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オンラインメダルゲーム

 2月中旬。学生にとってはバレンタインという重大イベントであり、良い感じに仲の進展している良太と塔子の間にもチョコレートをあげるべきかどうか、貰えるのだろうかというドギマギが発生するはずであったが、


「げほっ……ごほっ……うう、ゲームセンターに行きたい、メダルゲームがしたい……」


 インフルエンザが空前の大流行であり良太も塔子も仲良く罹患。高校も当分は学級閉鎖でそれどころではなく、塔子は自室のベッドで高熱にうなされながら、ゲーム機やスマートフォンの画面を眺める日々を過ごして行く。ゲームもあらかたやり込みつくし、人恋しくなった塔子はやがて良太にSNSでメッセージを送るが、良太も高熱でうなされて一日の大半を寝て過ごしているからか既読が長時間つかない。


「まさかインフルエンザが悪化して……?」


 塔子も熱でメンタルが弱っているからか、連絡の返って来ない良太の事が心配になって涙目になりながらメッセージでは無く電話をかける。しばらくして、枯れた声で良太が反応を示し塔子はほっと胸を撫でおろす。


「……何? 俺しんどいんだけど……」

「私もしんどいわ。今も37度5分」

「俺は39度2分。もっとしんどいから寝させて。用が無いなら切るよ」


 風邪で寝込んでいる時にクラスの女子から電話が来て元気が出る、という思考回路になれる程に良太の体調はまともでは無く、基本的に誰にでも温和な対応をしている良太からは想像も出来ないような不機嫌そうな、冷たい声が塔子に響く。何の用も無いのに暇だから、声が聞きたくなったから電話をしたと思われては印象が悪いと焦った塔子は、どうにかして用を作り出そうと熱っぽい頭をフル回転させる。


「……そ、そうだ! 今はね、ネットでもメダルゲームが出来るのよ。どうせインフルが治っても当分学級閉鎖で自宅待機だし、暇になるでしょ? 後でメッセージで色々リンクとかを送っておくわね、それじゃお大事に」


 そして苦し紛れに暇を持て余している良太の為にネットで遊べるメダルゲームを教えてあげると伝えて電話を切り、ゲームセンターにメダルゲームを出している会社が公式に作ったオンライン版や、スマートフォンゲームの普及により増えたインディーズのメダルゲームの情報と、そのゲームでの自分のIDをメッセージで送る。それから数日後、すっかりインフルエンザは治りゲームセンターに行こうとするものの、親に外出を禁止されて自宅待機の日々が続く塔子がカルマロッタのオンライン版で遊んでいると、良太であろうIDからチャットが届く。


『凄いねこれ。再現度も高いし、実際のゲームセンターと違って24時間いつでも出来るじゃん』

『そうね。でも良い事ばかりじゃないのよ、結局いつでも遊べる環境って依存症を促進する訳だからね。ほら、ニュースにもなってるでしょう? オンラインギャンブルがどうのこうの。あれも結局24時間スマートフォンで遊べるから問題なんだって専門家が言ってたわ。メダルはお金には出来ないけれど、だから安全って話でも無いでしょうね。現に良太はお金にも出来ない絵とシナリオに依存してジャブジャブお金を使ったでしょう?』

『耳の痛い話だね』

『だから私はオンライン版は毎日ログインボーナスで貰える無料メダルでしか遊ばないって決めてるの。オンライン版はハイエナとかが出来なくて攻略が難しいしね』

『それもどうかと思うよ……』


 昨今のオンラインゲーム事情について語りながら、しばらくカルマロッタを出している会社のメダルゲームをいくつか遊ぶ二人。やがてもう一つの代表的な会社のサイトで遊びましょうと塔子が提案し、メダルタワーで有名な会社のオンライン版サイトへ向かう。


『値引き……?』

『獲得したメダルを使うことで、商品を買う時に値引きが出来るのよ。まぁ、有料のプランにしないと値引き額にも限度があるんだけどね』

『え、これって法律的に大丈夫なの? というかブラックジャックとかルーレットとか、何かゲームセンターで見かけないカジノっぽいゲームもあるけど、これってさっき言ってたオンラインギャンブルじゃ無いの?』

『ははは、こんな大きな会社が法律的に問題ある訳無いじゃない。私達小市民はそんな事を考えずに遊べばいいの。ほら、メダルゲームはまだあまり導入されてないけど、メダルタワーがあるわ。現実のよりも甘い設定になってるから遊びましょう』


 音楽ゲームやクイズゲーム、メダルゲームのような現実にゲームセンターにあるゲームをオンラインに移植した、健全なイメージのあるカルマロッタの会社のサイトに比べると、メダルタワーの会社のサイトはカジノやギャンブル、景品交換のようなイメージが強く出ており、大丈夫なサイトなのだろうかと良太は不安になる。天下の大企業がやる事に問題がある訳が無いと、自分に言い聞かせるように力説する塔子に押されてメダルタワーのゲームで遊び、しばらくして溜まったメダルで折角だしと値引きされたお菓子を買って自宅に送る。


『折角だし、ネットでしかできないメダルゲームで遊びたいね。演出とかもCGなら豪華だろうし』

『そうね。今は色々あるけれど、私のおススメはサドルプッシャーよ』


 やがてオンライン限定のメダルゲームで遊びたいと良太は思うようになり、その願いに応えるべく塔子はサドルプッシャーという昔から細々と進化を続けて来たメダルゲームを紹介する。ロビーに表示されたゲームは現実で見たことのあるようなメダルゲームであり良太は早速不安を覚える。


『ねえ、これってあの会社のパク』

『パロディー、オマージュって言うべきよ。今は規模も大きくなって開発陣も増えてるかもしれないけれど、元々は個人開発なのだから多くを求めるべきでは無いわ。それに実際遊んでみると、独自のアレンジがあって面白いわよ。現実のメダルゲーム会社も真似して欲しいくらい』


 先程のカジノっぽいサイトに引き続き、何の問題も無いと自分に言い聞かせるように力説する塔子。パクリ、パロディー、オマージュの線引きについて悩みながらも遊び始める良太であったが、実際に遊んでみると払い出しのメダルを1枚で複数枚の価値があるメダルに変更出来たり、イベントで獲得したアイテムを使って直接ジャックポットチャンスを遊べたり、やり込み具合に応じてノベルゲームが楽しめたりと、現実では味わえないシステムに満足する。


『なんだかこういうのをやってると、俺達も作りたくなるよね。俺は理系に進んでプログラムとか機械の設計とか目指そうかなぁ』

『私は文系に進んで経営の道に進んでゲームセンターの経営をしたりメダルゲームを作るプロデューサーになりたいわ』


 その後もスマートフォン向けのメダルゲームや携帯ゲーム機に移植されたメダルゲーム等を二人で遊び、やがて大企業に入らなくても面白いゲームが作れる現状に将来の夢が広がり、二人で将来について語り合う。しかしそれと同時にもうすぐ進級であり、文理の希望が違う二人はクラス替えで離れ離れになること、更に2年が経てば卒業となってしまう事を両者共に実感してしまい、少し気まずくなってしまう。


『私ちょっと病み上がりだからもう寝るわ』

『俺はフィーバーモードが続いてるからもうちょっと遊ぶよ。お大事に』


 やがて塔子は寝ると言ってゲームからログアウトし、良太は今後の自分達の関係について考えながら一人遊び続ける。ふとマイページを見るとプレゼントが届いており、それを見ると塔子からチョコレート(使用するとメダルが獲得できる)が贈られていた。塔子のサプライズに良太が顔を赤らめている頃、


「……ゲームとは言え、渡しちゃった。もう自分の気持ちから逃げるのは良くないものね。……でもこれからどうすればいいのかしら。ねえ、たまには帰って来てよ南無子……」


 塔子も自分のベッドの上で、風邪では無い理由で顔を赤らめながら悩み続けるのであった。

元ネタ……

コナミ『コナステ』

セガ『ガポリ』

パトルソフト『パトルプッシャーシリーズ』


ゲームセンター業界にメダルゲームを作って売って、

自社サイトでそのオンライン版を作って客を流させるって、

まぁまぁ闇かもね

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