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影からの贈り物  作者: 洞門虚夜
アルマガルの火
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0-1 ミラージュ

 ある日、世界中に異界につながる狭間ができた。

 それはどのような規則でどのように作られるのか不明で、なぜできるのかも不明だった。

 しかし、数百年の時が経った頃、狭間の繋がる先は異界であると判明した。

 判明した原因は実際に狭間を通った者が戻ってきたときの証言からだそうだ。

 その世界からは見たこともない生物や生物でない霊的な存在など、そして魔素と呼ばれるエネルギーが漏れ出てきた。


 ありとあらゆるものが狭間を通り、この世界に流れ込んできている。

 中には見たこともない大きな生物が国を滅ぼしたなんて話もある。

 魔素と呼ばれるエネルギーはこの世界の環境も生活も常識も変えた。

 結果、狭間から手に入る資源をめぐる争いが世界中で起き、人口も減った。

 残った国は前から力の強かった国のみ。

 場合によっては、元は小さな会社だったものが成長して複数の狭間を独占するに至っていたりする。


 しかし今から三百年経たないくらい前に多くの者達を巻き込んだ災害、いや事故が起きた。

 戦争の真っ只中、とある小国の傲慢な王の命令により、自然に狭間から渡ってくるはずの資源をもっと吸い出そうとした。

 その結果周囲で争っていた集団も土地も巻き込んで消し飛んだ。

 範囲内に住んでいた国民もろとも消え去った。

 それ以来しっかりと観察、調査、そして管理をするようになった。


 先ほど述べたようにこの狭間を通るのはエネルギー体や無機物だけではない。

 魔物と呼称されるようになった化け物だけでなく、人間も迷い込んだり吸い込まれたりする。

 そして今現在この新しくできたばかりの狭間に巻き込まれた存在が一人、気絶しているところを発見された。






 目覚ましの音と共に目覚める。

 顔を洗い、服を着替えて朝の訓練を開始する。

 途中で朝食を食べに戻る。


「あいつか、最近新しく拾われた子っていうのは」


「あぁ、そういえば見かけない顔だな」


「例の特殊部隊の連中が珍しく噂をしていたからな、気になってたんだ」


「…気の毒に、ステイル直属になるんだろ、つまりあいつも捨て駒よろしく使い潰されるのか」


「おいバカ、口に出すなよどんな処罰くらっても知らねぇからな」


 …あの人、ステイルのこと話してる?

 私は傭兵として、役に立てるのかな…


 食事が終わればまた訓練。

 依頼があれば傭兵として働く。

 彼女が所属する傭兵団【シルバーファング】は何でも屋に近く、情報を探ったり戦力として働いたり金を稼げるならばほとんどの仕事を受けていた。

 後に聞いた話だが、この傭兵団の名前は団長が国のお偉いさんから適当にもらったらしい。

 そしてその中でも過酷な仕事を任されるどころか自分から取りに行くのがステイルだ。


「新たな任務だナンバー五一七、五一八、五一九」


「わかり…ました」


「最近デカくなったレッドヴァイパーという集団からの依頼だ、良い加減隣の狭間を占領しているスカルフェイスからの嫌がらせにうんざりしてきたらしい、戦力としての協力要請だそうだ」


「今回は楽しめる相手がいるかな」


「また戦闘に時間かけて任務を忘れないでよ」


「よし集まったな、今回の依頼の内容を説明するから忘れるなよ」


「はーい」


「私は途中まで付き添い、途中にある仮拠点から司令をだす。

 今回とるルートはこの…」


 この時、私達はいつも通りの任務をこなして帰るものだと信じていた。

 誰も帰る場所がなくなることなんて考えもしなかった。

 その日、依頼を終了して帰還した私達が目にしたのは潰された傭兵団の本拠地と武具や物資の奪われた跡だった。






 五一九として過ごし、先輩と共に仕事をし、ステイルの役に立つ。

 脳にダメージを食らったせいか、それくらいしか考えられなかった。

 やっと回復して色々自分で考えて動けるようになったのは最近だ。

 傭兵団が崩壊する前の記憶はぼんやりと残っている。


 崩壊した本拠地を見て怒りに身を任せて暴走した四九六とその後を追った四九七はもうどこに行ったかわからない。

 残ったのは私とステイルと見つからなかったためか被害を受けなかった仮拠点だった。

 それに伴ってステイルから良く意見を聞かれるようになった。

 例えば任務開始前にその任務の概要を渡された時や武器の感想、意外なことに好きなことや食べ物まで聞くようになった。

 自我がはっきりしてきた後でも私はステイルの役に立ちたいと思い、彼の指示を受けながら今でも独立傭兵として働いている。


 何かを成そうとしてるらしく、金が大量に必要なのだそうだ。

 私の武装であるバトルスーツはほとんど戦った後に拾ったパーツを組み合わせたもので、整備も大変だ。

 現在使用している仮拠点にある程度の自動化システムがついているからといって整備に手を抜いて良い理由にはならない。


「五一九、依頼だ」


「了解」


「…すまないな」


「え?」


「…いやなんでもない、とっとと終わらせて金を稼ごう、こんなところで止まっていられない」


 ステイルは最近こういうことが増えている気がする。

 仲間が全員消えたことで心細さを他人に見せるような人ではなかったと思うが、私を信頼に値すると考えてくれたのだろうか。

 もしそうならば、少し嬉しい。


 本拠地壊滅から半年、戦場だった場所からの遺品回収と敵の生き残りの殲滅の依頼を受けた。

 ドッグタグを回収しつつ武装を集め、使えそうなものを少し分けてもらうことにした。

 死体の中に、依頼を受けた団体に所属していない死体を発見した。

 ステイルに連絡を入れると、


「傭兵だな、しかも珍しく単独で参加したみたいだな」


「単独…」


「あぁ、今のお前と同じようにな」


「…」


「そいつの名前をもらうことにしよう」


「…え?」


「五一九、お前にはこれからミラージュの名を雑用ばかりでなく、これから戦闘面で広めてもらうことで仕事を受けやすくしてもらおうと思うが、どうだ?」


「了解」


 それから私は、主に傭兵としての仕事を主に受けるようになった。

 ステイルに話し合いや交渉、依頼の受諾も拒否以外にも多くの仕事を任せてしまっているのもあって、できることがあればステイルのためにやろう。

 できるだけステイルには休める時間を増やしてほしい。






--------------------






 私はとある集団の一員だ。

 いや、だったのほうが正確だろう。

 数か月前に崩壊し、確認できた生き残りは私の直属の部下ということになっている五一九だけだ。

 彼女は世界各地で発見されるようになった狭間の付近で発見されたらしい。

 それからうちに拾われ、隊員になるように『調整』されたようだ。

 彼女の過去の情報を調べようとしても私には見せてもらえなかった。

 しかし全員いなくなった今、その権限を勝手に受け継がせてもらった。


「異世界…」


 おそらく、五一九は世界の様々な場所に現れた狭間の反対側からやってきた。

 私が彼女を部下として受け入れる前に脳をいじられている。

 彼女には帰る場所も頼れる人もいない。

 今となってはなってくれる人もいない。

 私が彼女をただの利用されるだけの存在にはならないようにしなければならない。

 彼女には、自分で選択してもらうことになるのだから。


 本拠地がつぶれたせいで多くの物資が失われた。

 襲撃者の手に渡ったものも多いだろう。

 そんなことよりも今は目の前の問題だ。


「彼女に伝えるのはもう少し後だな…」


「それで?

 わざわざ我々に連絡を取っているんだ、君のお気に入りの話をするのが目的ではないだろう?」


「あぁ…

 あの計画の話、覚えているか?」


「…まさかやるつもりなのか?

 いや確かにお前の上の連中がいなくなった今なら好都合かもしれんが…」


「…また五百年以上前の大惨事と同じ、いやあれ以上の事態になるぞ」


「…わかったよ、ったく…」


「五一九、もといミラージュにその最重要な役目を押し付けることになる」


「…お前、まさか私に後を残すつもりじゃないよな」


「…いや、念のために伝えておこうと思っただけだ」


「…そうか」


 我々には目的がある。

 もしも世界中の全てから否定されても、我々はこの選択に悔いはないだろう。

 何もかもを失った私を迎え入れてくれたシルバーファングには感謝している。

 だが、私と同じように奪われる人を一人でも多く救いたい。

 私はやり遂げなければいけない。


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