表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士よ、再び剣を取れ  作者: 鶏のささみ
王立アークルード騎士学校
11/46

第11話 阿鼻叫喚

 いよいよ、編入試験も二日目。

 現役アークルード生も交えた、バトルロワイヤルが始まった。

 戦場はアークルード騎士学校の広大な土地に含まれる、森の中。


「ん、どーせ雑魚ばっかり。興味ないんだよね、こーゆーの」


『神剣』ファルニウス・セリオンはぐいっと体を伸ばしながら辺りを見回す。


(……ま、カイル君とやらに会えればいっか。それと、アルスの奴を叩きのめして、また“こっち側”に引き摺りだす。うん、悪くない)


 試験開始の合図とともに、ファルニウスはぐん、と駆けた。そのまますれ違い様に次々と同級生や試験生を切り捌いていく。この蹂躙劇すら彼にとっては過程に過ぎない。試験の有様はまさに阿鼻叫喚。この場は最早『神剣』の独壇場。並び立つものなどいない。


(早く、獲物を見つけなきゃ)


 すべては自身の道楽のために。

 神に選ばれし少年は、白髪を宙にたなびかせながら嗤いながら駆けてゆく。その黄金の瞳は、何を見る。




 ◆




(全く……やりすぎよ、ファルニウスの奴)


 名門ローレンス家の令嬢、セリーナ・ローレンスは、阿鼻叫喚と化した森を呆れながら見つめていた。

 彼女とて、アルスやファルニウスには及ばぬが成績優秀。『頂』に届かぬだけで、実力自体はそれ相応のものを持っている。


(ま、『神剣』をここに投入した時点で茶番になるのは目に見えていたけど、ここまでとはね)


 そもそもこのバトルロワイヤルという試験自体、穴だらけの欠陥である。試験を受ける生徒にこそバレていないが、正確に順位をつけることなど出来ない。

 故に、見られているのは立ち回り。如何に戦況を俯瞰し、最善の択を取れるか。時には脅威を排除するために、敵と柔軟に連携することを求められる。


 求められているのは結果ではなく、過程。


(こっちも成績かかってるわけだし、タダでは死なないわよ)


 ファルニウスが暴れ回っている地帯からは即座に退避し、『事故』に遭わないように注意を払う。とにかく今は混沌とした戦場から抜け出さなければならない。

 リスクはある。この呆れるような光景、同じことを考えない理由がない。他人と鉢合わせることは充分有り得る。それでも、あの『事故』に轢き殺されるよりはよっぽど——


「「あ」」


 視界に入ったのは銀髪の少女。どうやら天は味方してくれないらしい。




 ◆




「な、なんだこれ……!」


 カイル・セルウィンは目の前の光景に絶句していた。次々とライバルが蹴落とされていく。たった一人の白髪の男に、大勢が為す術もなくやられていく。その衝撃はアルスの剣を見た時以上。


 まだまだ田舎者の他所を知らぬカイル。アルスやフィーネという強者に触れ、世界の広さを痛感したばかりだというのに、これは。

 別次元としか言いようがなかった。

 それでも、


(これが騎士の世界……!)


 胸の奥から湧き出る光は止まらない。強い憧憬が、まだまだ発展途上の、小さき体を突き動かす。順位など最早彼の頭の中からすっぽ抜けた。

 天才、その片鱗を覗かせる少年は、全てを糧とし、喰らわんとする。

 それでこそ、神童。

 だからこそ、天は彼に味方する。


「ん、もう会えた。ラッキー」


 戦場の混沌の渦中。

『神剣』、ファルニウス・セリオンと、鉢合わせる。


 カイルはすぐさま身を構えた。意識を深く、深く潜り込ませて——


「お、やるじゃん君」


 黄金の瞳が、カイルをじっと見据える。

 その眼に映るは道楽のみ。どこまでも、天才というのはエゴの塊である。


「俺を……楽しませてくれよッ!」


 ファルニウスは雷光の如く俊敏なスプリントを敢行。絡めてナシの一直線。


(ふー……)


 相手が誰であろうとカイルのやることは変わらない。

 深く深く息を吐き、自分を『無』に染め上げる。

 木の葉の揺れる音すら聞こえなくなり、世界は真っ白になる。

 そこにいるのは、自分と、目の前の男だけ。

 極限の集中状態。第六感に身を任せ、獲物が来るのを、待つ。


 ——今。


 ガキン、と剣がぶつかる甲高い音が鳴り響き、カイルはその一撃を弾いてみせた。そこに差し込まれる、閃光の如くカウンター。

 その一瞬、ファルニウスは笑みを浮かべる。“こちら側”になりうる人間だと、理解したから。

 ファルニウスはそれを予想していたかのようにいなす。閃光、それすらも上回る反応速度で。


(あれ、手応えがない——)


「はい、ざんねん」


 首に添えられた刃が、カイル・セルウィンの敗北を意味していた。

 一瞬の攻防。たったの二手。されど、今のところは、この試験におけるファルニウス・セリオンとの勝負の最高手数である。


「ん、悪くない。それにその姿勢、気に入った。()()、遊ぼう」

「あ、ちょ」


 話す暇もなく、ファルニウスは去っていく。

 その背中は妙に満足げだった。


(何も、出来なかった……)


 まだまだ若き新芽、挫折を知る。

 しかし彼もまた、笑みを浮かべていた。『天井』をこの眼で見て、感じ取った。ならばそれも糧としよう。彼もまた、神に愛されているのだから。


 カイル・セルウィン、これにて脱落。




 ◆




 『神剣』が戦場を荒らす中、戦場には大きなうねりがもう一つ産まれつつあった。


 アルス・ランフォード。

 かつて世代の頂点、とまで謳われた騎士学生。

 その勢いは、止まることを知らず。頂を求め、欲望のままに、剣を振るう。


「何でここにお前が!?」

「すまない」


 一太刀で旧友を無力化し、軽くあしらう。

 また一太刀、もう一太刀。出会い頭にライバル達を蹴落としていく。

 一騎当千。その暴れっぷりに、戦場には新たな驚愕が走った。


(多少は衰えているが、問題はないな)


 アルスはひたすらに剣を振るう。寸分の間違いもなく、フォームの狂いもない。ただ実直に、成果を積み上げていく。

 その剣は、まさに基礎の暴力。誰をも寄せ付けない鉄壁の理論武装。凡人がたどり着ける、唯一の極地。


(負けるのはわかっている。それでも俺はもう一度あいつとやり合いたい……。剣を取ったからには、やり合わないと気が済まない……)


 アルスにとっての剣。それは呪いである。

 誰よりも強くありたいという、黒い欲望の塊に支配され、斬って、斬って、斬り倒す。


 ああ、満たされない。満たされない。有象無象を倒して何になる。歪んだ欲望は、注いでも注いでもそのグラスを満たすことはないというのに。


 身の丈に合わない願望。行き着く先は破滅。そんなこと、アルスもわかっている。わかっているからこそ揺らぐのだ。——自分は本当にこの道を突き進んでいいのか? 本当に再び剣を取って良かったのか?


 その答えが出ることはない。最早アルスは考えるのをやめた。自身の心に蓋をした。本質的には剣を置いた時と、自分は何ら変わっていなかったのだ。アルスは無心で、ライバル達を討ち取ってゆく——。


 戦場は二つのうねりに大きく歪まされ、混沌としていった。次第にそれらは、必然かのように、引き寄せ合うように、ぶつかり合う。


 アルスは視界に入った白髪の少年の姿を見て、ようやく気づいた。


(ああ、俺はやっぱり勝ちたいんだ。一等賞が欲しいんだ。無理なのに。できっこないのに。——なんで俺は、こんな、馬鹿なんだろうな……)


「——アルス・ランフォード」


 『神剣』ファルニウス・セリオンは、呆れたように告げる。その声には微かに怒りも孕んでいた。黄金の眼差しに最早光は灯っておらず、凍てついたように冷たかった。


「なんで逃げた」

「わからない」

「ならなんでまたここに」

「わからない」

「君は“こっち側”に来るべき存在だった」

「……俺はそうとは思わない」

「なんで」

「……わからない」

「そう——じゃあ消えて。目障り」


 ファルニウスの上段からの超速の一撃。アルスはそれを何とか剣で受け止める。圧倒的な膂力の差に思わず顔を歪めた。


 苦悩を知らぬ天才と、迷い苦悩する凡人の一合。

 そこに彼らは何を見出すか。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ