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騎士よ、再び剣を取れ  作者: 鶏のささみ
王立アークルード騎士学校
23/29

第23話 己の道を往く

 序列戦。それは同学年の生徒同士で決闘を行い、どちらが上に立つのかを決める戦いである。

 

「悪く思うなよ、アルス・ランフォードォ」

「……簡単に勝てると思うなよ」


 決闘は昼休み、校庭にて行われていた。立会人はまさかのファルニウスが手を上げた。

 一度は退学となったものの、編入し再びこの地に帰ってきたアルス・ランフォード、そして名門御三家、ガウニール家のヴァン・ガウニール。誰もがその決着の行方を見守ろうとしていた。

 ヴァンの序列は三位。アルスはここに勝てば一気にひとっ飛びで序列三位、晴れて上位層の仲間入りとなる。


「ヴァン、お前が家がらみで苦労しているのは知っている。だからと言ってここまで事を急ぐ理由はあったのか?」

「……っるせえ。今やらなきゃいつお前を倒せる? 衰えてんだろ、まだ鈍ってんだろ、なら今しかねえ」

(さすがにブランクは見透かされている、か)

「お前からしたら心底くだらねえ意地の張り合いだろうな、そんでも名門御三家は強くあらなきゃならねえんだ。序列で示さなきゃなんねえんだ」


 ガウニール家という、ある意味呪い。誰よりも優秀でなければならない。力を示さねばならない。その矜持が、ここまで三家を繁栄させてきたのだから。

 そんなヴァンは、苦しげに目を細めながら訴えかけてくる。


「ファルニウスはまだわかる。だがお前はどうだ? アルス・ランフォードは努力を重ねて見事名門御三家を打ち倒せるようになりました、そんな綺麗事が通用するとでも? あるのは、入学当初落ちこぼれだった田舎者のお前に、名門御三家が惨めにも敗れた、その事実だけなんだよ」

「…………」

「俺がここでお前を倒す。そしたら誰にも邪魔されねえ。——俺は俺の道を往くんだ!」


 ヴァンが吠える。ガウニール家という鎖に縛られながらも、懸命に吠える。自らの自由を欲すように、自らの道を示すように。


「……受けて立とう」


 一方のアルスの瞳からは、ごうごうと漆黒の炎が漏れる。それは、果てなき、渇いた、強さへの欲望。

 そのまま正眼に剣を構えた。染み付いた体の動きをイメージする。決して間違えは、しない。積み重ねられた、凡の頂。


「両者、向き合って。よーい」


 ファルニウスが声を張り上げ、手を挙げる。

 その黄金の瞳は、輝きに満ちていた。その貌は、笑顔に満ちていた。

 ファルニウスは予感していたから。この戦い、勝った方が己の首元に届く。ならば、見届けるまで。


「どん」


 剣と剣が、交錯す。




 ◆





 アルスとヴァンの戦いを見届けに、多くの生徒が校庭に集まっていた。あのアルス・ランフォードと名門御三家、序列三位のヴァン・ガウニールとの決闘である。皆、その行く末を見守っていた。


 かくいうカイルとフィーネ、そしてセリーナもその輪に入り、じっとその戦いに見入っていた。


「今日知り合った子、そんなにすごい人だったんだ」


 セリーナから名門御三家の情報を知り、驚愕の様子のカイル。剣闘の授業で偶然話しかけられ、偶然組み手となった相手がこれなのだから、驚くのも仕方なし。


「それをいうなら、私も、ね」


 すかさずセリーナがカイルに指を指しながら、指摘してくる。

 そう、この女、舐められがちだが名門御三家のご令嬢である。ずい、と顔を近づけながら言ってくるので、カイルはその美貌にどぎまぎして思わず目を逸らした。


「あ、あはは……」


 苦笑を漏らすカイルを他所に、フィーネはセリーナに訝しげな目線を向けながら口を尖らす。


「意外です。あなた、そういうことを誇示するの、嫌いなタイプだと思っていました」

「……教えてあげてるのよ。人の身分も知らずに、のうのうと人のテリトリーに入ってくるバカは散々見てきたから」

「それってアルスのことですか?」

「……っさいわね」

「何を聞かされてるんでしょうか、はあ」


 そんなやり取りをしつつ、三人ともとりあえずはアルスの勝利を祈る。なんだかんだで関係性を構築しつつある三人であった。




 ◆




(……こいつ、なかなか!)


 激しい剣戟の中、アルスは驚愕に目を見開く。驚くべきはその苛烈な攻め。縦横無尽な攻撃がアルスを襲う。アルスは防御に徹する他なかった。


 だが、間違えない。アルスとて防御には自信がある。経験から来る勘には頼らない。学習するのだ、一挙手一投足を。


 重ねて言うが、アルス・ランフォードは『才能』を持ち得ない。小柄で華奢な肉体。反射神経も動体視力も決して優れているとは言えない。

 ではなぜここまで剣の実力を伸ばしたのか。もちろん『師匠』であるローグ・オーディンの教えも大きかったが、それ以上に、こと序列戦においてはアルスの学習能力が大きかった。


 目で見て、盗む。徹底的に相手の癖を観察する。そこから導き出される計算結果を持って、相手を徹底的に追い詰める。——それこそが、アルス・ランフォードの名をここまで知らしめた、いわば虚像の姿である。


「どうした、アルス・ランフォードォ! ファルニウスの言う通り、衰えてんだろ! そんな甘えた意気込みで勝てるほど御三家はヤワじゃねえぞ!」

「……クッソ」


 だが、アルスのブランクがそうはさせてくれない。

 セリーナ・ローレンスも、ファルニウス・セリオンも、長く戦い研究した間柄であった。セリーナに圧勝し、ファルニウスと肉薄した戦いを演じれたのも、それが大きい。だが、ヴァン・ガウニールは違う。


(こいつ、俺が居ない間に、何があった!?)


 ヴァンの剣が、狂犬の如くアルスの心を噛みちぎる。わからない。対策が練れない。故の防御、受けの姿勢。しかしそれは——


「バレてるぜえ! アルス! 所詮お前の強さはハリボテ! お前の異常な努力、ずっと見てきた俺は全部知ってる。だからこそわかるんだよ、お前の弱点がなあ!」

(黙れ。黙れ、黙れ。名門御三家の甘い汁を吸ってきた分際で、散々才能に恵まれた分際で、俺の努力の何がわかる!? お前は恵まれていながら一度俺に負けた! だったら勝てるはずなんだ、見つけろ、こいつの『隙』を……!)


 思わず感情的になって、思考が逡巡するも根本的な解決には至らない。

 受ける、受ける、受ける。とにかく受ける。わからない故防御に手を回すしかない。


 そんなアルスの様子に周囲も段々ざわめいていく。

 あのアルス・ランフォードが劣勢、ということに。


「嘘、ですよね」

「そんなわけないよ、アルスは強い。僕たちは知ってる」


 そこには、カイルとフィーネの会話を唇を噛みながら必死に聞き流すセリーナの姿があった。


(あいつは誰よりも努力してきた。私が一番知ってる。だけど、あいつの強さの本質は、今この場じゃ発揮できない……)


 アルスにはその強さの性質ゆえ、弱点がある。


 ——アドリブに対応できないのだ。


 退魔の騎士としてはあまりにも致命的。だからこそ、『最強』と謳われるローグ・オーディンの教えを受けることとなった。アルスが彼に何を教わったのかは知らないが、ダンジョン攻略において彼がその弱点を晒すことはない。


 しかし対人、しかも期間を空けていたとなれば話は別。相手の戦い方に変化が生じれば対応に時間がかかる。そこを今、アルスは突かれているのだ。


 セリーナは拳を握りながら、戦いの行く末を見守ることしかできない。


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