天使と悪魔
病床のベッドに寝たきり、怠惰だと蔑まされ笑われてついに死の際まで着いてしまった一人の男がいた。
そのベッドは初めはそういったものではなく、揺りかごの様に祝福され、誠実と期待によって丈夫となり、しかして心の重さゆえか足が壊れ、男と共に病床になったのだろう。
それが今、前もって注意されていた通りに、三途の川へ合流しようというのに、前もってまるで決心したかのように男は寝たきりであった。ベッドのほうはその重さゆえか川に流されるしかないのは、誰も気づかぬところだろう。
儚色の雲が映る。男はそれを見つめたまま、今までの人生について考え始めた。
「およそ人間とは誰しもが薬物中毒者のようなものだったろう。ある者は権力に縋り、放せず、ある者は家族に縋り、放せず、ある者は趣味に縋り、放せず、そして誰しもが生と名誉に縋りて放せない。私の場合はそれが怠惰だっただけだろう。」
男は古に比べ裕福な時代に生きた。路肩で死のうとしても見つかれば生かされ、戦争もなく、溢れんばかりの娯楽に囲まれていたはずの時代である。
ただ男にとってそれは貧乏ゆえか、あるいは怠惰すぎるがゆえか、それとも病的であったからか、どれも川を流る枝のように人生を通り過ぎるばかりであった。
そんな怠惰に欲望を飲まれてしまった彼であったが、悩みはあった。むしろその悩みのせいで疲れ果てて寝たきりになったのかもしれない。
彼は毎日同じくして何が正しいのかについて自問自答し、ある日は「やはり自分は間違っている」と、別の日は「いや、なにも間違っていない」と、繰り返していた。それはまるで習慣化された筋トレよりも自然的に行われていたが、どうも悩みは果たされることはなかった。
心残りではなく、けれどもこう死に際になってもなお、彼はまた同じことを考えていた。近しい死の世への空、無情である空に彼は少しばかり美しさを抱いていた。その心のうちに未だにどこかで救われたいと願う気持ちはあるようである。
美しき空にキラリと眩い星がかかり、それは次第に輝きを増していった。男の霞んだ目の内から忘れた希望を撫でるように、その光は男へ落ちていく。
現れたのは翼を持つ人に似た何か。男のその切なる純粋な願いを聞き入れたのか、微笑んで彼に問いかける。
「死を以て、汝の問いの答えを示すとしよう。ただし一つまでだ」
男は飢えた狼が目の前の兎に喰らって襲い掛かるかのように、すぐに言葉を叫んだ。
「天使様、私の生は正しかったか!」
あの世の死者の誰もが気づくほどの大声を出した男だったが、その問いに関して天使は沈黙し、去っていった。
男はその態度に疑念を浮かべ、怒りを向けてもう一度叫んだが、その声は翼の影に飲みこまれたようだった。
太陽に隠され、虚ろになったベッドは反転した彼の記憶の重さに、ただ沈んでいった。
抽象的な話になってしまったが、これが芸術だろうか。いや、かなり抽象的だが。