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影と歩く  作者: 洞門虚夜
アルマガルの火
10/16

0-10 合流

 翌日、準備が整ったブルーウィングスの面々と集合していた。

 が五一九と連絡が取れなくなってからしばらく経つ。

 連絡が取れなくなった時のプランは二つ条件別で考えてあった。

 私がアルマガル王国から出るのに五日かかるが、それよりも前に問題発生した場合は五一九に自力で隠れてもらうことになっていた。

 隠れ場所はある程度私が以前あの地を訪れた時に見つけた隠れ場所を教えてあるが、彼女にそれが必要かどうかもわからない。

 今あの半島での生態系もわかっていない。

 下手したら彼女も勝てない魔物もいるかもしれない。

 魔素や魔力と言った力はそれを可能とする。


 バーバラからもらった最後の連絡はミラージュ達との連絡ができなくなったこと、そしてアルマガル王国から派遣されている傭兵団が大勢いたということ。

 考えられるのはミラージュと私の関係がバレたということ。

 つまり彼女たちは積極的に狙われ続けることになる。

 そして同時に裏切り者もいるということにもなる。

 正直魔力の扱えない者達がそのような状態から抜け出せるとは思えなかった。

 ミラージュが他のメンバーを助けられるかは敵の数や裏切り者の出方による。

 一週間弱経った今、門の近くで潜伏してくれていればいいが…


「出発します」


 ブルーウィングスが所有する車両に乗せてもらい、半島へ向かう。

 半島行きの傭兵達しか使わない道があるのだがそれを辿ると他の道で一日かかるところ半日で行けてしまうそうだ。





 そんな中、出発する前に聞いたリチャードとマルスの会話を思い出す。


「本当に良かったのか?」


「何がです?」


「いや…」


 言いずらそうにリチャードは口ごもる。


「ああ、気にしないでください。

 あなたが他人の良心を利用するのは嫌いなのは知っていますし、そのくせ正義感があるのは知ってます。

 それに、今回我々にも利益があるから引き受けたんです。

 我々をステイルさんに紹介したことを後悔する必要なんて無いんです。

 それでも気になるならそうですね…これから少しだけあなたの商品を安くしてください」


「だがな…」


 柔らかい笑顔とともに彼はそう言っていた。

 ブルーウィングスの目的は狭間の脅威を取り除き、安全を守ること。

 しかしそれとは別に団長を含め所属している多くが持っている目標がもう一つある。

 彼らは主にだれかを救いたい、救えなかった、守られた、などといった者たちの集まりだ。

 ほとんどが狭間に関係する被害を受けていて、そのせいもあって積極的に狭間からやってきた者達をアルマガル王国のような国や団体から守り抜こうとしている。

 今までも多く保護し、安全な施設と社会へ出すまでのシステムまで作り上げている。

 団長であるマルスはまだ七歳という若さで両親を町中に出現した狭間から現れた魔物に食い殺されるところを目の前で目撃することになった。


 そんな人達が集まってブルーウィングスが出来た。

 かなり有名になっているが、一番広まっているのは彼らの心構えだ。

 どこからともなく現れる異空間の歪、そこから生まれる狭間、どこからともなく現れる魔物、新種の災害と言っていいだろう。

 その被災者を積極的に守ってくれるみんなのヒーローや英雄みたいな認識が広まっていった。


 リチャードはそんな彼らに頼めば絶対に受けてくれると踏んでいた。

 彼らはリチャードの常連であり、ブルーウィングスから依頼を受けて制作することもあるほどには良い関係が築けていた。

 お互いの境遇や考えが似ていることが関係を良くした一因になっている。

 だからこそ、リチャードはブルーウィングスならば受けてくれると確信していたし、同時に依頼を彼らに受けさせることを躊躇っていた。


「リチャード、君はむしろ僕たちに有益な情報をくれたんだ、感謝しているくらいだ。

 だからそんなに思い詰めないでこれから先のことを考えよう」


 …マルスがなんだか物語の主人公のように見えてきた。





「もう直ぐ見えてきますよステイルさん」


「ああ、門を通ったらそこから先の道は私が…なんだ?」


「騒がしいですね…何かあったようですが…」


 五一九が捕まった?

 いや、だったらここまで臨戦体制にはならないはず。

 ならば敵対勢力が門を通ろうとしているのか?

 近づくにつれて状況が見えてくる。


「おいおいアルマガル王国の軍も見覚えのある傭兵も集まってるぞ」


「リック、いざとなったら任せるよ」


「…いない?」


 パッと見この騒動の中に五一九はいなかった。

 少し遠くに車両を止めて望遠鏡で騒動の超巣を伺った。

 何を言っているかまではわからないがリーダー格が口論をしているようだ。


「どうする、強行突破するか」


「いや流石にあれは突破できない。

 王国軍の方は戦車や魔導兵器を後ろに備えてある。

 いつやられてもおかしくない」


 魔導兵器とは現代兵器とは違い、魔素を用いた攻撃を可能にした武器や兵器の総称だ。

 マルスが見ていたのはアルマガル王国が誇る魔素を利用した特殊兵器。

 

 戦闘機や戦車と比べてまだ改善や開発が進んで改良されていくだろう代物。

 アルマガル王国の誇る次世代兵器、と公表されている。

 だが実際は違う。


 あれは見た目こそ少しヘンテコな戦車のように見えるが、中身がかなり異なっている。

 シルバーファング団長が残してくれた情報の中にこの情報もあった。

 私はブルーウィングスに彼らがどう管理されているかは教えたがどう利用されているかは少し濁した。

 もし戦闘になればブルーウィングスは必ず彼らを救おうとする。

 救えなくとも生かそうとする。

 殺意が鈍ってしまう。

 そんなことが戦場であっては命取りになる。


 大砲は魔素を消費して扱い、実用的なレーザービームのように打ち出すことができるとされている。

 だが本当は中に人体実験をしてきた魔力を扱える被験体がたくさんいて、魔導砲とも呼ばれる大砲を強制的に撃たせている。

 主に乗せられるのは魔力量が豊富な者達だ。

 これを今マルス達に伝えたら、彼らは乗せられている被験体達を意識してしまう。

 それでは戦闘どころではなくなってしまう。


 話し合った結果とりあえず今は待つしかないという結論に至った。

 監視役をおいて休憩時間となったその時、こちらに向かってくる車両が数台見えた。

 アルマガル王国産であることが一目で分かった。

 いつでも戦闘に入れるように準備をしようとしていたのだが…


「…どうする?」


「いや、あれは私の知り合いだ」


「なんだって?」


 目の前までやってきた見覚えのある車両は、横に白いハンマーのシンボルが貼られていた。

 あれはペイルハンマーのシンボルであり、似たようなシンボルはあまり見ない。


 降りてきたのは子供の頃からよく知る女性だった。


「ステイル、お前こんなところにいたのか」


「なぜここにいる、バーバラ」





 少しだけバーバラと話す時間をもらった。


「いったい何があった」


「結論から言うが、ミラージュ達はおそらくアルマガルの連中に追われている。

 最後に受けた彼らからの通信から考えると、一緒にいたうちのメンバーは…おそらくもう死んでいる」


「…そうか」


「だが我々はこんなところでは止まれない、そうだろう?」


「ああ、そうだ」


 そうだ、私たちは止められない。

 止まってはいけない。

 すでに復讐に走って犠牲を出している我々は最後まで走り切るしかないのだ。




 これから何を犠牲にしても。




 ブルーウィングスと合流し、バーバラを交えてこれからのことを話し始めた。


「樹海を通ってきたのか」


「ああ、ステイルと同じように抜けてきた。 危険な道だがアルマガルに捕まるよりはマシさ」


「違ぇねぇ」


「これが噂に聞く赤鬼か…なるほど」


「なんだい、こっちにも広まっているのかい」


「噂だけだが一人でさまざまな魔物を豪快に倒していったと聞いたな」


 好印象のようだ。

 これなら王国側から来たからと時間をかけて中を取り持つ必要もなさそうだ。


「だがこれからどうするんだ、あいつらいまだにいがみ合ってるようだけれど」


「そうだな…ん?」


 それは壁の上だった。

 小柄な人影が周りを警戒しながらカメラの合間を塗って壁を上り、壁の上をかなりの速さで走っている。

 見覚えのある白に近い髪色、しかし見たことのない全身を隠すくらい赤色のマント、そして見たことのない空中での挙動。


「あれは…まさか」


「なんだありゃ、新手の魔物か?」


「いや…ミラージュだ、どうにか接触したいが…」


 他の人も多く、見られるのはよろしくない。

 大門から離れて合流を図る方がいい。

 直ぐに動き出したが、五一九は近くの森へと身を隠してしまった。

 今までしていなかった新たな移動方法を獲得したのだろう。

 空中を一直線に移動したり円形の動きが見られた。

 もしかしたらワイヤーフックによる移動方法でも手に入れたのだろうか。


 そうこうしていると頭上から声が聞こえてきた。


「ステイル、お待たせ」


「ああ、良く来てくれた。

 少し話す練習でもしてたのか?」


「いろんな人と、話した」


「そうか」


「うん」


 彼女がここに一人でいるということは、つまりそういうことなのだろう。

 どのような戦闘があったのかは知らない。

 でもわざわざ今回の件に付き合ってあの半島で死んでしまった者達は全部で十二人。

 本名も知らない、顔も知らない、関係も知らない者達だが、感謝している。

 心の底から。


「…」


 海に面した崖の上から半島に向かって黙祷するステイルを五一九は黙って見ていた。


「今はまずキュブリオン共和国に向かおう、あそこにいるのがブルーウィングスと呼ばれるここら辺を活動区域にしている傭兵団で…」


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