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影と歩く  作者: 洞門虚夜
アルマガルの火
3/8

0-3 海越え

「…流石にこれ以上は限界でな」


『むしろ今までよく誰にも明かさずにやってこれたな』


「それでどうなんだ?」


『ったく…任された、だからお前も自由にうちらを利用しろ』


「…助かる」


『もっと早くに協力してりゃ…いや、それだと怪しすぎるか』


「あぁ」


『それじゃ、ミラージュを借りるぞ』


「…彼女を頼む」


『任された』


 通話を切り、一息つく。

 五一九という存在を国から隠しながら動くのにも限界があった。

 傭兵団の本拠地が襲撃を受けた時、それが国の裏にいる存在の仕業だとすぐに気が付いた。

 国にばれたのだ、本拠地にいなかった連中もすぐとまで言わずとも早いうちに捜索されるだろう。

 ミラージュという名で知名度を上げることで隠れ蓑を作り、どうにか一度離れる必要があった。

 別の大陸に移動するには海路か空路を使うしか無いが、どの方法を取ってもバレやすい。

 ならば秘密裏にアルマガル王国が手を出しにくい場所まで別れて移動したほうがいいだろう。

 そのため、個人ではどうしようもなかった難題をバーバラ達に頼ろうとしている。




 バーバラはステイルが国の軍に所属する前からの知り合いだ。

 同じ孤児院から出て、共に笑い合った。

 傭兵と技術者というそれぞれの道を歩み出した後もしょっちゅう連絡を取り合っていた。

 ステイルが軍に所属してからは様々な重機やパワードスーツの技師として国と取引していた。


 数年経った頃にステイルから昔の知り合いを見つけたと知らせを受け、その時は素直に嬉しいと思った。

 その相手は孤児院の頃の先輩にあたるクレイドだった。


 クレイドは孤児院の頃から頼れる兄貴分のように皆を導き、それだけのポテンシャルもあった。

 独り立ちの後も素早く難しい軍のエリート試験に合格していた。

 その上バーバラ達は知らなかったが国が認める初の傭兵団を作り上げ、ずっと問題になっていた狭間の情報収集を秘密裏に任されていた。

 危険なのは分かっていても、狭間から得られる恩恵がでかいので軍が動いても情報を秘匿しているのだろうと上層部は考えたらしい。

 そのための偽装傭兵団だそうだ。


 ステイルが昇進してやっと、クレイドと出会えた。

 クレイドに連れられた場所で初めて魔素を魔力として取り込める存在を目にし、国が秘密裏に行っていた実験を知った。

 クレイドは自分の後を継ぐ者としてステイルを選んだのかもしれない。

 だからこそ、実験体になった者達の中から実戦に投入されそうな者達をできるだけステイルの部下にしたのだろう。


 様々な情報を一度に渡される身にもなってほしいものだ。

 ステイルがこの情報を私に明かしたってことはこの段階で国につくかステイルにつくか決めろと迫られているということだ。

 私は直ぐに準備に取り掛かった。




「やぁ、君がステイルの言っていたミラージュって子だね?」


「はい」


「そうかそうか、案外可愛い見た目じゃないか」


 ステイルから聞いた話によれば彼女は他の実験体とは違い、ステイル自身が見つけて保護したのが最初の出会いだ。

 記憶は曖昧になっているし脳も少しづつ回復はしているがまだ完璧に治ったわけでもない。

 ステイルの予想だと彼女は狭間の向こうからやって来たのではないかという。

 実際過去の戦闘記録を少し見せてもらったが、見たことのない軌道や動き、魔力を持つ者特有のエネルギー反応が感じられた。


 少し話が逸れるが魔力は魔素を電気や燃料に変換せずそのまま体内に取り込んで使用可能にした状態を指す。

 狭間の向こうにはそれが可能な生物が多く住んでいるだろうと考える研究者もいるらしい。

 一応誰にでもできるらしいが、幼い頃から黙々と続けてないと成長は見込めないとも言われている。

 そしてそもそもその方法がわかっていない。

 可能であるとわかったはいいが方法が何年経っても見つかっていないのだ。

 ステイルが集めた国の資料の中には死体を解剖して特殊な器官でもあるのかと探したこともあるらしいがそうでもないらしい。

 閑話休題。


「ステイルには色々と世話になってるからねぇ、君のこともある程度は教えてもらってる」


「…ほんと?」


「君が特に好き嫌いなく食べることや運動神経がいいこととか傭兵としての実力も、色々ね」


「…」


ミラージュの耳元に口を近づけ、他の連中に聞こえないように囁く。


「…君が魔力を扱えることもね」


「っ…!?」


「これでとりあえず信頼しておくれ、ステイルの古くからの友人、バーバラだ、これからよろしく頼むよ、ミラージュ」


「…よろしく…」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 バーバラ、【バーバラ=レインウッド】。

 彼女は凄腕技師であるが、その前にはしっかりと戦闘経験も積んだ名の知れた傭兵だった。

 片腕をなくして歩けはするが戦闘を本業にできなくなるほど脚も不自由だ。

 義手をつけ、補助スーツで日常的に過ごす彼女は自身の手で自分用の義手もスーツも作り上げている。

 ステイルも言っていたが、彼女は赤鬼と呼ばれるほどに強く、カリスマもあった。

 巨大な戦斧を振り回し、狭間から現れた道なる生物を撃退して国民を守っていた。


 だがとある実験に巻き込まれ、仲間を守りながら腕一本と脚の自由を失った。

 回復してから詳細を確認しようとしてもすでに実験に関する情報はほとんど消されているか手の届かない状態になっていた。

 そして多分、彼女はやろうと思えば同じようにと行かずとも似たような動きを今でもできるだろう。

 ミラージュと名前を変えて名も売れて来ている今の私でも、彼女と戦うような事態になることは避けたい。


「君には少し雑用を頼みたくてね」


 バーバラはそんなことを言いながら地図を広げる。

 するととある場所を指差して言う。


「ここに【ブラッドファング】と呼ばれる賞金首達のアジトがある。

 君にはこいつらが所持している武具と魔素の塊、そしてもしも何か手に入る情報媒体があればそれも入手して来てほしい。

 実際に忍び込む人員とブラッドファングの連中を惹きつける役に分かれてできるだけの物資を掻っ攫って来てくれ」


「私はどちらに入れば…」


「自分で決めてくれ、うちの連中はある程度役に立つから後でデータを送る。

 それ見て選んでくれても良い」


「…わかり、ました」


 来て早々扱いの難しい依頼を受けてしまった。

 いつもバトルスーツの整備や修理をしてもらっているのだから、金をしっかりと払っているとはいえ他より安く済ませてくれている分少しは恩返しがしたい。


 その日の夜にもらったメンバーのリストとそれぞれの特技を見ていたら、戦闘も情報収集も得意なメンバーが間に合っているように感じた。

 どれだけできるか試されているのだろう、とりあえず今回は囮役になろうと思う。

 自分の有用性が認められればステイルのためにもなる。






「おいステイル、あいつやっぱめっちゃスゲェじゃねぇか」


『なんだ騒々しい、今忙しいんだが』


「ミラージュだ、あいつ敵を誘き寄せては各個撃破していって最終的に自分から攻め入ったかと思えば拠点内部をあちこち掻き乱して時間を稼ぎやがったぞ」


『なんの話だ、一旦落ち着け』


「テストとしてあいつに依頼したんだよ、足りない物資も補えるしいつもちょっかい出して来てた分を返そうとしてたんだ」


『あぁいつも何かと邪魔して来てたっていうブラッドファングの連中か』


「そうだ、連中ももう解散して奴らの依頼主である【ソルデロート社】はあの場所に狭間ができてたのを隠してたんだ、大収穫だぞ!」


『確か元々別の会社の所有地を強引に奪ったんだったか?』


「元の持ち主もいない今、国に伝えて権利を正式に貰い受けた」


『良かったな』


「相変わらず素っ気ねぇなぁ」


『調子に乗りすぎるなよ』


「わかってるさ」


『…あと、酒はほどほどにしておけよ』


「…わかってるさ」


 自分のことを褒められるのは少しこそばゆいが嬉しい。

 …打ち上げと称して飲み明かす連中の中に巻き込まれてしまったが、バーバラはすでにこの調子だった。


「悪いね、うちのボスは酔い癖が少し悪くてね」


 隣に茶髪の青年がやって来て料理を少し持って来てくれた。


「ありがとう、ございます」


「あの時は助かった、ありがとうな」


「え」


「コードネーム【レッドイーグル】,本名は【ロビン=ゴールドバーグ】、よろしく」


「…【ミラージュ】、本名はない。

 …あの時って?」


「あぁ、俺援護射撃班にいたから見てなかったかも知れないけれど君がこちらに静かに近づく敵を巻き込んで囮役になってくれただろ?

 しかも一定の範囲内に居続けるなんて相当訓練受けているか経験してないと無理だ、おかげでこっちは大分楽できた」


「…敵が多い時はあの戦い方が一番功績が実力を見せつけやすいって教わった」


「そ、そうか」


 ステイル曰く、仕事を受けるにはまず名前を覚えてもらい、良い印象を与えなければ仕事は集まってこないそうだ。

 そのため、できるだけ印象に残るように動き、依頼主にこいつはできると思わせた方がいいと言われたことがある。

 私の装備には腰回りについている魔素を取り込んで貯めた分を好きな方向に放出することで加速できる装置がついている。

 これを使うことで急な方向転換や旋回も可能となった。

 おかげで高速移動できる傭兵としてある程度知られているのも事実。


「それでも一応お礼くらいは言いたくなったんだ、感謝している」


「…」


「おいおい俺たちも混ぜろよ今回の功労者を労わせろ!」


「おいもうべろんべろんに酔ってるじゃねぇか」


 笑い声が響く。

 今この人達はグイグイ来るが、温かみを感じた。

 この時初めて、ステイル以外で友と呼べる存在ができた気がした。




「…やっぱ笑った顔のほうがいいな」


 遠くから騒ぐ様子を眺めていたバーバラは、いつも死んだ目をしていたミラージュが少しだけ明るくなったのを見て微笑んでいた。






「さて、ブラッドファングを壊滅させて国に突き出した。

 我々はこれから軍や国直属の会社がやってくる前に奴らがアジトにしていた数世代前の古い貨物輸送ポートを使って対岸への調査を進める」


「隊長、どうしてわざわざ非正規の方法を選ぶんですか」


「クレイト大陸ではあの大災害の後いまだに未開拓であり未発見の土地がある。

 そして今あちらにいる調査隊のメンバーから救援要請が来た。

 周りに国直属の会社もそうでないのもいるが、奴らに協力を仰げないのはそれだけの価値があると見ているからだ」


「何があったんです?」


「狭間とその周囲を囲うように放出されたのであろう未知の環境だ」


 バーバラの言う未知の環境とは狭間の向こうにあったであろう今までこの世界に存在しなかった環境がこちらに送り込まれたことを指す。


「なので他の連中に見つかる前にとっとと解析、採取、解析を済ませようってことだ。

 ミラージュ、お前も参加だ」


「了解」




 数日後、私達はブラッドファングのいなくなった輸送ポートに向かった。

 その間、【ペイルハンマー】のみんなとある程度馴染めたような気がした。


 周りを見ても古い貨物輸送ポートは昔の状態のまま放置されていたようだった。

 古くて使う機会も無かったものだ、狭間もあることだしそのうち完璧に撤去されて別の施設になるだろう。


「そんじゃ、行ってこい!

 揉め事になりそうになったら頼んだよ、ミラージュ」


「了解」


 大きな駆動音と共に、プラットフォームの上に設置されたコンテナと小型ステルス機は勢いよく射出された。


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