降ってきた少女
『それじゃあね? 困ったことがあったらいつでもね? ……そういえば荷物は届いた?』
スマホ越しに響く耳元のどこか不安げな心配する声。
それを慰めるように私は耳元のスマホに少し力を込めた声で明るく答える。
「うん、さっき届いたよ。うん、大丈夫、叔父さんにも心配しないでって言っておいて」
そう言いながら私はまだ荷物もろくに無い、よくあるリビングと調理台があるダイニングの繋がった家具だけが置かれた簡素な部屋の、その中央に置かれた叔母からの荷物の段ボールを見下ろす。
「うん、大丈夫、危ないことも特には無かったよ。天気? うん、今日も晴れ、ちょっと曇ってるけど」
部屋の開いた窓の先を見ると、当分の寒空を予感させる雲の多い空。そして、遠く先には青みがかった灰色の街並みが見えた。
窓の近くには蕾もまだ芽吹いた頃であろう肌寒そうな木々が風に揺れ、枯れた木の葉が宙を舞っていた。
「うん……お守りもあるし怖くないよ、大丈夫」
私は首から紐でぶら下げた鍵を見た。それは古ぼけた鍵、どの錠前も守りはしないただの私の大切なお守り。
「もうお仕事なんでしょ? だから、うん、心配ないで叔母さん」
そうやって急かしたように何回も重ねたやり取りを私はまた繰り返すと、ようやく電話口の声が渋々口惜しそうに通話の終わりを告げようとする。
『一応、学園都市の用意した学生の専用のマンションらしいし、防犯も問題ないとは思うけど戸締りはしっかりね? じゃあ、困ったことがあったらいつでもね? 詩乃ちゃん』
「うん、分かった。叔母さんも元気でね、うんそれじゃお仕事頑張って、またね」
通話が終わると、私はふぅと息を吐き部屋の隅にへたり込んだ。
「はぁ……心配してくれてるのにな……」
私は叔母に心の壁を感じていた。ここ最近理由があって私は少しの間、叔母さんの家に居たが、それでも私とあの人たちとの私の心の距離を解消することは出来はしなかった。無論、私が一方的に避け続けていただけなのだけど。
何となく上を見上げても、そこにはもちろん見慣れない何の変哲もないただの天井。
「そういえばダンボール、何が入ってるんだろ」
私はおもむろに立ち上がり、荷物を解く。
そうすると中には野菜や生活用品がこれでもかというほどぎっしり入っていた。
「どうりであんなに重かったんだ、今日は何作ろう………ん」
そう思案していると、開いた窓の方から吹き込む風が吹く。
その風は、どこかへ身体がどこかへ連れ去られてしまいそうな、どこかへ引っ張られてしまうような、そんな風だった。
◇◇◇
「綺麗だな……」
そう呟く私の前にはどこまで続く海の景色が広がっていた。
私の住むマンションの近く、住宅街を外れた森を抜けた先にある浜辺前の道沿い、特に意味もないまま私はふらりとここに来ていた。
「ここら辺、来てなかったな」
草木が生い茂り、今にも飲み込まれそうなアスファルトで舗装された道。沿うように立つコンクリート塀の先の向こうには砂浜が広がっていた。
私は周りをキョロキョロと見やると下に降りていける階段を見つけ、砂浜に降りて行った。
ざくっ、と音が鳴り、砂の少し沈むような感触が靴越しに足元に伝わる。
辺りを見渡せば、どこまでも続く砂浜と海。
「人は……やっぱり、居ないよね」
まだ春も来る前の静かな冬の季節。海も冷たいであろう寒空の中、海に来る物好きは私以外、他にいるわけもなく。ひいては返す波を横目に私は砂浜を歩き始めた。
海風が強く砂浜に吹き付けていた。服は着込んでいたけれど、それでも身体は少し冷える。
「……買出しに行かないとだけど……街の方に行くにはちょっと遠回りだったな」
風と波と踏む砂の音が良く聞こる。
生き物の気配はなく、冷えた空気が身体を通り抜けていく。
ただ一人色味の薄い空を見上げながら歩く。そして、意味もなく立ち止まる。
「……おばあちゃん、これから私一人で……うまくやれるのかな」
下を向いて、意識せずに口から洩れたのはそんな小さな不安の声。誰に届くわけでもないか細い呟きは波と風の音にかき消され消えていった。
「……」
また上を見る。そこには先程と変わらない空が広がっていた。
そして、また歩き始める。そうして歩いていくと、
ふと、
何かが空に飛んでいるのが見えた気がした。
「……? いま、何か?」
見間違いだったのだろうか、よく視界を凝らす。
「──! ─? ─────!!!」
「何か声も聞こえるような……?」
何かある気はするのに、空にはそれと思しきものはどこにも見つからない。
「……うーん」
根気強く視界を凝らす。すると、
「いまやっぱり何か……」
チラッと映った何か。めげずに探していると。
「──!」
「……居た!」
どこか遠くで声も聞こえる中、目に映ったのは黒い何か。急に視界に見えたことに疑問を感じつつもそれをよく見る。だんだんとそれは近づき、くっきりとした輪郭を持つ、すると。
「あれって……傘? ううんそれだけじゃなくて……あれって……」
「──!」
「人!」
間違いない。誰かが黒い傘を持って不規則に宙を舞っているのが確かに見える。
「─!」「ってことはこれもやっぱりあの人の声!?」
空に浮かぶその人物は明らかにコントロール出来てないであろう、無軌道な動きで風に煽られながらこちらに降ってくるのが見える。
先程よりもかなり近づいてきたため、やはりそれが人であることもしっかり確認できる。
「ど、どうしよう!?」
どう頭をひねっても解決策が思い浮かばい、私はただ狼狽しながら落ちている何者かが落ちそうなポイントまでただ走る。
そうこうしているうちに降ってきている何者かがすぐそこまで近づいてきてるのが見えた。
「こっちに落ちてくる!」
かなり縮まった謎の人物との距離。
「──!」
何かしらを叫びながら落ちてくる人物が墜落するであろう場所に私は何の手段もないまま着く。
海と砂浜の間、浜辺の波の中。目と鼻の先の落ちてくる人物、私は頭が真っ白のまま無意識に腕を伸ばし、抱きとめようとして──
「わ」
思ったほどには強くない衝撃、私の上半身に覆いかぶさるようにして逆さまに上半身同士がその人とぶつかる。
ただ、落下して来ただけではないのだろうか。弱い衝撃を不思議に思いつつ、なんとか不格好ながら受け止めることに成功する。
けれど、私は重さに耐えきれず海の方を背にしたまま、勢いよくそのまま海の中に倒れこむ。
「ぎゃん!」
すると受け止めた人物も同時に腕を離れ、海に頭から突っ込む形で波の中に声をあげながら倒れる。
「ぷはっ、けほっ」
波から頭を上げ、口の中に入った海水を吐き出しつつ砂と海水がべったりと付いた身体を起す。
まだ海開きには遠い冬の季節の為、当然ながら冷たい海水の温度が服の上からこれでもかという程伝わってくる。
肌寒さを感じつつも、抱き留めた、海の方の人物がどうなってるか確かめるため振り向き、立ち上がろうとすると
「ぶはっ! けほっけほっ……あぁ! もう! 死ぬかと思った!」
ざばっ、と海の中から勢いよく顔を上げる灰色がかった白いワンピースであろう服の人物。
「もう術式に問題はなかったはずなのに……久々にこんなポカ……あぁ、姿隠しの術式までダメに……」
顔を上げると同時に急にスイッチが入ったかのように、話し出す。
よく見るとかなり値の張りそうな丁寧な刺繍の施されたワンピースを身に着け、そして、その綺麗な長い黒髪が波に浮かんでる。
「服の中までグショグショだし……術式の試運転ついでに空からなんて思うんじゃなかった。風かしら……最初からやっぱりか……」
鈴の鳴るようなそれでいて凛とした声で悪態をつく黒い髪の人物。
こちらのことなど気にも留めずに何かをぐちぐちと喋っている。
話しかけるべきかどうしようかと波の中、私があっけに取られていると、
「……?」
どうやらこちらに気づいたのか髪が揺れ、黒い人物がこちらの方に振り向く。
黒髪とワンピースに映える華奢な身体。髪には花をかたどっているであろう髪飾り。そして、
青く澄んだ目。
きりっとした眉に長いまつ毛。
白い肌に整った鼻、小さな艶のある唇、端正ながらもどこか幼さを残したあどけない顔立ちの少女が居た。
その風貌に私は思わず目を奪われる。
そして───
「……!? ってあなたいつからそこに!?」
「……え。えと、さっきから……かな?」
驚いた様子の少女からの問いかけ、私は返答に詰まり要領の得ない返答を出してしまう。
「えと、その、大丈夫? さっき私つい受け止めちゃったけど、その怪我とか……」
「え? あぁ……海に落ちる前に何かに当たった気がしたけどあなたが私を受け止めてたのね……ありがとう、大丈夫よ。おかげさまでこの通り……受け止めるなんて無茶なこと考えるわね。あなたは大丈夫だった?」
砂を払いつつ、服や体、髪を確かめながら少女は海の中から立ち上がる。
「え、えとうん、大丈夫だよ、です。……そこから歩け……ますか?」
それを見て、私も波の中で立ち上がると、少女の方に手を伸ばす。
「ん、ありがとう」
少女の足が砂に取られないように、ゆっくり後ろに下がりつつ握った少女の手を引く。そして波の来ないところまで下がる。
びしょびしょの二人。乾いた砂浜に垂れた水滴が染みていく。
「はぁ……それにしてもお互い大分濡れてるわね、寒いわ」
「……まだ三月ですもんね」
周りを見回すと、私は砂浜の先に砂に突き刺さったボロボロの黒い傘を見つける。
「あ……あの、あれ……」
「なにかしら? ってあっ私の傘……!」
傘の方に駆け寄る少女。砂からすっぽぬくと傘の状態を確認し始めた。
「はぁ……高くついたわね」
寒さはもう、あまり感じなかった。私はただ彼女を思わず眺め続ける。……不思議な女の子。
込み上げてくる名前も知らない心の感情、胸の高鳴り。ゆっくりと流れる景色、私は彼女をただはっきりと意識しながら───
───いつか、きっと、詩乃ちゃんにも───
懐かしい記憶を思い出した気がした。
私は服越しに、服の下に掛けている鍵を無意識に握る。
そして、私は───
「えと、その……そのよかったら私の家に来ませんか……! その、風邪引いたら、よくないですし」
初めて会った名も知らぬ彼女に何故か、つい、そんなことを口走ってしまった。
「え? あぁ、貴方の?」
「あ、私……今……」
私は自分で自分の発言に思わずびっくりする。
「嬉しいけれど……出会ったばかりの人にそこまでしてもらうのは少し悪いと思……ハックシュン!」
会話の最中、寒さのせいか、思い切りくしゃみをした少女。
「…………」「…………」
くしゃみの後、訪れた静寂。なんとなく言葉を出せずにいると。
「……そのやっぱり、ちょっとお言葉に甘えて失礼させてもらおうかしら」
どこかばつの悪そうな彼女の返答。今更やっぱりキャンセルなんて言えないし、この子をこのままにしておく訳にも行かないので私は覚悟を決めた。
「……えと、それじゃあ行きましょう、か。あ、でも……管理人さん許してくれるかな」
「管理人?」
失念していた。私の居るマンションは、部外者は確か入れなかったはずだ。こんな時期なので人は少ないが……。
「私の住んでる寮みたいなところの管理人さんで……部外者は入れない決まりなので……うーん、でも行為場合はどうなのかな……」
うんうん、と私が悩んでいると、
「ふーん……大丈夫じゃないかしら、案外簡単に通してくれると思うわよ」
「?」
彼女は何故かそう断言する。そうして、取り敢えずは謎の少女を連れて私は一度自宅に戻るのだった。
◇◇◇
マンションに戻り、シャワーを浴びた私は家具ばかりの簡素な自家の一部屋で服を着替え、一呼吸置く。
リビングに立てかけてある姿見の鏡を見る。きれいさっぱり乾いた茶髪のボブヘア、濃い桜色の瞳、着替えた普通の服に首からぶら下げたお守りの鍵。
私は鍵をギュッと握る。久々に知らない人と話す。何も起きないといいけれど……。
それにしても、管理人さんは案外あっさりと通してくれたな、そこらへんはちゃんとしてそうな人のように見えたけれど……。
何となくテレビをつけると地元の放送局がやっているらしいニュースが流れていてた。
ぼーっと眺めていると、扉の開く音がする。
「はーっ、さっぱりした。本当に助かるわ。お風呂だけじゃなくて服まで貸してもらって」
タオルを首にかけ、黒い髪をなびかせながら廊下から私の服を着た彼女が現れる。
「えと、なにか着にくかったりしたらすいません。そういうのしかなくて……」
「別に問題は無いけれど……あなたと私、体格も一緒ぐらいだからちょうどいいわ」
私も今着ているような、そこらへんでよく見かけるようなシャツとスカート、当人は満足しているようで私は少しほっとする。
それと同時に私は疑問に思う。私はどうして、彼女を部屋に招こうと思ったのだろう。
私は昔から引っ込み思案で会話も苦手なのに、きっとあの時の謎の胸の高まりのせいだ。
「ふぅ、この恩は必ず返すわ」
「そんなそこまでの事じゃ」
ピーッと会話に割り込むようにキッチンから音が鳴る。
「あ、やかん湧いてる。……お茶入れるので一緒に飲みませんか?」
「この際だわ、それも頂こうかしら」
どこか吹っ切れたように少女はお茶の誘いに乗ると、近くの椅子に腰を掛ける。
私は湯呑に茶葉を入れお湯を注ぎ、彼女に手渡す。
そして私もお茶を作り椅子に座る。
「……」
「……ふぅ」
椅子に座り、リビングの机でお互いお茶を飲む。
静かな時間。ただテレビから聞こえる雑音だけがよく聞こえる。
思わず、家まで上げてしまったがこの少女は何者なのだろうか。お茶を啜りつつも、なかなか会話を切り出せずにいると彼女の方から会話があった。
「それにしてもあなた……ええとそういえば名前を聞いていなかったわね。
私は……エリシア・ウォルステンホルム。 あなたは?」
「え、えと、私は春風詩乃って言います……」
何故か詰まった彼女の名乗り、言い出しにくい事情でもあったのか。とにかく、私も名乗る。
「そう、よろしくねミスハルカゼ。敬称は日本じゃさんだったわね、ハルカゼさんはここ……というか神宮島に来たばかりなの? 随分と生活感がない部屋だけれど」
彼女は無機質な部屋を眺める。コーティングされた木材の床に白い壁と天井、そして、基本的な家具ばかりだ。
「はい、一週間ぐらい前に」
「ふーん、進学かしら?」
「えと、春から神宮島の中学に通うことになってるんです」
「……それって四月ぐらいからでしょ? 今三月の初めよ? 随分早いわね」
「あはは……うん、いろいろあって」
「ふぅん……」
エリシア・ウォルステンホルムと名乗った少女の詮索は特に来ない。単に気になっただけのだろう。軽いやり取りが終わった後、お茶を口に運びながらテレビを見ている。
ぼーっと眺めている彼女と少しの会話を重ね、少し勇気が出た私は思い切ってついに先程の一件を彼女に尋ねてみることにした。
「えと、ウォルステンホルムさんはどうしてここに……ていうかその……どうして空から落ちてきたんですか?」
「ゴフッ!」
急に本題を尋ねたせいかお茶を喉に詰まらせるウォルステンホルムさん。
ゴホゴホッと咽てしまっている。
「す、すいません! やっぱり気になって! そのずっと気になってたんですけどなかなか聞けなくて」
「ゴホッ……いえ、気にしないで結構よ。そうねあなたのその感じだからつい油断してたわ」
「いえ……」
咽ている彼女を目の前に自分に過失を感じ自省する。いつだって私は間が悪い。
「あ、そのなにか、背中と擦りましょうか……?」
少し焦ってよくわからないことを言ってるのは私自身でも自覚しているのだけれど。
「いえ、そこまでには及ばないわ。 大丈夫よ……それで空から落ちてきたことについてだったわよね」
「えと、はい」
「ええと……それはね」
言い淀むウォルステンホルムさん。そんな中、少し前から続いているテレビから元気な声。リポーターがここ、神宮島の学校のお祭りらしきものを紹介している光景が映る。
「さぁ、このようにフリードリヒ鉄十字学院の弥生祭! 様々な屋台を生徒たちが構え、大盛況を博しています!」
先程からテレビの中では学校の敷地の中にたくさんの屋台が並び立ち、生徒たちであふれ、その屋台それぞれをめぐり、生徒達にインタビューしていた。
「わぁ、大きいー、資材の運搬に多脚式運用型機構を採用しているのも鉄十字学院ならではですねー」
画面ではいくつもの脚の様な中央に人の搭乗部をのせた大きな金属の蜘蛛のような機械が人と荷物を載せワシャワシャと動いている。
「おや! あれは浮かせた水を操るパフォーマンスですかね、綺麗ですねー。どうやらあれも最新の技術のパフォーマンスの様で───」
テレビ画面では、制服を着た少年が装置を使い水を空中に浮かべて操っている。
「あんなにいろいろすごいですね……」
「えぇ……そうね……こういうところなのよね、此処は」
「学園都市だとああいうことも学生さんがするんですもんね」
「ほんと馴染みが無いわ」
「エリシアさんも進学ですか?」
「いいえ、私は……大学にもう居るから」
「私と変わらない歳っぽいのに……凄い……普段は何を……あ」
私は失礼かどうかも考えずにづけづけと彼女を詮索してしまう。こんなこと今までなかったのに。今日はやっぱり変だ。
「研究で籠るか仕事ばかりって感じね」
「研究……そうなんですね。もしかして道具の発明とかですか?」
「? 何故そう思うの?」
彼女は湯呑を置くと小首を傾げる。
「その、さっきの傘とか、そういう道具の実験だったのかなって」
「あぁ、なるほど……。……そうよ、実はね。私はああいうのの研究者なの。うん、本当よ。まぁそんなところなの、うん……」
「やっぱり……」
私は納得する。妙に小走りの説明でどこかぎこちなさそうに見えるけれど……やはりいろいろしてもらってることを気にしているのだろうか。彼女は再び湯呑に口を付ける。
先程からかなりのペースでお茶を飲んでいる。傾き具合からしてもうかなり減っていそうだ。
「……そういえばあなたホテルの行き先分かる? スマホが無くて」
「ホテルですか? スマホで調べましょうか?」
「助かるわ、えぇと名前は───」
聞いた名前をスマホに打ち込み、経路を探す。
「多分こんな感じですね」
そうして出た画面を彼女に見せる。
「ありがとう……えぇと……? うーん……」
見たところ彼女はその顔立ちから見るに海外の人なのだろうけれど、交通機関を上手く通れるのだろうか。
彼女は渋い顔で画面とにらめっこしている。
端正な顔で眉をしかめる彼女、そんな彼女を見て。
「あの……よかったら案内しましょうか?」
そんな言葉がつい私の口から出てしまう。
「……いいの?」
「はい、その、買いたい物もあったので」
どうしてだろう、こんな積極的に誰かと関わろうなんて思ったことは今まで私史上初めてのことで。
「ほんと、申し訳ないわね」
「いえ……」
私は一体どうしてしまったんだろう。そんなことを考えつつ鍵を握る。
「どうしたの?」
「え、と、何でもないです」
胸の内に渦巻く感情を整理できぬまま、不思議そうに見つめる彼女を私は取り敢えず笑って誤魔化した。




