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島の日々、前兆

 ガタンコトン、という音と共に身体が揺れる。私の視界には空が広がっていた。座った座席に沈み込む感触。今、重力は背の方にあるのだと感覚で理解できる。

 やがて、ガタン……と静かに鳴り止むと空とその眼下に広がる人口の構造物が良く見えた。遠くの海、その手前に並ぶビル群、そこから森を挟んで、もっと近くにあるのは、大きな観覧車、様々な装飾が施された施設にそこで行き交う楽し気な人々。そして、身体が前に倒れる感覚がして、ガタガタという振動音と共に地面の方へ落下するように私は重力に従い、私の乗るジェットコースターは落ちていく───


「わ、わぁっ!」


「ふぅん……」


 ガガガガガ、とこまめに揺れながらジェットコースターは無軌道にも感じる起動を描き進んでいく。振り回される身体の感覚。放り出されることは無いと頭では分かっていてもどうにもなることは無くて。共に落ちているジェットコースターの乗客から絞り出される、歓声にも似た悲鳴にかき消されながらも私は声を漏らした。


「ちょっと窮屈ね……」


 そんなどこかジェットコースターの感想には適さないことを言うのは、私の隣の座席に座っているエリシアさん。エリシアさんは安全バーを気にしつつも空から見える景色を優雅に眺めている。当然ながら私にはそんな余裕は無くて、振り回される身体の感覚と移り変わる景色にめまいを覚えながら私はジェットコースターにしばらく翻弄されるのだった。



◇◇◇



「うーん」


「大丈夫?」


「な、なんとか」


 ジェットコースターのアトラクションは終わり、私たちは地上に帰って来る。未だに消えないGの圧迫感とも浮遊感のような、振り回された身体の揺り戻しともいうべき感覚。ふらふらと私は歩く。


「それにしても遊園地に来て真っ先にジェットコースターなんて言うからてっきり慣れてるものだと思ってたわ」


「あはは、ジェットコースターってどんな感じなんだろうって昔から気になってて。乗ったことなかったから」


「ふふ、だからって一番最初に選ぶなんて中々強気ね」


「他に何をしたらいいのか、思い浮かばなくて。その、遊園地に来ること自体初めてだから」


「あら、そうだったの、まぁ、私のおごりだから好きになさい?」


「でもやっぱり奢りっていうのも」


「この前の一件は明らかにこちらの過失だったし、貴方にはお世話になってるもの。何度も言うけどこれはお礼。気にしないで。私のリフレッシュも兼ねてるし」


「うぅん……」


 私たちはエリシアさんの気分転換や、私へのお礼も兼ねて一緒に遊園地に来ていた。事の始まりはエリシアさんとのスマホでのやり取り。エリシアさんは私にお礼がしたいと言い、私がそんなのは良いからと遠慮していると、エリシアさんは突如、「そうだ、遊園地に行きましょう。遊園地。遊びの定番よね。お願いハルカゼ、一緒に行きましょう? ほら、私も調査が難航しててリフレッシュしたいの。一人じゃつまらないでしょう? だからね?」と提案し、押し切られ今に至る。

 遊園地は観光シーズンオフの為、人でごった返してるという訳でもなくアトラクションも比較的空いていた。それにしても


「はわぁ……」


「疲れちゃった? 休憩しましょうか。ほら、あそこのベンチ空いてるわ」


「あ、ありがとう」


 思ったよりもジェットコースターはかなり自分には難易度が高いものだったようだ。偶々そういうタイプだっただけかもしれないけれど、大人しいタイプだったとしても自分はきっとその楽しさはあまり理解できそうにないだろうな……。エリシアさんに従い、私は近くのベンチに腰掛ける。エリシアさんは傍の自販機で水を買うと私に渡してくれる。


「いる?」


「ありがとう……」


エリシアさんは私の傍にふぅと腰を下ろす。私は受け取った水をごくごくと飲む。


「ぷはぁ……それにしても……エリシアさんは平気そうだったね」


「まぁ、そうね。怖くはそんなに無かったかしら、ああいう空中で揺られる機会は時々あるし……」


「ゴーレムの時の、紙の絨毯だね。……あの時も大変だったなぁ」


「というか、あの時より怖がってなかった? ハルカゼ。私も万全は喫してたけど体感的にはあっちの方が不安定で怖くないかしら」


「確かにそうかも……」


 あちらは座席も無ければ、安全バーも無い。身体が絨毯に吸い付くように安定し、傾いても全然落ちる気配は無かったけれど……。それもふきっ晒しを高速で駆け抜けるのだ。怖くないはずはないけれど……。


「なんでだろ……多分、安心してたのかな」


「安心?」


「エリシアさんだから、大丈夫だって」


 あの時はただ目の前のことに必死で、頼れるエリシアさんが傍にいて、任せられるとそう私自身思っていたのかもしれない。


「……貴方、それ素? ……素よね」


 エリシアさんはじっとこちらを見てくる。心なしかどこか顔が赤く見えたような気がした。


「え、私、もしかして変なこと何か……」


「別に……付き合いはそう長くはないけれど。段々、貴方のこと分かってきた気がするわ」


「そ、そうなの?」


「えぇ、ちょっと変わってる」


「え」


「けど、優しくて、中々可愛い人よ、貴方」


「ほ、褒めてる!?」


「えぇ、褒めてるわ、勿論ね?」


「もうエリシアさん……」


 くすり、とエリシアさんは笑いながらこちらを見てくる。そんな彼女の視線をどこか私は素直に返しきれずに目線を逸らす。私はへそを曲げるというよりはこの何気ないやり取りにどこか照れてしまい、明後日の方向を向いてしまった。

 遊園地の往来、そんなに人も居ないのではと考えながら来たけれど、学園都市ということもあり、学生を中心にそれなりに遊園地は賑わっている。


「……こんな時期でも人いるんだね」


「そうね、意外と……ん?」


 何かに気づいたエリシアさんは往来をジッと見る、行きかう人々の中、そこには顔をすっぽりとローブで覆い隠した謎の人物。


「エリシアさん、あのローブの人……」


「えぇ、あんなに変な恰好、目立つのに誰も気に留めても居ない。ハルカゼには見えてるのね」


「え、うん……」


「……あれは恐らく魔術的な暗示の姿隠しね。魔力のない普通の人だと無意識に避けて見えなくなるみたいなタイプだと思うけれど……ハルカゼは私と一緒にいることで魔力に当てられて見えてるのかしら」


「そ、そうなんだ」


「……さて、どうしましょうか」


 エリシアさんは持っていたトランクに手を掛ける。謎のローブの人物は空に手を翳すと、光を輝かせる。


「! 不味い!」


 持っていたトランクからあふれ出した紙、瞬時にバリアの様なものが周囲に形成される。

妖しい輝きが辺りを照らす。すると、周りの人々は突然、糸が切れた人形の様に歩くのをやめ、項垂れる。


「!」


 ローブの人物はバリアに反応したのか咄嗟にこちらに振り向く。すると、ダッと走り出した。


「あぁ、もう。何でこんな、また急に起こすのかしら!」


 エリシアさんは半ば起こりながらトランクを掴み立つ。


「ハルカゼは……」


 そう言いかけエリシアさんは何かに気づく。辺りを見ると周りの人々がうぅと唸り声を上げながらこちらへ走り出してきていた。


「あぁ、もう、こっち!」


 エリシアさんは私の手を掴むと人の居ない方へ走り出す。私もエリシアさんに置いて行かれないように走る。走りながら後ろを見ると唸り声を上げながら人の群れがこちらに来ている。


「あ、あれって」


「あれも暗示の……というよりは幻術に近いのかしら。どうやらあの魔術師崩れが仕向けたみたいね、半径数百メートルかしら」


「魔術師崩れ……って」


「魔術師の悪いやつよ、といっても、不格好でやることが見え見えの下手くそな魔術。魔術師としても実力は半端みたいだけれど……うーん、あの人たちを贄にでもして力を得るつもりかしら」


「ど、どうしよう!」


「取り敢えず、貴方を安全な所まで逃がすわ。アイツが貴方を感じ取れないぐらい遠く。その後、叩きに行く。見たところ操られた全員が追って来てるわけじゃないみたいだからローブの方に何人か言ってるみたいだし、何かされる前に、早めに戻ってきたいけど」


「じゃ、じゃあ、今から行けないかな。エリシアさん」


「今から? 危ないわよ」


「でも、私が安全なところまで送ってもらう前に……その人たちが危険な目に合ったら」


 私のせいで誰かが傷つくことになってしまう。


「もう、わがままね」


「ご、ごめ……」


「……しょうがないわね、超特急で終わらせるから。危ないから傍にいてよね、後、前に出ちゃダメよ、ハルカゼ!」


 ウインクをするエリシアさん。


「う、うん!」


 私は勢いよく返事をする。トランクから出てくるのは紙の絨毯、私とエリシアさんが乗り込むと絨毯は勢いよく空へと舞いあがる。遊園地が上からよく見える。追って来ていた人々は私たちを見失ったため周りをキョロキョロと見て探している。


「……うん、やっぱりこっちの方が安心かも」


「ほんと、ハルカゼったら変わってるんだから……こっちね」


 エリシアさんは絨毯を動かしローブの人物が行った方へ私たちは向かう。


「あそこかしら」


 エリシアさんが指し示す先、遊園地の奥、そこは使われていない跡地らしく、侵入を塞ぐ壁の先、古ぼけた立ち並ぶ施設に小さな時計塔だけが残されている。高度が下がり、絨毯はその跡地の少し上で停止する。

 すると、辺りの景色が歪み、まるで賽の目に空間を刻んだかのように跡地の周りが出鱈目に変わっていく。


 「成程……これが結界替わりって訳!」


 エリシアさんは悪態をつきながら絨毯の速度を上げ加速し、跡地の土地を低く旋回する。跡地から先の光景はサイコロの形に切り取って乱雑に入れ替えているかのように変わっていく。


「これって」


「これも幻術よ。でも世界そのものを騙してるかなり高度な魔術。世界を騙して空間の位置を誤認させて、ここらの周囲の空間をバラバラに切り取って繋ぎ合わせてる。無理に出ようとしてもここから出られないように仕向けられたの。……でも、何でこんな高度な魔術を、どう見てもアイツ……もしかして」


 何かに気づいた様子のエリシアさん、そこに。


「どこまでも! 我らの邪魔をするのか! 館の魔術師共!」


 時計塔の中から現れるローブ姿の人物。小脇には眠る少女が抱えられていた。ローブを取る人物。そこには恨めし気にこちらを見つめる女性の姿。エリシアさんは女性を見据える。


「貴方が首謀者ね」


「如何にも! 我、『昏き夜』の末席に身を置く者成れば! 邪魔をするとなれば、我らが道の崇高な目的の為、己が死でその代償を払ってもらいましょう!」


「『昏き夜』……でしょうね」


「知ってるの? その、くらきよるっていうのを、エリシアさん」


「えぇ、非魔術師の人間たちを殺して魔術師だけの世界を作るっていう過激思想の団体の魔術師たちでね。本当に困ったものだったわ」


「だった?」


「そのリーダーだった奴が数年前から失踪してるみたいなの。このリーダーが組織の中で一番面倒な奴でね、高度な幻術を扱う魔術師だったんだけど裏を返せば昏き夜はそいつのワンマンみたいなものだったから。そいつが居なくなってあっという間に組織は弱体化。構成員はほとんど捕まって、今じゃ殆ど解体済みの組織なの」


「否! まだ、私がいる、ここに!」


「そうね、でも、それも今日で終わりだわ」


 エリシアさんはそう言いトランクから紙を引き出す。


「! ……はは、そんな、減らず口がどれほど聞けるか、見ものね」


 ローブの女性はグッと眠っている女の子を引き寄せるとナイフを当てる。エリシアさんは黙ったままだ。


「……」


「エリシアさん……」


「ふふ、あはは! 本当にくだらないこんな魔術も使えないようなもののために命をかけるなど……!」


「……」


「この子供を殺したくなければそこを動くな。その隙に私はお前たちを痛めつけさせてもらうわ。アーハッハッ!」


 高らかに笑う女性、足元に魔方陣が浮かぶ。そして、それと同時にエリシアさんもにやりと笑った。


「えぇ、出来るならね?」


 エリシアさんはそう言うと紙で魔法陣を展開し、女性に向かって砲撃を放った。


「な」


「え!?」


 砲撃は女性に直撃する。魔方陣は消え、反動で飛んだ舗装の欠片がパラパラと散る。


「エリシアさん!?」


「大丈夫よ、ほら、見なさい」


 エリシアさんに言われ女性の方を見ると……。


「あれ……」


 女性は五体満足でこちらを睨みつけており、女の子も無事な姿で、ただ一つ違うのはその姿が揺らめいて見える事。


「アレって」


「あの姿も幻術だったって事よ。本物は……そこ!」


 時計塔と反対の路地の先、どこからか現れた紙が上空で魔方陣を浮かび上がらせると、そこから雷撃が降り注ぎ


「ギャァァァァ!!!」


 と悲鳴と共に、景色が揺れ、そこから膝をついたボロボロのローブ姿の女性が出てくる。


「ぐっ、だが、な、なぜぇ!」


「驚いた、まだ自分の管理下にあると思ったの? 貴方の借り物の力」


「な、まさか」


 パチンとエリシアさんが指を鳴らすと歪んでいた跡地の周りの景色が元に戻っていく。


「疑問だったの。見たところ貴方そこまで腕のいい魔術師って訳じゃ無さそうなのに、こんな高度な幻術が扱えてること。だから辿ってみたの、この幻術の術式の発生源。そしたらビンゴ。ここの地下かしら、複雑な魔方陣の仕掛けがあるじゃない。だから話してる隙に乗っ取らせてもらったの」


「! 結界の術式が操作できなくなっている……奪われたのか、支配権が。そんなこと……出来るわけが……」


「出来るわ、悪いけれどこれは私の得意技でね……貴方のリーダーの残した術式ね、これ。幻術で空間を一種の結界とし把握して操作するって感じかしら。お陰で貴方の位置もはっきり分かったわ」


「ふざけるな! それは私が御方の足跡を辿りようやく見つけたこの島で! 手に入れたあの方の置き土産だ! それは私の様な真の魔術師にこそ……」


「笑わせるわ、あなたみたいな半端者が真の魔術師? 自分の幻術も半端で手に入れた力も半端に使って、そんなどっちつかずだから私に術式を乗っ取られるのよ。諦めてどっちかに振り切っていれば勝機も僅かにあったかもしれないのに」


 エリシアさんは右手を女性に翳す。すると、手は赤く黒い閃光を放ち───


「ブラッドペイン!」


「館の魔術師風情がぁぁぁァア!!!」


 放たれた閃光は女性に向かってさく裂し女性は後方へ吹き飛んだ。


「う、ぐ……」


「これで終りね、大人しく拘束されなさい」


 エリシアさんは絨毯から降り、女性の方へ向かう。


「ま、まだ……まだだだぁ!!!」


女性は叫ぶと、地面に魔方陣を浮かび上がらせる。


「! 何を……そういうこと……気をしっかりね、ハルカゼ! 幻覚が来るわ!」


「幻覚!?」


「苦し紛れの抵抗よ! 置き土産の一つ、死の幻覚を相手に見せる術式よ、実害は無いから……しっかり……!」


 エリシアさんがそういうと同時に、目の前に銃を持った男が突如現れる、あれはあの銀行の時の……でも、な、なんで。……いや、そうか、エリシアさんが言っていた幻覚。

 男はあの時と同じように銃をこちらに向ける。いや、そもそも、私はそれを見てなかったんだっけ……、銃がゆっくりこちらに向かって、違う、これは幻覚。ここにあの男は居ない。私は死ななかった。これはただの、ただの。でも、でも。怖い。

 怖い、怖い。


「……! はぁっ……今のうちに」


「! させ、ないわよ!」


 視界の奥、女性がまた揺らめいて、景色から消えようとして。怖い。銀行の……違う。エリシアさんは頭を抱えながらも雷撃を飛ばし。


「ぐぅ……!」


 雷撃を受け、消えることが出来ずに、また、その場で倒れ伏す。そして、銃を持った男がゆっくりとこちらに引き金を、違う、居ないんだ、でも。怖い。怖い。そして、エリシアさんはこちらに向かってやってきて、怖い、怖い。怖い。


「ハルカゼ……しっかり! 待ってて今……解いてあげ」


「うぅ……ああぁ!!!」


 怖い怖い怖い怖い怖い。私は視界が瞬き、ぐるぐると、なって、怖くて、それで、それで、そして。


「ぎっ……ぎゃああああっぁぁぁぁ!!!」


 視界の奥で、女性がいきなり、叫ぶと、そこから鮮血が噴き出した。


「な!?」


「は、はぁ……はぁ……」


 さっぱりと消えた男。幻覚が収まったのだろう。それより……今のは……もしかして……私は視界をふらつかせながらも絨毯から降り、


「ハルカゼ、しっかり」


 エリシアさんに支えられ、女性の傍まで来る。


「「……」」


 女性はまるで何者かに格子状の斬撃を受けたかのように斬られた痕があり、そこから血を流していた。


「あ、あ」


「気絶してるわ……そこまで斬撃は深くは無いみたいだけれど」


 息が薄く、なる。あぁ、間違いない、これはあの時、と、同じ。


「もしかしてハルカゼ、貴方が……」


「え、あ、わ、私、私は、その、ち、ちが私じゃ、ああ」


 頭を私は抱えて。違う、違わない。私はこうなのだ。呪われているのだ。だから、私はいつも一人で私は、エリシアさんはどう思、あぁ、嫌だ、嫌わないで。あんな顔で、見ないで。怖い、エリシアさんを見るのが、私は……。ああああ!


「ハルカゼ」



 ぎゅっと、包まれるような優しい感覚がした。これは……。エリシアさんの顔がとても近くにある。これは、私はエリシアさんに……抱きしめ、られてるんだ。


「エ、エリシアさん……」


「落ち着いて、深呼吸」


「は、離れて、私エリシアさんを……傷つけちゃうかも」


「大丈夫だから、ほら、深呼吸」


「……」


「ほぅら。せーの」


 間近のエリシアさんの顔、綺麗な、瞳。……私はエリシアさんに合わせ、たどたどしく深呼吸をする。


「すーはー」


「すーはー」


 そうして次第に呼吸が収まっていく。


「エリシア、さん。その私……」


「大丈夫よ、今はゆっくり息を吸って、吐いて。……翠たちを呼ぶわ。そこで座ってて」


「……うん」


 そうして、女性との戦いは幕を閉じた。しばらくしてから現地の魔術師たちが到着し、女性の身柄を委ねて、私たちは跡地を離れるのだった。



◇◇◇



 遊園地はエリシアさんによって暗示も解かれ活気を取り戻していた。


「……呪いね」


「昔、ね、銀行に強盗が入ってきて、そこにたまたま居合わせてそれで……気が付いたら、あんなふうに……周りの人たちは呪いだって」


「呪いだなんてありはしないわ、そんなもの」


 遊園地を歩く人々、雑踏の中、私たちは静かに歩いていた。


「魔術……にしては魔力の反応が無かったし……もしかして」


「エリシアさん?」


「いえ、何でもないわ。何にしろ、あれぐらいで貴方を見限る私じゃないわ。舐めないでよね?」


 ふん、とウインクをしながらエリシアさんは髪を靡かせる。


「うん……ありがとう」


「まぁ、貴方の体質に関しては別件で私が調べてみることにするから、今日は取り敢えず帰りましょう」


「うん、ありがとう、エリシアさん」


 ほうと、私は息を漏らす。変わらず彼女は接してくれる。そこに嬉しさとほんの少しの怖さがある。感情を綯い交ぜにしながら、私たちは遊園地を後にした。

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