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君が笑う、その世界でまた  作者: 星乃いーふ
歌の魔法
4/10

図書室

 私はあれ以来、折野さ……いや、ひかりと仲良くなった。

 過ごした日々は少ないけど、ひかりは、私の人生で一番大切な親友だと思う。

私が「ひかり」と呼ぶことになったのはひかりが、「あの、詩川さん。名前呼びしない?」

 と、言ったからだった。もちろん私は同意した。

 ……ひかり、か。本当に光だよなぁ。

 私がうんうんと一人で頷いていると、私を横から見つめてくる視線に気がついた。


「そーらっ! 一人で頷いてどうしたの?」

「わっ! 頷いてるの見てたの!? というか、私、頷いてた?」 

「うん。一人でどっかの世界に飛んでた」

 

 ……恥ずかしすぎる……。

 一人で頷いているなんて、なんて怖い現場だろう。

 ても確かに私は一人言をよく言っていたから、気づかれていたら変な人だと思われていただろう。


「やっぱし宙良は面白いね」


 ひかりは笑ってこちらを見る。


「ひかりってさ、美女だよね……」

「えっ!? な、なに、突然……。照れちゃうな」

「だって、顔ちっちゃいし、目大きいし、睫毛長い。鼻もめっちゃちっちゃいし、なんかもう全部のパーツ揃ってる。スタイルもいいし。モデルさんかと思ったよ」


 本当にひかりは美人だ。でも、可愛い、ではなく、美しい、カッコイイ系の美人だ。

 ひかりは頬を染め上げた。


「宙良ったら。褒めても何にも返ってこないぞ〜? あと、さ。モデルって、なに?」

 

 ひかりは笑いながらライオンのポーズをする。

 可愛い、と思った後に、衝撃がきた。

 ……モデルを……知らない?

 そんなことがあるのだろうか。でも確かに、モデルという存在を知らないのが当然の国などもあるのだろう。

 ……ひかりは、日本人だと思ったけどな。

 いや、絶対日本人だ。でも、日本人だけど別の国で生まれました、という可能性もあるだろう。深く踏み込む必要はない。

 これはジョークかもしれない。


「モデルっていうのは、服を着飾って写真撮ったりしてるのを仕事にしてる人たちだよ。雑誌によく写ってるでしょ?」

「そうなんだ、ありがとう! ……ザッシ……?」


 ひかりはお礼の後に何かを小さく呟いたが、私は聞こえなかった。ひかりは困惑していたが。

 

「それにしても、休み時間も勉強してるなんて、すごいね」

「あはは、暇なだけだよ……」

 

 そう、暇だから勉強をする。一番効率的だと思うし、苦ではなかった。

 それに、私は全然すごくなんかない。

 今、少しでも実技で点数が取れるように勉強してるところだ。もう実技のテストが五日後に迫っている。 

 これで、私がひかりよりも点数が低かったら、きっと、馬鹿にされる。まぁ、その可能性がすごく高いが。歌の魔法を得てしまったからにはしょうがない。

 ……ポジティブ大事だよね!


「私さ、実技の点数、0点に近いと思うから。暇っていうのもあるけど、勉強しないとまずい、っていうところかな。取得した魔法、歌の魔法だったんだよ? 最悪……」

 

 私は軽く言ったつもりだったが、その反対に、ひかりはすごく真剣そうに私を見つめた。

「歌の……魔法? うそ…」

「ううん。嘘じゃないよ」

 やっぱり、歌の魔法は誰が聞いても驚くようだ。

 ひかりは、眉をひそめて……いなかった。笑っていた。見下したのだろうか。私を。当然だ、と思った。むしろこれで、すごい!という方がどうかしている。……少し悲しかった。

 でもやっぱり、ひかりは私の予想を超えてくる。ひかりはニコッと笑った。とても嬉しそうに。


「やった!! やっぱり、宙良には歌の才能があるんだね! 魔法に選ばれるくらいに!」


 驚いた。そんな希望的言葉を言われることは想像していなかった。再び、ひかりは口を開いた。


「私、歌の魔法については詳しくないけど、ひとつだけ言えることがあるんだ! それは、歌は元気を与えるってこと」


 最初は言っている意味が分からなかった。でも、その思いはすぐに潰された。


「確かに、歌の魔法は8つの魔法の中で最弱とは言われてるけど、それは違うよ。物理的な魔法や計略的な魔法じゃない。歌の魔法は……ううん、歌は」


 彼女は言葉を一区切り置いてから、微笑んだ。


「……心の魔法だよ。私ね、昔、歌を聞いて涙がでた。すごい、心に染みたんだ。乾いてた私の心を、潤してくれた。だから、私、歌、好きだよ。元気になれる! 宙良はどんな歌を歌ってくれるのかなぁ」


 ひかりは優しく笑って首を傾けた。

 またもや涙がこぼれそうになる。でも、必死に止める。

 少しだけ、かっこ悪いと思ったからだ。毎回、ひかりのその、温かい言葉に動かされてしまったら。私は、勢いで涙が出ないように注意しながら、口を開いた。


「ひかりは毎回、私に温かさをくれるね」


 でも、やっぱり涙が出てしまった。この衝動を堪えるのは無理だ。


「……ありがとう。ひかり。私、ちょっと歌の魔法で頑張ってみる!」


 彼女も涙を流した。


「私がそういう言葉を言えるのは、宙良が温かくて、優しくて、強いから。こちらこそ、ありがとう……。宙良」


 お互いのおでこでコツンとする。それは、私たちの友情の証であると、話しているようだった。


「あはは。毎回、泣いてちゃ、強くなれないね」

「うん。こういうことで泣くのは、もう、これっきりね!」


 私たちは、強く、頷き合った。


図書室


 私は翌日、図書室に向かった。今まで存在を忘れていたが、魔法について調べるのは図書室が一番だ。

 かなり遠い図書室にようやく着き、ドアを開けた。 

 そうすると、本の歴史を感じる本独特のにおいが一気に流れ込んできた。


「……いらっしゃい」


 反射的に体が震えた。後に気づくが声の正体は普通に司書さんなのだが、突然声をかけられるとびっくりするものだ。


「今年、図書室にきた生徒の人数はあなたで二人目よ。おめでとう」


 その瞬間、あれ?っと思った。何故か、カウンターにいる司書さんではなく、後ろから声がすることに気づいたからだ。おかしい。カウンターにいる司書さんが口を開いているというのに。


「あら? 詩川さん、前を見て、どうしたの? 何か気になるものでもあった?」

「えっ?」


 私はすぐさま後ろを向く。背筋が冷たくなった。


「あ、ごめんなさい。そういえば解除しとくの忘れてたわ。そんなに怖い顔しないで?」


 そう言って、女性は私よりも前にでてきた。そして、こう呟いた。


「リペア」


 驚きで目が離せない。なんと、カウンターにいたはずの司書さんは消えてしまった。少し、「怖い」という感情を覚えた。そんな私の心情を見透かしたように、彼女は話し始めた。


「怖がることはないわ。これは、魔法だもの」


 ……あ……。


「まだ一年生は習っていないわよね。ごめんなさい?」


 ……あっ、そうだった。

 久しぶりにそのことを思い出す。この世界に魔法があることを忘れていた。一年生は魔法に触れないからろうか。

 目の前の司書さんは十代後半に見えた。だから、あまり魔法への差が感じられなかった。つまり、とても若く見える。しかも、めっちゃ美人。おしゃれに敏感そう。彼女はにっこり笑った。


「これはね、『分身魔法』」

 

 ……そうなんだ……。

 そんな魔法があるのか、と自然に感動した。


「あ、あの、聞きたいことがあって……。その失礼なんですけど,実年齢何歳ですか…?」

「………………」


 ……失敗した! てゆうか、聞き方失敗した!

 司書さん、めっちゃ無言。無の圧感じる。

 怒られると思ったが、彼女は言葉をつなげてくれた。


「んーと、どういうことかしら?」


 私はそこでなんとか第一印象を練り曲げようと努力する。


「えっと、その、すごく若く見えるので、どんな魔法つかってるのかなーって思って……。すみません。聞き方間違えました」


 すると、彼女はとても嬉しそうな顔をした。


「あら、分かっちゃったっ!? 若く見える? 嬉しい! あ、でもこれ、魔法じゃないの。メイクよ、メイク。私は今、三十歳。名前は蜂須川未鳥よ。あ、嬉しかったから、言っちゃったっ!」


 ……メ、メイクかぁ。

 すっごくキラキラしていた。

 私はその方法も聞きたかったが、それよりも聞きたいことがあった。私はふぅ、と息を吐いた。


「すごいですね。メイクで、そこまで。……あの、すみません。もう一つ、聞きたいことがあって……。さっき、ここの図書室にきたの、私含めて二人って言ってましたよね? そんなに少ないんですか…?」


 本当に聞きたいことだった。彼女は答えた。


「ふふっ。その瞳からすると、そっちの方が本命ね。あぁ、悲しいわ。私、あんなに嬉しかったのに」


 彼女は悲しそうに目を伏せた。そうすると、彼女の長いまつ毛が一層目立ち、美しさを表現していた。


「あっ、あのっ! メイクに興味がないわけじゃなくて……」


 私は急いで言う。そんな私に彼女はペロッと口を出した。


「ごめんなさい? ちょっとからかっただけよ。そんな本気になんないで」


 彼女は、真っ赤に染まる唇を軽く吊り上げた。


「私、このラブール魔法学校の司書になるのは初めてだから……去年はどうだったのか、分からなくて……これが普通ではないのかもしれないわ」


 司書になるのは初めて……ということは他の先生にもなったことがあるのだろうか。少し気になったが、私はそれよりも気になることがあったので、それはすぐに忘れてしまった。


「あっ、あのっ! ちなみにもう一人来ている子って、どんな子なんですか?」


 たくさんの生徒がいる中で、二ヶ月間図書室にくる人が私含めて二人なのだから、そのもう一人というのも気になってくる。図書室に来ることが変なのかもしれない、私はそう考えた。相手が普通だったら嬉しい。安心する。


「ん〜そうね……。個人情報じゃないし、教えても問題ないかしら。……え〜と、第一印象として、優しい男の子かな?」


 ……男の子……。男の子か。


「ちなみに、性格とか、成績とかはどうなんですか?」


 私はまっすぐ、蜂須川さんの瞳を見た。

蜂須川さんは目をぱちくりさせ、驚きながらも答えてくれた。


「ごめんなさいね。成績は教えてあげられないの。個人情報に値するから。でも、性格なら、答えられるわ。さっきも言ったけど、やっぱり、優しい、のよね。……んー、なんていうか、絵本に出てくる王子様みたいな感じ。顔もめっちゃ綺麗だしね」


 ……超美女で親切な蜂須川さんがベタ褒めなのだから、よっぽどイケメンで、優しいんだろう。

 たぶん、普通じゃない。

 でも、さすがに超イケメンで、優しくても、何千人いる中の一人は言い過ぎではないだろうか。この学校にはそういう子も結構いるだろうし……。

 二ヶ月間、誰もこない理由にはならない。よっぽど本が少ないのだろうか? でも、ここから見る限り、かなりの量がある。私は他の理由も考えたが、全て、あり得ないことだった。


「あれ? どうしたの、詩川さん。ぼーっとして」


 そんなことを考えていたら、蜂須川さんに声をかけられてしまった。


「なっ、なんでもないです! すみません」


 そう言って、私は立ち上がった。


「あの、また来てもいいですか? 今日、ちょっと楽しくなっちゃて……本も借りれなかったので。もう遅いので、失礼します」

「ええ、もちろん。またいらして」


 蜂須川さんが微笑んだことに安心して、私はドアを開けた。

 

 そして私が扉を閉めた後。彼女はこう呟いた。


「詩川宙良。あなたが何故ここに?」

蜂須川さんのような大人っぽい人好きです。(完全に私事です、無視してください)

これからもよろしくお願いします。

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