表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

文学

天使と悪魔

作者: 緋西 皐

 病床のベッドに寝たきり、怠惰だと蔑まされ笑われてついに死の際まで着いてしまった一人の男がいた。

 そのベッドは初めはそういったものではなく、揺りかごの様に祝福され、誠実と期待によって丈夫となり、しかして心の重さゆえか足が壊れ、男と共に病床になったのだろう。

 それが今、前もって注意されていた通りに、三途の川へ合流しようというのに、前もってまるで決心したかのように男は寝たきりであった。ベッドのほうはその重さゆえか川に流されるしかないのは、誰も気づかぬところだろう。


 儚色の雲が映る。男はそれを見つめたまま、今までの人生について考え始めた。


 「およそ人間とは誰しもが薬物中毒者のようなものだったろう。ある者は権力に縋り、放せず、ある者は家族に縋り、放せず、ある者は趣味に縋り、放せず、そして誰しもが生と名誉に縋りて放せない。私の場合はそれが怠惰だっただけだろう。」


 男は古に比べ裕福な時代に生きた。路肩で死のうとしても見つかれば生かされ、戦争もなく、溢れんばかりの娯楽に囲まれていたはずの時代である。

 ただ男にとってそれは貧乏ゆえか、あるいは怠惰すぎるがゆえか、それとも病的であったからか、どれも川を流る枝のように人生を通り過ぎるばかりであった。


 そんな怠惰に欲望を飲まれてしまった彼であったが、悩みはあった。むしろその悩みのせいで疲れ果てて寝たきりになったのかもしれない。

 彼は毎日同じくして何が正しいのかについて自問自答し、ある日は「やはり自分は間違っている」と、別の日は「いや、なにも間違っていない」と、繰り返していた。それはまるで習慣化された筋トレよりも自然的に行われていたが、どうも悩みは果たされることはなかった。

 

 心残りではなく、けれどもこう死に際になってもなお、彼はまた同じことを考えていた。近しい死の世への空、無情である空に彼は少しばかり美しさを抱いていた。その心のうちに未だにどこかで救われたいと願う気持ちはあるようである。


 美しき空にキラリと眩い星がかかり、それは次第に輝きを増していった。男の霞んだ目の内から忘れた希望を撫でるように、その光は男へ落ちていく。

 現れたのは翼を持つ人に似た何か。男のその切なる純粋な願いを聞き入れたのか、微笑んで彼に問いかける。


 「死を以て、汝の問いの答えを示すとしよう。ただし一つまでだ」


 男は飢えた狼が目の前の兎に喰らって襲い掛かるかのように、すぐに言葉を叫んだ。


 「天使様、私の生は正しかったか!」


 あの世の死者の誰もが気づくほどの大声を出した男だったが、その問いに関して天使は沈黙し、去っていった。

 男はその態度に疑念を浮かべ、怒りを向けてもう一度叫んだが、その声は翼の影に飲みこまれたようだった。

 

 太陽に隠され、虚ろになったベッドは反転した彼の記憶の重さに、ただ沈んでいった。

抽象的な話になってしまったが、これが芸術だろうか。いや、かなり抽象的だが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ