エピローグと始まり
『久しいな、ウォルステンホルムの娘』
「大師父様……」
エリシアちゃんが言った言葉を反芻して呟く。すると、横から翠さんが耳打ちしてくれる。
「我らが所属する標館ロンディニウムにおけるトップ、院長です」
「トップ……」
『今回の神宮島における事件の全貌は把握している、エリシア・ウォルステンホルムと神宮島の魔術師翠、そして協力者の娘よ、誠に大義であった』
「……えぇ、光栄です」
「ありがたきお言葉」
「あ、ありがとうございます……」
一番偉い人の労いの言葉、翠さんは淡々と返す。私も返すがエリシアちゃんはまだ事態を呑み込めていない様子で返答もどこか上の空。
『して、エリシア・ウォルステンホルム。今回の働きを鑑み、汝に新たな命を下す』
「……!」
『新たな予見があった、曰く、現時点では不明だが神宮島に近い未来、人の世脅かす大きな災いあり。神宮島に留まりこの災いの元凶を突き止め、未然に防ぐが今回の命……受けるか?』
「!」
「それって……」
エリシアちゃんが神宮島に───
「は、はい! エリシア・ウォルステンホルムの名においてその任務、拝命します!」
『承知した、子細は追って知らせる』
「エリシアちゃん……!」
「えぇ! シノ!」
エリシアちゃんと私はお互いの名前を呼び顔を合わせ喜ぶ。
「またよろしくお願いするわね!」
「うん!」
エリシアちゃんとこれからも……!
飛び跳ねて喜びたいけれど、今の状況なので私は嬉しさを何とかこらえて我慢する。
『そして、汝の姉の生存を確認した』
「「え!?」」
確か、エリシアさんのお姉さんは。
『通常、何も無しに霊脈に移り、魔力を防御も無しに浴びれば、魔力の過剰供給で死に至るだろうが、そこは遺品の力が働いていた』
「……! 遺品」
『直に接続した状態となり、身体を再生させながら生命力を落とすことなく、その生を保っていた。元の生活には時間がかかるがじき、元に戻ろう、しばらくはこの島に常駐させる』
私はエリシアさんと笑い合う。エリシアさんはすごく涙ぐんでいたけれど、それを何とかこらえていた。
『そして、事後処理だが……』
「……え、えぇ、その件に関しては時間さえあれば出来ると思います」
喜びのあまり思わず遮ってしまった話の続き、エリシアちゃんは慌てて答える。
『よい、今回の件は汝らの手には少々余ろう、こちらで受け持つ』
そういうと、同時に何処からともなくいきなりローブ姿の集団が道の先から現れ、沿岸部の方へ向かっていく。
「わ、え、えと!?」
「標館直轄の事後処理部隊ですね」
私の驚きに翠さんが反応し教えてくれる。
「ど、どこから……」
やがて見えなくなったと思ったら景色の先で何かが浮いたり、光って見え始める。
もう始めているのだろうか……。
『最後に茶髪の少女よ』
「え、あ、はい!」
急に私を指名され思わず上ずった声で返してしまう。
『本来、只人が魔術世界に干渉することは許されず、相応の対処で処理することが基本である』
翠さんは特に表情を変えずフクロウを見つめてる。私が普通の人だと分かってたのだろうか。
「……」
「その大師父! その件については私の不徳の致すところであり……」
『よい』
エリシアちゃんが私をかばうが大師父と呼ばれている人物はこれを制す。
『……されど汝に起きた委細、そして汝が持つ異能を鑑み、裁決を下す。仮ではあるが魔術師の称号を授け、汝に命を与える。ウォルステンホルムと共にこれからの任務に同行し異変の状態を暴き解決するのだ。この命のをもって今回の件は不問とする。』
「そ、それって……」
魔術師としてエリシアちゃんと頑張るということだ。
怖いけれど……でもこんな私でも力になれるのなら。
「う、受けます! 頑張ります!」
『うむ、聞き入れた』
「ふぅ……お咎めなし……一安心ね」
「う、うん」
『そして、翠よ。汝も同様に現地の魔術師としてこの使命を』
「かしこまりました」
翠さんは深々と頭を下げる。
エリシアちゃんはホッとしている。
それにしても、何も処罰がないということはとても嬉しいことけれど……任務……やっぱり私でも大丈夫なんだろうか……少し不安……いや、頑張ろう。
そう考えていると、フクロウは大きく羽を広げた。
『以上をもって一連の事件の顛末とし結びとする。……科学と魔術、同時に二つの世界で起こった二つの長き争いは幕を閉じそれぞれ新たな時代が始まろうとしている。新たな時代を生きる、決して交わることは無かった少女たちよ。この世界の行く末は若き時代の翼である汝らに託される、頼んだぞ』
「はい」
「は、はい!」
『では、さらばだ』
そういうと、フクロウは塵のように消えていった。
あのフクロウもそもそもそういう魔術だったのだろうか。
「ふぅ、疲れたわ……」
フクロウが消えエリシアちゃんはどっと疲れた様子を見せる。
「お疲れ様……とにかくやったね、エリシアちゃん」
「えぇ、おかげさまで。これからもお互い長い付き合いになるわね……何はともあれまずは帰りましょうか」
「うん」
喜びを分かち合い、そして私たちは帰路に着く。
「でも魔力はもうほとんど無いのよね……」
「それならば私がここまで車で来ているのでお送りできると思います」
エリシアちゃんの魔力切れ問題に翠さんが提案を促してくれる。
「何から何まで助かるわね……」
「そ、その、私もいいですか?」
「勿論です……ただ少し問題があって血を止めながら来たので車の中が少々血の匂いで充満しているので耐えていただく必要があります」
「……ほんと無茶するわね……お世話になるわ」
呆れたような顔をするエリシアちゃん。
「わ、私もお世話になります翠さん」
「はい、それでは向かいましょう」
翠さんが先導し道を歩き私たちもそれに続く。
気が緩んでいるせいか私の口から思わず欠伸が漏れてしまう。
「……一睡もせずに付き合ってくれたものね、取り敢えず今日はご飯食べてお風呂に入ってゆっくり寝なさい」
「うん、ありがとう。そうさせてもらうよ……」
「それにこれから忙しくなるもの。取り敢えず引っ越しの準備! ハルカゼも荷物纏めておいてね」
「わ、私も!?」
「? そうよ? これからは一緒に任務にあたるんだから、一緒に居た方が何かと都合がいいでしょ?」
「そ、そうかもだけれど……」
エリシアちゃんと朝も夜も……。考えただけで何故か顔が熱くなる……なんでだろう。
「う、うまくできるかなぁ……」
「できるわ。私とあなたなんだから。いい物件探さなくっちゃね……後制服も用意しないと……」
「……制服? なんで?」
先を行くエリシアちゃん。こちらにフッと笑いながら振り向きこんなことを言う。
「私、あなたの学園通うことにしたから」
それって。
「え!?」
「だってそっちの方が何かあったらシノを守りやすいし……災いも現時点では不明な以上情報を集める以外やることもないもの」
「で、でも……どうやって」
エリシアちゃんは私と並びながらゆっくりと歩く。
「ここだけの話、神宮島には館の息が掛かってるものが多くいてね、多少の社会制度ぐらいならどうとでもなるの」
「なるほど、その方がハルカゼさんにもよいでしょうし、私もお手伝いしましょう」
賛同する翠さん。
「助かるわ、翠」
ニヤリと笑い合う魔術師の二人、大丈夫なのだろうか。
「大丈夫よシノ……それに私たち二人ならどんなことだってどうとでもなるわ」
私の表情で察して、エリシアちゃんはそんなことを右目で軽くウインクしながら話す。
そうなのかもしれない。もう独りじゃない、そう教えてくれたエリシアちゃんと二人なら。
「ふふ……うん、そうだね。私たちなら……エリシアちゃん」
「えぇ、さぁ行きましょうか、シノ!」
そんな掛け合いを陽だまりに溶かしながら私たちは朝日の中、家路につく。
どころどころの危なげな道を二人に助けてもらいつつ、吹き込む風に押され私は進んでいく。
凸凹の道の三人、日はすっかり昇り一面の青空が広がっている。
三月某日、神宮島は夕凪地区。冬は終わりを告げ、春の到来を感じさせる暖かな風が海辺にふわりと吹いていた。
◇◇◇
プルプルとスマホが鳴る。
私は机の上に置いていたスマホを手に取り開く。
「あれー? エリシアーここにお菓子なかったっけー?」
「もう! 姉さん! 病人なんだからお菓子は控えて!」
家のどこかで聞こえるやり取り。
「叔母さん……時間いいの? そっか、よかった。ううん、大した用事じゃないの。ただ、何となく」
通話をしながら、窓をカラカラと開く。
部屋に吹く暖かな風、光を乱反射しながらカーテンがゆらゆらと揺れていた。
「あのね、叔母さん。私、ね、友達が出来たの」
お話はこれで終わりです。
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