表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士よ、再び剣を取れ  作者: 鶏のささみ
王立アークルード騎士学校
16/28

第16話 充実した一日

「編入試験で私にこてんぱんにされといてよく言うわね」

「たった一度の勝負で決めるなんて不公平ですよ!」

「じゃあ今、試してみる?」

「喜んで受けますよ」


 あれよあれよという間にセリーナとフィーネの口喧嘩は激しくなっていく。その様子をなんとも言えない面持ちで見つめるアルスとカイルの二人。


「セリーナの奴、相変わらずだな」

「ひょっとして、あの金髪の子ってアルスの知り合い……?」

「ん、まあそうなる」

「アークルード生と面識があるなんて! アルスは流石だなあ」

「まあ俺は元アークルード生だから。あいつとは同級生だったんだよ」

「ええ!?」


 目をぱちくりさせて驚くカイル。そういえばこの事はカイルやフィーネには言ってなかったか、とアルスは思い至った。


「す、すごいよ。あんな美人さんとお近づきだなんて」

「でもあいつ、見た目はいいけど中身はからっきしだぞ。少なくとも俺は仲良くなって良かったと思うことはない。あいつと関わったが最後、休日はなくなりあいつの遊びに付き合わされるハメになるぞ」

「え、ええ……」

(いや、それってデートじゃん)


 カイルはすぐさま思い至ってしまったことは口にはださない。こう見えても空気の読める男なのだ。


 一方アルスはセリーナに休日返上で振り回された日々を思い出していた。他の男子からしてみれば喉から手が出るほど羨ましい体験をしているのだが、どうにも彼にはその自覚がないらしい。

 誰もが羨む美麗なる高嶺の花、彼女がその素顔を見せているのは彼だけ、という信頼の証とも言えるが。


「アルス、なんか言った?」


 先ほどまで口喧嘩していたとは思えない速さでこちらの方を睨んでくるセリーナ。


「い、いや、なんでもない」

「絶対ロクでもないこと言ってたわよね!?」

「言ってないって」

「何が中身はからっきし、よ。その口でよく言えるこことね!」

「げ、聞こえてたのかよ」


 怒りの火花の矛先がアルスへと向く。完全に自業自得である。アルスはチラリとカイルの方を見るが、そこにはブンブンと頭を振る情けない少年の姿しかなかった。


 助け舟は来ない。悟ったアルスは大人しく白旗を上げる。


「悪かったって。また学生の時みたいに言うこと聞いてやるから、な?」


 アルス、ここにきて渾身の誠意を込めた謝罪。

 一方のセリーナは何を思い至ったか、小さな声でぼやく。


「じゃ、じゃあ……ート」

「だから、悪かったって。何がお望みなんだ?」

「デ、デートしよう……って言ってるの」


 一同、ぽかんとする。先程まで撒き散らしていた火花はどこへ行ってしまったのか。そこには頭お花畑の少女がいた。威勢などあった物ではない。


「お、おう……。じゃ、合否出たらどっか一緒に行こう。これで許してくれるんだな?」


 こくり、と頷くセリーナ。顔は真っ赤である。


 これが衆目の場であれば、この光景を見た世の男子全てを敵に回すであろう。腐っても彼女は美人なのだ。


 ほっ、と一息ついて肩の荷を降ろすアルス。この男、素でこれだから救えない。その様子をこれまた何とも言えない面持ちで見つめるカイルとフィーネ。


 フィーネはフィーネで、今まで何故こんな女と口論していたのか恥ずかしくなる勢いである。


「僕ら、何を見せられてるんだろう」

「夫婦漫才ですよね、これ」

「フィーネ、これがアークルード生なんだよ、心してかかろう……。さもないと呑まれちゃう」

「で、ですわね」


 アルスの知らないところで謎の結束を固める二人であった。




 ◆




 それからあっという間に時は過ぎていき、謎に仲を深めていった三人と一人。女子勢の行きつけの甘味処へ付き合わされたり、雑貨屋でちょっとした買い物をしたり。なかなか充実した一日であった。


「すっごい疲れたー」

「……だな」

「でも、楽しかったよね。知らない景色ってワクワクするや」

「ならよかった」


 学生寮で今日の感想を語り合う二人。こういう日も悪くはない、と改めてアルスは思う。


「さ、いよいよ明日は合否発表だ。明日に備えて早めに寝よう」

「そ、そうだったあ。緊張するなあ」

「なあに、なんとかなるさ」

「アルスが言ってくれると自信が湧いてくるからすごいや」

「それに、受かってても落ちてても、俺達の関係は変わらない。そうだろう? ならいいさ」

「……! うん!」


 カイルは改めてこの出会いに心の中で感謝する。田舎から出てきて何をするにも不安——そんな時にこんなにも尽くしてくれた友がいたのだ。これほど恵まれた出会いもそうそうないだろう。


「じゃ、部屋の明かり消すぞ」

「う、うん」


(アルスやフィーネと同じ学び舎で学べたら、きっと毎日楽しいだろうなあ)


 胸に広がるはきらきらとした夢のような学校生活。

 自分には出来すぎた願いだとわかってはいるが、それでも期待してしまう。


 三人で合格して、晴れて夢見たアークルード生の仲間入り。それはどんなに充実した人生だろうか。カイルは希望を胸に抱えて眠りにつく。


 それと同時に、少しばかりの不安も抱く。あれほどの実力者であったアルスが、再び戻ってきたとはいえ一度は挫折した場所。その意味を知ることになるのは、いつになるのだろうか、と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ