疎遠になってた幼馴染が暴力系ツンデレなんだけど!?
「ちょっと待てよ琴嶺ぇぇぇ! なんで逃げるんだよ!!」
「ひっ、久しぶりに話しかけてくれたと思ったら……なんか嫌な予感がするのよ! あんたなんてもう知らないんだからっ! 」
「いや、まだ何も言ってないじゃん! とりあえず話を聞いてぇ!!」
突然だけど、俺は今、幼なじみである文月琴嶺を追いかけている。
……何故かって? それは、そう──彼女に告白するためだ!
事の発端は、1週間ほど前まで遡る。……それにしても、めちゃくちゃすばしっこいな。追いつけるのか不安になってきた……。
***
……先週日曜日の朝。俺、岩崎綾人はゴミ出しのために家の前にいた。休日はいつも両親に頼まれるのだ。
ゴミ箱に入れ終わったあと、俺は何とは無しに向かいにある文月家に目をやった。また琴嶺と仲良くなりたいなあ、なんて思いながら。
すると、俺と同じくゴミを抱えた少女が、家から出てきた。その少女は俺に気がつくと、低めのツインテールを揺らしながら小走りでこちらに向かってくる。
「おはようお兄。今日もゴミ捨て?」
「うん。……あ、それより例の件、調べてくれた?」
紹介しよう! 彼女は文月家の次女、音嶺様である。俺と琴嶺が気まずくなっている今も、いつも変わらずに接してくれている心優しい少女だ。女神かもしれない。
それはそうと少し前に、琴嶺が俺のことを嫌っていないのか調べてほしい、と彼女に頼んでいたのだ。「よく考えたら結構キモい行動じゃね?」と後になって思ったが、音嶺は快く引き受けてくれた。感謝しかない。
「あ〜、それならバッチリ聞いといたよ! 『お姉は綾人お兄のこと好きなの?』 って!」
「…………。いや、凄くありがたいんだけどさ。さすがにストレートすぎない……? どんな反応されたのか怖くて聞きたくないんだけど 」
もしも、「嫌い」とか「もう興味ないし。ってか誰そいつ?」とか言われてたらもう立ち直れない。一生引きこもりたい!
「うーん、詳細は割愛させてもらうけどねぇ……」
「え、割愛すんの?」
「とりあえず、悪い反応じゃなかったよ? うん、これはマジで。全然嫌ってそうには見えなかった! 」
「良かったぁぁぁ……!!! それが分かっただけでしばらくは頑張れる……ありがとう音嶺……!」
思わずしゃがみこんでしまった。今の俺、かなり格好悪い気がする。まあこんな姿、彼女はもう見慣れてるだろうけど。
「ふっふ〜ん。どういたしまして〜! それとねぇ、私は結構脈アリだと思うんだよね、お姉。次会ったときに告白でもしてみたらぁ? 案外上手くいくんじゃない?」
「え。……マジで?」
正直、このまま音嶺に頼っているだけでは何も進まない気がしている。俺だって男なのだから、たまにはビシッと決めてやりたいのだ。
「よっし! そこまで言ってくれるんなら……告白しちゃうぜ!」
実の妹がそう言うのなら、きっと間違ってはいないんだろう。……こっぴどく振られたその時には、責任を取って慰めてもらおう。
「お〜! 頑張れお兄! 応援してるね〜!」
「ありがとう。 頑張ってくるよ!」
俺たちは、力強く拳を合わせた。
……かなり騒いでいるように見えるかもしれないが、声はかなり抑え目に話していたので、家の中の琴嶺に聞こえている……なんてことはさすがにないはずだ。いや、フラグとかじゃなくてね? そこら辺のことはまあ、気にしなくても大丈夫ってことで。
***
というわけで、時は戻って。
コンビニで漫画を買うために外に出たのだが、偶然にも琴嶺と鉢合わせたのだ。このチャンス、逃すわけにはいかない!
……と、意気込んで彼女に声をかけた俺だったが、「あっ、綾人…………」と警戒心マシマシに言われたあと、一目散に走り去られてしまったのだ。悲しい……。
絶賛追いかけっこ中の俺たちだけど、さすがに疲れてきて、どちらもペースが落ちている。通行人からも変な目で見られるし。
逃げきれないことを悟ったのか、琴嶺は近くにある公園へゆっくり足を運んでいく。ここで話をしよう、ということだろう。
俺もそれに倣って歩き出す。かなり息が切れていた。
彼女の目前まで来たので、話しかけようとしたが、琴嶺はいきなりこちらを向いて仁王立ちになった。どうしても怖さより可愛さが勝ってしまう。
「あんた、いきなりなんの用よ……」
そう言って、おもむろにおさげ髪を手で持ち上げ始めた。
……予想が正しいのなら、これは俗に言うツインテビンタというやつなのかもしれない。正確に言えば、その下準備か……? とにかく、全然痛くなさそうだな。
「えっと……だな。とりあえず、久しぶりに喋れてめちゃくちゃ嬉しい。ずっと淋しかったからさ。……琴嶺も、俺と同じだったら嬉し──ぶぇ!?!?」
いきなりツインテビンタされたんだけど!?
俺、別に変なこと言ってなくない……?
それと、身長差があるせいで頬よりも首が重点的に攻撃されている。意外と痛い……。
彼女の方を見てみると、顔を真っ赤にしながら頭を振り回していた。どうしよう、可愛すぎるんですけど……?
「ささ、淋しかった!? そんな訳ないじゃないバッカじゃないの?! あんた病院行けばっ?」
「えっいや……なんか、気に障ったならごめん」
「あ、その、えっと……違、くて……! そんな、謝らなくていいのに……! わたしが悪いのに……」
急にシュンとし始めた。表情がコロコロ変わって忙しそうだ。
彼女の様子を見ていて思ったが、これは完全にツンデレというやつな気がしてきた。こんなムーブ、俺のことが好きじゃないとできないよね……? きっとそう、だよね……?
よし! なんか告白できそうな気がしてきたぞ! ここから一気に好き好きアピールをして、琴嶺をデレさせるのだ!
「そうそう、お前に伝えたいことがあるんだ。そのために話しかけたんだけど」
「ふぇ……? 何よ、それ……やっぱり嫌な予感する」
やっぱりひどいなこの子。昔はもっと優しかったと思うんだけど。
「その、いきなりこんなこと言われても困るだろうけど…… 俺……」
「にゃによ……っ!」
あ、噛んだ。めちゃくちゃ恥ずかしそうにしてる。
まあ、それは置いといて。俺は、覚悟を決めるために深呼吸をした。
……ふぅ。よし、言うぞ!
「琴嶺!!!」
「んぇっ」
「俺は! お前のことがぁ! ずっっと好きなんだぁ!」
「んにゃ!?!? すっすすすしゅき!?!?」
「……いや、違うな。……愛してるっ!! この1年、俺がどれだけ悩んだことか……! 」
「あああ愛してりゅっ!?!? 意味分かんないわよっ!」
「ぐぇ!? 痛ってぇ!」
みぞおちを蹴られてしまった。クッソ痛い。
……けど、ここからが重要だ。もう少し素直になってほしい。
「……ほら、幼稚園の砂場でさ、ピカピカに磨いた泥団子をプレゼントしてくれたことあるだろ? 思えば、あそこで惚れたんだよね。笑顔があまりにも可愛くて 」
「そ、そんなこと、もう覚えてないし……可愛いって何よぉ……」
琴嶺は、心配になるくらい顔が真っ赤になっている。
「俺、お前の気持ちが聞きたい。……もちろん、嫌いなら嫌いって言ってくれた方がいいから」
俺は、琴嶺の目をしっかり見つめた。彼女もまたこちらを見ているが、かなり恥ずかしそうにしている。
今度は、彼女が深呼吸をした。
「わたしはぁ! あんたのこと、だいすっ……きっき嫌いよっ!!! もう!!!」
…………えーっと。
なんかもう、ここまで来たら、今日この場で俺の願いを成就させるのは無理な気がしてきた。願いというのは、もちろん琴嶺と恋人になることだけど。
彼女の方を見やると、さっきよりも少しだけ翳った表情をしているように見えた。素直になれなくて、後悔しているかのような。
こういうとき、どんなことをしてやれば良いんだろう。
とりあえず、声をかけてみる。もちろん、茶化したりバカにしたりはせずに。
「ねえ」
「……なに」
「今お前が言ったこと、全部が事実なら俺は一旦身を引くよ。……別に諦めるわけじゃないけど」
「……っ」
彼女は、ほんの少しだけ肩をビクッと震わせた。それこそ、よっぽどちゃんと見ていないと分からない程度に。
この反応が何を示しているのかは、まだ対話を続けてみなければ分からない。
「けどね、琴嶺。……少しでも嘘が含まれてるんなら、ちゃんと訂正してほしい。お前の本心が知りたいんだよ。……ウザかったら申し訳ない」
「…………。……ふんぬっ」
「!?」
急に、俺の足を踵で踏んできた。ぐりぐりぐりぐり。彼女の真っ白なスニーカーが、俺の黒いスニーカーと争っている。……なんて変な言い方をしたが、要はめちゃくちゃ痛いのだ。
ご褒美……だと思えばまだ耐えられるかもしれないが、さすがにエンドレスだったので、足を避難させて無理やりやめさせた。
そうしたら、琴嶺が怒ったような表情でこちらを見つめてきた。
「……わたし、さっき家の前であんたに声かけられたとき、何か悪いことを言われるんだと思って必死で逃げてたの。……それこそ、絶交宣言とかね。……綾人に嫌われたら、立ち直れる気しなかったし」
「絶交なんてするわけないだろ! 気付いたら疎遠になってたし、何より俺もお前の動向を探るだけで満足してた節があるし。みっともなくて、そんなことできない」
「まあ、それもそうよね」
そう言って、彼女は顔を地面に向けた。まるで、溜まった怒りをまさに爆発させようとしているかのように、深呼吸をする。綺麗な瞳が、キッとこちらを向いた。
「だから! わたし、告白されるなんて全く思ってなくて! ちょっと舞い上がっちゃって、でも全然素直になれなくて! なんだか、自分が嫌になってたの!」
「……うん」
「でもねぇ! あんた、告白してきてからわたしの様子を伺うばっかで! 今度は、あんたのその態度が嫌になってきたの!」
「……うん?」
「『好き』って、ビシッと言ってくれたのはかっこよかったのに! 男なら、そのあと強引に抱きしめたり、く、くく唇奪っちゃったりしてみなさいよ! もっと強気に出なさいよ! わたし、そ、そういうのが好きなのにぃっ! 綾人、あんたってほんとにバカよっ!」
全部言い終えたらしく、ぜぇはぁと疲れたように呼吸している。
顔は真っ赤に染まっていたが、背景の夕日に照らされて、なんだかとても綺麗に見えた。
そんな彼女を、俺は強引に抱きしめた。遠慮はいらないらしいので、とにかく強く。潰れそうなほどに。
「……まあ、及第点はあげる」
「……それはどうも」
「キスは、してくれないのね」
「いや、ここ公園だし。さすがにそこまでは恥ずかしい」
今も十分すぎるくらいに恥ずかしいけど。
「……ふんっ。まあ良いわ」
琴嶺は、俺の腕から抜けると、今日初めての笑顔を向けてきた。とても穏やかで、優しくて、思わず昇天しそうになるくらいに綺麗な。
「まだ言ってなかったけど。わたし、あんたが好きよ。今日からは恋人同士ね」
「……うん」
「わたしのこと、好きになってくれてありがとう。……ちなみに、きっかけは小1のときにやったドッジボールね。あんた、ボールに当たりそうになったわたしの目の前に立って守ってくれたから」
どうしよう、見事に覚えてなかった。……だけど、彼女は彼女で泥団子の件を覚えてないと言ってたし、意外となんでもないような行動によって人は恋に落ちるのかもしれない。
……あ。それと、聞きたいことがあるんだった。
「ねえ琴嶺。いつからそんなツンデレになっ──ぐはっ?!?!」
「ツンデレ言うなぁ! 次に言ったら股間蹴るわよっ!」
「あ、いや、それはマジで勘弁してください」
「……ほんとに、もうっ」
とりあえず、一件落着ということで。俺たちは、家に帰ることにした。……ってちょっと待て、本来の目的を忘れてた。コンビニ行かなきゃ!
「俺、コンビニ行きたいんだけど、お前は何のために外出たの?」
「あっ。忘れてた……わたしもコンビニよ。グミ買いたかったの」
「グミって……なんか可愛いな」
「バッババカなこと言ってないで! 一緒に行くわよ! こっち!」
琴嶺に手を引かれて、コンビニへ向かう。しれっと手を繋いでいることに、気付いてるのか気づいてないのか……。
初めはどうなるのかかなり不安だったが、今はとても幸せだった。
ちなみに、その後の話を少しすると。
俺たちの様子を何故か見ていたらしい音嶺によって、いろいろな情報がそれぞれの両親に伝わってしまったらしく、家の近くに来た瞬間に「おめでとーう!!!」と5人同時に言われた。
俺たちは逃げようにも逃げられず、久しぶりに両家合同で夜ご飯を食べた。……赤飯だった。
以前カクヨムに投稿した作品なのですが、カクヨムには垢BANの危険が意外と近くに潜んでいると知ったので、バックアップ目的でなろうにも投稿しました。いや、もちろんあっちでバックアップとろうとしたんですけど文字化けしちゃって……。
他の作品も順次こちらで投稿していくつもりなので、よろしくお願いします。
ひんぬーツンデレサイコー!!!!(狂った)