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影と歩く  作者: 洞門虚夜
アルマガルの火
13/15

0-13 騒動

 私のせいだ。

 全部私のせいだ。

 こんなことになるなんて思ってなかった…

 私は…ステイルの助けになりたかった…






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 数刻前


「なんなんだこれは、おとぎ話みてぇだ」


「異界の話なんだ、そりゃ常識も何もかも違うだろうさ」


 車両の中でバーバラは資料をペイルハンマーのメンバーと共に読んでいた。

 狭間から出現した土地や上書きされた土地、出現した魔物や流入する魔素という未知なるエネルギーの原因もその思想も理解できそうになかった。


 ポールエライソンという人が教祖になり、その後を継ぐ者が皆その名を名乗っている。

 白き影の姿をした神が人をあらゆる恐怖や災から救ってくれるという。


「何度読んでも子供の考えた夢にしか思えねぇな」


「そろそろ着きますよ」


「分かってるさ、お前らも準備はいいな?

 しくじるんじゃねぇぞ?」


 無人車両を神殿に突っ込ませ、近くの施設を爆破して軍を騙し、隠された地下道を見つけた。

 ここまでのことはブルーウィングスのサポートがなければおそらくできなかった。

 特に役立っているのは魔道具だ。

 おかげで今回多くのメンバーが命拾いしている。

 王国軍が対処する前に素早さで圧倒し、必要な資料だけ入手して逃げる、この繰り返しだ。

 相手からしたらやりにくいだろう、国のあちこちで同時だったり連発して様々な現象が発生している。






「ここでもねぇのか…だったら後残ってるのは軍関係の施設だけだぞ…」


 バーバラは現在少人数でミラージュの捜索をしていた。

 ミラージュがいるといないとでは明らかに戦力に差がある。

 たった一人の人体実験を受けた少女が一番の戦力なのだ。


「一旦戻って作戦を練りますか」


「いや、そんな時間は…」


『団長、ステイルさんがいません!

 さっきまでいたのでまだ遠くまでは』


「っ…あのバカ!」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 ステイルは一人で王城の屋根の上にいた。

 魔力を扱えるようになったことである程度自由に動ける。


「魔力があるとないとの違いは凄まじいな…

 魔道具で新たな攻撃方法が生まれても魔力による力はまた別物だな」


 密かに練習をしていた。

 誰にも見られていない間に彼は魔力の捜索、身体中を巡らせて追加された筋力のように身体を強化する。

 おかげで一歩で遠くまで跳ぶことができるようになった。

 これも全てリチャードに埋め込んでもらった魔道具のおかげだ。


 危険は承知、どうせまともな死に方はしないだろう。

 地獄なんてものがあれば落ちるだろうとも思っている。

 それでも自分の命で友人達の仇を、そして実験隊にされた多くの異界からの来訪者達を解放できるのであればそれでもいいと考えている。


 この魔道具は彼のそんな願いにぴったりハマった。

 魔素が魔力に変換できてもその使い方がわからない。

 今更学び始めたところで時間も足りない。

 そんなステイルが入手した情報は無理やり魔力を使えるようにする魔道具。

 実際に見に行った結果少し違うものであったが。


 リチャードが作ったのは魔力を血液の流れと無理やり結合させることで循環を果たす装置。

 制御できない魔力が身体強化に運用可能になった。

 ただし、もともと異物である魔力になれない状態で体中を循環させることで整体バランスが崩壊する恐れがある。

 ステイルも時間経過とともに体のあちこちが痛み出している。


「…ここは変わらないな」


 軍に所属していた頃に団長に見せてもらった秘匿された研究施設。

 医療施設も併設されていて、今現在ミラージュが捕まっている場所でもある。

 監視の目も多く、簡単には辿り着けない。

 少なくとも魔素と魔力の実験が大好きな研究者達の気を惹きつけられるほどの事態にならなければ彼らは動かない。


「…覚悟はとっくに決めていたんだ、私にはできる」


 震えていた脚を叩き、前を向く。

 ステイルの大立ち回りが始まった。


 その頃、バーバラ達は人数を減らしながらも研究所まで来ていた。

 地下道から忍び込み、少数精鋭で突入している数人と教会や王城など、軍が集まっている場所を狙って魔道具を消費しながら目立つバーバラ率いる残りのペイルハンマー。

 しかしここまでも消費が激しく、もう残っているのも後数個だけだ。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 再び目を開くと、目の前をゆらめくように動く仄かな光が見えた気がした。

 しかし瞬きをした瞬間に消えてしまった。


 気のせい?

 そう思いながらも探してしまう。

 部屋の中を見回しても先ほどの光は見当たらない。

 今の私には自動で声を出してくれるヘルメットもなければ武器も没収されている。

 昔を思い出し、ため息をこぼす。


 そんなことをしていると扉が開いた。

 中に入ってきたのは白衣姿の見覚えのある顔だ。


「やぁ五一九、久しぶりだねぇ」


「…」


「おやつれないねぇ、数年振りの再会だというのに。

 懐かしいねぇ、君と実験をしていた日々は…」


 ああ、本当に久しぶりだ。

 ぼやけていた意識でこの人と何度も話し、実験体として脳もいじられた。

 それでもなんとかここまで成長した。

 ステイル達のおかげだ。


「さああの時の続きをしよう…今は昔に比べて多くの実験が進んでいるんだ、それを君にも体験して欲し」


 その時だった。

 地面が大きく揺れ、目の前の研究者とその護衛も壁に張り付いていた。


「な、なんだいったい!?」


「フェロウ博士、通信も妨害されています!」


「なんだと!?」


「っせい!」


 次の瞬間通路からパイルバンカーのように相手に突き刺してから伸びる先端がついている槍が護衛の一人の首元に刺さった。

 振り向いたもう一人の護衛の顔面にショットガンが炸裂し、後ろに倒れる。


「なっ…」


 研究者もそれ以上何も喋ることはなかった。


「…すまない、遅れた」


「バーバラ…」


「あとステイルが消えやがった。

 ここを見つけ出すまでの時間稼ぎもしてくれたみたいだ。

 途中で待っていた奴らめちゃくちゃ少なかったしな…

 先ほどの振動も多分あいつだ、周りの連中も驚いていたしな」


 …ステイル?


 多くの魔道具をリチャードから受け取っていたのを見た。

 見たことのない魔道具も多かった。

 魔素という溜まると人体に悪影響を出すエネルギーを用いたアイテム。

 とても危険な代物。

 特に狭間の向こう側で子供にするように徐々に慣れさせて魔素から魔力への変換を自然とできるようになったわけでもない。

 魔道具を使い続ければ自然と魔素は溜まっていく。


 自分が戦闘を行い、ステイルがハンドラーとして指示を出してサポートしてくれていた頃はまだ良かったが、ここにきて彼は急激に魔素を取り込むような環境に身を置いている。

 この任務も早く終わらせてステイルを安全圏に戻したい。

 何年も一緒に過ごしているけれど、私にとってはもう父親のようにも感じている。

 急いで確認しなくては。




 外に出て目にしたのはあちこちで被害が出ている軍の施設。

 しかし肝心のステイルがいない。

 それでも時間は進む。

 彼が無事であると信じて作戦を進めるしかない。


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