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影と歩く  作者: 洞門虚夜
アルマガルの火
12/16

0-12 白き影

 古くから保存されてきた屋敷から回収した情報、それは【白き影教団】という組織の情報だった。

 資料の中には教祖の名前があった。

 その名は【ポール=エライソン】。




 白き影とは彼ら教団が信仰する対象だ。

 それは人の形をしているが人ではない、それこそ影のように形が定まっていないのだという。

 一体どうやってこの宗教が始まったのかはわからない。

 幹部のメンバーのことを調べると普通に街で過ごしているようだ。

 よく見ると、メンバーのほぼ全員が孤児や被災者、家族を亡くしたりした者たちばかりだ。

 それも一番多いのが狭間が現れてから現れた魔物や急激な地形変化による災害によるものだ。


 ポールという人物がいまだにトップにいるらしいがそうだとすれば今この人は数百年は生きていることになる。

 狭間が出現してほぼすぐにこの団体が出来上がっていると考えると、かなり昔からこの世界の多くに関与しているのではないだろうか。

 何のために国を乗っ取り、なぜ公の場に出ないのかも謎のままだが、彼の思惑を知る必要があるだろう。

 確かめるためにももっと情報を集めて確実に接触しなければ。


 そんな時だった。

 急にバーバラから連絡があった。

『ミラージュ、しくじっちまった…わりぃ、ステイルと分断されて今追われている。

 だが大半がステイルに向かってる、すぐにバックアップ頼む』


「わかった」


 アルマガル王国は地下道の多い国だ。

 地下商店街なんてのもあるくらいだ。

 しかし迷路のように入り組んでいる地下道を昔から知っているステイルとバーバラが担当していたのだが、見つかってしまったらしい。


『とりあえず資料は送っておいたから後で確認してくれ、こっちは何とかしておくから…っさぁ!』


 切れる直前、通信機越しに暴れながら逃走しているのが聞こえる。

 早く行かないと、ステイルが危ない。






 あちこちに散らばる残骸、地下道の中でも一般には開かれていない道、その中心にいたのはステイルだった。

 息を荒くしながら最後の生存者の頭にショットガンを放つ。


「ステイル?」


「あぁ…」


 異常だった。

 こんなことバーバラは言っていなかった。

 つまり一人の時に何か異変を起こす原因があったはず。


 ステイルは目を閉じ、息を整え、ゆっくりと目を開ける。

 先ほどまでの興奮は消えていた。


「五一九…来た…のか…」


 そう言いながら前に倒れ込むステイルを抱き止める。

 出血も傷も多い、早く治療しなければ。

 一度戻って情報をまとめよう。




 応急処置をして急いで帰る途中で追っ手を振り切ったバーバラと合流するために通信をしていた。


『ステイルは無事なのか?』


「急いで治療しないと危険」


『そうか、ならば急ごうか』


「はい」


 その時だった。

 長期間の戦闘と潜入、気を張り続けていたのもあるだろう。

 疲れも溜まっていた。

 言い訳はいくらでも出る。

 しかし私はそれでもステイルを担いでいくことを決めた。

 そのタイミングで撃たれた。

 担いでいたステイルの腹ごと私の腹も貫通した。


 反応が遅れた。

 待ち伏せていた多くの軍人を、魔素を用いた新たな銃器を持ち込んでいる者達も踏み台にしたり避けながら進んでいた。

 地下道から出ても気は抜いていなかったつもりだった。

 良い腕をしたスナイパーがいたらしい。


「うがっ!?」


 必死に走った。

 意識が飛びそうになっても走った。

 でも辿り着けなかった。

 ならばと川を目指したが、川の目の前で捕まってしまった。

 しかもその拍子にステイルだけが転がり落ちて流されていった。

 気絶する寸前、視界の端にフードを被ってこちらを眺めるバーバラの姿を見た。






 目が覚めると、知っている天井があった。

 何年も前に入っていた軍関係の施設の医療所だ。

 監視もついている。

 私は捕まったらしい。

 傷は止められていたが装備品は没収されている。

 回復までまだ時間もかかりそうだし簡単に出られる気もしない。

 大人しく隙を探して待つことにする。

 彼らにとって、私は道具の一つでしか無い。


 さてどうやって出ようか、バーバラなら私の状況を把握できているだろう。

 今だけはゆっくり休んでいつでも動けるようにしておこう。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 ミラージュからステイルを託されてしまった。

 しかも書類までバッグに入れてくれている。

 ステイルはすでに部下に診てもらっている。

 これから動けるのはペイルハンマーのメンバーのみだ。

 まずはステイルが目を覚ますまでにミラージュが残した情報を把握しようと思う。




 ミラージュの情報を読み終えたが、やはり地下のどこかに研究所を隠しているようだ。

 部下には怪しい場所を洗ってもらっているが全てハズレた。

 もしかして別の場所に入り口があるのか?

だとしたら…


「チームクロウ、空中偵察から戻り今送った神殿を調べてくれ」


『了解』


『分かった』


「くれぐれも油断するな、相手にどんな力があるかも不明だ」


 まだ残っているのは軍事施設から直接繋がっている地下道と王城の地下くらいだ。

 マップは大体把握しているが公にされていない機密ならばこの二つが現在怪しい。

 だがリスクも高い。

 確実に囮になる人が必要になる。

 それができるのは私かミラージュだ。

 もしも神殿の守りが堅ければ何かあるかもしれない。

 何もなければ死ぬ覚悟で囮になるしか無いが…


『団長、神殿の周りに軍人が多くいます。

 当たりかと』


「よし、私もいく。

 プランEで行くぞ」


 周りの施設を爆破し、撹乱し、本命を別の場所と誤認させる。

 何も知らない民間人からしたらただのテロリストだ。

 だがテロリストとして名を残してでも救いたい命と復讐したい相手がいる。

 ステイルもそうだが、ペイルハンマーの全員がシルバーファングに救われた連中だ。

 皆とっくに覚悟はできている。


「だ、団長!」


「なんだ?」


「ス、ステイルさんが…」


「ステイルが目を覚ましたか!?」


 一目散にステイルの元へ行くと、彼は確かに起きていた。

 だが明らかに今までと違う、胸の中心に禍々しい欠片が埋め込まれていた。


「なんだ、それは…」


「バーバラか…これはリチャードから買った未完成の魔道具だ」


「これが…魔道具だと?」


「ああ、馴染んで行けば私も魔力を扱えるようになるはずだ」


「…」


 明らかに顔色が悪い。


「魔力を使えるようになる対価はなんだ」


「私たちでも修行すれば理論上できるそうだぞ、きっかけがなければ一生分からずにいるかもしれないが」


「そしてその魔道具は嵌め込むことでどうなる?」


「瞬時に魔力を扱えるようにこいつが制御してくれる。

 だがこの魔道具の最大値以上はできないし下手に使いすぎれば寿命が縮むほど身体にダメージが来る」


「…良いのか」


「孤児院でお前も言ってたじゃ無いか、したいことが出来なきゃ生きる意味はないと」


「そりゃ…言ったけどよ…」


 ステイルは多分、死んでも復讐を果たすつもりだ。


『団長、準備整いました』


「分かった、これから神殿を調査するために軍を散らす、皆十分後に作戦開始だ」


『『『了解』』』


「…めぼしい場所でも見つかったか」


「ああ、神殿と軍事施設、あとは王城だ」


「そうか、回復したら私も復帰しよう。

 …ところでミラージュはどうした」


「今捕まっている。

 だが場所がわからない」


「そうか、ならばおそらく私が知っている場所だ…うぐっ」


「もう少し休んでからにしなって、結構重症だったんだ」


「…ああそのようだな」


「それじゃあちょっくら神殿調査行ってくるわ!」


「…ああ」


 最後に見たその顔はどこか、覚悟が決まった顔つきだった。


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