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τ₋Low『黄金色の獣』  作者: ありおん〆
1/2

焦燥


この星の片隅に、気高い山々で囲まれた地方がある。


幾千年もの昔から人との交わりを拒み続ける場所であった。


今もなお、厳と構えるその地には生命の息吹が満ち溢れ、この星のあらゆる営みを封じたかのように、けして人の目には見通せない深遠のごとき奥行きと、広大さを具えていた。


そびえる木々の根は複雑に絡み合い、地中へと伸びている。

見上げれば陽の光は無数の針となって、その空間に差し込んでいた。

吹き抜ける風は、混じり気のない草木のかおりを乗せ、木々の間を通り過ぎていく。


この森をいま——。


風とともに、見事にすり抜けていく影がある。


吹き付ける風に逆らいながら、ときにその助成を借りて、影はただ前へと疾走していた。


しばらくすると、影の眼前に、森の終わりを告げる光彩が見えはじめた。


矢の如く森を駆け抜け、眩しいばかりの太陽光に照らし出されたその影は、赤黄金色の毛並みを全身になびかせている。


四肢で大地を蹴り上げる姿は獣であった。

少し前へ突き出した鼻先までは、額からなめらかな曲線を描いている。

その口元には、ときおり白牙が覗く。


先の見据える眼差しには険しさを収め、前方に見え始めた谷の中心へと、ただ突き進んでいた。


どれくらい走ってきただろうか。

血液がこめかみの辺りを突き破りそうな感覚がある。

激しい鼓動が指先にも響いた。


「くうぅっ…」


地を蹴り上げるたびに手足に走る痺れる感覚が、事態の重さを噛みしめさせる。


揺れる視界。

その先で(たむろ)する集団を確認すると、さらに赤黄金は加速した。

集団がすぐそこへと迫った時、赤黄金は二本の足で立ち上がって歩み寄る。


背中から始まる荒々しい呼吸——。それを胸でいなして、たったの数度で押し沈めると、(たむろ)の中心めがけて声を張り上げた。


「今日の役目は誰だっ!!」


先ほどまでの空気が一変し、一斉(いっせい)に注目を集める。

いち早くその言葉に反応したのは、他の者よりも一回り大きく、白銀の毛並みを持つ獣であった。赤黄金との違いは、その毛色ととぼけたような瞳である。


「あ~?今日は確か()()()のやつだぜっ!」


白銀は悪びれる様子もなく、鼻をほじるような勢いである。

赤黄金は一同を見渡すと、眉間(みけん)強張(こわば)らせた。


「くそっ! ()()()のやつはどこへ行った!」


そう言い放ちながら、いま来た森を振り返り、険しい視線を送っていた。

白銀が問う。


「なぁ、雲将(うんしょう)。なんかあったのか?」

雲将(うんしょう)と呼ばれる赤黄金は、それに答えた。


「……悠長なことではない。」

その険しい視線を白銀に向け直すと、雲将(うんしょう)は言葉を続けた。


「獣達が騒ぐんで、見張り木へ行ったのだが…誰もおらん」

雲将はさらに続けた。

「幻術の森は破られた——。第一の結界もすでに解かれようとしている……」


その言葉で、一瞬のうちに動揺が沸き起こった。


「幻術が破られただとっ! ……人間ではないのかっ?」


それに答えるよりも先に、雲将(うんしょう)は声を張り上げた。

(らい)(せつ)っ! 皆を連れて結界を張り直せっ! 俺は()()()を探し出し、長老の護衛に回る」

その時、(らい)(せつ)の顔が曇ったのを雲将(うんしょう)は見逃さなかった。

「長老に何かあったのかっ!?」


「長老はいま、法師殿の使いが訪ねて来たということで、幻術の森に向かっている……。結界は俺たちが引き受けた! 長老を頼むっ」


「幻術の森にだとっっ!!!」

雲将(うんしょう)は、そう叫ぶのと同時に頭頂の毛を逆立たせ、次の瞬間には赤い閃光の如く、森へと突き抜けて行く。

残された者たちも、(らい)(せつ)の合図とともに、次々に森へと消えていった。



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