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騎士よ、再び剣を取れ  作者: 鶏のささみ
王立アークルード騎士学校
33/46

第33話 見たくない現実


 それからも、定期的にこの種の『実践的』なグループワークの講義は繰り返された。


 だが、その度にアルスの所属する小隊が結果を出すのだ。勿論、実力が反映されているのだろうが、それ以上に、この形式は運も絡む。その中で結果を出し続けることがどれほど異常なことか。


 さらにこの講義を皮切りに、実技も今までの基礎を重んじるものとは異なり、現実のダンジョン攻略に基づいた講義が多くなってきた。


 そのどれもで、アルス・ランフォードは好成績を叩き出す。あのファルニウス・セリオンでさえも出し抜いて。ありえないことである。


 ——その様相に、生徒達は思わず、彼が『世代の頂点』と謳われた時期を思い起こしてしまう。




 ◆




「何か秘密があるに違いない、アルスの裏を暴いてやろうぜ」

「そ、そんなこと言われてもなあ」


 なんだかんだで学校生活を通じて仲良くなったヴァンとカイル。教室で今日も今日とて話す話題は、一躍時の人、アルス・ランフォードについてであった。


「お前ルームメイトだろ、アルスの奴はなんか部屋でコソコソやってたりしないのか」

「うーん、ストレッチとかは入念にやってたかな。あとは食事管理がどうとか」

「……決定的なもんじゃねえな」

「強いて言えば時々、門限の時間を破って外に出ていくんだよ。別に告げ口なんかはしないつもりだけど、変だなあとは思っててさ」

「ふむ」


 アークルード騎士学校には生徒の就寝時間を拘束すべく門限が定められている。そのため、大抵の生徒はわざわざ門限を破って自身の成績を下げかねないような行為はしないのだが。


「——なら、そこを尾行するってのはどうだ」

「ええ!?」

「ローグ先生に合ってるかもしんないだろ? なんか秘密があんだよ」

「確かに……でもバレたら怒られちゃう」

「なら余計辻褄が合う。アルスはローグ先生に見逃してもらってんだよ。他の教師もあのローグ・オーディンには口出しできねえんだ」

「なるほど」


 確かに説明はつくが——


「アルスが門限を破る時間は不定期なんだよ。だからわかったとしても僕たちで合流できるかどうか」

「……困ったな」

「そもそもさ、ローグ先生とアルスに何らかの関係があったとして、それを突き止めてどうするのさ。陰からコソコソ見てるだけじゃ何も活かせないよ」


 結局は問題の根本的な解決にはならないのだ。

 一番手っ取り早く済ますならアルス本人から聞く他ない。


「——で、その俺がどうしたって」


 噂をすれば、アルスがいきなり二人の背後に現れた。


「な、なんでもないよ!」

「……何のことだろうな」


 アルスは露骨に眉をひそめながら机から教科書を取り出す。


「知りたいことがあるなら直接本人に聞くのが一番早い。——俺はいつだってそうしてきた。強くなるためならな」


 カイルとヴァンはお互いぱちくりと目を見合わせて、その発言の真意を探る。


「直接教えてくれるってこと……?」

「別に求められても拒否はしない。友達、だろ」


 アルスは苦笑しながら、次の講義の準備をしだした。

 二人はすっかり忘れていた。

 最近の強さだけを追い求める彼からは近寄りがたい雰囲気が発せられていたが、元々の彼はこんな風に、優しい人間であった、と。




 ◆




 そんなこんなで、放課後。アルス、カイル、ヴァン、ついでになぜかセリーナまでもが校庭での秘密の特訓に付き合うこととなった。


「なんでローレンスのお嬢さんがいんだよ」

「悪かったわね」


 ヴァンはアルスに何か言いたげな視線を送るが、アルスは肩をすくめて言った。


「しょうがないだろ。『約束』をすっぽかしてたからこいつ不機嫌になってるんだよ。俺について回らないと気が済まないらしい」

「そういえば、あったね。そんなの。アルスがすぐ休学しちゃったから有耶無耶になったんだろうけど、魔道具店で——」

「そ、そこまでにしときなさいよ!」


 べちん、とセリーナの鉄拳制裁。

 「ぎゃふん」と情けない声を上げながらその場に倒れ込むカイル。彼女に余計なことを言うと碌なことにならない。身につけよう、デリカシー。


「——で、教えてくれるんだろ。お前が最近メキメキと実力を伸ばしている理由」

「まあ、教えてやれるはやれるんだが、それを活かせるかと言えば微妙なんだが」

「……?」

「端的に言えば俺とお前達の違いは、実戦経験の差だ」


 そう言って、アルスはローグ・オーディンとの過去の出来事、休学していた期間のことをぽつぽつと話し始めた。




 ◆




「あ、ありえないわ」


 唖然とするセリーナ。

 カイルとヴァンも同様の気分であった。


 そもそもダンジョン攻略を騎士学生の身分で行うことすら烏滸がましいというのに、それを短期間で、いくつものダンジョンを攻略してきたのだ。


 そんな経験を詰めば、誰でも嫌でも伸びる。

 特に、最近の講義形式になってから頭角を表してきた理由がまさにこれであった。


 だが、自分が同じ身分になったとてやり切れるかと答えれば怪しい。休学から帰ってきて、傷だらけ痣だらけになっていたアルスを見ればわかる。

 息を呑むほどの命のやり取り、下手をすればこの世からいなくなっていてもおかしくない。


「それでも、お前らに噛み砕いて教えることはできる。本職の、騎士の仕事の話だ」


 決して想像しているような甘い世界では、ない。


 血に塗れ、泥に塗れた退魔の仕事、それが騎士。


 時には同僚の死を間近で拝むこともある。

 隣で戦ってきた者が、何なら自分が——明日死ぬかもしれない、そんな世界。


 アルスはありのまま、ローグ・オーディンと過ごした日々のこと、あるいは学んだ技術を伝える。


 それらを聞いていたセリーナは青ざめ、カイルとヴァンもさすがに堪えたのか気を悪くしている。


「俺たちは知れただけ幸運なんだよ、誰もが夢見、憧れる職業の騎士。その現実の一端を、な」


 誰もが押し黙る中、アルスは飄々とした様子で剣を取ると、


「さあ、一人ずつ、かかってこい。見てやるから」


 決して見たくはない現実。

 されど、目の当たりにしなければ進めないこともある。騎士見習いである彼らは、こうして今日も小さき一歩を歩んでいく。

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