【悲報】ワイ、罠にまんまとハマる
ワイはアークたそに連れられ、「嘆きの森」の奥深くにある魔王の祠に到着したンゴ。
祠は巨大な石造りの建造物で、陰鬱な空気が漂っとる。
嘆きの森なんて名前からして、ロクなことが起きん場所やと思った。
森の中はジメジメしてて、木の根が地面を這いずり回るみたいやった。
鳥の声もせえへん。
風もない。
音がない世界って、こんなに怖いんか……
「ここが最初の祠だよ、真太郎」
棒付き飴を相変わらず食ってるアークたそは面倒くさそうに言った。
「真太郎、よく聞いて。この祠は魔力の強い者は入れないようになってるんだよね。私は魔力が強すぎて、この祠に入れないんだ」
ファッ!?
アークたそと一緒に入るんやないんか!?
ワイ、独りとか寂しすぎるやんけ! こんな祠の中怖すぎるやんけ!
ワイが不安な顔をしてたら、アークたそはカポッ……と口から飴を出して言葉を続けた。
「大丈夫、魔力の強い者は入れないんだから、強いモンスターも中にはいないよ」
「よ、弱いモンスターならいるんか……?」
「いても無害なモンスターだよ」
そんなこと言われても、不安なのは変わりないンゴ。
アークたそはこんなところに一人でいて大丈夫なんか?
……まぁ、ワイがいても足手まといにしかならんかもしれんが。
「祠の中には、魔王の力を増強するための『儀式の祭壇』がある。それを物理的に壊してきてくれないかな?」
アークたそはワイの目を見て「お願い」と言った。
奴隷契約しとるのに、ワイに命令せんかったんや。
美人からの上目遣い!
優しいンゴ!
好きやでアークたそ!
やっぱりアークたそはワイを信頼してくれとるんや!
ワイはアークたそのために、そして世のため人のため(ほぼワイの一生働かなくていい権利のため)に、頑張るンゴ!
「お、おかのした! アークたそのために、ワイがちゃちゃっと祭壇を壊してくるンゴ!」
ワイは恐怖を下心で上書きし、祠の入り口へ向かった。
「真太郎、もし危なくなったら戻ってきていいよ」
アークたその言葉に、ワイは勇気百倍やった。
無理やったらそのまま戻ればええんや。
楽勝、楽勝。
祠の中は外見と違って石造りの廊下が続いていたンゴ。
薄暗く、妙にムワッとした空気が漂っとる。
そして何よりワイは中に入った瞬間、異様な感覚に襲われた。
『ナビゲーター:「屋内判定、カウント開始やで。残り12時間00分00秒」』
「ファッ!? 屋内判定なんか!?」
ワイはパニックになった。
屋根がある構造やから、そらそうや!
この祠、爆死の危険がある場所やったんや……でも、祠壊すのに12時間もかからんやろ。
楽勝な事には変わりないンゴ。
ワイは冷や汗をかきながら奥へ進んだ。
祭壇を壊せばこんなんすぐやで。
奥の広い空間に出ると、中央には確かに石造りの祭壇が見えた。
でも、その祭壇は分厚い鉄格子でガッチリと施錠されとる。
「なんやて!? 中に入れへんやんけ!」
ワイは鉄格子を掴んで揺らしたけど、全くビクともせえへん。
ワイは魔法も使えないし、どう頑張ってもこの鉄格子を壊せん。
鉄格子が壊せないと、祭壇も壊すことができないンゴ。
「アカン! 一回戻ってアークたそに相談しよう!」
来た道を戻ろうとしたとき、違和感があったんや。
どこが通路でどこが壁なのか、判別できへん。
まるで迷路のように、道が歪んどる。
ワイは急いで来た道を戻ろうとした。
でも、祠の入り口の扉までたどり着けへんかった。
どんなに進んでも進んでる気がしなかったンゴ。
「ど、どういうことや!? 閉じ込められたンゴ!?」
『ナビゲーター:「祠の防衛システムやろな。一度中に入った者は、祭壇を壊すまで出られへんようになっとる。自業自得やでwww」』
それに、暗くてよく見えへんかったけど、この周辺に人の骨みたいなのが結構落ちてるのが見えたンゴ……
この祠、入ったら出れない!?
「戻られへん! 爆死カウントは進んどる! ワイ、詰んどるやんけ!」
ワイは焦りと恐怖で全身が震え始めた。
ここで爆死したら、強制労働所に戻る可能性がある。
あの絶望的な無限ループに逆戻りするのだけは、絶対に嫌やった。
チェックポイント更新したかどうかはワイには分からへんし、ナビゲーターに聞いても絶対教えてくれへん。
なんとしてでも祠を壊すンゴ!
「くそっ、安価は絶対スキルしか、ワイには残っとらん!」
ワイは、恐怖で汗まみれの指でナビゲーターを操作し、安価スレを立てた。
【緊急】祠の祭壇を守る鉄格子を最速でブチ破る方法を教えろ!
安価>>5
1:名無しより愛をこめて:祭壇の前で寝て、爆死を待て
2:名無しより愛をこめて:祠の壁を舐めて、弱点を探せ
3:名無しより愛をこめて:鎖の重りを投げつけて、鉄格子を破壊
4:名無しより愛をこめて:パンツを脱いで、結界の魔力を穢せ
5:名無しより愛をこめて:不思議な踊りをする
不思議な踊りとは!?
物理的にどうにもならないやつにはそういうのでなんとかなるんか!?
ワイは他にどうすることもできずに、奇妙な踊りをする他なかったンゴ。
薄暗い祠の前でワイは盆踊りみたいな踊りを踊ったンゴ。
『ナビゲーター:「滑稽すぎて草」』
「くっそぉおおおお! やっぱりこれじゃ駄目かぁああああ!」
ワイはパニックになり、次の安価を立てようとするが手が震えて上手く操作できへん。
その後、どれだけ安価しても結局鉄格子を破壊できるような神安価はこなかったンゴ。
なんでや!?
強制労働施設を出るときは神安価来たやんけ!?
クソ安価ばっかりじゃ、今度こそ強制労働施設から脱出できないままになってしまうンゴ!
『ナビゲーター:「イッチ、残り30分やで。もう安価に頼る時間はない。自力でなんとかするんやな」』
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ! 嘘やろ!? なんでこんなときに限って全部クソ安価やねん!」
ワイは鉄格子に頭突きをしたり、鎖を叩きつけたりしたけど、まったく無駄やった。
ただ単にワイの手が痛くなっただけだったンゴ。
ただ時間だけが無情に進んでいく。
「嫌や! 強制労働所は嫌や! 拷問は嫌や! ワイ、アークたそとの新婚生活を諦めたくないンゴォオオオオオオオオオ!!!」
爆死への恐怖と強制労働への逆戻りという二重の絶望が、ワイの精神を追い詰める。
『ナビゲーター:「残り10秒やで。もう完全に詰んどるな」』
「うわあああああああああああああああ!!!!」
ワイの最後の絶叫とともに、祠の中は凄まじい光と轟音に包まれた。
ワイは爆死したンゴ。
***
「うっ……」
次にワイが目覚めたとき、ワイは地面に倒れとった。
全身の皮膚が焼けるような激痛。
そして、手首には熱い何かが押し付けられるような感覚がしたンゴ。
「あ、あちちちちちっ!!」
ワイは飛び起きた。
周囲を見回す。
そこは、嘆きの森でも、強制労働所でもなかった。
そこは、ワイがアークたそに初めて出会った、街はずれの廃墟地帯やった。
そして目の前には、棒付き飴をくわえたアークたそが涼しい顔で立っとる。
ワイの手首には、黒い蛇のような紋様が今まさに焼き付けられ終わった直後だったンゴ。
『ナビゲーター:「チェックポイント更新や。おめでとうイッチ。あんた、強制労働所を回避したで。リスタート地点は、奴隷契約を交わした直後や」』
「ファッ!? な、なんやて!」
ワイは安堵と絶望が入り混じった声を上げた。
強制労働所へは戻らなくて済んだンゴ。
やったぁああああああああ!!!
アークたそ愛してるぅうううううううう!!
でも……魔王討伐はしに行かなアカン。
またワイはあの祠に入らないといけないンゴ?
ワイは泣きながら、アークたその華奢な脚に縋りついた。
「アークたそ……! ワイは助かったンゴ……!」
「私が助けたからね」
そ、そうか、今はアークたそに助けられて直後なんや。
「なんでもするって言ったよね?」
アークたそは冷たい声で、再びワイに微笑みかけた。
でもやっぱり目は笑っとらん。
勇者って……もっと爽やかで正義にあふれる人やないんか?
でも、この世界ポリコレ棒にぶったたかれとるから多少変でも不思議やないか。
地獄からの脱出と、新たな地獄への強制参加や。
【歓喜】チェックポイント更新! アークたそはやっぱりワイの正妻なんや




