【悲報】ワイ、異世界でチートなし ~しかも1日12時間以上屋内にいたら爆発する呪いをかけられたンゴ~
働いたら負けやろ。
ワイは那奈真太郎や。
現在35歳、職業はニート歴20年目にして「レジェンド級無職」や。
中学の途中からひきこもっとるエリート様やで。
異世界転生とかいうイージーモードな人生を送る資格があるのは、間違いなくワイみたいな選ばれた人間だけやと思っとる。
ワイの主な活動は、1日のうちの大半をパソコンの前で過ごし、『なんでも即応S』スレッドを巡回することや。
朝起きて即Sでレスバトルして、昼はスレタイ速報を眺め、夜はゲームしながらアニメ鑑賞。
それがワイの「人生のタイパ最強ムーブ」やった。
そんなワイに親は毎日うるさかった。
「真太郎、あんたそろそろ働きなさい」
「外に出て少しでも日の光を浴びなさい」
ファッ!?
何を言うとるんやこのマッマは。
労働なんてタイパ最悪の極みやろ。
毎日8時間も意味の分からん作業を繰り返すなんて、時間と寿命の無駄遣いや。
それに外に出たら、どうせ汗かいて風呂入って……また時間の無駄。
「無理。ワイは労働しない。働いたら負けや。毎日家で知識を研ぎ澄ませてレスバしてるんやから、十分社会に貢献しとる」
ワイがそう返すと、マッマはため息をついて部屋の前から去っていく。
でも、マッマの抵抗もすごかった。
働き口を見つけろと直接言っても無駄だと悟ったんやろな。
食事でワイを追い詰めようとしてきよった。
栄養バランスなんて完全に無視やで。
朝から晩まで、カロリー過多の塩分と脂質の塊みたいな食い物ばっかり出てくるようになったんや。
あれやな、「これで病気になる前に外に出ざるを得なくなればええ」という無言のプレッシャーや。
ぐう畜すぎる。
ワイが「別のものが食いたい」とか言ってもマッマにガン無視されたで。
マッマは
「ならあんたの食事作らないから」
「文句ばっかり言って、いい加減追い出すわよ」
とか言ってワイを恐喝するんや。
ワイの親は毒親ンゴ。
親の金で生きていけるのになんでワイが働かないといけないんや?
ワイはやればできるんや!
でも働くのはタイパが悪いから嫌なんやで。
働いたら負けやってとっくの昔に結論出てるやん。
人生一度きりなのに、労働なんてクソみたいな事してたら人生あっという間に終わってまうやろ?
働くのだけはなんとしてでも嫌や。
そんな生活を続けて、ある日のことやった。
その日もワイは即Sでスレを立てて、レスバトルをしながら夜食に冷凍の唐揚げとカップ麺を食っとった。
そしたら胃がムカムカして、頭がガンガンする。
それでもキーボードを叩く手が止まらん。
レスバに負けるってことは人生に負けるってことや。
ワイの立てたスレが1000行くのが快感やった。
「……っしゃあ! ワイが≫999や! どうや、これが正論やぞ!」
キーボードを叩き終えた瞬間、胸に強烈な痛みが走ったんや。
心臓が握りつぶされるような激痛。
唐揚げの油が逆流してきそうになったわ。
「ファッ!? ……なんやこれ。ヤバい……」
ワイの意識はそこで途切れた。
死ぬ間際まで即Sのスレを気にするなんて、ワイも本望なんかもしれん。
次にワイが目覚めたのは、真っ白で何もない、無機質な空間やった。
「……うおっ! これ、もしかして」
ワイは飛び起きた。
身体はニート時代の不健康極まりない、太めの体型に戻っとる。
それでも、ワイの心臓は高鳴った。
「キタ! キタで! ワイにもついに異世界転生キタァァアアア!!」
これまでの人生、即Sで散々ネタにしてきた夢物語や。
ワイは目を輝かせて、この空間の主を探した。
チートスキルやハーレム、美女の奴隷を求められるに決まっとる。
ワイは選ばれた存在なんやから。
ついにこのときがきたと思ったんや。
「……あのー、神様? 女神様? ワイにチート能力クレメンス」
ワイが呼びかけると空間の中心に、突然光が収束したんや。
そして現れたのは、光を背負った……野球帽みたいな帽子をかぶった髭面のおっさんやった。
こういう場合は綺麗でエッチな女神様ちゃうんか?
でも、神様の見た目はなんでもええ。
重要なのはこれからやで。
そのおっさんはワイを見ると、心底蔑むような目でワイを見たんや。
「35歳、独身、童貞、職歴なし、そして親の小言が嫌で不健康な食事を続けた結果、心筋梗塞で死んだ那奈真太郎だな?」
「神様、ワイにどんなチートをくれるんや? 『全知全能の力』とか、『ハーレム確定の美貌』とか! できれば『働かなくていいスキル』が最強なんやけど!」
ワイは前のめりになって期待を込めて言ったわ。
髭面のおっさんは、野球帽を深くかぶり直してため息をついたんや。
「チート? 何を馬鹿なことを言っている。真太郎よ、お前は前世で親から与えられた命と時間を一言の感謝もなく、クソみたいなネット掲示板と、無駄なレスバトルと、タイパという名の言い訳に費やした。そして親不孝の末、心臓を壊して死んだ」
なんだか冷たい態度の神様に腹が立って、ワイは言い返した。
「う、うるさいンゴ! それはタイパ最強ムーブなんや! ワイの知識は世の中のためになってるんや!」
「知識? お前が持っているのはネット上のでたらめな嘘情報、そしてどうでもいい政治ネタだけだ。何の役にも立たん。それは世界になんの功績も遺せていない」
神の言葉はぐうの音も出ない正論で、ワイは黙り込んだ。
「お前にはチートはやらん。異世界転生はさせてやるが特典は『罰』だ」
神は不敵な笑みでニヤリと笑ったんや。
その顔は即Sでいうところの「畜生スマイル」そのものやった。
「え……罰?」
「うむ。お前は前世で毎日家に引きこもって、一歩も外に出なかった。それが親不孝の元だ。この異世界ではそうはいかん」
神は右手の人差し指を、ワイの額に向けて突きつけた。
「いいか、真太郎。お前は今日から『爆殺の呪い』に縛られる」
光がワイの腕に走るとチクッとした痛みと共に、腕時計のようなどこか禍々しい黒いアクセサリーが太い腕に食い込んだんや。
「それはお前を監視するAIだ。これで24時間、お前の行動を監視する」
そして、神は決定的な一言を吐き捨てた。
「1日のうち、合計12時間以上屋内に居たらお前の肉体は爆発する。爆死したらチェックポイントから再スタートだ。二度とニート生活に戻れないよう、理不尽な強制力を持たせておいた」
ワイの異世界での夢は崩れ去ったんや。
異世界で美形に転生、ハーレム作ってチート能力でワイは最強になるはずだったんや。
なんでワイだけそうなるんや!?
おかしいやろ!?
「はぁ!? 12時間!? 屋内にいたら爆発!? 冗談やろ!!?」
ワイはパニックになった。
ニートにとって「屋内」は聖域や。
それを奪われるなんて、死刑宣告にも等しいンゴ。
「冗談ではない。お前は外に出るのが嫌いなんだろう? なら強制的に外に出してその腐った性根を叩き直してやるわ」
神は心底楽しそうに笑いよった。
「そ、そんな……チートは!? せめてスキルはなんかクレメンス!! せっかく異世界転生なんやから!」
ワイはパニックになって必死に神に懇願したんや。
神は少しだけ考え、肩をすくめた。
「まあ、唯一のチート……いや、罰を確実に遂行するための能力はやろう」
神はワイの目の前に、半透明なパネルを出現させた。
「お前は、この世界で『安価は絶対』というスキルを持たせてやろう。これは異世界の住民にチャットで安価スレを立て、安価で書き込まれた内容を強制的に実行しないと爆発するという、もう一つの呪いだ」
「ファッ!? チート能力違うやんけ! 安価を無視しても爆発!? ふざけ――――」
「それじゃ、達者でな。親不孝者。二度とニートなんぞできると思うなよ」
神はワイの言葉を遮り、再び光の塊となって消滅した。
ワイの視界は暗転した。
最後に聞こえてきたのは、腕のナビゲーターから発せられた、
冷たい電子音と、即S特有の煽り口調やった。
『即Sナビゲーター:「タイパ最強のニートは終焉やで。屋内滞在残り時間、11時間59分58秒や。働けカス」』
ワイはこんな悲劇を迎えても、スレ立てのことばかり考えてたンゴ。
このスレは伸びるで。
【悲報】ワイ、異世界でチートなし ~しかも1日12時間以上屋内にいたら爆発する呪いかかってるンゴ~
こうしてワイはチートなしの呪われた状態で異世界に放り出されたんや。




