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科学世界の魔術少女曰く  作者: 黒桐
黎明の翼/Alīs volat propriīs
7/15

魔術の世界

「うーんこの辺にあるはずなのよね……調査報告に書かれてた霊脈の位置とも一致するし」


 都心から街の外れ、公園近くの森に私たちは来た。

 まばらに並ぶ芽が出始めた木々、その間に落ちている落ち葉を踏みしめながら私たちは歩いている。

 私の前を行くエリシアさんは辺りをキョロキョロしながら男が残した魔方陣の跡を探している。

 今日の朝は一段と冷え込んでいる。白い息を吐きながら彼女は地面に張った木の根を避けつつジグザグに進んでいく。

 それを私は転ばないように気を付けつつ付いていく。


「……はぁ今日は特に寒いわね」


「そうだね……エリシアさん今日も薄着だもんね。私が借りてる服着る?」


「大丈夫よ、防寒の魔術を施してるから。……まぁそれでも少し寒いけど。明日からはもう普通に着込もうかしら」


 そういうエリシアさんは昨日と別のワンピース姿ながらも器用に森を進んでいく。手に持っているのは昨日のような引きずるタイプのトランクではなく持って歩けるタイプの革製のトランクのためその動きはかなり軽快で軽やかだ。


 木枯らしが強く辺りに吹き付け、地面の落ち葉が舞い上がる。私は思わず目を細める。


「まったく、はぁ防風の魔術でもいや、こんなことで一々」


 愚痴をこぼしつつも歩みを進めるエリシアさん、やがて彼女は立ち止まり正面をじっと見つめだした。


「どうしたの? エリシアさん」


「ここね」


「……? ここ?」


 そこは森の半ば、変わらずに枯れた木々が並んでいる場所。


「ふふ、見ててねハルカゼ」


 そういうとエリシアさんは()()()()()()()()()()()()

 薄く光る簡単な記号のような文字。

 それが消えると同時にエリシアさんの目の前の風景がぐにゃりと歪む。


「わ……」


 そうしてそこにあったはずの木々と落ち葉が歪んで景色に溶けていく。

 そこにはただ開けた視界があった。


「エリシアさんこれって……」


「記されてた霊脈に近い場所よ。誰もいないようなところは監視も面倒くさいからこうやって只人が近づかないように隠してあったりするの」


「何にもないね」


「まぁこういう場所は魔力が噴き出しやすいってだけで大体は普通の場所だもの。おかしな点はなさそうね、戻りましょう」


「うん、戻ろっか」


 エリシアさんはすたすたと森の出口に引き返していく。

 私も枯れた木々の合間を縫うように後をついていった。

 やがて私たちは森を抜け、その横の公園のベンチで腰を下ろし休憩をする。

 そして次の目的地までの行き方について会議を始める。

 私はスマホのマップを開いてエリシアさんに見せる。


「ありがとう、私、やっぱりこういうの苦手なのよね。次はここら辺かしら」


 そう言ってエリシアさんが指で示したのはここから案外近い住宅街の近く。


「近い……そこらへんだったら歩いて行った方が早そうだね」


 ホテルからかなり離れた地区の端の森に先程の場所はあった。

 今度はかなり近い数キロ先、バスなどは主要な道を外れているが十分歩いて行ける距離だ。


「結構近いね……」


「まぁここの地区は元々そういう島だったらしいし……今じゃ地続きでどこも地面が続いてるけど」


「神宮島って元々は離れた島々だったらしいけれど凄いよね、こんなに発展して」


「私たちがいるのは『夕凪島地区』、ここの地区の霊脈を調べていくのだけれど……まぁ頑張ればこれなら報告や準備を整えながらでも早めに終わりそうかしら。時間も惜しいしまずは行きましょ」


「ふふ、うん」



 ◇◇◇



 この島でも住宅街の光景はよくある普通の何の変哲もないものであり、どこにでもあるような日常が当然だけど流れている。

 私たちは横並びで歩道をゆっくりと歩いていく。私はすれ違う人や猫を眺めながらエリシアさんと会話をする。


「そのトランクも仕掛けがあったりするの?」


「えぇ、魔術を掛けてあってね、少し大きな部屋くらいのスペースがあるの、これからいろいろ出し入れできるのよ」


 エリシアさんは軽くトランクを持ち上げて見せる。


「あの紙みたいな?」


「あれは別。魔道具の類でね無限に紙を生成できるの、簡単な術式も付与しながら生成もできるから便利でかなり戦闘向きなの」


「戦闘……」


 魔術師と聞かれればやはりおとぎ話の魔女の様な雰囲気を浮かべるけれど実はかなりアクティブな物なのだろうか。


「……言っておくけれど、実際はもっと学問みたいなものなのよ? たまたまハルカゼが戦闘に転化させた魔術を見る機会が多いってだけで」


 エリシアさんが私の心を見透かしたようにジト目でじーっと見てくる。


「……ご、ごめんね?」


「別に謝ることじゃないわよ……そうね……」


 魔術の世界は奥が深そうだ。

 そんなことを考えながら横を見るとエリシアさんは少し歩きながら何かを考えている様子だった。


「……目的地までまだ距離はあるしこの間に魔術の世界について軽く説明しておこうかしら。やっぱり気になるでしょ?いろいろ」


「いいの? 私、魔術師じゃないただの一般人なのに」


 気にはなっていたが、やはり魔術師としては話せないこともあるだろうと私は考えていた。

 けれど、エリシアさんは話してくれるようだ。


「まぁ、協力者だし。いざとなったら私があなたを守るけれど、ある程度知っておいた方が安全だもの」


「そ、そうだね……」


 あまり危機は無いように安全に生きていたいけれど、でも私を守るとエリシアさんが断言してくれたのは少し不思議と嬉しい。


「それで何から言えばいいかしら」


「……それじゃ魔術って何? 科学……とかとは違うんだよね」


「そうね、簡単に言えば科学とは別の法則(ルール)をもって世界に現象を起こす力かしら」


「別のルール」


「かつてありふれていた可能性の重なり合った世界、そしてそれらが生んだ神話の時代。消えゆく可能性の法則、残滓をどうにか繋ぎ止め、残した物。かつてあった超常の力の再現、それが魔術」


「……なるほど?」


「……まぁふわっと理解してくれればいいの。魔術は基本的に魔力を使い起こすわ。魔術師は自身にある程度の魔力を内包しているけどこれだけでは魔術として使うのは難しいの。昔ほどではないけれど星の大魔力が地表に脈に沿って湧き出してくる。これを大体使うわ」


「そうなんだ……」


 どこでも万能という訳ではないらしい。


「それと魔術には基本的には手順がいるの、詠唱だったり行動だったり何かしらの動作(アクション)が。そうして法則にアクセスして何かしらの魔術を起動させるんだけど魔術にも様々あるからそれによってやり方も違うわ」


「エリシアさんの使ってるルーン魔術……? みたいな?」


 エリシアさんは空中を指でなぞる。


「えぇ、これは北欧にかつてあった世界の残滓の魔術の一つ。魔力で文字を書く動作で発現させるの。担い手はもう今の時代殆どいないわ」


「爆発したり……分身したり……はルーンとは別なんだね」


「えぇまぁ大体別の基本の魔術とかよ。基本魔術っていうのはかつての世界の残滓に頼らなくても今の魔術世界の基盤にアクセスして結果を生み出せるようにした……まあ文字通りよ。シンプルに魔力で身体を強化したりとか、大体みんな使うわ」


「ルーン魔術は特別なんだね」


「えぇ、私のルーン魔術は家系で代々受け継いできたのだけど……個人でも適性はある程度伸ばせるけど限界があるわ。基本的には親から子へ遺伝で魔術で扱える適正が繋がっていくの。まぁたまに素で適性のあるのもいるけれど……とにかく基本的には魔術師は自分の扱える魔術を研究、分析し、いろいろな目的で()()を持って後世に託していくの」


「エリシアさんはやっぱりルーンの研究?」


「いえ魔術やルーンは代々継ぐことになってるだけ、私たちの一族はまた別の……まぁこれは省くわ」


「そっか……」


 何か触れてはいけないことだったのだろうか。

 そう言う訳でもなく、単にこんがらがるというだけだろう。エリシアさんも別に気にしてはいない様子。


「難しいね……、科学の方がまだちょっと向いてるかも」


「私はそっちの方が良く分からないわ……特に……何て言ったかしら能力者だったかしら」


 エリシアさんはどこか難しそうな表情を見せている。


「うん、確か、高次元下におけるヒトの無意識の観測領域中に見られる~……とにかく凄い力が使えるようになるんだって。ほんと、傍から見たらどっちかどっちか分からなそうだけれど」


「えぇ、今の科学は魔術の生みだすそれと近いものがあるわ……私はさっぱりだけれど」


「あはは……凄いよね便利な時代で」


「まぁ、後は纏めて話すと、そんな感じでそんな魔術を扱う魔術師の総本山それが標館ロンディニウム。魔術世界の運営が館の命題。魔術を研究したり調べたり……学院的な要素が強いけどこないだみたいに変な奴をシバいたりもするわ」


「い、忙しんだね……」


「えぇ、大変。そろそろかしら」


 道が少し坂なりになってきて住宅街の途中に小高い山のようなものが近づいてきた。

 やがて道の先に大きな建造物が見えてくる。


「なるほどこういうことね」


 小高い山の前、道の半ばで止まる立ち止まり横側を見るとそこには大きな鳥居が上へと続く階段の前に建っていた。


「これって……神社?」


「行ってみましょう」


 エリシアさんと一緒に階段を上る。

 そうして階段を上がりきるとそこには山の中、木々の間に小さなふるびた神社があった。


「神社とか寺とか、知ってか知らずかこういう霊脈の上に建てられたりするの。無意識にね」


 私たちは神社の辺りを探索する。

 神社の裏に回るとそこは竹藪が生い茂っていた。


「あそこね、ちょっと待ってて」


 そういうとエリシアさんは竹藪の中に入っていく。私は大きな声でエリシアさんに呼びかける


「大丈夫ー?」


「大丈夫よー。ここらね」


 竹藪の中にいるエリシアさんを遠目で見届ける。今回はそういう隠されたりはしてないらしく、近くをくまなく見た後、エリシアさんは竹藪の中から帰ってくる。


「戻ったわ、ここも異常なし」


「お疲れ様」


 パンパンと付いた葉を払いつつエリシアさんは出てくる。

 私たちは神社の正面に戻り、そして階段を下る。


「お腹空いたわ……お昼にしたいわね」


「うん、そうだね、でも何にしようか……」


 スマホを開きどこで昼食をとるかを考える。


「うーん住宅街だから近くには何もないわね」


「ちょっと遠くに喫茶店があるけどどうしようか……ん」


 スマホのマップを見ている最中、道の先、川沿いの公園。丘の下で屋台がずらりと並んでるのが見えた。


「あれって、もしかして」



 ◇◇◇


 そこは広い公園の中、道の両脇に並び立つ出店と木々に掛けられ上に吊るされたきらびやかな装飾、まだお昼のせいか人はまばらだったが、軽い賑わいを見せていた。


「こんなところでお祭りやってたんだ……」


 通り過ぎる人はお昼時だからか、ホットスナックやパックに入った焼きそばなど料理を美味しそうに食べながら歩いていた。


「普通のお店でと思ったけど、もうお腹ペコペコだしハルカゼ、ここでお昼にしない?」


「そうだね、ここで食べようか……何する?」


「そうね……」


 両脇に並ぶ屋台を吟味しながら私たちは通りを歩いていく。

 なんとなく横を見るとエリシアさんは道の先の分かれ道の先にある焼きそばの屋台をじっと見ていた。


「私あれにしようかしらヤキソバ、クレープなしも食べてみたいわ」


「焼きそばかぁ……私も焼きそばにしようかな」


「あらそれじゃ一緒に並びましょうか」


 そんな会話をしながら道を歩いていると少し先に祭りで使うであろうのぼりを何本も持ちながら歩いている設営のスタッフらしき女性が見えた。

 のぼりのせいで視界が悪そうでフラフラしている。

 フラフラと進むも地面に伸ばしてある延長コードに気づかずに足を引っかけ───


「わっ!」


「危ない!」


 女性が倒れそうなところを私は身体で止める。


「おっとっと……」


「大丈夫ですか?」


「うん、ありがとうねキミ……前が見えなくて。早く運ばないといけなくて、ついごめんね?」


 私が離れるとなんとか姿勢が戻った女性はのれんをいくつも抱えながら申し訳なさそうに感謝を述べる。


「大丈夫? ハルカゼ」


「うん、大丈夫」


「それにしてもたくさんあるわね」


「……そのよかったら運ぶの手伝いましょうか?」


「キミが? えぇ悪いよぉ」


「でもまた転んだら……」


「うーん、確かに……それじゃあそこまでいいかな?そこの道の間から左に行ってあそこのベンチあたり」


「はい!」


 女性にやや押し切る形で手伝うことになった私はのれんをいくつか受け取る。

 女性に言われた方を見ると行ってきた道を少し戻り、左に伸びる道。芝生沿いの屋台の設置されている道の先にベンチとその少し先に未設営の屋台が見えた。


「ハルカゼ、それじゃあ私が焼きそばをあなたの分まで買ってくるからベンチで待ち合わせしない?」


「うん、それがいいね。それじゃあ行ってくるね」


「えぇ」


「ごめんねぇ、手伝わせて」


 そして私はエリシアさんと別れ、女性と共にのぼりを持っていく。


「ふーここでいいかな。ありがとうねぇ、ほんと」


 私は女性の言っていた地点までのぼりを持ってくると近くの芝生の上まで降ろす。


「よいしょ……いえ全然」


「悪いねぇほんと……あぁそうだこれ、はい」


「?」


 近くの屋台からりんご飴が二本抜かれ渡される。


「それ、私のお店の。お礼に受け取って」


「そんなお礼なんて……」


「いいの、いいの。それじゃ! 祭り楽しんでいってね」


 そういうと忙しいのだろう、女性は行きつく暇もなく走って道の先に消えていく。


「行っちゃった……」


 りんご飴はちょっと持つのが重く、両手に分けて持つ。

 不格好な持ち方だけれどこれが安定する。

 とはいえこのまま持ったままは、一つ食べてしまおうか……。


「わっ」


 前方不注意で今度は私が何かに当たってしまう。

 壁だろうか、前を見ると、それは何かの生地……というよりは服が見える。

 ということは……思わず後ろにあとずさり私は上を見上げる。


「!」


 そこには見上げるにも少し苦労する大柄の神父服の男性がそびえ立っていた。

 ぶ、ぶつかっちゃった。ど、どうしよう。


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