カルマロッタ
「見て見て、ちょいきものストラップ手に入れたんだ~」
「キャーちょいきもーい」
ちょいきもと呼ばれるキャラクターが全国的に流行しており、特にクラスの女子はそのグッズを集めることにご執心。クラスの男子達も女子の好感度を稼ぐためにグッズの売っている場所をリサーチしたり、代わりに買って来たりと教室の話題が統一される中、グッズを自慢し合う女子達を眺めながらスマートフォンでちょいきもの画像を見て大きくため息をつく塔子。
「塔子さんも、ちょいきものグッズ集めてるの?」
「別に。コンビニでクジやってたら買おうかなと思ってたけど、売り切れだったわ。あんなの……何が……いいのかしら……きもいだけ……じゃない」
そんな塔子に良太は声をかけてちょいきもの話題を出し、塔子はちょいきもなんて大して興味は無いと虚勢を張るも、実際にはクジをやるために複数のコンビニを梯子するも全て売り切れという憂き目にあっており、段々と声が震えてしまう。
「……実は夏休み明けから地元の駅の近くのコンビニでバイトしてるんだけどさ。まだクジとか結構残ってるよ。あ、でも俺がバイトしてる時間帯には来ないで欲しいかな、恥ずかしいし」
「……別に。そこまでして欲しい訳じゃないし」
そんな塔子の心情を察してか、他人には聞こえないようにお得な情報を耳元で喋る良太。塔子は有益な情報に口元がニヤつくも、プライドの高さから口ではどうでもいいと斜に構える。放課後になり、クラスメイト達がグッズを求めてコンビニや専門店へと向かう中、良太は今日はアルバイトがあるからと塔子に別れを告げて去っていき、塔子は真っすぐに帰宅した後、マフラーで口元を隠し、父親が釣りに行く時に使っているサングラスを装着して駅へと向かい、周囲のやや不審者を見るような視線を気にもせずに良太の地元へと電車に揺られながら向かう。
「らーしゃーせー」
良太が働いているコンビニに塔子が入店すると、一人でレジに立っていた良太は塔子だとは気づかずに先輩仕込みのいい加減な挨拶をする。塔子はくすくすと笑いながら雑誌コーナーに向かい、しばらく立ち読みをしながら良太の働く様子を観察することに。田舎とは言えど駅前のコンビニということもありそこそこの来客があり、良太はレジ打ちをしたり商品の入れ替えをしたりと忙しく働く。真面目に働いているようで感心感心と謎の上から目線をした後、塔子は残っているクジを買い占めて良太に接客され、満足した様子で帰りの電車も周囲に不審者扱いされながら帰路につく。変装はコンビニに入る直前だけで良かったと気づいたのは家に帰ってからであった。
「ごめん塔子さん、昨日言ってたクジだけど、売り切れちゃったよ。不審な人が全部買っていっちゃってさぁ。あんな人地元で見たこと無いし、ちょいきものマニアだったのかなぁ。あれ、塔子さんのつけてるそれ、ラストワンのやつ? 手に入れたんだ」
「ええ。運良くコンビニに行ったら再入荷してて、残りの数もそこまで無かったから買い占めちゃった。被ったグッズとかもネットで売れるし大収穫だったわ。……色んなものを失った気がするけどね」
翌日。昨日接客した不審な客が塔子であった事には気づかず、クジが売り切れた事を残念そうに報告する良太。一方の塔子は手に入れたグッズを見せびらかしながら、良太含む色んな人に不審者扱いされてしまった過去は消えないのだと自嘲気味に笑う。その日の放課後、またもクラスの女子達がグッズを求めて街へと繰り出す中、既に目当てのグッズは大方手に入れた塔子は良太を連れていつものようにゲームセンターのメダルゲームコーナーへ。
「ちょいきもな生き物なら、メダルゲームの世界にもいるのよ」
塔子が向かった先にあったのは、カルマロッタという大型のメダルゲーム筐体。中心部でボールがくるくると転がっており、モニターには何とも言えない容姿のキャラクター達。
「確かにちょっときもいね」
「これはこないだのビンゴギャラクティックみたいに、ボールでビンゴをしたり花を咲かせたり色々するゲームなんだけどね、このアバター……カルマって呼ばれる変な生き物を育てるのも醍醐味なのよ」
席に座り自分のゲームカードを認証させながら、自分が作ったキャラクター達が全体のモニターに出たり、他の人のゲーム画面にお出かけしたりもするのよと説明する塔子。良太も早速ユーザー登録をし、『りょうたぬき』と言う狸のキャラクターを作って遊び始める。
「この子を育てるとゲームが有利になるの?」
「全然。ゲームをやり込んだらカルマが育つのよ。初期段階だとあんまりアクションしてくれないけれど、ほら、私のキャラは踊ったりしてくれるわ。昔は3個くらいしか無かったんだけど、バージョンアップの度にゲームがどんどん追加されて行くから私もゲームのルールとかを覚えたりするの大変なのよ。とりあえずスタンダードなのは……」
自分の育てた『とうこいぬ』の豊富なアクションを見せびらかしながら、搭載されているゲームの説明をする塔子。スタンダードなビンゴゲームを何度かプレイする良太であるが、ラストボールで24に入れば5ラインのビンゴが完成して大当たりという状況に、立ち上がって中央の抽選機を凝視する。
「24来い24来い……8球目で番号は全部で25個だから、18分の1かぁ」
「残念だけど24に入る確率よりも、私の当たり番号である13に入る確率の方が高いわ。というのもこのゲームでは既に11と12が入っているでしょう? ボールはポケットに埋まったままだから、その辺にボールが来れば減速して近くの穴、つまりは13に入りやすくなるって訳。途中のシンキングタイムではそういう部分も考えないといけないのよ」
「解説してる間に4に入ったよ」
「くっ……とうこいぬ、私を慰めなさい」
そんな良太を鼻で笑いながら、席に座ったままボールの入る確率の偏りについて説明をする塔子であるが、塔子の狙っていた番号にも入らずにゲームは終了してしまい、モニター上のキャラクターをタップしてアクションを起こさせる塔子。その後も何度かゲームをプレイしていたのだが、気づけば良太はゲームを見るよりも、自分の作ったキャラクターをタップしたりして遊ぶ事にハマっていた。
「結構ボールが発射される感覚が長くて退屈だなぁって最初は思ったけど、カルマが色々アクションしてくれるから見てて飽きないね。……塔子さん、何やってるの?」
ある程度ゲームを遊んだ事でアクションの種類が増えたりょうたぬきを愛でながら塔子の席の方を見やる良太であるが、塔子は何やら指でモニターを上下にスワイプさせており、その度に彼女の席からは悲鳴が上がる。
「動物虐待だよ」
「楽しいのよこれ」
塔子はとうこいぬをスワイプで画面の上まで持ち上げて、指を離す事で落下させるという陰湿な遊びを繰り返しながらニヤニヤとしており呆れる良太。しかし本来はこういう遊びは男子の方がやりたくなるもので、塔子がトイレに行った隙を狙って自分もりょうたぬきを画面の上へと持ち上げる。
『やーめーてー』
「あはは、下ろしてってジタバタしてるや」
『うわああああああ』
画面の一番上でジタバタと暴れるりょうたぬきを見てニヤニヤした後、スッと指を離すと悲鳴があがり、りょうたぬきはドスンと画面の下に落下する。それを何度か繰り返していた良太であったが、気づけば横には塔子が立っており、
「まじきも」
「うわああああああ」
ニヤニヤとした表情で笑われてしまい、りょうたぬきと同じく良太は悲鳴を上げるのだった。
元ネタ……コナミ『アニマロッタ』
良太の名前の元ネタでもある。今やコナミのメダルゲームを代表する機種。
ボール抽選系のゲームはセガのビンゴシリーズがメインだった時代に、
1つの機種で色んなゲームが楽しめるという要素と可愛らしいキャラの育成要素を組み込み、
色んな会社に模倣したゲームを作らせた。
アニマを持ち上げて落とすという遊びは実際に出来るぞ!




