49.それでもお義父さんは!!
翌朝の早い時間。
起きてすぐ、俺はメールを確認した。上司から、『了解した』とメッセージ。
今日は午前中だけ休むことにした。
柊さんからは、結局何時の飛行機に乗るなどは言っていない。多分、午前中の何処かのタイミングで来ることは思うのだが……。
ピロリンと、誰かからメッセージが来た。
『八雲さん、大丈夫ですかぁぁぁぁあああ!!』
ちひろちゃんだ。
『全然大丈夫だから、気にしないで』
『絶対何かあったでしょ! 教えてください!』
「……うーん」
こういうのって、言うべきなのか?
『実は、今日凜がアメリカに飛ぶんだ。母親と一緒に』
『は……』
『は……』
『はああああああああ!? なんでそんな大事なこと、早く言わなかったんですか! なんとかしないとやばいじゃないですか!』
『いや、突然決まったことで仕方がなくて……』
『突然とか関係ないです! 何してんですか、先輩! どうして止めないんですか! それでも倫理観外れた父親ですか! この野――――』
続きを見るのが嫌になって、スマホを閉じた。
しかし、通知が鳴り続けるので、通知も切った。
「……はあ」
りんの部屋を見に行くと、最小限の荷物をパッキングしている凜。
お気に入りの服、お気に入りのぬいぐるみ。
「……そんなに少なくて大丈夫か?」
とりあえず、声をかけてみた。
「大丈夫。荷物送るにしてもお金かかるし。それに――あんまり未練持っていきたくないから」
「……わかった」
昨日から、険悪ムードでいっぱいな我が家。
目も合わせず、話もせず、一緒の空間にいることさえしない。凜はずっと暗い顔をして、下を向いている。
チャイムが鳴って、すぐに柊さんだと気づいた。
時刻はまだ、7時頃だというのに。
「……はい」
「娘を迎えに来ました。入ってもよろしいでしょうか?」
いつものように、にっこり笑ってそういった。
「……どうぞ」
俺がそう言うと、ずけずけと中へ入り、そして凜を呼ぶ。
俺は彼女を追いかけた。
「早いんですね。もうちょっと、遅くてもいいんじゃないですか」
「ここから空港まで結構かかりますから、これぐらいがちょうどいいんです」
「……っあの、転入手続きとか、そういうのってどうなっているんですか」
「大丈夫です。全て済ませてあります。八雲さんはいつもどおりの生活を、これからも続けていっていただいて結構です」
「……そう、ですか」
凜の部屋を開け、凜を見た途端、柊さんは抱きついた。
「凜! 久しぶりに会えたわね! ようやく一緒に暮らせるわ! 早く帰りましょう!」
「……うん」
凜は浮かない顔をする。
小さめのキャリケースを玄関に出して、扉を開ける凜。
「――じゃあ、またね。りゅう」
「そっちこそ、頑張ってな」
俺がそう言うと、凜はちょっとムスッとした。
俺……変なことでも言ったか?
「……ねえ、それだけ?」
「え?」
「娘と一生会えなくなるかもしれないっていうのに、りゅうは引き止めてくれないの」
「……それは」
だって、引き止めてどうなる。引き止めたって、どうにもならないじゃないか。
「もういい」
「あのさ、私――――」
そこまで言って、止まる、凜。
「なんでもない」
「行こう、ママ。バイバイ、りゅう」
何も言えないまま、その後姿だけを見る。
誰もいなくなったリビングで、ソファに横たわる。子供っぽく、大きくジャンプして。
「……ひどい気分だ」
涙一つでない。
「……なにか言えばよかった」
『あのさ、私―――――』
『だって、私、りゅうのこと―――』
なんとなく、聞き覚えのあるフレーズだった。
でも期待してしまう自分が嫌で、そんなはずないと思って、ずっと受け流してきた。
「……凜の気持ちなんて、わかるものか」
どこまでちゃんと愛してくれていて、どこからが情だったのか。
本当に、俺といたかったのか。それとも、本当はずっと離れたいと思っていたのか。俺が可愛そうだから、一緒にいてあげたいと思ったのか。
「――――っ」
ソファにうずくまって、クッションで顔を隠して泣いた。
これでいいんだ、これでよかったはずだ。
そうやって自分に、言い聞かせる。
プルルルルル、と電話の音で目が覚めた。
いつの間にか、寝ていたらしい。
「ん?」
知らない電話番号。
「……はい、もしもし」
泣きすぎたせいか、寝起きのせいか、低い声で電話に出る。
「お前ェェエエエッ!」
電話口で、叫ばれ体がビクつく。
「……誰だ!?」
「俺だ、俺!!」
そんなオレオレ詐欺みたいに言われても、電話越しでは声の判断が難しい。
「山崎優斗だっ、です!!」
皆さんこんばんは!アマプラで怪物を見ているんですが、すごい話ですね……リアルすぎて……面白いです……
この作品も今週で完結してしまうと思うのですが、面白いと思っていただけたら幸いです!!




