51. お義父さんは、一歩踏み出します!
空港で。
母の後ろを歩いていた足が、ふと止まる。
「――凜?」
大きなつば帽子を身に付け、振り返る母。
「……飛行機、何時だっけ」
「大丈夫よ、余裕もって出てきたから。11時よ」
「……そっか」
凜は、ほっとした。
その様子を見て。
「早めにゲート通っちゃおっか」
「……え?」
「ぎりぎりだと、余裕もって出てきた意味なくなちゃうでしょう? それに機内食があるから、お昼空港の中で食べなくてもいいんだし」
「通っても通らなくても、それほど変わらないでしょう?」
「……そう、だね」
「?」
凜のスマホから通知音。
『まだ、飛行機乗って乗ってないよな!?』
と、優斗から。
思わずメッセージを開いて、確認した。するとメッセージが連投される。
『今空港向かってる、お義父さんといっしょに』
『あと30分ぐらいで、着くはずだ』
『今、お義父さんと電話できるか』
「え……」
「凜?」
心配して凜の顔を覗き込む、母。
「な、なんでもない」
そう言って、凜はとっさにスマホをポケットに入れた。
もう、後ろを振り返らないと決めた。それなのに、今更――――。
プルルルル、プルルル。
電話が鳴る。
「……っ」
プルルルル、プルル。
電話がなっても無視をする。
「……っ」
だめ、だめ……出たら絶対、進めなくなる。空港まで、来たのに……。
プルルルルル、プルルルルルル――――。
「……出なさい、凜」
母は、そう言った。
「……そんなにあなたのことを、大切に思ってくれる人いるなんて素敵じゃない。それって、あのお義父さん? それとも、ご友人なのかしら」
「……でも、ママ、私は……」
「――――仕方ないわ。ママね、凜が嫌がるようなことは、もうしないって決めてるの。だから」
「出て、あげないさい」
いつものように、にっこり笑って彼女はそういった。
「……ありがとう、ママ」
何度も何度も折り返してかかってくる電話に、凜はついに出た。
『も、もしもし』
電話越しに聞く、声。自然と涙が溢れ出す。
「――本当にりゅう、なの?」
『そうだ、りゅう……だよ』
「――――っ」
『……凜、泣かないで、待っててくれ』
『今、高速を降りて市街地に入った。もう少しで、空港に入る。すぐ、会える』
「……どうして、そこまでするの。色々、言っておいて。いっぱいいっぱい、衝突しておいて」
『――――』
その言葉に一瞬言葉を失う。
『凛と、みんなのおかげだよ』
『俺だけじゃ、きっとここまで出来なかった。こんな無謀なことできるほど、自分の気持ちに自身を持てなかった』
『優斗くんや、優香ちゃん、アナスタシヤちゃん……みんなが、俺のことをここに引っ張り上げてきてくれたんだ』
『そしてみんなを、俺を、奮い立たせてくれたのは、紛れもなく凜だよ』
「――――」
「着いた! どこだ!? もうゲートはくぐったのか!?」
空港についてすぐ、パニックになる優斗くんを差し置いて、俺はスタスタ歩いていった。
まだ、電話はつながっている。
「凜……ありがとう。あの日、俺を選んでくれて」
『――――っ』
鼻を啜る音が、小さく聞こえてくる。
「こんなおっさんと、10年も一緒にいてくれて、優しくしてくれて、家族になってくれて、ありがとう。この続きは、会って言いたい」
『――――りゅう……っは』
「凜!?」
電話を握っていた手は、離された。
「……ママ?」
帽子のつばで隠れた瞳から、涙が流れていた。
「――――」
「凜ッ!」
「りゅう!」
俺の方を向く凜、しかしこちらへは行けない。母である柊さんが、凜の腕を掴んでいた。
「……行っちゃだめよ」
ここで、手を話してしまったら、帰ってこないことなどわかっていたから。
だから離すまいと、彼女は凜の腕を掴んだ。
「――ママ、いい子じゃなくてごめん」
そう言って、凜は抱きついた。
「ママのことは大好き。ほんとだよ。ママがずっと辛かったこと知ってる。ママが私のことを大切に思ってきたことも知ってる」
「でもごめん。これだけは、絶対譲れないの」
「……っ」
ためらいながらも、柊さんは凜の腕を離した。
みなさんこんばんは!投稿遅くなってすみません!まだまだ納得がいっていないラストシーンでございます!悔しい!でもうまくかけない!悔しいです!!
明日で、完結してしまうかと思いますが……最後までよろしくお願いしまああああああす!!




