワッてしたンゴ。
アークたそが祠を壊して回ってるのも、魔王討伐って言ってるけど違うんやろか?
怖いって思ったのに、なんか興奮してきたンゴ。
人間って矛盾してる生き物やな。
ワイがガタガタ震えながら紙を握りしめてると、部屋が開いてアークたそが入って来たんや。
ファッ!?
急に入ってこないでクレメンス!
ワイがエッッッッッなことしてたらどうするつもりや!?
「何を見てるの?」
「あ、アークたそ!」
相変わらず紅い瞳が妖しく光ってて、冷たいけど綺麗やった。
心臓のドラムロールが止まらん。
いや、止まったら死ぬんやけども。
「……ちょ、ちょっとこのリスト見てただけやで……」
「リスト?」
アークたそがベッドに近づいてくる。
その足取りは静かで、まるで獲物に近づく猫みたいやった。
エッッッッッ!
ワイのいるベッドにそんな簡単に近づいてくるなんて、危機感ないんちゃうか!?
ワイだって女の前ではケモノなんやで!?
……いや、アークたそにそんなことしたらワイ、絶対殺されるよりひどい目に遭わされるンゴ。
ワイは無意識に紙を後ろに隠した。
けどアークたそは特に怒るでもなく、ただベッドの端に腰を下ろした。
そして、紅い瞳でワイを横目で見たんや。
「昨日の野盗から盗んだの? その財布」
ワイが拾った財布を指さしながらアークたそは棒つき飴を舐めとる。
「ちょっと拝借しただけや、盗んだんと違う。迷惑料でもらっただけや」
「ははは、盗人猛々しいとはこのことだね」
アークたそは別に怒ってる訳やなかった。
でもリストのことは言及されたんや。
「そのリスト、見せて」
ワイはアークたそを拒否できずに、素直に手に持ってたリストを渡したんや。
奴隷紋のせいなんか、ワイがアークたそが怖いからなのか、それともアークたそに嫌われたくないからか、逆らえないンゴ。
「……で、こんなリストを見て真太郎は何考えてたの?」
「え……そのジオル=アークレインがアークたそなんやないか考えとった」
アホか!
そんな正直に答えるやつがあるか!
でも根本的に逆らえないンゴ!
「読みが鋭いね」
「!?!? やっぱりアークたそなんか!?」
「どう思う? 真太郎」
質問を質問で返したらいけないんやでアークたそ!
でも、ワイはアークたその質問に答えたんや。
「ワイは……アークたそが災厄だなんて思わないンゴ」
「なんで?」
「ワイに居場所をくれたし、こうやって普通にワイと話してくれて……ワイにとってアークたそは天使や。一緒にいたいと思っとる」
あれ……ワイ、そんなこと思っとるんか……?
確かにアークたそは大好きやが、これがワイの本心なんか?
「少なくとも天使じゃないけどね。そうやって称号をつけられるの、好きじゃないな」
「そ、そうなんか、すまんやで」
「理解できないものにはラベルを貼って、理解できるような気持ちになるのが好きなんだよね、人間ってさ」
アークたそは人間やないんか?
アークたそが何なのか、ワイには分からん。
寂しそうにも見えるし、無感情にも見えるんや。
コミュ障のワイにはアークたそが何を感じてるのか分からん。
「でも……“感情の欠片なし”って書いてあるけど、アークたそはそうじゃないと思ってるンゴ。だから、違うんやないかなとも思っとる」
ワイがそう言うと、アークたそは一瞬だけ目を細めたんや。
紅の瞳の奥に何かがチラッと光った気がした。
「そう」
その返しがあまりにも淡々としてて、怖かった。
否定しないんか?
肯定もしないんか?
違うんか?
それとも災厄なんか?
でも、周りがアークたそをどう解釈しても、ワイにとってはアークたそはアークたそや。
「ワイにとってアークたそはアークたそやから、それでいいンゴ」
「へぇ、私が災厄でも真太郎はそれでもいいんだ?」
「ワイは世界よりもアークたその方が大事や!」
『ナビゲーター:「依存しすぎてて草」』
「うっさいわボケ!」
ワイの心臓はドクドクしてたんや。
言ってから気づいたけど、実質これ、告白みたいなもんやん!?
これをアークたそが受けてくれたら、結婚ってことになるよな!?
結婚式はどんな感じがええかな?
アークたそはいつもワイシャツっぽいの着てるから、ドレスとか着たら絶対綺麗や。
楽しみやなぁ……
「…………」
アークたそは無言で、まるでご褒美でも与えるみたいに異空間から昨日くれた飴を取り出してワイに渡してきた。
「さ、サンガツ」
「この街の西側に次の祠がある。明日の朝出るよ」
「……お、おかのした」
ワイはさっきまでの会話をなかったことにされた気分になった。
クーデレやから、恥ずかしかったんかな?
アークたそ、ワイにデレデレしてもええんやで!?
アークたそはそれ以上何も言わず、部屋から出て行ったんや。
ワイはアークたそにもらった飴を舐めたンゴ。
何とも言えない味がするけど、これを舐めてると落ち着くんや。
アークたそからくれたもんやから、嬉しい。
***
深夜、ワイは寝返りを打っても眠れなかったんや。
アークたそはアークたそや。
それでええんや。
ワイに優しいアークたそが正義なんや。
アークたそと一緒におれるだけで幸せなんや。
たとえアークたそが“災厄”でも、ワイにとっては――――……
『ナビゲーター:「イッチ。恋は盲目って言葉知っとるか?」』
「うるさいでナビ。ワイはな、盲目どころかもう爆心地におるんや」
『ナビゲーター:「爆心地って自覚あるなら少しは引けや」』
「無理や。ワイはアークたそを信じるで。誰がなんと言おうとアークたそは悪い人ちゃう」
『ナビゲーター:「メルティナのときから全く学習してなくて草」』
「やかましい! ワイはアークたそと幸せに暮らすんや!」
アークたそは一体何者なんや?
けど、怖くてもう考えられんかった。
ワイは震える指でベッドの毛布を掴みながら、目を閉じた。
【恐怖】アークたそが災厄かもしれん【でも好き】




