初日から爆死。ワイの異世界転生はクソゲーやで
身体が地面に叩きつけられる衝撃で、ワイは目を覚ました。
周りを見渡すと、そこは鬱蒼とした森の中や。
土の匂い、木々の匂いがするンゴ。
さっきまで居た真っ白な空間とは違う。
見たことのない草とか花とか木とか生えているんや。
「うおおお! ホンマに異世界やんけ!」
ワイは飛び起きた。
まずは自分の身体をチェックや。
異世界転生といえば、デブでブサメンのニートがスリムなイケメンに生まれ変わるのが王道やろ!
ワクワクしながら、近くにあった水たまりに顔を映した。
「ファッ!?」
そこに映っていたのは、鏡餅みたいな丸い輪郭、だらしなく垂れた目、そして脂肪に埋もれた太い首……。
「な、なんでや……!? ワイ、ブサメンのデブのままやんけ!?」
美形に転生するっていうセオリーはどうしたんや、あの野球帽の神! 畜生が!
さらに身体を触ると、肌のたるみや体毛の濃さから、年齢も35歳のままっぽい。
チートどころか、デメリットしかない転生やんけ!
なんやねんこれ!?
おかしいやろ!!
腕に食い込んどる『即Sナビゲーター』が冷たい電子音と共に早速煽り始めたンゴ。
『ナビゲーター:「残念やでイッチ、夢と現実は違うんや。お前の肉体はそのままや。鏡見た? ぐうキモやでw」』
確かに水たまりに映っている久々に見た自分の姿はぐうキモやった。
でもワイは混乱しとるねん。
そんな罵詈雑言は聞きたくないわ!
「う、うるさいンゴ! クソAIは黙っとけ! AIのくせに口悪すぎや!」
怒鳴っても状況は変わらん。
ワイは絶望感に包まれた。
とりあえず、この森から出るのが先や。
町に行って冒険者ギルドを探すんや。
「せや、異世界転生したら、まず冒険者ギルドに入って、受付嬢を口説いて、実はチートスキル持ってましたって流れで依頼を楽勝でこなすんや! ウハウハになるはずやで!」
前世で何万時間も小説を読んだワイは、その知識だけは自信がある。
脳内シミュレーションは完璧や。
だが、ここで致命的な問題に気がついた。
家がない。
家族もいない。
無職のパラサイトは異世界では生きていけないンゴ。
マッマもパッパもいないンゴ……ワイはどうしたらええんや?
「ファッ!? ワイ、どうしたらええんや!?」
前世ではマッマが飯を用意し、パッパが家賃を払い、ワイはただ寄生しとるだけでよかった。
生活の全てを親に依存しとったから、自分で食い扶持を稼ぐという概念がないンゴ。
「なんでワイが食い物を探さなあかんのや! 誰か助けてクレメンス……」
周囲には木と草しかない。
町の方向も分からへん。
かなり絶望的な状況や。
そんなワイの様子を見てか、腕のナビゲーターがさらに追い打ちをかけてきやがる。
『ナビゲーター:「さっさと動けやカス。もうこの世界にはマッマもパッパもおらんのやで」』
クソ。
爆死の呪いがあるから、うかうか家を探すこともできん。
とにかく腹が減った。
何も食ってないんやから当然や。
「そ、そうや。異世界やから、その辺の草でも食えるやろ。鑑定して変な草が薬草やったりして金になったりするもんや」
ワイはその場で食えそうな草を探し始めた。
異世界の草は鮮やかな緑色で、いかにも栄養がありそうに見える。
「これは多分『エルフの葉』とかいう、体力回復アイテムの可能性大やろ! ぐう聖やんけ! これはポーションの元の草に違いないンゴ!」
ワイはそう自己暗示をかけて、ムシャムシャとその草を口に入れた。
――……苦い
口に入れた瞬間、舌が痺れて喉が焼けるような激痛が走ったンゴ。
胃液が逆流し、意識が遠のく……。
「うぐっ、ファ、ファッ!? なんやこの草は! 毒や! 毒草やったンゴ!」
ワイは嘔吐し苦悶の声をあげた。
地面に転がり全身から脂汗を流しながらなんとか呼吸をした。
こんな苦痛、レスバで煽り倒された時以来や。
『ナビゲーター:「毒草食ってて草。最悪の選択をしたなイッチw イッチ前世でもその辺の草食ってたんかwww アホやんけww」』
「う、うるさい! ぐう畜AI! こういうときこそ、ヒロインが現れて回復魔法をかけてくれるもんやないんか!?」
期待してたけど、ヒロインは現れなかったンゴ。
こういうときにヒロインが現れるのが鉄板なのに、そんなのまったく気配がなかったンゴ。
ワイは必死に身体を起こし、何か使える魔法がないか試みたんや。
「ファイアーボール! ……アカン。アイスニードル! ……アカン。ヒール! うぉおおおおお……何もできん!! チートなしってマジなんやな、畜生!」
チートどころか普通の魔法も使えないやんけ!
ステータス画面を開いても、攻撃力は「3」、防御力は「5」、特殊スキルは『安価は絶対』しかない。
この能力でどうやって生活するんや。
魔物退治で報酬を得るのも無理げーじゃね?
胃のムカつきが少し治まると、腹の減り方が限界になった。
このままでは餓死や。
「しゃーない。あのクソスキルを使う時がきたか……」
ワイはスキル『安価は絶対』を発動させた。
すると、半透明のパネルが出現して文字が入力できる状態になったンゴ。
即Sの掲示板を模した画面に、ワイは必死の思いで書き込んだ。
【飯テロ】ワイ、異世界で毒草食って死にかけ。草以外に食えるものを安価で助けてクレメンス
安価スレのルールは、安価がついた時点で実行強制。
安価を無視したら爆死。
ワイは食い物を探すのを放棄し、他人の知恵を借りることにしたんや。
わずか数秒でレスがついた。
なんせ、即Sの民は暇やからな。
1:名無しより愛をこめて:
虫
――虫!?
「ファッ!? む、虫ィ!?」
ワイの頭が真っ白になった。
異世界転生してチートもなく、美形にもなれず、最初の食べ物に虫を食えってか?
なんの罰ゲームやねん!?
『ナビゲーター:「指令確定やで。イッチは虫を食わなあかんのや。リミットまであと10分。安価は絶対やw」』
ナビゲーターの冷酷な声が響く。
「ふ、ふざけんな! 虫なんか食えるか! 安価とはいえ、こんな畜生なレスに従えないンゴ!!」
ワイは無視を決め込んだ。
どうせ爆死なんて神のブラフや。
第一、爆死したらそれで終わりやんけ。
そんなオワタ式で異世界転生するわけないんや。
『ナビゲーター:「リミットまで、30秒。拒否は爆発やで、イッチ」』
大丈夫や、安価を無視したくらいで爆死するわけないンゴ。
『ナビゲーター:「10秒!」』
大丈夫……大丈夫……
『ナビゲーター:「3、2、1……」』
「ふざけんな! 爆発なんか……」
ドォォォォォン!!
ワイの身体は内側から激しい光を放ち、木っ端微塵に爆発した。
血煙が辺りに広がるのと同時に、今まで感じたことのないほどの激痛を感じた。
意識が飛ぶ瞬間、ワイは確かにあの鬼畜神の畜生スマイルを見た気がしたんや。
***
次にワイが意識を取り戻したのは、さっきまで毒草を食っていた森の中だった。
目の前には、あの野球帽をかぶった神の姿があったんや。
神は、呆れたようにため息をついたンゴ。
「真太郎よ。だから言っただろう。安価は絶対。そして行動を強制されるのが、お前の罰だと」
「うぐ…! な、なんでや!? 爆死したら終わりちゃうんか!?」
「終わらない。爆死はチェックポイントからのやり直しだ。お前は何度でも、この理不尽な世界で苦しむことになる。当然、爆死してもニート生活には戻れん。さあ、次はどうする?」
神の姿は消えた。
そしてワイの視界には、再び鬱蒼とした森と腕に食い込んでいるナビゲーター。
なんとかナビゲーターを外そうとしたんや。
でも、肉にがっちりハマってて全然とれる気配がない。
『ナビゲーター:「チェックポイントへ帰還完了やで。そしてお前のステータスはリセットされとる。ほれ、腹減ったやろ? 虫食えや、カス」』
ブサメンのニートは、最初の爆死をもってこの異世界が『ニート願望を徹底的に叩き潰すクソゲー』であることを思い知ったんや。
【悲報】ワイ、初日から爆死。どうやらこの世界は理不尽な安価で生きるしかない模様。
そんなスレのタイトルが思い浮かんだンゴ。




