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ホリマクール

「男子近くのスーパーとかから段ボール貰ってきてー」

「頭蓋骨見つからなかったから代わりにカボチャ持って来た」

「それじゃハロウィンでしょ」


 高校生になって初めての文化祭。良太達のクラスはお化け屋敷をやることになり、部活に入っていない生徒は優先的に準備のシフトに入れられる。良太もその一人であり、毎日クラスメイトと駄弁りながら作業を続けていたのだが、そこに塔子の姿は無かった。


「文化祭の準備に参加しなくていいのかって? どうせガキのお遊戯会でしょ、そんなものに参加する価値なんて無い無い。良太? いいのよもう、アイツ結構モテるみたいだし、もう他の女子とよろしくやってるでしょ。そもそも別に好きじゃ……無い……し……」


 良太達が作業をしている頃、シフトに入っているはずの塔子はゲームセンターでイマジナリーフレンドと会話をしながら一人遊びに興じる。カラスロッタの際に教室から逃げ出して以来、塔子は良太を避けており、そのまま文化祭の準備期間になるもサボり続けていたのだ。皆が部活や準備で大変な思いをしている中、自分は大好きなメダルゲームで遊べる。そんな優越感で笑みが零れるなんてことはなく、メダルが増えて行くと共に、塔子の溜め息の回数も増えて行く。


「もうこんな時間。クラスの連中が来たら嫌だし、さっさと退散しますか。……良太が向かってきてる」


 やがて高校の下校時間になり、盛り上がったクラスメイト達がゲームセンターに襲来して鉢合わせるのを嫌がった塔子は帰り支度を始めながら、こっそり良太のスマートフォンに仕掛けた監視アプリを使って良太のスマートフォンの位置を検索する。良太が学校を出てゲームセンターへと向かっていることに気づいた塔子は入口付近にある筐体の陰に隠れて良太を待つも、良太と出会ったとして、一方的に避けていた上に文化祭の準備もサボっていて印象が悪い自分がどうすればいいのかがわからず悩む塔子であったが、その悩みは杞憂に終わる。ゲームセンターにやってきたのは良太だけでは無く、準備で盛り上がったクラスメイト達も一緒であり、塔子が姿を現す事は出来ないからだ。


「太鼓やろうぜ」

「皆でプリ撮ろーよー」


 良太を含む趣味嗜好のバラバラな8人のクラスメイト達が色んなゲームで遊び楽しそうにしているのを、気付かれないように陰から観察して歯ぎしりをする塔子。やがて一人の男子がメダルゲームのコーナーを指差す。


「皆で金出し合ってメダルゲームやろうぜ? こないだ一人でやったんだけど、メダルって結構高くてさぁ。一人1000円ちょっと出せば、ほら、メダル3000枚だぜ? お得なんだよ」

「あ、私こないだボーリングやった時に増量クーポン貰ったんだ、それ使お使お」

「良太、メダルゲーム結構やってるんだろ? おススメの台とか無いの? 皆で遊べるような」


 皆でお金を出し合ってメダルゲームをやろうという男子の提案に、普段メダルゲームをやった事の無いクラスメイト達は賛同し、良太にどの機種で遊ぶのがおススメかを聞く。そんな様子を陰で眺めながら、塔子は弟子を見守る師匠のような表情に。


「他の連中とメダルゲームで遊ぶのは嫌だけど……私がみっちりイロハを教えてあげたんだもの、センスのある選択をするわよね?」


 良太がどんなメダルゲームをクラスメイトに勧めるのか注目する塔子の事などいざ知らず、良太は店内を見渡した後、誰も座っておらず、2人座れる席が4サテライト分あるため丁度全員が座れる機種を指差す。


「あれなら丁度全員で遊べるよ。ホリマクールって台なんだけど」

「何これ!? めっちゃボールたくさんあるじゃん! 落としたら貰えるの?」

「おいこれ、ネットで見たことあるぞ! メダルタワーってやつだろ!」


 良太が選んだのはホリマクールという、かつて塔子と一緒に遊んだメキシカンジュエルの後継機とも言える機種。プッシャーゲームでボールを自陣に落とすゲーム性はそのままに、メダルタワーを建てて崩すという要素も備わっており、初心者が遊べば盛り上がる台なのは間違いないのだが、陰から塔子は何やってんだと言わんばかりに地団駄を踏む。


「あほかあああああよりにもよって何でソレなのよボールの数が有限なんだから皆で遊べば遊ぶ程損をするってあれだけ説明したでしょそもそも8人、4サテライトで3000枚ってことは1サテライトあたり750枚? 足りない足りないすぐに溶ける特にアホな男子なんて調子に乗ってガンガンメダルを投入してすぐに無くす」

「……?」


 良太の選択に不満な塔子は影から突っ込みを入れるのだが、機種に座っていた良太がその声に気づき振り返り、塔子は慌てて姿を隠す。こうして塔子が陰から見守る中、良太達はホリマクールで遊ぶ事になるのだが、塔子の予想した通りの展開になって行く。


「おいそれ俺が狙ってたボールだぞ」

「えー皆で遊んでるんだからいいじゃん、協力プレイ協力プレイ」


 貴重なボールを全員で奪い合う事になったり、


「ああああメダル無くなったああああ頼む、少し譲ってくれよ、もう少しでこのタワー落ちそうなんだよ、倍にして返すから」

「自腹でメダル借りてきたらー?」


 完成したメダルタワーを落とす事に躍起になった男子がメダルを次々と投入した結果、あっという間にメダルが無くなってしまい無心をしたりと、3000枚もあったメダルはどんどん減って行く。結局追加でお金を出し合ってメダルを借りて遊ぶことになるのだが、もう少しだけ、もう少しだけの精神であまりお得では無い金額でメダルを借りる事を連発してしまい、見てられないプレイングに今すぐ飛び出してアドバイスをしたいという気持ちを抑えるので精一杯な塔子。自分のメダルが消えて行くような感覚に気分が悪くなりながらも良太達が遊ぶ光景を眺め続けていたのだが、気分が悪くなる原因は他にもあった。


「あ、ボール落とすチャンス。小波君、あの大きいやつ狙って」

「うーん……たしかあの距離だと、制限時間間に合わないと思う。紫が3つ手前に来てるからこっちを狙った方がいいかな」


 最初は男子同士、女子同士で遊んでいたのだが、途中から配置換えが行われた結果良太はクラスの女子と一緒に遊ぶ事に。塔子に教わった知識を活用して女子のポイントを稼ぐ光景を見ているうちに、塔子は頭が混乱してトイレに駆け込む。何度も深呼吸をして精神を落ち着かせて戻って来る頃には、良太達は既に解散したようでホリマクールはもぬけの殻。


「やれやれ、素人共が……あれだけお金落として、結局紫ボール6つも残したまま帰るなんて。ま、ああいう下手なお客さんがいるから私みたいなプロがお金を使わずに遊べるんだけどね……良太はまだ近くにいる。ひょっとしてカラオケ? あのメンバーで二次会? してるって事?」


 ライバルのいなくなったホリマクールで遊ぼうとする塔子であったが、その視線はスマートフォンに表示されている良太の居場所に釘付け。ゲームセンターを出てそのまま別の場所で楽しく他の女子と遊んでいる良太の事を想像するだけで吐き気がしてしまいメダルゲームどころでは無くなった塔子は、自室に戻って枕を思い切り壁に叩きつけたり、泣き出したりと心のもやもやに支配されてしまう。このもやもやどうすれば解消出来るのかについて、塔子が知っている方法は1つしか無かった。翌日の放課後、教室で文化祭の準備をする良太の隣に塔子がすっと座る。


「……?」

「何すればいいの?」

「えーと……今はお化け屋敷っぽい絵を描いてるんだ」 

「随分可愛らしいお化けね。じゃあ私は隣に本格的なお化けを描いてギャップで怖さを倍増させるわ」


 今まで準備をサボり続けて来たため、既にシフトから外されているし何をやればいいのかもわからない塔子は良太の隣を占領して作業を手伝う事に。こうしてお互いそれなりの気まずさを抱えたまま、文化祭の準備は進んでいくのであった。

元ネタ……セガ『ホリアテール』


アラビアンジュエルとメダルタワーを組み合わせたセガの最近の機種。

アラビアンジュエルと異なりプッシャーゲームの継続が物理抽選になったのだが、

継続率12.5%や25%で毎回課金でコンティニューを促すのはどうかと思うな。

ちなみにセガは『ホルカトルカ』という似た名前の機種も出しているが、

こちらは全然別のゲーム。オンラインゲーセンとも言えるガポリでも遊べる。

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