一種の天才
「ふふっ、二人が仲良くなったようで良かったわ」
「……蜂須川さんが余計なことを言うから……」
こんな恨み言を口に出来るくらいには蜂須川さんと距離が縮まった。会ってから間もないというのに、蜂須川には親近感というものを抱いていた。
性格というものだろうか。
「あ、ほら。王子様がご登場よ」
「お、王子って……。シロ!」
シロがひらひらと手を振って微笑む。
私はシロのこの笑顔が一瞬で好きなった。
「本、借りようと思って」
「そうなんだ。……あの、さ。勉強教えてくれないかな? シロって賢そうだし、テスト近いからさ。もちろんっ、嫌だったらいいんだけど」
シロはなぜか間を開けて答える。
「全然? 僕も予習をしておきたいし。一緒に勉強しよう?」
「ありがとう!!」
嫌がることなく私の申し出に答えた。
……さっきの間は何だったんだろう。
本当は一人で勉強したかったけど、優しいからいいと言ってくれたんだろうか。
それだったら、嫌だ。申し訳ない。
「……本当にいいの?」
「? もちろん。どうかした?」
逆に不思議そうに聞いてくるシロに安心して、私は一息つく。
「ううん、何でもない」
「——で、魔法が発生するんだ。光の魔法と闇の魔法の決定的な違いは、何に使うかどうか。光の魔法は圧倒的に防御力と回復力を。闇の魔法は攻撃に勝っているんだよ。これは基本的なことだよね。それで踏み込と……」
……分かりやすっ!!
細かいところでややこしくなったら、すごく分かりやすい例で教えてくれるし、私にクイズ形式の問題を出すことがある。
シロの凄さに魔学は得意なはずだったのに、急に自信をなくしていた。
「って感じ。ひとまとめ終わったし、一回休憩しようか」
「うん」
休憩が惜しくなるほど、勉強が楽しかった。
「シロってすごいね。なんでこんなに物知りなの?」
「あはは、ありがとう。そんなにだけとね。ただ、最初から持ってたっていうか」
「天才ってこと?」
「うーん、自分のことをそういうのは嫌なんだよね。僕、あんまり勉強したことないからさ。天才っていうのは、努力で出来ている、っていうでしょ?」
私はその言葉に驚きを隠せない。
「勉強してないのに、こんなに分かるの? てことは、努力とかしなくても天才になる、才能?」
「ふふっ、面白いこというね。どうなんだろう」
誤魔化しの効いた言葉に私は流される。
「うーん、何なんだろう」
「あはは。飲み物買ってくるね。何がいい?」
「え、いいの? ありがとう。えっと、じゃあ、オレンジジュースで。二百円ぐらいでいいかな?」
「いいよいいよ。頑張ったご褒美!」
……頑張ったのは私じゃなくてシロなのに。
教える方もかなり大変なはずだ。それなのに、こんなことを言える。
私はシロの優しさに甘えることにした。
「ありがとう」
「いえいえ」
私はシロが帰ってくるまで勉強の復習をすることにした。
「お待たせ。これで良かったかな?」
「うん! ありがとう! わあ、美味しそう」
シロが持ってきてくれたオレンジジュースは、いつもよりも美味しそうに見えた。
……これも頑張ったからかな?
「シロは何にしたの?」
「僕は水かな」
「水!? ごめん、なんか悪いね」
水が好きなのかもしれない。あまり踏み込まないようにして私はオレンジジュースを口に含む。
……ん。美味しい。
「よし、じゃあお願いします!」
「うん、頑張ろうね」
私はその後も集中して取り組めて、なんだか頭が良くなった気がした。
——シロside——
……蜂須川さんの声、と、あの子の声?
僕は図書室に入る。
「本、借りようと思って」
……まあ、ただの口実だけど。
ただ、目の前にいる女の子を知りたかった。その後に、その子が勉強をしようと言った。
僕はもちろんそれに応えた。
……でも、なんで「テスト」が分かるんだ?
きっと、あれが関係しているに違いない。いや、これと言うべきか。
一通りの勉強が終わったあと、僕はあることを確かめるために飲み物を取りに行く。
……やっぱり。
この子は、違う。
既に気づいてるはずのことに気づかない振りをして、僕は日常を過ごす。
これが、破滅に近づいているとしても。
……まだ、少し。もうちょっと。
これは私が知らない、シロの心の中の話。
読んでくださり、ありがとうございます。
星乃いーふでした(*^^*)