46.クリスマスには、みんな思い出があるんです!!
――――小さい頃の、凜。
それはある日、ある用事で、家から一番近いデパートへ訪れたときの事だった。
「おでかけ、おーでかけ!」
凜は、お気に入りの茶色いダッフルコートを着て、歌いながらデパートを歩く。
「お……凜、見ろ! 大きなクリスマスツリーだ!」
すると、凜は目を輝かせた。
「すごい、すごい! あのときのくりすますつりーだ!」
「あの時?」
「あのね、あのねえ! むかしね、おかあさんと、このくりすますつりーをみたんだよ!」
「……へえ、凜の口からお母さんの話が出てくるなんて、意外だな」
凜との生活が一年を経過したぐらいの時期で、それまで凜の口から「おかあさん」の話が出ることはなかった。
「どうして?」
「だって……凜はお母さんのこと、あんまり好きじゃないだろう?」
大人げなく、そんなことを聞いてしまった。少なくとも、俺の方が大事と言ってほしかったから。
「きらいじゃないよ!」
「え? そうなの?」
「うん! だーいすき!」
「……でも、凜を置いてきぼりにしてどこかへ行ってしまったんだよ。俺は――――」
そんなことをしたのが許せなかった。
「ちがうよ!」
「え?」
「おかあさんは、りんをおいていったんじゃないよ。ちょっとだけ、ばいばいしてるだけ。またかえってくる。りんといっしょに、このくりすますつりーを――――またみるの」
凜の小さな指が、目の前の大きなツリーを指差した。
「おかあさん、くりすます、すきなんだ~っ! りんのうまれたひ、くりすますなんだって! だからすきって、いってた!」
凜は今でも、母を愛し大切に思っていた。自分を、どのような状況下に置こうがそれは変わらなかった。
「……凜は、お母さんが迎えにきたら……お母さんと一緒に帰るのか?」
「うーん……わかんない」
うまく返されてしまった。
「そっか……」
「……じゃあ、お母さんが迎えに来るまで――――凜は俺と一緒にいてくれるか」
凜の手を握って、凜の瞳を見た。
するとガラス玉みたく大きな瞳が、俺を見た。
『うん! りゅうといっしょに、いる!」
俺の膝ぐらいしかない身長の凜に合わせて、しゃがんで、約束する。
「ゆびきーりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます! ゆびきった!」
「……覚えていて、くれたんですね」
柊さんは俺から離れて、クリスマスツリーに近づく。そして、眺めた。
柊さんは、娘のことを愛していた。彼女なりに、大切にしていた、と思う。
わからないのは、どうして凜をおいて行ってしまったのかということ。
「……だったら、なおさら諦められませんね」
「え?」
「八雲さん、ラーメンでも食べに行きません? お腹も減ったことですし」
名前呼びだったのが、名字に戻った。
皆さまこんばんは!夏神ジンでございます!!着々と最終回へ近づく本作……最後まで見ていただけると嬉しいです!!
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