表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士よ、再び剣を取れ  作者: 鶏のささみ
王宮騒乱事件
34/46

第34話 王宮騎士団


 王宮騎士団、それはアークルード最高峰の騎士団である。身命を賭し、王の剣となり、盾となり、民を守る——多くの騎士学生が目指す、理想の姿。




 そんな騎士団が所属する王のお膝下、王宮で現アークルード女王、クラウディアは妖艶な笑みを浮かべていた。




 彼女は見た目は少女と言って差し支えない。しかし舐めてもらっては困る、それ相応の威厳と、知略謀略を兼ね備えているからこその、この王の器に収まっているのだ。




「随分一人の子に肩入れしているのね、ローグ」


「……それは陛下に関係ないことでは」


「重要なのは関係あるなしじゃないの。私が興味を持っているだけよ。——アルス・ランフォード、彼の魅力にね」




 相対するはローグ・オーディン、アークルード最強の騎士、である。蛇のような視線にローグは眉をひそめながら、答える。




「彼は何者でもありません。突出した才があるわけでも、優れた血を持つと言うわけでもなく——」


「なら、なぜそこまで彼に肩入れするのかしら?」


「……ッ」




 クラウディアの血赤の双眸がローグをじっ、と見つめる。絡みつくように、まとわりつくように。


 王宮に住まう蛇は、大陸最強の騎士の真意を確かめる。




「あなたが自由に動けている意味、わかっていないわけではないでしょう。今のあなたの権力は、私のお膝下、女王の威光あってこそ」


「……承知しております」


「なら問いましょう、何故そこまで彼に肩入れするのか」




 ローグは苦虫を噛み潰したような顔をした後、しばし黙り込む。しばらくの沈黙がその場に流れた後、ローグはおもむろに口を開いた。




「陛下、少々『先』の話をしましょう」


「——あら」




 クラウディアは眉を上げ、微笑む。






 ◆






「王宮騎士団体験ツアー、だってさ」




 休み時間に、カイルは魔術によって印刷されたパンフレットを手に取り、読み上げる。それを聞いて、身を寄せるアルス。




「…………」


「アルス、もしかして興味あるの?」


「そりゃ、な」


「実は僕も。王宮騎士団を目指してるって、何だか恥ずかしいけど、言うだけならただかな」




 王宮騎士団。誰もが憧れる、騎士団の頂である。


 かのローグ・オーディンも所属していると噂の、王の近衛。騎士で上を目指すとなれば、当然そこが目標となる。




 二人が会話していると、ファルニウスがどこからともなくひょいと現れた。




「アルスはだめ。カイルは論外。俺でさえ受かるかどうか。王宮はそういう世界」


「アルスも無理なの? 最近のアルスはすごいじゃないか」


「サシで俺に勝てないようじゃダメ。結局、アルスは小手先の技術でズルしてるに過ぎない」


「そんな言い方ないよ」




 カイルは躍起となって反論してみせるが、




「カイル、無理に反論しなくていい。事実は事実だ」




 アルスは落ち着いた雰囲気で答えてみせる。


 


 王宮騎士団には例年、アークルードからはほんの数名からしか入団者が出ない。そもそもの募集の絶対数が少ないのだ。そもそも学年から誰一人受からないことだってある。




 圧倒的なまでの実力主義。数ではない、抜きん出た個こそが正義。そうして、ここまでの名声を作り上げたのが、王宮騎士団である。




「まあでも、体験するだけなら、いいよね?」


「ん、カイルが行っても理想に溺れることになるだけ。大人しく、慎ましく、自分に合った騎士団がいいと思う。これは友人としての忠告」


「えー」




 ファルニウスに小言を言われながらも、カイルは口を尖らせてパンフレットを読み込んでいた。




「いいもん。僕は応募するよ。二人はどうするの」


「「行く」」




 アルスとファルニウスは口を揃えて、答えてみせた。






 ◆






 王宮騎士団体験ツアー。


 年に一回、アークルード騎士学校の休日に行われるそれは、王立学校ということもあり、多くのアークルード生を受け入れている。


 かくいうアルス、カイル、ファルニウスの三人組もそのツアーを受けていた。三人揃って、案内役の騎士の案内の元、王宮に足を踏み入れる。




「うわあ、名門御三家揃い踏みだ」




 由緒正しき名門御三家の令息令嬢達もやってきていた。セリーナにヴァンにゲニングまで。由緒正しき騎士の家、ならば王宮騎士団を目指さねば恥というもの。




 セリーナがちらとアルスの方へ目線をよこす。




(……お前の不安に付き合ってる暇はない)




 アルスがそれとなく視線を逸らすと、アルスのことを睨み返すセリーナの姿が視界の端に映った。




(……ミスったか)




 嘆息するアルス。


 近くのヴァンやゲニングも呆れていた。




 さて、そんな皆がそわそわしている中、案内役の騎士が口を開いた。




「どうも、今回の案内役のソロル・サンスロスだ。女王陛下も我が国の騎士学生には目を配っていらっしゃる。せめて粗相のないように、な」




 ソロルはそれだけ言うと、何やら意味ありげな顔をしながら、数歩、陰に潜むように歩き——




「ごぎげんよう、みなさん」




 女王、クラウディアが美しい金髪をたなびかせながら現れる。


 見た目から把握できる年齢としては、自分たち学生と同じ程度だというのに、発せられる一言一句、一挙手一投足に重みがあった。




 本当に、見た目はただの幼い少女なのだ。王女と言われても驚かない。それにも関わらず、威厳を兼ね備えているのだ。まさしく、王の器。




「まずはこのツアーに参加してくれた皆さんに、感謝を。王宮騎士団、身命を賭して国のために、民のために命を捧げる存在——あなた達はこの場所で、そんな未来を思い描くのです。現場の騎士達の背中を追いかけ、現実を知り、現在の自分とのズレを修正する、そんな機会になると良いでしょう」




 クラウディアは笑みを浮かべながら続ける。




「辛く、厳しい現実に挫けそうになることもあるでしょう。その度に、今日のことを、王宮の騎士の背中を見て、思い出すのです。先輩達が記した道標はきっと、あなたをどこまでも連れて行く原動力になりますから」




 この場にいる一同が、跪き、頭を下げた。


 この人に尽くしたい、この人の誉となりたい、そんな思いが、この場にいる学生の心を埋め尽くす。




 息を呑むほどの美貌、そこから発せられる美辞麗句。心奪われない人間がいるだろうか。彼女はなるべくしてなったのだ、王に。この国を統べる頂に。




「では、皆さんめいいっぱい楽しんでください。今日という日が、みなさんにとって良き思い出となりますように」




 こうして、王宮騎士団体験ツアーが始まった。






 ◆






「アルス・ランフォード君、少しいいかしら?」




 鈴のような声色に呼び止められ、アルスは思わず肩をびくりと震わせる。なぜならば、その声の主は女王陛下クラウディアであるから。




 国の頂が、なぜ凡人である自分一人を呼び止めるのか。


 アルスには皆目見当もつかない。




「な、なんでしょうか」


「ちょうどいいところでした。私とお茶しません?」




 王宮の蛇は自らの巣にて、年端も行かぬ少年を絡めとる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ