ワイの嫁は天才美女! ……のはずやったんやが ← 結果
ワイは、アークたそに祠の中であったことを全部正直に話したンゴ。
嘘ついても仕方ないし、黙っててバレたら余計怖い。
それに、また同じことをさせられたらまた同じ結果になるやろ。
「――――……で、祭壇の前で鉄格子に阻まれて、壊せなかったし結界みたいなのに阻まれて出られなくなって、爆死したンゴ」
アークたそは飴をコロコロ転がしながら、静かに首を傾げた。
「……ねぇ真太郎」
「な、なんやアークたそ」
「意味が分からないんだけど」
その声のトーンがいつもより低くて、ゾクッとした。
なんか怒られる感じや。
ヤバい。
めっちゃ怖いンゴ。
ホラー映画よりアークたその方がずっと怖いンゴ。
「や……やから……ワイは爆死の呪いと、チェックポイントに強制的に戻される呪いがかかってるんや」
「…………」
む、無言はやめてクレメンス!
美人と何話したらええか分からへんし、黙ってるアークたそめっちゃ怖いンゴ!
「でも、祠の内部構造を知ってるみたいだし、嘘言ってる訳じゃなさそうだね」
「そ、そうやで! ワイ、爆死すると分かってたら祠の中に入らなかったンゴ! ほんまやで!」
焦って一気にまくしたてたんや。
アークたそはワイの方を向いてぱちぱちと目を瞬かせた。
「へぇ、便利な呪いにかかってるんだね。じゃあ真太郎、不死身ってことだ。死ぬけど。ははははは」
そう言って笑っとるけど……笑顔が怖い。
「そ、そんな便利なもんやないで! 爆死したらちゃんと痛いんや! めっちゃ痛い! それに全然好条件やないんや……」
「ふうん。痛いんだ。大変だね」
アークたそはまた飴を口に戻して、カリカリと音を立てながら聞いてる。
なんやろ……聞き方が上手いなぁ。
まるで聞く気がなさそうなのに、ちゃんとワイの言葉を拾ってくるんや。
「ワイな、これまでこの“安価は絶対スキル”で色んな苦難を乗り越えてきたんや」
「アンカ?」
「そうや、ワイがスレ立てすると、いろんな人がレスしてくれるんや。それで出た安価の通りに動く。なんやかんやで運が良ければ神安価が来て、奇跡的に助かるんや」
アークたそは顎に指を当てて、考えるような顔をした。
「……面白いね。それってつまり“見えない神々”に導かれてるってこと?」
「か、神々というか……たぶんネット民やな」
「ねっと……みん?」
アークたそは首を傾げる。
その仕草が、妙に色っぽい。
ワイは心臓が跳ねた。
ワイ、美人と普通に会話してる……?
アークたそ、ワイに興味持ってくれてる?
……これはリア充過ぎるンゴ!!
ワイ、内心ウッキウキやった。
「じゃあさ」
アークたそが唇を少しだけ舐めて、赤い瞳でワイを見つめた。
「祠の中に入っても、その“アンカスキル”でカミアンカってのを引かないと、真太郎は祭壇を壊せないんだ」
「せやな……でも、そんな簡単に神安価は引けへんのや」
ワイは遠い目になった。
これまでの苦難を思い出す。
虫食ったり、変な踊りをしたり、全裸になったり、爆死したり……神安価って、ホンマに神やないと来えへん。
そんなワイを見て、アークたそは「そうだ」と手を打った。
「その掲示板、私も書き込める?」
「え?」
ワイは思わず間抜けな声を出してもうた。
そ、そういえば、ワイはこのスキルの“書き込み元”をちゃんと知らんかった。
アークたそが書き込めたら、もしかして神安価狙えるんちゃう?
「ナビゲーター! アークたそも安価スレに書き込めるか?」
『ナビゲーター:「無理やで。この即Sは元の世界の住人が書きこんでるんや。つまりアークは対象外や」』
ワイ、がっくり。
期待したワイ、かなりショックを受けたンゴ。
「……そうなんや。アークたそ、その神的展開は無理みたいや」
アークたそは少しだけ残念そうに飴を舐める。
「結構面白いスキルだけど、もっと“運”のステータスが高くないとダメみたいだね」
「そ、そうかもしれへん」
アークたそは棒付き飴を指先でくるくる回しながら、少し考えこんだ。
「……あ、そうだ。一時的に“運”のステータスを上げるバフをかけるっていうのはどうかな?」
その天才的発想に、ワイの目が輝いた!
「流石アークたそ! 天才やで!」
アークたそはニヤッと笑い、ワイの頭に手をかざした。
「じゃあ、少しだけね」
そう言うと、紫色の光がふわりと降り注いだ。
なんか……身体が軽くなったような気がする。
運のステータスが上がったんやろか?
っていうかアークたそ、そんなこともできるんか!?
「これで、かなりの強運になったはずなんだけど」
「マジで!? アークたそ、最高や!」
ワイは勢いよく立ち上がった。
今度こそ神安価を引いて、祭壇をぶっ壊してみせるンゴ!
で……祠の前まで一気に行って、ワイは意気揚々と結界に手をかけた瞬間――――
ズドォォォォォォン!!!!!!
世界が真っ白になった。
いや、ほんまに真っ白。
脳が揺れて、骨がバラバラになっていく感覚がしたンゴ。
な、なにが……
痛い。
熱い。
爆散する感覚。
次に目を覚ましたとき、地面に転がってた。
煙が立ち上り、アークたそが棒付き飴をくわえたまま、ワイの顔を覗き込んでる。
チェックポイントに戻った……!?
な、なんでや!?
ワイ、屋内にいたわけちゃうで!?
「どうしたの、放心して」
アークたそは不思議そうな顔してこっち見てるンゴ。
「い、生きてるけど……なんで爆死したんや!?」
『ナビゲーター:「強力な魔力を纏って結界に触れたから、爆死したみたいやなww 雑魚すぎて草www」』
なんやて!?!?!?!?!?
バフは「強力な魔力を持っている」扱いになるんか!?
「先に言えや! 爆死したやないか!」
『ナビゲーター:「こっちに期待するなや。イッチの味方ちゃうで。情報は有料DLCや」』
「くっそぉおおおお……」
有料DLC、絶対ワイが一生かかっても買えない値段やろ絶対!
「アークたそ……すまん、ワイ、祠入れんかったンゴ」
「……私、祠の話してないよね? なんで知ってるの?」
「は、はえぇ……」
また一から説明せなアカンのか!
ちょっと面倒臭いわ!
……でも、美女と何度も話せるのはええかも。
美女と話す機会は貴重やからな!
でも、ワイは震える手で頭を抱えた。
つまり――――アークたその“運バフ”が強すぎて、ワイが祠に入れなくなったんや。
運のステータス爆上げしたんに、なんでこうなるねん。
完全に悪手やった。
『ナビゲーター:「イッチ、文字通り“運が悪かった”ってやつやなww」』
「うるさいわボケェ!!!」
棒付き飴を口に戻しながら、アークたそはワイの顔を覗き込んだ。
長い黒髪が風に揺れて、甘い香りがふわっとしてワイはドキッとした。
「なんか混乱してるみたいだけど、上手くいかなかったのか。じゃあ、次は……もう少し上手くやろうね、真太郎」
なんの説明もしてないのに、アークたそ爆速理解すぎるンゴ!
頭の良さがダンチすぎてヤバいわ。
そう言い残して歩き出すアークたそを見つめながら、ワイは思った。
ワイは結局どうしたらええんや?
結局、神安価を引かないと祭壇壊せんやん。
運のステータス爆上げしたら死ぬし、詰んだ!
でも、ええわ。
アークたそは美人やし、優しいし、たまに怖いけどそれもご褒美や。
『ナビゲーター:「次回予告:イッチ、懲りずに祠に再挑戦の巻! や」』
「やかましいわボケェ!」
ワイはアークたその後を追いかけて歩き出したンゴ。
くっそ……アークたそに助けられた直後やから、まだ身体中痛い。
【悲報】運バフ、物理的に爆発する




