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メダルタワー1

小波良太こなみ・りょうたって言います! 出身は央野村です! 田舎から来たんで世間知らずなとこがありますがよろしくお願いします!」


 活発そうにクラスメイトに自己紹介をする、高校一年生になったばかりの良太は自分で言っているように田舎から比較的都会である高校に通うことになった少年である。良太の地元にある中学は複式学級を採用するくらい生徒が少なく、更に良太の同学年はいなかったため当然ながら高校にも同じ中学の友人、なんて存在はいない。


「はー、都会は色んな建物があるなぁ……どこに行こう」


 しかし良太はそこに寂しさを感じる事は無く、むしろこれから毎日都会を探索出来るという喜びに満ち溢れていた。放課後に早速仲良くなったクラスメイトとファーストフードを食べて解散した後、まだ遊び足りないと良太は辺りをキョロキョロしながらうろつく。


「……! これってゲームセンターか! たまに家族でショッピングモールにお出かけした時にも遊んだことはあるけど、建物が全部ゲームセンターなんて凄いなぁ」


 良太はやがて大きなゲームセンターへと辿り着く。地元には存在しない施設に興奮しながら店内に入り、何で遊べばいいんだろうと煌びやかな筐体を眺めながら店内を歩き回っていると、メダルゲームのコーナーで良太は見覚えのある少女を見つける。


「(確か……瀬賀塔子せが・とうこさんだったかな? 美人さんだよなぁ……)」


 それは良太と同じクラスの塔子であった。元気一杯の自己紹介をした良太とは対称的に、淡々と無表情で自己紹介をしていた、良太の地元にはいなかったクールな印象を醸し出す塔子の事が少し気になっていた良太は影から塔子が何で遊んでいるのかを眺める。


「(メダルタワー……? わ、凄い、メダルが積み重なって本当に塔みたいになってる。……目の前で崩れた! 楽しそうだなぁ)」


 塔子が遊んでいたメダルゲームは、打ち出したメダルでメダルを押し出しながら、高く積まれたメダルのタワーを落とすという爽快感が売りであり、その様子を見ていた良太は自分も遊びたいと思うように。塔子にも、塔子の遊んでいるメダルゲームにも興味のあった良太は、思い切って塔子の横に立ち声をかける。


「同じクラスになった瀬賀さんだよね? それ面白いの? 俺にも遊び方教えてよ」

「……! え、えーと、小波君、だったかしら。し、しょうがないわね。遊び方を教えてあげる。ほら、ここに座りなさい。私のメダル使っていいわよ」


 突然声をかけて来た軟派なクラスメイトに拒否反応を示すどころか嬉しそうに椅子の片側を開けて良太を座らせ、メダルをタイミングよく入れてスロットを回したり、ボールを落としたりして遊ぶゲームだとお手本を見せながらプレイを促す塔子。


「ここにはよく来るの?」

「ええ。家がこの辺にあるのよ」

「いいなぁ。学校から俺の最寄りの駅までとは逆方向だから行き辛いや」

「学校から歩いて数分じゃない。気軽に来なさい」


 良太と喋りながら機嫌の良さそうな表情を続ける塔子に対し、クールな人だと思っていたけれど何だか実家で飼っているよく懐く犬みたいだなと若干失礼な感想を抱きながらも、良太は塔子のアドバイスを受けながらそのメダルゲームをしばらく遊ぶ。やがてメインとなるジャックポットチャンスに突入し、フィールドにはいい感じに高いメダルのタワーが積み上げられて行った。


「うわー、これ落とすのわくわくするね……ってあれ、瀬賀さん、どこ行くの?」

「このサテライトはもう用済みよ、適当な老人にやらせて隣のサテライトで遊びましょう」

「え、でもこっちにはタワーが無いよ、勿体ない」

「勿体ない? はぁ……」


 今からこれを手前に引き寄せて落とすことを想像し気分が高まる良太であったが、塔子はメダルをカップに戻し、タワーの出来上がっていない隣の席へと移動しようとする。どうしてそんな勿体ない事をするのかと問う良太に対し、塔子は大きくため息をつくと、


「いい? このゲームのメダルタワーは罠なの。高く積み上がれば積み上がる程、落とすための投資メダルが増えて損しちゃうの。私の統計によれば損益分岐点は大体300枚ってところね。MAXだと1000枚のタワーが出来るけど、あんなものまともにやったら落とすのに3000枚はかかるわ。タワーがあることでメダルやボールの流れも悪くなるし、高いタワーが出来たら捨てて、何も考えてない老人とかに整地させる、これが攻略法。そもそもメダルタワーに頼るべきでは無く、ジャックポットチャンスに突入した後にフィールドがプッシュされて数十枚くらい落ちて来るのをコツコツ拾いながら、たまにやってくるダイレクトジャックポットチャンスだったり大連荘に期待するべきなのよ。ほらこのサテライトなんて最高よ、確かに貴方の言う通りタワーは無いけれど、後ボールを2つ落とすだけでジャックポットチャンスに突入するし、ボールも端っこじゃなくて中央に2つあるから投資もそれほどかからないわ。後は老人が遊んだ後ね。老人ってこのゲームにやたら課金するから一時的に内部状態がグーンと上がっていることがあるの。老人が高いタワーを大枚叩いて落として満足して帰った後を狙うのが一番よ。他にも……」

「ご、ごめん、つまりどういうこと?」

「私の言う通りにすればメダルは増やせる!」


 メダルゲームの事をほとんど何も知らない良太に対しベラベラと解説をし始める。塔子はメダルゲームを楽しむことよりも増やすことに執着している、俗にいうメダルゲーム廃人と呼ばれる人種であった。塔子のまくしたてるような解説に気圧されながらも、ここに遊ぶために、楽しむためにやってきた良太は塔子のやり方に疑問を覚える。


「……それって楽しいの?」

「テストでいい点を取るために、いい大学に入ったりいい会社に入るために楽しくもない勉強を私達は毎日やってるでしょ? ……私の話を理解できないようじゃ、ここで遊ぶのは難しいわ。大人しく田舎でその辺を走り回ることね。それじゃ」


 その疑問を塔子にぶつける良太であったが、塔子はそれを鼻で笑うと、良太を煽りながらメダルを預け入れてゲームセンターから去って行ってしまう。良太もこれ以上は遊ぶ気にならず、この日は真っすぐに家へと帰るのだった。

元ネタ……セガ『バベルのメダルタワー』


インパクト抜群のメダルタワーと課金要素によりゲームセンターに莫大な利益をもたらした。

数年前の作品だが、今も規模の大きいゲームセンターには大体置いてあり、

初見や老人のメダルと100円を回収して行く。


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