【天然危険物】なろうのエロ広告は避けられない?
黒崎 「今回は、未成年者も利用する『小説家になろう』でエロい広告を出すのはどうよ(意訳)という御意見エッセイと、それに端を発する議論について、僕様なりに首をねじこんでみる」
チロン 「ほほー」
黒 「といってもエロ広告の是非については感情論と道徳観のぶつけ合いになりがちなんで、ここではエロ広告が表示される理由と仕組み、そして忌避の可能性について考えてみようかと」
チ 「さすが御主人。あいかわらず話題のネタに周回遅れでちょっかい出して斜に構えたお気持ち表明とは、見事な小者っぷりなのです」
【どうしてエロ広告が出るの?】
黒 「なろうサイトにエロ広告が出る理由は単純明快で、界隈とエロとの親和性が高いから。
つまり広告主や広告代理店が〝なろう系が好きな萌えヲタはエロいの好きだろ〟と思ってるからだ」
チ 「確かに、なろう系にはハーレムとかラッキースケベとか百合とか多いですからね」
黒 「悪役令嬢ブームで界隈に女性が増え、総合ランキングだけをみると女の園と化したかに思われるが、男の妄想を煮詰めたような女人はべらせストーリーは今も確固たる人気ジャンル。
なろう系といえば萌え萌え美少女てんこ盛り、という世間様のイメージは変わっちゃいない。
まあ、なろう系に限らずライトノベル全体をみても、程度の差はあれエロっちい要素を含む作品が少なくないからな。
つーか、そもそも二次元キャラへの〝萌え〟という心理自体が一種のエロティシズムなわけでさ。
萌えとエロスが本質的に不可分である以上、萌え要素を含む界隈にエロ広告が多いのは当然といえば当然かと」
チ 「でも、なかにはエロ広告を不快に思う人もいますよね。ビジネス的にマイナス要素にはならないのです?」
黒 「ならない」
チ 「あう。よもやの一刀両断なのです」
黒 「お前の言うように、エロ広告が嫌でなろうを避ける人がいるとしても、その遺失利益と広告収入を天秤にかけたなら、後者のほうが圧倒的に重いに違いない。
でなければ、とっくにエロ広告は消えてるさ」
チ 「……ですね」
【エロ広告は避けられない?】
チ 「じゃあ、なろうを利用するかぎりエロ広告が目に入るのは避けられない?」
黒 「結論から言うと、まず無理。なろうを使っていて一度でもエロ広告が出たなら、もはやまともな方法で回避するのは不可能に近い」
チ 「あじゃぱー。でも御主人? ウェブサイトの広告って、ユーザーの好みに合わせてカスタマイズされてたりしますよね。
なら、なんで未成年者やエロ嫌いの潔癖さんにまでエロ広告がでるのです?」
黒 「さっき言ったように、界隈そのものがエロと無縁ではないからだよ」
チ 「当人がエロに興味無くても、エロと無縁ではない界隈にいる以上、あんたもこーゆーの好きなんじゃね? と思われかねない──ってことですか」
黒 「そう。だからエロ広告が出やすい。
そのあたりの理屈も含め、ネットでの広告の仕組みについて、ざっと考察してみようか」
【メタデータとターゲッティング広告】
黒 「まずは大前提として、メタデータについて説明しよう」
チ 「メタデータ──直訳すると超情報?」
黒 「それじゃ意味不明だから、推認情報とでも意訳しとこうか」
チ 「むー。それはそれで謎なのです」
黒 「周知の事実だろうが検索エンジンやSNS、通販サイトなどでは、利用者の様々なデータを収集してる。
どんな言葉を検索してるのか、どんなサイトを観てるのか、SNSにどんな投稿をしてるのか、通販で何を買ってるのか──等々、我々のネットでの言動は全て、誰かに記録・解析されてると思っていい。
で、それらの情報を擦り合わせると、その人の年齢や性別、所在地、家族構成、職業、年収、学歴、趣味といった〝属性〟があぶり出される。
このように一次的な観測データから推認される二次的な属性情報をメタデータという」
チ 「ふむふむ」
黒 「ちなみに、あるSNSでは140項目以上のメタデータを集めてるそうな」
チ 「むー。なにやら丸裸にされてる気分なのです」
黒 「でもって、そのメタデータを参考に表示する広告を選別するのがパーソナライズ広告、あるいはターゲッティング広告などと呼ばれる仕組み」
チ 「サイトの利用者の属性に合わせた広告を出すのですね」
黒 「ああ。狙いを定めるという意味では、ターゲッティング広告と呼ぶほうが的確かもね」
【メタデータは消せない】
黒 「あるエッセイで〝閲覧履歴やcookieを消してもエロ広告が出る〟と言ってる人がいたけど、端末を初期化しようが買い換えようが、同じアカウントを使ってる限りメタデータの同期は切れない。
また、端末やOSの個体識別コードに紐づけられてることもあり、この場合、アカウントを変えても端末が同じならリンクは切れない」
チ 「つまり、デバイスとアカウントの両方を同時に変えないと、すでに蓄積されてるメタデータからは逃げられないのですか」
黒 「うん。ちなみにGoogleでは広告のパーソナライズを拒否する設定にできるけど、Google系のサービスでしか効果が無いんで、ほぼ無意味。
他方、ブラウザの設定でトラッキング(情報提供)を拒否しても、ブラウザからの情報提供が止まるだけでサイト側のデータ収集までは阻止できないから、こちらもほぼ無意味」
チ 「あうー。メタデータの野郎、トチ狂ったストーカー並みにしつこいのです」
【メタデータは他人とリンクしうる】
黒 「して、その厄介なメタデータだが、さらに厄介なことに他人ともリンクしうるんだよね」
チ 「??? どーゆーことです?」
黒 「たとえばA氏がSNSとかでB氏と接触したら、互いのメタデータが関連付けられる。また、C氏とD氏が別個にE氏と接触したら、直接は関わっていないC氏とD氏も関連付けられる」
チ 「同じグループに入れられる、みたいな?」
黒 「ああ。そうやって共通項のあるメタデータが連鎖的かつ階層的に集団化されるわけ。
もちろん様々な趣味や嗜好、コンテンツごとの集団化も行われる。
むちろん、なろうのユーザーはメタデータ的に〝ひとつの属性集団〟とみなされてるだろうし、Xでなろう作家の垢を閲覧しただけの人も〝なろうに興味ある属性集団〟に組み込まれてる可能性があるわけ。
ターゲッティング広告はこうした属性集団単位で適用されることもあるから、エロいコンテンツに興味が無い人にもエロ広告が出たりする」
チ 「てことは、お前がエロいサイトばっか観てるからエロ広告が出るんだよ的な批判は的外れなんですね」
黒 「だな。必ずしもそうではないからね」
チ 「ところで御主人? なろうを使ってる限りエロ広告は避けがたいのは解りましたけど、どうにかして頻度を減らす方法は無いのです?」
黒 「無くはないけど、面倒だよ。かなり」
【エロ広告のフィルタリングは可能か】
黒 「あるエッセイで、閲覧中の小説のレーティングに合わせた広告を出しては? みたいな意見があってね。つまり、R15設定の作品にだけエロ広告を出せばいい、と」
チ 「おー。それはナイスなアイデアなのです」
黒 「ああ。僕様も一瞬、そう思ったんだが──」
チ 「が?」
黒 「その仕組みを実装するのは難しいだろう」
チ 「あう? 何故?」
黒 「全ユーザーの閲覧状況と作品情報をリアルタイムで解析・照合するとなると、システムに相当の負担をかけるし、相応のコストも生じる。
また、契約条件の複雑化が広告主に敬遠され、広告収入そのものが減ってしまうおそれもある。
そこまでする経営上のメリットがあるかというと、ぶっちゃけ無い。てか、デメリットしかない。
エロ広告が出るからなろうは使わない、なんて人は、ごくごく少数だろうからね」
チ 「でも、倫理的にはどうなのです? 未成年者にドスケベ広告を見せるのは良くないのでは?」
黒 「まあ、確かに好ましいことではないかもな。──が、しょせんは絵だし、違法な猥褻図画でもない。
しばしば露骨な台詞とかがあったりするけど、かといって道徳的にケシカラン的な論調は、ハーレムだのラッキースケベだの婚約破棄だの寝取られだのが大人気なウェブ小説界自体どうよ、って話になりかねない。
それって息苦しくないか?」
チ 「んー……そう言われると、そうかも」
黒 「だろ? なろうに限らずライトノベルってのは、いわば巨大な雑居ビルのようなもの。
そこには小洒落た飲食店や庶民的な居酒屋がひしめき、さらにホストクラブやキャバクラ等もあり、おっパフまである」
チ 「おっパブもですか(笑)」
黒 「でも傍目には、そのビルに出入りする人がどの店の客かなんて分からないから、キャバクラ通いと邪推されるかもしれない。それが嫌なら、そのビルに行かないしかないさな」
チ 「ライトノベルにスケベな作品がある以上、ラノベ好きな人が〝もしかしてスケベなんじゃね?〟と思われるのは不可避だと」
黒 「そう。それが現実」
チ 「歯痒い人もいそうですね」
黒 「まーな。でも、だからってエロいラノベに文句言うのは純朴すぎるというか、堅いというか、潔癖というか、被害妄想というか、意識高すぎというか、ツイフェミじゃあるまいしというか──」
チ 「御主人、それ後半ほぼ悪口なのです」
【見たくないモノを見ない権利は存在しない】
黒 「エロ広告を見たくないとか、ちびっこには見せたくないとか、そういう気持ちは解らないでもないよ。人として。
けど、少なくとも日本においては〈見たくないモノを見ない権利〉は存在しないんだよね」
チ 「まじですか」
黒 「まじですよ。より正確に言うと〝見たくないモノを見ない権利は広告等における表現の自由に優越するものではない〟。
最高裁にそういう主旨の判例がある。
考えてみりゃ、これって法的にウンヌン以前の当たり前な社会通念なんだよね。
個人の〈見たくないモノを見ない権利〉を広く認めてしまうと〝お前のイラストは不快だからSNSに投稿するな〟みたいな理不尽なお気持ちクレームが法的な正当性を持ちかねないから。
そんなの、おかしいだろ?」
チ 「うん。とりま因縁つけたもん勝ちになっちゃうのです」
黒 「さらに言うなら、なろうは社会生活において不可欠あるいは不可避なインフラではないし、同様の小説投稿サイトが他に複数ある。
なろうの広告は電車の中吊り広告やテレビCMと違い、容易に避けて生きられるものだ」
チ 「嫌なら見なきゃいい、と?」
黒 「言い方はさておき、残念ながらそういう結論になるね。法的にも、社会的にも。
その意味で、なろうのエロ広告に苦言を呈するのは正直、いちゃもんじみてるように思う。
たとえるなら、焼肉屋にのりこんで「肉なんか食わすな」と演説するヴィーガンさんみたいな感じ。
チ 「むー。客にしてみれば、いやいや俺ら肉を食いに来てるんですけど? って話ですよね」
黒 「繰り返しになるけど、もとよりラノベがエロティシズムを内包してる以上、そこに目をつけた広告が出るのは自明の理。
合法的な広告に対して〝見たくないから出すな〟〝見せたくないから出すな〟は通用せず、どうしても嫌なら見ないよう自衛するしかない」
チ 「自衛といっても、どうすれば? なろうのエロ広告は避けがたいのですよね?」
黒 「まともな方法ではな」
チ 「???」
【それでもエロ広告を避けたいなら】
黒 「なろうのエロ広告を可能な限り避けたいなら、なろう専用のデバイス(スマホやPC等)を新たに用意したうえで──
そのデバイスのためだけのメールアドレスとGoogleアカウントを作る
他のデバイスと同期させない
エロ要素がある作品は一切読まない
エロくない広告をひたすらタップする
──といったことを徹底するしかないかと」
チ 「むー。制約だらけなのです」
黒 「言ったろ? まともな方法じゃ無理だと」
チ 「てゆーか最後の条件にはどういう意味があるのです?」
黒 「エロくない広告をあえて観まくることでメタデータを作為的に誘導し、相対的にエロ広告の頻度を落とすの」
チ 「あ、なるほど」
黒 「ちなみに広告そのものをシャットアウトする方法もあるけど──それはサイトの経営にダメージを与えるんで、お薦めしない。
なろうの利用が完全無料なのは広告のおかげなんだから、恩を仇でかえす情報泥棒は人としてダメでしょ」
【おまけ・広告に頼らない経営は可能か】
黒 「他方、なろうからエロ広告を無くすべく、広告収入に依存しないサイト経営を模索するエッセイもあったけど──ビジネスモデルとしてはかなり厳しいと感じたな」
チ 「商売になりそうもない、と?」
黒 「つーか儲かる儲からない以前の懸念がある。たとえば読者が気に入った作品に課金する〝投げ銭システム〟を作り、その何割かを運営会社に納めるって案は、なろうの根幹をブチ壊すかもしれない。
解りやすい例がYouTubeだ。
スパチャの導入で収益性が上がるとみるや、露骨にカネ目当ての配信者が増え、なりふり構わぬ視聴者争奪戦が俗悪な迷惑系YouTuberを生んでしまった」
チ 「なろうに投げ銭を導入したら、同じようなことが起こると」
黒 「ああ。作家への応援のみならず運営会社の収益アップも意図して投げ銭システムを導入するなら、総額に上限を設けず、かつ評価ポイントにも反映される仕組みにしないと意味が無いわな?」
チ 「そうですね。何かしらのかたちで効果を実感できないと、やり甲斐がないのです」
黒 「しかし、そうなると間違いなく、投げ銭欲しさで読者に媚びまくる作家がわらわら出てくる。
それとて市場原理には違いないが、市場原理主義者の僕様も、こればかりは是認できない」
チ 「あらま。なぁぜなぁぜ?」
黒 「自由競争ではなくなるから」
黒 「課金要素が無い完全無料だからこそ、なろうは誰でも気軽に参加でき、全てのユーザーは社会的地位と関係なく対等でいられるのよ。
けれども投げ銭が導入されたら、財力によってユーザーが階層化され、下層ユーザーは相対的に存在価値を失う。
たぶん、なろうの勢力図はガラッと変わるぞ」
チ 「どう変わるのです?」
黒 「前にも言ったが、マーケティングの世界では〝女性消費者のほうがより積極的に意思表示する〟というのが通説。おそらく、なろうにおいても女性読者のほうが積極的にポイントをくれる傾向がある、と思われる」
チ 「今の女性向け作品の盛りあがりは、そのおかげもありそうですね」
黒 「ああ。いわゆる〝推し活〟は、明らかに女性のほうが熱心なんだ。
ただ、ホストに貢ぐ女よりキャバ嬢に貢ぐ男のほうが多いように、性欲がからむと男のほうがハッスル(死語)しやすい。
男ヲタのほうが、カネに糸目をつけないしな。
しかも女ヲタにありがちな〝同担拒否(推しがかぶる人を敬遠する)〟がみられず、むしろ結託して推しへの貢献度を競い合う相補性がある。
てことは──なろうで投げ銭を導入した場合、男性向け作品のほうが、より多く稼げるに違いない。
となれば今以上にエロエロ媚び媚びなテンプレ作品が増え、ランキング上位を占めるだろう。
チ 「一昔前のチーレム全盛期に逆戻りですか」
黒 「いや、逆戻りではなく不可逆的な変質。なろうはスケベ小説に席巻され、そのまま固定化されるおそれがあるってことさ。
何故なら、ポルノは変化を必要とされないから」
チ 「──?」
黒 「エロ漫画にしろAVにしろ、シチュエーションやキャラ属性の流行り廃りはあれ、基本的な作劇は昭和のピンク映画の時代から大して変わっちゃいない。
ポルノはコンテンツとして古びることがなく、何度でも焼き直しがきくのよ。
たとえばチーレムはウェブ小説が生んだ新たな定型と思われがちだが、実は30年以上前のラノベにも似たようなものはあったりする」
チ 「ほー。歴史は繰り返す、なのですね」
黒 「否。繰り返しではなく、連綿たる系譜さ。
なろうの主流が異世界転生チーレムから悪役令嬢等にシフトしたのは、全てのユーザーが対等だったからこそ起こった新陳代謝といえようが──
投げ銭システムはそうした変化を抑制し、記号的な萌えとエロスを提供する男性向けお色気テンプレ小説ばかりを有利にしかねない。
それは創作界隈にとって、決して歓迎できることではあるまい。
──と、ついつい演説ぶってしまったが、要するになろうは基本的に〝このまま〟でいいんじゃね? ってことさね」
チ 「あやや。しこたま語っておいて、結論はそれなのです?」
黒 「うん」
チ 「なんていうか──超うぜーのです」
黒 「悪かったな。性分だ」
チ 「罰として、御主人が溜め込んでるおっぱい動画コレクションを全部、野獣先輩のアヘ顔MADで上書きしちゃうのです」
黒 「くそみそ責めはやめれ」
──終劇──
いかがでしたか?
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もちろん1個でもありがたや。
ついでに他の拙作も読んでもらえたなら、もれなく感涙にむせぶのであります。
なお、いただいた感想には必ず目を通しますが、回答は確約しかねます。
ごめんなさいね <(_ _)>
では、また。
いつか、どこかで──