この女、マジや……嘘やろ……?
ワイは、手首に焼き付いた黒い紋様と、アークという名のクールビューティに完全に支配された。
まぁ……美人の奴隷ってポジションは悪くないかもしれん。
夜の方も奴隷にされたりすることがあるんやろか? ムホホッ!
アークはワイの命を救った恩人であるものの、その代償として「なんでもする」という誓約で「魔王討伐」をワイに命令した、恐ろしい女や。
「ワイ、でも12時間屋内にいると爆死する呪いがかかってるンゴ! 魔王討伐になんて行けないンゴ!」
「へぇ、変わった呪いがかかってるんだね」
アークはワイの話を聞いても全く動じなかったんや。
この世界でこういう呪いって結構あるもんなんか?
「真太郎。魔王討伐といっても、いきなり魔王城に行くわけじゃないんだよ」
それを聞いてワイはちょっと安心したンゴ。
そうやよな、簡単なクエストからやっていく感じよな?
ゲームでもいきなり魔王城に行かないのと一緒や!
「ほ、ほんまに?」
「魔王は、各地に自分の力を増強するための『祠』を設置している。まずはそれを破壊して回る。魔王の力を削いでから、魔王本体を討伐するんだ」
アークはどこからか出した地図のようなものを広げた。
ファッ!?
これが異世界でよく見る異次元バッグか!?
ワイもほしいンゴ!
……でも、異次元バッグに入れるような荷物を何も持ってないンゴ。
地図には、この世界中に点在するおどろおどろしいマークが描かれとった。
結構広範囲に見えたけど……空間転移魔法とかで移動するんやろか?
こんな距離どうやって移動するんや?
徒歩は嫌やで!?
と思う傍ら、ワイはアークの言葉を冷静にとらえていたンゴ。
ふむ。
魔王の力を弱体化させるという、王道RPGの導入やな。
嫌やけどワイ、主人公っぽいやんけ!
しかも、美人ヒロインと二人旅やで!?
アークは魔王討伐を狙う勇者の師匠みたいなもんか? それとも逆に魔王の裏切り者か?
『ナビゲーター:「イッチ、ほんまにろくなことにならんな。ラックのステータス0なだけあるわwww」』
「ファッ!? ワイの運のステータス0なんか!?」
次々と続く不運はワイの運のステータスがカッスやから!?
どうにかして運のステータス上げる方法ないんか?
「じゃ、宿屋でも泊まろうか。強制労働施設にいたんじゃ、疲れてるでしょ」
アークは「魔王討伐の旅」という名目のもと、ワイにメルたそ以上の快適な生活を与えてくれたんや。
アークは、街はずれの宿屋にワイを連れ込んだ。
日本とかのリゾートホテルに泊まったことはなかったけど、まさにそんな感じの宿屋やった。
街はずれにこんな高級な宿屋があるの、変やないか?
そう思いながら入ったンゴ。
「これから長旅になる。疲労が残ってたら困るからね。奴隷の生命維持は私が保証するよ」
そう言ってアークが用意してくれたのは、清潔なベッドと、温かい食事やった。
真っ白なふかふかのベッドがワイの人生を駄目にするンゴォオオオオオオオオオ!!
「うっひょおおおお! ふかふかのベッドや! 強制労働所でボコボコにされたワイには、この極楽が身に染みるンゴ!」
メルたその時と違い、この屋内でナビゲーターがワイに「屋内での制限時間」を告げへんかった。
ワイは恐る恐る寝床で横になったが、爆死カウントが開始される気配はない。
「あれ……? 爆死カウントせえへん。なんでや?」
『ナビゲーター:「アークがイッチを連れ込んだ宿屋、魔力干渉されとるな。アークの力で屋内と屋外を繋げとるんやろ。それで屋内判定が巧妙に回避されとるみたいや。あの女、マジでなんでもできるんか?」』
ワイは感動した。
メルたその家の中は命の危険があったけど、アークは命の安全を与えてくれたンゴ!
凄い女や!
取っつきにくい感じは凄いあるけど、美人やしワイは好きやでアークたそ!
まぁ、魔王討伐なんて死んだらどうせリセットできるし、働きたくない時は安価でサボればええ。
それにアークたそは常にワイのそばにいるわけやろ?
クーデレ美人との2人旅とか、最高のご褒美やん!
メルたそは可愛かったけど、アークたそは美人で力もある。
これは、アリなヒロインでは!?
ワイは、アークたその冷酷さを忘れ、その圧倒的な美人度と提供された快適な寝床に思考が支配され始めた。
「魔王討伐? ふふっ、ワイがこの美人のために一肌脱いでやるンゴ……!」
ワイは久々に安心してベッドで眠りについたんや。
立場は奴隷やけど、こんな生活できるなら悪くないンゴ。
魔王がいるって言ってたけど、この世界って平和そうやけどなぁ……?
いや、そんなことない。
奴隷市があったりして全然平和じゃなかったンゴ!
***
翌朝、アークたそは既に身支度を済ませ、涼しい顔で棒付き飴をくわえとった。
飴好きなんか?
「疲れはとれたかな、真太郎」
あぁ……美人がワイの名前を呼んでくれとる。
ワイのことを認知してくれとる。
ワイの目を見てくれとる。
こんな幸せ、他にないで!?
「勿論や! ぐっすりやったで」
「そうか。じゃあ万全だね。最初の祠は、ここから東にある『嘆きの森』の中だ。行くよ」
アークたそは、ワイに「ついてこい」と冷たく命令したンゴ。
美人なのは間違いないんやが、やっぱりその様子はちょっと怖いンゴ。
「……お、おかのしたンゴ……」
ワイは多少ビビりながらも、アークたその華奢な背中を見つめた。
昨日と違うワイシャツみたいなん着てて、髪の毛はテキトーにむすんどる。
うなじが見えて……エッッッッッ!! や!
「くっ……顔は美人やけど、中身は超ドSの鬼教師やんけ……」
しかし、そのドSっぷりもワイの守備範囲内ンゴ。
もし、ワイが魔王討伐を成功させたら、アークたそはワイのドSな嫁になるんか?
「ご褒美だ。ワガママを聞いてやろう」
とか言って、ワイに一生働かなくていい権利をくれるんちゃうか?
そして、ワイがサボったら「お仕置きだ」とか言って、プレイ用の鞭で優しく叩いてくれるんや!
うっひょおお!!
ワイがにやけてると、ナビゲーターはそこに水を差した。
『ナビゲーター:「ニートの妄想が奴隷の契約によって、極限まで歪んでて草。ニートの妄想は現実にはならないでwww」』
「やかましい!」
ワイは、恐怖と欲望が混ざった目でアークたそを見つめた。
魔王の力を削ぐ祠の破壊という、人類にとって重要な任務を帯びているにも関わらず、ワイの頭の中は「アークたそとのハーレムエンド」でいっぱいだったんや。
「ワイ、頑張るンゴ! アークたそと生きるンゴ!」
『ナビゲーター:「メルティナの時から進歩してなくて草」』
メルたそはいただき女子やったけど、アークたそはそんなんやない。
ワイのこの異世界にも聖女とかいてもええやろ。
アークたそはきっとワイを助けてくれた聖女や。
間違いない。
「どうやってそこまで行くンゴ?」
「空間転移魔法で行くよ。歩いて行ったら疲れるからね」
疲れない方法での移動方法はめっちゃ助かる。
アークたそが魔法を展開すると、視界がぐにゃぁ……って歪んだんや。
カ〇ジみたいにな。
それでワイとアークたそは、一瞬で移動して森へ入った。
ワイが最初にスタートした森とは全然雰囲気が違う感じやった。
森の中はかなり薄暗く、不気味な気配に満ちとる。
なんやろうな、この森怖い。
アークたそも怖いけど、優しい。
優しいけど、たぶん裏がある。
裏があるけど、見た目が美人でドストライクや。
美人には逆らえへん。
……あかん、ワイ、もう駄目や。
自分で決められへん。
安価とろかな……
「ところで、アークたそ……」
「なに?」
「魔王討伐って、どうやるん? なんでアークたそは魔王討伐なんてしようとしてるんや……? 勇者なんか?」
「ははは、勇者って何? 私は勇ましい訳じゃないよ」
声では笑っとるのに、目が全く笑ってない気がしてめっちゃ怖いンゴォオオオオオオオオオ……
っていうか、この世界って魔王がいるのに勇者はおらんのけ?
勇者って概念がないんか?
RPG的には鉄板なんやけど、魔王に挑んだやつはおらんってことか?
挑む人がいないほど魔王って強いんか……?
封印されとるくらいやし……
ワイはかなり不安になったんや。
簡単じゃないことを、アークたそはなんのことでもないくらいのトーンで言っとる。
なんでそんな当然みたいな顔して言うんや。
もしかして、この世界で唯一の勇者がアークたそなんか?
【疑問】ワイの正妻、本当の勇者なんか?




