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影と歩く  作者: 洞門虚夜
アルマガルの火
11/17

0-11 潜入

「は、初めまして、ミラージュ、です」


「よろしく、ミラージュ」


「よろしくぅ、まさかこんなちびっこだとは思わなかったぜ」


「僕はマルス、ブルーウィングスの団長だ。

 よろしく頼むよ、ミラージュ」


 私はやっとステイルの隣に戻って来れた。

 今はブルーウィングスが所有する車両に乗せてもらって彼らの拠点へ向かっている。


「それであの空中移動どうやっていたんだ?」


「えっと…長くなるけれど」


 どこまで伝えていいか迷っているとステイルがこう言った。


「今はまだ時間がある、こういう時こそ情報交換に適している」


 今のうちに私のできることを共有しておくべきという判断だろう。

 私は半島での生活と戦闘した相手の話をできるだけ重要な情報から話した。

 見られてしまった空中での移動は魔法で通した。

 魔力が扱えることはもう知られているのでいろいろな糸を出せるということは説明したが、さすがにファントムネストのことまで話していいか判断が付かなかった。


 魔力を操作し、身体を補助したりすることがこの世界では魔法と呼ばれたりしている。

 情報が少なすぎて今までにない動きをしているのを見て魔法と呼んだのが発端。

 しかし夢物語のように魔力を変質させて炎を出したり稲妻を落としたり天候を変えたりなどはできない。

 これに一番近しいものは魔道具に魔素を流し込み、貯めた魔素や魔力を燃料にして放出した炎や電撃だろう。


 アルベドからもらった資料の中に書いてあったが、狭間の向こう側ではこれは常識だった。

 魔素が多く、すべての生物に魔素が集まる。

 しかし中には魔素を魔力に変換できない症状によって死ぬ人もいたという。

 

 魔力は感情や意識の影響を受けて周りへの影響力が増減することもある。

 狭間の向こうではこの現象が起きたことで戦争中に劣勢だった側が一瞬で戦争を勝利まで導いたなどという歴史もある。


 この資料の山は貴重な情報の宝庫だ。

 観察や研究をしたのは聞き覚えのない国の人達だけれど、これが今のアルマガル王国に渡ってもいいことはないだろう。




「にしても便利そうだな、その糸…」


「でも、、一定の距離離れると、消えちゃう」


「それでも十分便利だ、今度それをもとに魔道具を作ってみるとしよう」


「おお、そん時は俺の分も作ってくれ、すぐに買いに行くから!」


 こう話していると、彼らのことを思い出した。

 スパイさえいなければ、今も一緒にいたかもしれない彼らの顔が一瞬脳裏を過った。






「ここが僕たちの本拠地さ」


 あれから魔物に遭遇することも問題が発生することもなく街までたどり着いた。

 ここにたどり着くまでに多くの人達から声を掛けられていたのを見ると、かなり人気が高いことがわかる。


「マルスさん、いつもありがとうねぇ」


「おいリック、またうちに飲みに来いよ!」


「おいあれリチャードじゃないか?

 まさか専属にでもなったのか?」


「ブルーウィングスなら信用できるだろ、他の奴らが悪いとは言わねえがあそこなら魔道具の悪用はしないだろ」


 …思っていた以上に人気だった。

 アルマガル王国では傭兵団同士がかなり殺伐としていた。

 軍と協力するグループとそうでないのとでかなり差が激しかった。

 キュブリオン共和国ではそこまでぶつかり合っていなさそうで少し安心した。

 今日はとりあえず休もう。

 かなり長いこと戦闘も闘争も探索もしていた。

 お風呂に入ってさっぱりしたい。


 でもその前に、ステイルの部屋に行ってに資料を渡さなきゃ。


「そうか、あの暴風は円形に作られた結界だったのか」


「仕組みは…わからないけれど」


「さすがにそこまでは求めていない。

 だが中心にあった扉を開けたというのは本当か?」


「うん、触れたら開いた。

 結界が張られていたみたいなんだけど、地下帝国を守るために張られたみたい」


「それでその提案をしたのがこの【トロージャ帝国】ということか」


「そう、今はもうないみたい」


「ああ、あの国は元々アルマガル王国がある場所にあった」


「え」


「滅ぼしたのはアルマガル王国を乗っ取った謎の組織だ」


「そっか…」


 ならば結界を施す選択は正解だっただろう。

 あの国はもう何をするかわかったものではない。


「資料はこれで全てか?」


「はい」


「わかった、後で読んでおく。

 お前はもう休め」


「おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」






 数日後、私達は王国に向けて出発した。

 目的は王国の裏に潜んでいる組織を暴くため。

 ここ数日間の間に立てた作戦のための準備も終わり、今度こそシルバーファングの仇を取り、王国を解放する。

 ステイルはこのために動き続けている。

 孤児院の家族達が大切だった。

 最初はシルバーファングの団長が消されなければいけなかった理由を聞きたかっただけだった。

 だが調べれば調べるほど闇の深そうな過去や消された歴史が見えてくる。


 正義の戦士になるつもりもヒーローを気取るつもりもステイルには無い。

 しかし得体の知れない奴らのために犠牲になる命はこれ以上増える必要もないと考えている。

 私はそんな彼の願いを叶えるためにいる。

 ステイルの目的を達成するのを手伝うためにいる。


「物資、感謝する」


「本当にやるのか?」


「ああ」


「無事に終わっても大罪人として追われ続けることになるぞ」


「ああ」


「行かせてやれ、こういう連中は一度全力で目的を果たしに行かなきゃ気が済まない」


「それじゃあここでお別れだ。

 計画通り行くことを祈っているよ」


「ああ」


 車両から降りて先に行ってしまうステイルの背中を追う。


「…ミラージュ!」


 ふと、後ろから呼び止められる。


「…頼んだ」


 ステイルの背中を眺めながらリチャードが言う。

 かなりステイルのことが気に入ったらしい。


「わかり、ました」


 胸を叩いて精一杯の表現をした。

 伝わったかはわからない。

 でも、ステイルの目的のため、私は今まで頑張ってきていたんだ。


 私達より先にアルマガル王国に向かったバーバラとペイルハンマーの数人は私たちの到着を待っている。

 私たちが到着し次第作戦開始だ。


 すべてが終わったら、またキュブリオン共和国にでも行こう。

 ステイルと一緒に今度こそ観光したい。

 そんな暇なんてなかったからほとんど何も見れていなかった。


 ブルーウィングスのメンバーに任せたのは保護施設の準備や後方支援、情報のサポートなど。

 今回の作戦はほとんど作戦にもなっていない。

 今まで多くの調査や情報収集をしているのに団体の名前すらつかめていないということはそれだけ口が堅いか数が少ないか、そして情報操作が恐ろしいほど得意だということだ。

 今回私が王城付近を主にかき乱してから情報を収集、その間にステイルが王城や郡内の怪しいところに潜入。

 立場を交代して私は重要機密があるであろう施設に忍び込む。

 臨機応変に立ち回ることが特に重要になる。

 今回は今までと比べ物にならないほど難しい任務になるとステイルに指摘された。

 心の準備はもうできている。

 私たちは皆揃ってお尋ね者になるがそんなことはもう覚悟の上だ。


 途中でステイルはリチャードからもらった魔道具を起動し、周囲の注目を全て受ける。

 ついてきたペイルハンマーの数人はその間囚われている者達を解放、誘導、そして保護する。

 私は途中まで彼らと一緒に移動する。


「おい」


「はい?」


「あいつらは…最後どうだった」


 あいつらとは私と一緒に魔の半島に向かったペイルハンマーのメンバー達のことだろう。


「あいつらは…姉貴達は…命をかけてでもお前を守れって指示を受けた。

 姉貴達は…」


 皆死んだことは合流して直ぐに伝えている。

 彼女が欲しいのはおそらく…


「最後まで立派に戦ってくれた。

 だから、絶対にこの作戦を成功させる」


「…そうか」






「何者だ、ここは立ち入り禁止だ」


「…」


「答えぬか、ならば消えてもらおう」


 作戦開始から2時間半、私は地下道を進んでアルマガル王国軍を誘導しながら逃げていた。

 この地下道は古くからあった屋敷の地下にあったもので、貴族が逃げるためのものだったそうだ。

 今の時代ではもう誰も住んでおらず、歴史的資料として解体もされずにいたのだが、この地下が怪しいというところまで情報を掴んだ。

 しかし潜入してから誰にも見つかっていないはずなのに侵入がバレた。

 

 そんな時に見たことがない白いローブを羽織った五十代後半に見えるおじさんと出会った。

 明らかに鍛え抜かれた体付き、わずかに感じ取れる魔力の流れからして彼は魔力を操れる戦士だ。

 しかし武器を持っているようには見えない。


「む、あちら側から来た者か?

 この国の軍は本当に使えない…ナッ!」


 話が終わると同時に正拳突きをこちらにしてきた。

 二十メートル以上離れていて明らかに届かない距離の拳だが、避けなければ当たると直感が働いた。


「んなっ、アバッ!?」


 背後の追手が小さく悲鳴を上げた頃には吹き飛ばされて行くのが聞こえるが目を離してはいけない、次の一撃が来る。

 次々と放たれるのは離れるほど威力が減衰しているのを見るに魔力の塊だ。

 この世界の人々が魔法と呼ぶのがまさにこういう技だ。


「くっ、ならば!」


 全てを避けながら近づいてくる私を警戒して少しずつ後退していたおじさんは徐に懐に手を突っ込み、少し歪な拳銃を二丁取り出した。

 あれは確かこの国で生み出された銃だったはずだ。

 魔素を溜め込んだ結晶、別名魔石を弾にして明確な殺意によってその影響力を上げることが可能になった初めての銃。


 片方はトリガーを一回引くごとに魔石を一個撃ち出す代わりに威力は絶大、だが無駄も多い。

 魔石が撃たれると内包されている魔素が一瞬で放出されるのだが、偏りなどで真っ直ぐ飛ばないことも多いと聞いたことがある。

 もう片方はその後に作られた効率の良いものだろう。

 魔石を一個装填したら六発ほど撃てる。

 初期と比べると威力はかなり落ちているが暴発の危険性も変な使い方さえしなければほぼ無い。

 魔石そのものを発射せず溜め込んだ魔素を放出することで装填一回で数発撃てるようになったが射程が短くなった。

 結局使えないからとボツになったはずだが、その威力は凄まじい。


 バンッ、バンバン


 明らかに撃ち慣れていない人の動きだ。

 距離が縮んでから銃を出すのもおかしい。

 逆であればまだ驚いたかもしれない。

 先ほどの拳も魔力の扱いはいいのだが体の動きが洗練されていない。

 もしかしなくとも彼は…


「研究者か」


「な、何故!?」


 それを最後に彼の意識と命は絶たれた。

 彼の持ち物を軽く物色し、銃や魔石を入手した。

 この先は目当ての屋敷だ。

 情報が手に入れば良いが時間は少ない。


『おいミラージュ、後十分で切り上げろ、お前の侵入ももうバレている』


「了解」


 梯子を登り、侵入した屋敷には、様々な機材や資料があった。

 どれも古く、魔素の研究と狭間の情報だ。

 その中に、一番欲しかった情報もあった。




【白き影教団】という組織の名前が。


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