ワイ、セーブしとらんで!?
地獄に、出口はなかったンゴ。
ワイはメルたそという激カワいただき女子に騙され、強制労働所にほぼ閉じ込められとる。
屈強な監督官が常に目を光らせとる。
「……ハァ、ハァ……無理や……!」
強制労働所って名前からして嫌な響きやが(っていうか、これが本当の奴隷市やないの!?)、実際の中身はもっとヤバかった。
朝から晩まで岩運び。
寝床は土。
食事は腐りかけのものばっかりや。
トイレはきったないし、風呂なんて存在しない(風呂は元々風呂キャンやからそんなダメージないけどな)。
そもそも“人権”がなかったンゴ。
逃げようとした奴らはどうなるか……それはもう、見てもうた。
昨日、若い兄ちゃんが脱走を試みたんや。
ワイはそんな勇気がなくて、見てるしかなかったンゴ。
「おい! そっちに逃げたぞ!」
「つかまえろ!! 絶対に逃がすなよ!」
数分後、逃げた若い兄ちゃんは鉄の棒で殴られ、地面に叩きつけられて、そのあと―――「見せしめ」が始まった。
ワイは見たんや。
拷問官が笑いながら鞭を振るい、兄ちゃんが悲鳴を上げていたンゴ。
その声は、夜になっても耳の奥から消えなかったわ……
う、うわぁぁぁぁ……!!
ワイは震えて眠れなかったンゴ。
痛いのは嫌なんや。
ほんまに嫌なんや。
鞭打ちなんて耐えられへん。
到底無理や。
「常識的に拷問なんて耐えられへんやろ!? なぁ!? 人間の限界超えとるわ! なんやねんこの限界異世界!?」
『ナビゲーター:「そらそうやろ、罰の為に放り込まれた世界なんやから」』
その日、ワイは本気で考えた。
どうすればこの地獄から逃げられるか。
もう強制労働は嫌や!
強制じゃなくても労働は嫌や!
騙されて何の得にもならん労働はもう絶対に嫌や!!!
そう考えたワイの脳みそ、フル回転やった。
持ってる知恵は「働きたくない」一点に全力注入した結果―――
「……せや! 爆死したらええんや!!!」
ワイ、ひらめいた。
いや、ひらめいてしまった。
爆死すれば、前に戻れる。
そう、森で目覚めたあの時点に戻れるはずや!
メルたそと会う前に戻れば、もう労働所に連れて行かれることもない。
1回痛いの我慢すれば、全部リセットや!
これ、天才やろ!
「もう働きたない。爆死してリセットや!」
『ナビゲーター:「お前、リセット前提で生きてるのヤバいで」』
「黙っとけ! この知恵があるからワイは生き延びるんや!」
問題は“どこで爆死するか”や。
強制労働所はほぼ屋根なし、壁なしの開放型地獄。
どこでも監視の目がある。
……せやけど。
「トイレ……」
そう、唯一の屋内があった。
板張りで囲われて、屋根もあるトイレや。
そこだけは鍵が内側からかけられる。
まさかこんな地獄で、トイレが希望の扉になるとは思わんかった。
ワイはその日、飯の時間が終わると同時に全速力でトイレへダッシュ。
中に滑り込み、内鍵ガチャッ。
ふぅ……ここなら、ギリギリ誰も入ってこれへん……!
『ナビゲーター:「トイレで爆死とか羞恥心とかないんか」』
「仕方ないやろ!! ここで爆死するしかないンゴ!」
ワイは震える手で、爆死カウントを確認した。
あと―――10時間……
10時間、ここに籠る。
ワイは決意した。
「…………」
1時間……も相当長く感じたンゴ。
現代人ってスマホで動画とかゲームとかしながらフツーにトイレこもってるけど、なーんにもないこの状態で1時間は長すぎるンゴ!
1分経ったンゴ?
と思ってナビゲーター見ると20秒しか経ってへん。
こんなのをあと10時間もせんとアカンのか!?
こんなくっさい場所で座ってる状態で寝る事もできんのや。
時間がめちゃくちゃ長く感じるンゴォオオオオオオオオオ!!
ワイがトイレに籠ってからしばらくして、外では怒号が飛び交ってるのが聞こえてきたんや。
「おい! デブがいねぇぞ!」
「隠れてる! 探せ!」
ドンドンドン!!
トイレの扉が割れそうなほど叩かれたんや。
めちゃくちゃ怖いンゴ!
でも、ここで爆死せんかったらもっとえらい目に遭わされる!
「開けろ!!」
「トイレ中やぁああ!!! 腹痛いんや!!!」
ワイは叫びながらも、扉を死守した。
飯も食わず、水も飲まず、ただ爆死カウント0を待ったんや。
「こじ開けろ!」
「本当に待ってや! 腹痛いんやって!! 勘弁してクレメンス!!!」
でも、爆死まであと数分、数秒まできたンゴ!
もうちょっとでワイ、この強制労働施設から抜け出せるで!!
『ナビゲーター:「あと10秒でカウント0やな」』
「よっしゃああああ!!!」
ワイは天を仰いで、最後の叫びを上げた。
天と言ってもきったないトイレの天井なんやが。
5……4……3……2……1……――――
「爆死ッッッ!!!」
ワイの身体が爆発する轟音と共に、トイレが吹き飛んだのも一瞬見えた。
めっちゃ身体痛かった。
でも心の方がもっと痛かったンゴ!
これで解放される――――!!
でも、メルたそともう一回会えたら今度こそワイは上手くやるンゴ……
そう思ってワイは意識が途絶えたんや。
***
――そして……
「……う……?」
目を開けると、そこは―――森……
ではなく、そこには昨日と同じ地獄の光景。
汗だくの労働者、鞭を振るう監督、そして唯一の屋内のトイレ。
あれ……? おかしくない……?
ワイ、爆死した夢でも見てたンゴ……?
「……ファッ!? なんでや!? ここ労働所やんけ!? 爆死したんちゃうんか!?」
ワイはナビゲーターに確認した。
なんかの間違いちゃうんか!?
なんでや!?
理解できへん!
『ナビゲーター:「チェックポイント更新や」』
ファッ!!?!?
嘘やろ!?
なんでやねん!!?
「ちょっ!? なに勝手に更新しとんねん!! う、嘘やろ!? チェックポイントはメルたそと会う前の森ちゃうんか!?」
『ナビゲーター:「残念やけど、労働所に入って数日経つ間にイッチは『強制労働所の作業員』として、Fランク程度の依頼をこなしたという形でチェックポイントを更新してしもうたんや。爆死前にチェックポイント更新があったから、リスタートは労働所やで」』
「!!!」
嘘や……嘘やろ……?
信じられん……信じたくない……!!
ワイは膝から崩れ落ちたンゴ。
せっかく痛み我慢して死んだのに……なんでなん!?
頭が真っ白になりながらも、ワイはもう一度トイレへ向かった。
何かの間違いや。
もう一回リセットしたら森の中に戻れるかもしれん。
「もう一回や……今度こそ森や……」
『ナビゲーター:「必死過ぎて草。結果は同じやで」』
「ナビゲーター、ワイをハメたんか!?」
『ナビゲーター:「こっちのせいにするなや。チェックポイントシステムは前から説明しとったやろカス」』
「なんで今やねん!?」
そんな……信じられん。
信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん信じられん!!!
再びトイレに鍵をかけたんや。
時間が過ぎるのが今度はもっと遅かった。
1時間が1年に感じるほど長かったンゴ。
また、外からトイレの扉を叩く音と怒号が聞こえてきたけど、パニックになったワイには聞こえなかったんや。
それからカウントが0になるまで気合で籠城した。
12時間が12年に感じるほど長い時間の後、ワイは再び爆死した。
「!!!」
激痛や。
何度爆死しても慣れん。
爆死やで、慣れる訳ないんや!
例えにできない激痛で、目の奥が真っ白になる。
叫んでも声にならへん。
でも、ワイは耐えた。
あの森に戻るために。
強制労働施設から脱出するために!
――――そして、再び目が覚めた。
「…………!!!」
目の前には、同じ空。
同じ監督。
同じトイレ。
『ナビゲーター:「無駄やって言ったやろ。アホなん? 死ぬん? あ、死んでたわwww」』
「アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ワイの悲鳴が、労働所に響いた。
隣の囚人が「うるせぇ!」って石投げてきたけど、もう何も感じなかったんや。
ワイは理解した。
爆死しても地獄。
逃げても拷問。
働いても報酬なし。
ここは、詰んどる。
人生の墓場や……
「うわぁあああああああああ!!!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、
ワイは空を見上げて叫んだ。
「神ィィィ!! これはバツどころちゃうやろぉぉぉぉ!!」
当然のごとく、返事はなかった。
【悲報】ワイ、爆死してもリセットされず地獄ループ【クソセーブ】




